ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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幕間 マリンフォード/ミズガルズ

 

「……そうか。カナタの意見はそれで全部か?」

『言われた分は全部だな。おれの所感を付け加えるなら、〝ドレスローザ〟を統治下に置くこと自体は否定的と言うか、乗り気じゃ無かったようだぜ』

「ふむ……」

 

 トキカケから()()()()()()()カナタの発言を聞き、センゴクは顎をさすりながら目を細める。

 飄々とした男ではあるが、それ故に昼行燈と侮られやすい男の正確な報告にひとまず労いと、〝ドレスローザ〟から〝エッグヘッド〟への薬品と機材の運搬を任せる旨を伝え、通話を切る。

 椅子に深々と腰かけると、考え込んだ表情のまま目の前のソファに腰かける男へ声をかけた。

 

「お前はどう思う、赤犬」

「ドンキホーテファミリーの暴走と言ったところじゃろうと思うちょります」

 

 機密文書を机に置く赤犬は、腕組みをしたままセンゴクに視線を向ける。

 

「〝ドレスローザ〟を支配しちょった〝ドンキホーテファミリー〟は、この機密文書を信じれば七武海の一角を占める男の海賊団だった。ホビホビの実の能力でオモチャにされた人間は世界中の人間の記憶から消えることを考えれば、ドンキホーテ・ドフラミンゴは自分をオモチャにすることで世界中の目を欺いたと見るのが妥当じゃろうと考えられますけ」

「私も同意見だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()。我々ですらそうなのだから、能力者本人を有するドンキホーテファミリーは尚更対策を打っていると考えていい……問題は──」

 

 センゴクがトントンと手元の資料を指で叩く。

 内容は〝パンクハザード〟襲撃と、〝smile〟の流通の二つに関する資料だった。

 

「カナタの狙いがどこにあるか、だ」

 

 〝パンクハザード〟を襲撃したのはほぼ確実にフェイユンであるとセンゴクは気付いていた。

 襲撃の痕跡と徹底的に回収された資料類。これが仮に襲撃者が〝百獣海賊団〟や〝ビッグマム海賊団〟ならこうはいかない。余りにも()()()()()惨状だった。

 海軍が来ることを見越していたハズなので、回収した後で痕跡を消す時間が無かったのもあるだろう。あるいは、これを海軍に見つかってもいいと考えていたのか。

 シーザー・クラウンは元〝MADS〟所属の科学者で、一時期はベガパンクと肩を並べていた男である。この男を手中に収め、シーザーが作ったあらゆる兵器や薬品類の資料を強奪して何に使うつもりなのか。これは見過ごせない話だ。

 一方、〝smile〟に関しては執着心が薄い。

 〝ドレスローザ〟を訪れて工場の扉を開けるが中の機材や薬品類を入手しようとしていない。

 トキカケの話を聞いて渋々ながら〝ドレスローザ〟を統治下に置く判断をするなど、シーザーを手中に収めたためかこちらには興味を示さなかった。

 

「〝smile〟を自分のところで生産して更に戦力を上げるつもりかと考えていたが、カナタはそこまで考えてはいなかったようだな」

「通常の悪魔の実で十分……〝魔女〟はそう考えとるじゃろうと? シーザーがいれば生産設備を作るのは簡単だと思うとるんじゃ?」

「手段を選ばぬ増強を好まないのは確かだ。これは好みと言うよりカナタの癖と言うべきかもしれんな……〝黄昏〟が持っているハズの悪魔の実の数は想像以上に多いハズだが、その割に能力者の数が少ない」

 

 与える能力の選別、あるいは能力者の基礎的な地力を付けさせてから食べさせようと考えているのか。

 ともあれ、そういう方向性ならひたすらに能力を与えて強力な軍団を作るというコンセプトの下作られた〝smile〟は確かにカナタのお気に召さない。

 どちらかと言えば画一的な修練とノウハウの蓄積で戦力の再生産を行っている。海賊と言うより軍隊のやることだ。

 

「〝ドレスローザ〟も奴なら悪いようにはしないだろう。金も余っている事だろうしな」

「センゴクさん、アンタどのみち〝ドレスローザ〟を〝魔女〟に押し付ける気だったんでしょう?」

「……まァな」

 

