ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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巨獣城塞商圏ミズガルズ/魔眼持つ蛇
第百九十四話:困った時は頼る


 

 〝聖地マリージョア〟──パンゲア城。

 五老星がいつも通り執務に勤しんでいると、慌てた様子のサイファーポールが報告を上げて来た。

 

「……〝白ひげ〟の隊長が〝魔女〟と接触を?」

『恐らくは、と付きますが……』

「ふむ……今接触する理由は見えないが……誰が動いた?」

『確認出来ているのは二番隊隊長の〝火拳〟と、傘下の海賊〝遊騎士〟ドーマの2人です』

「〝火拳〟と〝遊騎士〟か」

 

 〝白ひげ海賊団〟の母船である〝モビー・ディック号〟を離れ、傘下の海賊と共にカナタの居場所へ向かっているという。

 確かに四皇と四皇に匹敵する組織の接触となれば慌てて報告を上げるのも頷けるが、今回に関しては五老星も大きく問題視してはいなかった。

 何しろカナタとニューゲートの不仲は周知の事実である。長年にわたって潜在的敵対関係を続けて来た2人が今更仲を深めるとは考えにくい。

 

「2人が手を組むことは万が一にもないとは思うが……」

「事は四皇とそれに匹敵する勢力の接触だ。監視無しと言うワケにも行くまい」

「場所は〝ハチノス〟に向かっているのか?」

『いいえ。〝ロムニス帝国〟で接触しようとしているようですが……』

「では心配しているようなことは起こるまい」

 

 〝ハチノス〟での接触なら外部の耳を相当警戒していると受け取れるが、〝ロムニス帝国〟での接触なら五老星が憂慮するほどの事態にはならない。

 〝白ひげ海賊団〟に対するカナタの姿勢はこの20年間変わっておらず、()()()()()()というだけで全盛期は4万を超えていた〝白ひげ海賊団〟も今や3万を切るほどに打撃を受けている。

 この姿勢を変える程の何かが起きたとは現状考えにくい。

 強いて言うなら、〝火拳〟とカナタは過去に一度接触があったことくらいだが……当時は闘技場で殺しかけたと聞いたため、新進気鋭の若手を1人潰しかけたくらいにしか思っていなかった。

 いつもの無謀な挑戦者だと頭の片隅に追いやる程度のことである。

 

「食料品や医薬品の流通がかなり少ないことで〝白ひげ海賊団〟は相当追い詰められている。〝ビッグマム海賊団〟や〝百獣海賊団〟のように略奪を主としていない以上、干上がるのは時間の問題だと思っていたが、ようやく音を上げたか?」

「〝白ひげ〟に恩義を感じる者も相当数いる。転売で儲けようとする者もいる以上、流通は最低限あったのだろう」

「これが宣戦布告なら話は早いが……」

「あの男は船員を大事にする穏健派だ。自分から仕掛けるとは考えにくい」

「……〝火拳〟が単独で直談判に行った可能性はあるか」

 

 エースの直情的な性格、行動は世界政府でも把握している。

 〝七武海〟を蹴ったことも、勧誘に行った中将を返り討ちにしたこともある。気に入らないとなれば相手が誰であっても噛みつく可能性は十分にあった。

 百獣・ビッグマムの海賊同盟との衝突が増えている現状、あまり余計な火種を増やしてほしくないというのが五老星の考えだが、底の知れない〝黄昏の海賊団〟と衝突して多少なりともカナタの隠し玉を暴いてくれれば……と言う気持ちもゼロではない。

 〝黄昏の海賊団〟の台頭以降、海軍も戦力拡充を続けている。カナタが脱落して四皇同盟を相手取らねばならなくなったとしても、世界政府軍と海軍が全力でぶつかれば退かせることくらいは可能だと試算していた。

 綱渡りであることに違いは無いので、出来る事ならそうはなって欲しくないものだが。

 

『それと……』

「まだ何かあるのか?」

『〝赤髪海賊団〟の船が一隻、〝ロムニス帝国〟に着いたと……』

「……それはいつもの事だ。放っておけ」

 