 少なくとも、一時的には世界政府加盟国から除外されるだろうと思っていた。

 非加盟国の末路は悲惨だ。〝ドレスローザ〟は元々世界会議(レヴェリー)にも参加していたくらい国力のある国だし、人口も比較的多い。加盟国でない以上は海軍が口出しすることも出来ないし、センゴクに出来ることと言えばカナタに庇護させることくらいのものだった。

 ついでに国政で金を使ってくれれば〝黄昏〟の資金を多少なりとも削れるだろうと考えての事である。

 これまでの実績で悪いようにはしないと判断しているからこその考えであった。

 

「海賊に国を任せるのは正直気ィ進まんのですがね……〝魔女〟に関してはむしろ()()()()()()()()()()()()()()()んで、わしも反対はしません」

 

 賞金首になった経緯を考えれば、カナタの身内に対する情の強さは想像出来る。

 中途半端な位置に置いておくより、むしろ全力でその庇護下に入るよう誘導すれば、カナタは守るために金と人を惜しまない。

 力をつけすぎている現状を良く思ってはおらず、出来るだけ削いでおきたい気持ちもあれば、政府に従って秩序を守るしかない海軍に守れない部分を任せるために常に強く在って欲しい気持ちもある。

 共通するのは()()()()()()()()()()()()()という一点だ。

 

「奴なら大丈夫だと思うが、シーザーの事だけが気がかりだ。あの男はベガパンクの制止も聞かずに兵器を使って〝パンクハザード〟を死の島に変えた男だからな」

「〝能力者狩り〟のことならわしも知っちょります。ガスガスの実を狙ったワケじゃァのうて、兵器を作らせるためじゃと?」

「先も言ったが、カナタは悪魔の実を収集してはいるが、どちらかと言えば能力に頼らない武力の方を好んでいるように見える。……シーザーの作る兵器がもし奴の思想に適うものなら、能力の奪取よりも頭脳の利用を優先するだろう」

 

 〝黄昏〟は奴隷と武器・兵器だけは絶対に取り扱わない。

 だがそれは〝黄昏〟が武器・兵器を作らないことを指すわけではない。

 

「〝黄昏〟の抱える技術班……特にカテリーナはあらゆる分野で名を馳せている。建築や建造に限らず、武器や兵器を手掛けていても不思議は無い。海軍(われわれ)にすら見せない隠し玉の十や二十はあるだろう。シーザーがそれに加わるならより厄介な兵器を作りかねない。要注意だな」

「と言っても、現状わしらに出来る事なんざ知れちょりますけェのォ」

「頭の痛い話ではあるがな……奴が七武海で良かったと心の底から思う」

 

 少なくとも、海軍は〝黄昏〟の助力を得て軍備はかなり整っているし、海賊被害が減っている。それだけは紛うこと無き事実だ。

 出来ることならこのまま味方でいて欲しいものだが……どうしても、センゴクにはカナタを信用しきることが出来なかった。

 オクタヴィアの娘であることも要因だろう。

 暫定的ではあるがロックスの娘だと考えていることもある。

 ドラゴン、タイガーとかつて肩を並べていたことも考えれば……これはもう疑うなと言うほうが難しい。

 

「……行動は実に秩序的なのに、ひとつひとつを細かく見るとどうしてこうも……」

 

 思わず頭が痛くなる。

 カナタ本人の実力も、つい先日カイドウと戦って無傷だったことからある程度は推し量れる。敵にだけは回したくないが、何かひとつ切っ掛けがあればカナタは容易く離反するだろう。

 海軍も、対〝黄昏〟のための戦力拡充を考えねばならない。

 

 

        ☆

 

 

 ──偉大なる航路(グランドライン)、〝ミズガルズ〟。

 各地から多くの品物が集まり、また多くの品物を運び出す中継地点。

 どこかへ向かうならここで永久指針(エターナルポース)を買う、あるいは物資の補充のために立ち寄るなど、目的は様々ながら多くの人々が集まる場所である。

 その中で一際目立つ男が大声で手を振り上げた。

 

「姉御、久しぶりだなァ!!」

「おや、ティーチ。久しぶりですね」

「……なんでそんなボロボロなんだ?」

 

 3mを超える体躯の2人は町中でも目立つが、ボロボロでところどころ血で汚れているカイエは特に目立っていた。

 彼女は〝黄昏〟でも古参に当たる。実力は相応に高いし、そもそも〝ミズガルズ〟で暴れるような海賊がいれば彼女のみならず多くの兵が出張っているハズだが……とティーチがいぶかしむと、カイエは肩をすくめた。

 

「ダグラス・バレットが来ているんです。大人しくしていてくれれば良かったんですが、体を動かさないと鈍る──と」

「あァ……ちょっと付き合えって連れていかれてたワケか。姉御も大変だな、ゼハハハハ!」

「笑い事ではありませんよ、まったく。私が動物(ゾオン)系でなければしばらく再起不能になっているところでした」

 

 冗談でもなんでもなく、バレットの実力は世界でも上から数えたほうが早い。本気でなかったとはいえ、気を抜けば死んでもおかしくないような攻撃をする男である。

 ボロボロにされたとはいえ、戦った直後でまだ歩けるというのはカイエ自身のタフさを証明していた。

 ティーチは他人事のように笑うだけだが。

 

「それで、今日はどうしたんですか? あなたは何の用もなく来る男ではないでしょう」

「オイオイ、おれを何だと思ってんだよ姉御。たまには姉御の顔を見に来るくらいするぜ?」

「今まで一度もそんな理由で動いたことが無いくせに、よくもまあいけしゃあしゃあとそんなことが言えますね……」

「ゼハハハハ! そう言うなよ姉御!! なに、〝赤い土の大陸(レッドライン)〟を越えるのが面倒なんで、ジョルジュの奴がいねェかと思っただけさ」

「丁度いますよ。荷物の搬入が遅れているので滞在期間が延びてるんです」

「お、そりゃ運が良いな!! おれ達と船も一緒に連れて行ってくれよ!!」

「……()()()?」

 

 そこで初めて気付いたのか、ティーチから少し離れたところにいる4人に目を向ける。

 全員ティーチとそう変わらない巨体だ。実力はそれほどでも無いようだが、ティーチが休暇中にスカウトしてきたのだろうと深くは聞かなかった。

 正直疲れているのでさっさと切り上げて休みたいのもある。

 カイエはジョルジュがいる宿をメモに書くと、それをティーチに渡した。

 

「ジョルジュが現在泊まっている宿です。乗せて欲しいなら直接頼みなさい」

「おう、ありがとよ!」

「私は戻って休みます。人獣形態なんて、訓練以外で使うのは久々でしたよ……」

 

 カイエを見送った後で、ティーチは改めてメモを確認する。

 〝ミズガルズ〟は幾つかの区画に分かれており、ジョルジュが泊まっているのは主に食料品を扱うエリアだった。

 今回運ぶ荷物も食料品に偏っているのだろう。

 そうと決まればグズグズしている暇はない。バージェスたちを引き連れて区画を移動し、ジョルジュが泊まっている宿を訊ねる。

 ジョルジュは暇そうに昼間から酒を飲んでいた。

 と言ってもやることが無いからだらだらと飲んでいるだけらしく、白髪交じりの髪こそボサボサだが大して酔っている様子はない。

 

「おー? おー、ティーチじゃねェか。休暇中だって聞いてたが、終わったのか?」

「ああ、目的は達成したんだ。おれも〝ハチノス〟に行きてェんだが、ついでに連れてってくれねェか?」

「構わねェよ。だが、どうにも搬入に手間取ってるらしくてなァ……」

「何かあったのか?」

「この間の四皇同盟との戦いでちっとばかし人数持って行ったから、その分こっちの人手が足りなくなってんのさ。おれが往復して人を連れてくる予定だが、それまではちょっとばかし不便なままだな」

「ゼハハハ! 乗せてもらうんだ、荷物運びくらいならやるぜ──おれの仲間が」

「おれ達かよ!?」

 