 四皇の中で唯一、〝赤髪海賊団〟のナワバリにだけは〝黄昏〟の船が行き来している。

 年に2度、決まった時期に接触しているのは既に知っていた。今回の接触も時期的にそれだろうと考え、特に重要視はしていない。

 カナタとシャンクスは、シャンクスがロジャー海賊団見習いの時期からの顔見知りであるため交易をしている──と、カナタ本人から報告も受けている。

 あの女は狡猾なので額面通りに受け取ることは出来ないが、シャンクスとて滅多なことが無ければ動かない穏健派だ。世界政府に牙を向けることは現状ないと判断し、監視するに留めていた。

 

 

        ☆

 

 

 〝ロムニス帝国〟──王城内部。

 本来王族とそれに関係する者だけが入れる場所であるが、カナタが一室借りて執務室として使っている関係で海賊も時たま出入りしていた。

 借りている部屋は王族がいる場所とは別の棟かつ端になるので鉢合わせすることは基本的に無く、それ故に帝国では最も警戒されている場所でもある。

 案内人、エース、ドーマの順に並んで道を歩いており、〝白ひげ〟と並ぶ実力者とさえ言われるカナタと会う事に緊張するドーマは気にした様子もなく歩くエースの背中を見て胸中穏やかでは無かった。

 本来ならこの場に来るつもりはなかったのだ。

 エースがどうしても「乗せて行ってくれ!」と頼み込むものだから、仕方なく連れて来たのだが……まさかいの一番に城に乗り込むなどとは想像していなかった。

 絶対に門前払いを食らうと思っていたら通されたので二重の意味で驚きである。

 

「エース、お前〝魔女〟と一体どんな関係なんだ?」

「どんなって言われてもな……」

 

 説明が難しいのか、エースは腕組みして唸る。

 言うべきこととなるべく言いたくないことが出てきて説明に困り、最終的に「後で話す」と未来の自分に投げつけた。多分あとで後悔するが、折角時間を作ってもらった以上は貴重な時間を無駄にしたくない。

 エースは速足で通路を進み、案内されるがままに部屋の前まで辿り着いた。

 案内人がノックすると、中から返事が来て入ることを許可される。

 

「お邪魔します!」

「お、お邪魔します」

 

 中は豪華絢爛……かと思いきや、意外と質素な部屋だった。

 良く分からない絵画や美術品はいくらか置いてあるが、全体的に煌びやかと言う言葉からは程遠い部屋である。

 カナタは執務室で山積みになった書類を処理していたらしく、右から取っては確認してサインやハンコを押して左にと言う流れ作業を続けていた。

 手元の書類から目を上げることなく、入って来た2人に言葉を投げかける。

 

「久しいな、エース」

「どうも、お久しぶりです」

「堅苦しいのは抜きで良い。言葉遣いを海賊に求めはしない」

 

 そういうのは無駄なことだ。荒くれ者相手にいちいち説教をしていたのでは時間がいくらあっても足りない。

 いやそんなワケには、と一度は固辞するも、二度は言わんぞと言うカナタに折れてエースは気を楽にする。

 

「じゃあ普通にするけど、アンタに頼みがあって来たんだ」

「言ってみろ」

「実は──」

「駄目だ」

「まだ言ってねェよ!?」

 

 カナタは書類を淡々と処理しながらエースの言葉をバッサリと切り捨てた。

 まだ具体的な話は何一つしていないが、カナタは既にその先の言葉を()()()()

 

「食い物、薬、それに酒。これまでは何とか食いつないできたが、いよいよ物資が手に入らなくなってきた──だから売って欲しい、と言うのだろう」

「……知ってたのか?」

「当然だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 事もなげに言い放つカナタに、エースとドーマは絶句する。

 これを聞いて2人がどう動くかも、既にカナタには視えている。

 だから、「止めておけ」と釘を刺した。

 

「激情に任せてお前たちが2人がかりで挑んでも私には勝てない。書類作業の邪魔だ。用がそれだけなら帰るがいい。私は他にも用事がある」

「……っ! はいそうですか、って簡単に帰れる訳ねェだろ! 何もタダで分けてくれって言ってるんじゃねェ!! 売ってくれさえすりゃあ──」

「私とニューゲートは20年以上前から敵対関係にある。魚人島の件で見たくもない顔を見に行ったこともあるが、接触はそれくらいだ。私があの男に手を貸してやる理由もない以上、物資が手に入らずに干上がるのも奴の勝手だ」