 病弱なドクQはさておき、他の3人はそれなりに力もあるので荷物運びくらいは出来そうである。

 とは言え、それは普通に人が運ぶような荷物の話。

 ジョルジュが運ぶ舟は一隻二隻ではなく十隻以上もの艦隊である。それも甲板の広いコンテナ船だ。

 一隻に乗せるコンテナの量は多く、一つ一つが巨人族に乗せてもらうかクレーンを使用しなければ動かすことも難しい。

 ちょっと力があるだけの手伝いなど何の役にも立たないのだ。

 

「まァ気持ちは嬉しいがよ、オメェらクレーンの操作出来んのか?」

「出来ねェ」

「じゃあ駄目だ。仮にコンテナを素手で持ち上げられても駄目だ。中身が壊れると問題だからな」

 

 今回運ぶのは食料品や衣類が大半なので壊れものはほとんど無いが、それでも壊れ物が無いからと雑に扱われては困る。

 ジョルジュは触れた無生物を自由に浮かせられるため、彼が手伝えばすぐに終わるのだが……そこはそれ。〝黄昏〟の幹部である彼でなければ越えられない赤い土の大陸(レッドライン)ならばともかく、普通の荷物まで彼が移動させていては船員たちの仕事が無くなってしまう。

 人に任せるのも上に立つ者の仕事だ、とカナタに言われているので、なるべくジョルジュは出張らないようにしていた。

 言っている当人は最終的に確認しなければならない書類が山のようにあるので死ぬほど忙しいのだが。

 

「ま、大人しく待ってな。明日には出発できるだろうからよ。運が良かったってこった」

「なんだ、結構ギリギリだったのか。これも日頃の行いだな!」

 

 げらげら笑いながら酒をぐびぐびと飲むティーチ。

 同じ宿に泊まることにしたらしく、店主に金を払って部屋と酒を抑えて貰う。

 

「そういや、バレットの野郎もいるんだって?」

「ああ。〝アラバスタ〟にカイドウが行くかもしれねェってんで、カナタが呼びつけてたんだ」

 

 空振りだったがな、とジョルジュは笑う。

 おかげで不完全燃焼のバレットが暴れながらこの島にやって来たらしく、道中で海賊もいくつか沈めて来たと本人が言っていた。

 この島でもカイエを相手に連日戦っていたらしく、今はようやく大人しくなったとジョルジュが愚痴る。

 ジョルジュの能力は強いが、本人の強さはそれほどでも無い。幹部の中では下の方であるため、バレットの相手をするには不足が過ぎた。

 自分の仕事もあるはずだが、カイエはそれでもやらざるを得なかったのだ。

 

「あいつには苦労かけるがなァ……浮いた話のひとつもないのが心配だぜ……」

「ゼハハハハ!! すっかり父親面するようになっちまったな、ジョルジュ!! オメェはまず自分の身を固めるところからだろ!!」

「おれは良いんだよ。金があれば遊ぶ相手にゃ困らねェしな」

「姉御は姉御で好きなようにやってるだろ。浮いた話がねェのは、まァ姉貴に遠慮してるのかもしれねェが」

「カナタもなァ……ドラゴンとはいい感じだったんだが……」

「あー、おれが入るより前に抜けたって奴か」

 

 〝黄昏の海賊団〟と名乗るより前の話。

 かつてカナタと肩を並べたドラゴンは、〝水先星(ロードスター)島〟での宴を最後に船を降りた。

 その後に入ったティーチは直接の面識こそないが、ドラゴンが現革命軍の総司令官であるということくらいは知っていた。

 カナタとそれほど仲が良かったとは知らなかったが。

 

「今でも連絡は取ってんのか?」

「さァな。あいつのことは一切話題に上げねェんだ、カナタの奴」

 

 革命軍の総司令官と七武海が繋がっているなど、スキャンダルにも程があるので口に出さないのは当然のことである。

 とは言え、一番最初からいる身内の自分たちにまで黙っているのはどうなんだ、と思わないでもない。

 

「そりゃオメェの口が軽いからだろ」

 

 ジョルジュはフワフワの実の浮遊人間。触れた無生物を浮かせることが出来る能力者だ。

 そういう能力を持つから、と言うワケでは無いハズだが……ジョルジュは割と口も軽かった。

 

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