「なん、で……そんなことを……!!」

()()()()()()()()()だ。これ以上の理由が必要か?」

 

 これは形を変えた戦争だ。

 負ければ死ぬ。勝てたとしても、直接戦えば負傷者、死人は確実に出る。

 そういったリスクを考え、限りなくリスクを抑えて勝つための方法をやっているに過ぎない。

 

「遊びじゃないんだ。私には部下たちの生活を守る義務があるし、仲間を失わないように使える手立ては全て使う責任がある。相手が誰であろうとな」

「……それを、おれに言って良かったのかよ」

「ニューゲートに知られたところで私のやることは変わらないからな。もっとも、奴とて馬鹿ではない。とうに気付いている」

 

 それに対処する方法がないだけだ。

 直接武力で奪いに来るなら、海軍と共に徹底的に殲滅するまでだが……ニューゲートはそれを選ばなかった。

 たとえ全盛期の勢力であったとしても、〝白ひげ海賊団〟に〝黄昏〟と海軍の全戦力を真正面から打ち砕くだけの力はない。

 回りくどく商人を仲介したり、海賊を潰して奪い取ったりして物資を補充していたようだが、それも限界に近付いてきていると見える。

 

「ニューゲートもそう長くは無かろう。相当老いているようだし、そうでなくとも病が体を蝕んでいるようだからな」

「そんなことは……」

 

 ない、とは言えなかった。

 マルコが日々渡しているいくつもの薬。サッチが限られた物資から悩みながらニューゲートの体に良い物を選んで作っている料理。

 それでも体調は日々悪くなるばかりだ。

 

「図星のようだな」

「……っ!!」

「待てエース! 早まるな!!」

 

 ぐっと拳を握り込み、顔を上げすらしないカナタに向かって一歩踏み出すエース。

 ドーマが慌てて止めようとするが、エースはそれを振り切って机をバンと叩いた。

 

「それでも、助けてほしいと思ってる」

「ではお前に何が出来る。交渉をしたいというのなら相応の代価を持ってくるべきだ」

()()()()()()()()()()んだろ?」

 

 これまでエースのことなど一顧だにせず書類作業をしていたカナタの動きがぴたりと止まった。

 出来る事ならこれは使いたくなかったが、背に腹は代えられない。

 エースは初めて視線を上げたカナタの目を真っ直ぐに見て、強い意思で告げた。

 

「アンタ、確かに言ったよな。〝ロジャーに二度命を救われた。受けた恩は一生だ〟ってよ」

「……それで?」

「今回で全部チャラにしてもいい。だから、頼む」

 

 エースはカナタの目の前で土下座した。

 自分を受け入れてくれた〝家族〟が、これ以上苦しむ姿を視るのは嫌だ。

 金だって潤沢にあるわけじゃないが、食料も薬もナワバリの中だけではそう多く手に入らない。自分たちで漁をして得られる食料も、その場しのぎこそ出来るが栄養が偏るとサッチがぼやいていた。

 何を失うことになったとしても、自分に出来ることをせずにただ終わることを待つのは嫌だ。

 そのためなら──嫌いな父親の事だって利用して見せる。

 カナタはジッとエースを見続け、意志が固いことを察するとペンを置いた。

 

「……直接会って何かを教えられたわけではなくとも、親子は親子か。身につまされる思いだな」

 

 何よりも仲間を大事にし、相手が誰であっても背を向けようとしない。エースの在り方は父親そっくりと言える。

 言いたくはないが、これは私の負けだな、とカナタは溜息を吐いた。

 ロジャーとの盟約は絶対だ。

 カナタが自身に課したことである以上、これを破ることは出来ない。

 それは、己自身を裏切る行為だ。

 

「良かろう。業腹ではあるがな」

「! じゃあ──」

「だが、条件がある」

 

 カナタは机の引き出しから便箋を取り出すと、手早く中身を書いて蝋で封をする。

 したためた手紙をエースに渡すと、「ニューゲートにこれを渡せ」と言い付けた。

 

「これを奴が飲むことが条件だ。これ以上の譲歩は私にも出来ない」

「……今ここでおれが聞くのは駄目なのか?」

「駄目だ。ニューゲートにその手紙を渡し、話し合って決めろ」

 

 カナタが最大限譲歩出来るのはここまで。ここから先はエースとニューゲートがこの条件を飲むかどうかで話が変わってくる。

 運次第ではあるが──ニューゲートとて、今の状態を良く思っているわけでは無いだろう。

 先の見えない組織が自壊するか、あるいは外部からの影響で崩れるかの違いでしかない。

 〝白ひげ海賊団〟の存続を問う手紙だ。

 

「話はそれだけか?」

「ああ──ありがとう。カナタさん」

 

 土下座でもしかねない勢いで垂直に頭を下げ、出来る限りの礼を述べるエース。

 カナタは書類作業を止め、ペンを置いて腕組みをしたままエースを見る。

 

「礼は全てが上手くいってからにするんだな。ニューゲートの判断如何によっては、この取引も無くなるんだ」

「何とかする。オヤジはおれが説得して見せる!」

「……そうか」

 

 展開について行けないドーマを連れ、エースは覚悟を決めた顔で部屋を出ていく。

 時計をちらりと見れば、予定していた次の面会がすぐだと気付き、案内人に連れてくるよう連絡を入れた。

 

 

        ☆

 

 

 案内人の女性はノックの後に執務室に入ると、腕組みをしたまま何かを考え込んでいるカナタを珍しそうに見る。

 先程までは山積みの書類をテキパキと捌いていたというのに、仕事も手に付かない様子だ。

 

「先程の2人と何かあったのですか?」

「いや……若者の成長は早いものだと思っていただけだ。あの子と会ったのは2年前が最後だが、精神的にも肉体的にも随分成長していた」

 

 それが嫌いなニューゲートの下でと言うのが少々腹立たしくもあるが、知り合いの子供が立派に成長しているさまを見るのはやはり楽しいものだ。

 覇気も随分鍛えたのだろう。感じ取れる強さは2年前の比ではなかった。今ならラグネルに一方的にやられるということもあるまい。

 珍しく楽し気な様子を見せるカナタに、案内人の女性は次の客を入れてもいいか尋ねる。

 

「そうだったな。待たせて悪かった。呼んでくれ」

「では」

 

 扉の向こうにいたのか、女性が出てすぐに1人の男が執務室に入って来た。

 逆立った赤い髪に悪人面の男だが、カナタを前に緊張を隠せないのか動きが硬い。

 後ろ手に手を組み、胸を張って自己紹介をし始めた。

 

「〝赤髪海賊団〟の新入り、ロックスターと言います! お頭から手紙を預かってきました!!」

「いつもの奴だな。受け取ろう」

 

 ガチガチに緊張しているロックスターから手紙を受け取り、カナタは中身を見る。

 「いつも通りで頼む」とヘッタクソな字で書かれたそれを見て、思わずため息を零した。

 〝赤髪海賊団〟と〝黄昏の海賊団〟が蜜月であると周囲に知らしめるため、こうやって外部にもわかるように時間を作って客人を迎え入れているわけだが……肝心の手紙がこれではカナタの気も抜けるというもの。

 追伸で「西の酒を多めに頼む」と書かれていることに気付き、カナタは「相変わらず酒をよく飲むようだな」と呟いた。

 ロックスターは自分に向けられた質問だと思ったのか、背筋を伸ばして答えた。

 

「え、ええ。お頭は酒を飲むのが好きなモンですから……」

「ああ、すまない。お前に聞いたわけではなかった」

「そ、そうですか……」

「しかし──」

 

 カナタはそこで手紙から視線を上げ、ロックスターの方を見る。

 

「ロックスター。額は確か9400万……新入りで手紙を運ぶのを任されるとは。信頼されているようだな」

「おれの事を知ってるんで!?」

「目ぼしい賞金首はあらかた目を通している」

 

 海賊として少しは名の知れた方だと自負していたが、カナタにも知られているとわかるとロックスターは嬉しそうに鼻の下を伸ばしていた。

 カナタは適当に雑談しつつ、便箋と封筒を用意して簡素な返事を書いた手紙をロックスターに渡す。

 中身はいつも通りで変わりない。取引の量も前回と同じか少し多いくらいだが、〝赤髪海賊団〟の傘下もそれなりにいる。余るということもないだろう。

 

「確かに預かりました」

「よろしく頼む。いい酒が入ったから後で港で積んでいけ」

「ありがてェ話です! お頭も喜ぶと思います!」

「飲み過ぎないように、とも言っておけ。あの子は昔から調子に乗ると飲みすぎる悪癖がある。手のかかるやつだからな──それと、これを渡してくれるか」

 

 シャンクスへ、と書かれた封筒だ。

 先程の手紙が入っていたものとは違い、可愛らしい丸文字で書かれている。裏を見ると奇妙なマークが書かれていることに気付いた。

 

「なんすか、これ?」

()()()()()、だそうだ」

「はあ、麦わら帽子」

 

 良く分からないと言った様子のロックスターだが、何はともあれシャンクスに渡せばいいのだろうと懐に大事にしまい込んだ。

 言い方から察するにカナタからのものではないのだろう。彼女を通じてシャンクスに手紙を渡したい誰かがいると見るべきだが、その辺の詳しいことは当人にでも聞かねば分からない。

 ロックスターは用事を終えたと判断して部屋を出ようとすると、カナタに声をかけられた。

 

「シャンクスは相変わらず元気か?」

「ええ。そういや、義手も調子いいって伝えてくれって言われてたんすよ」

「そうか、それは良かった。私が作った物ではないから、作った者に伝えておこう」

 

 最後にチラリとカナタの姿を見ると、彼女は左手を肘掛けにおいて頬杖を突き、右手でシャンクスの手紙を持っていた。

 赤い瞳を細めて微笑を浮かべる彼女に思わず見入っていると、カナタの視線がロックスターの方に向いた。

 

「どうした。まだ何かあるのか?」

「いっ、いいえ! 失礼します!!」

 

 声をかけられたことに驚き、ロックスターは上ずった声で返事をしながら部屋を出た。

 

「……し、心臓に悪ィ……」

 

 扉を閉めた後、まだドキドキする胸を抑えながら部屋の外で待っていた案内人に外まで案内してもらった。

 

 

        ☆

 

 

『そうか。ちゃんと渡してくれたか』

「ええ、簡単な仕事でした」

『そりゃよかった。ところで、カナタさんと会った感想はどうだ?』

「思ってたよりだいぶ美人でした。おっかない人かと思ってましたが、そんなことは無かったですね」

 

 正直な感想を述べると、シャンクスは「ぶはっ!」と堪え切れず吹き出して笑い出した。

 こういう素直なところがロックスターを信頼出来るポイントなのだろう。シャンクスは面白い者を仲間にしたがる傾向がある。

 ひとしきり笑った後、シャンクスが「あー笑った笑った」と落ち着いたのを見計らってロックスターが話し出す。

 

「手紙を預かりました。二通です」

『二通? 一通はカナタさんだろうが……もう一通は誰からだ?』

「それが、差出人の名前がねェもんで……裏にはカナタさん曰く〝麦わら帽子〟が書かれているらしいんですが」

『……麦わら帽子だと?』

 

 シャンクスが麦わら帽子を被っていたのは10年前──〝東の海(イーストブルー)〟でルフィに渡すまでだ。

 つまり、それ以前のシャンクスを知っている誰か、と言うことになる。

 カナタを通して手紙を渡してくる人物に覚えが無いのか、隣にいるらしいベックマンと何かを話しているのが聞こえて来た。

 だが、彼にも分からないらしく、他に何かないのかとロックスターに訊ねる。

 

「中には多分手紙が入ってるようなんですが、流石にお頭宛の手紙を開けるわけにはいかねェでしょう」

『いや、開けていいぞ』

 

 ええっ!? と驚きつつ、ロックスターは躊躇いからやや間をおいて開封する。

 中に入っていたのは折りたたまれたメモとチケットだ。

 

「これ、ラジオで最近言ってるアラバスタの慰問ライブのチケットっすね」

『ライブのチケット? なんだってそんなモンが……』

「メモも入ってます。〝私の初ライブだから。絶対来て〟って書いてます」

『──まさか』

 

 電伝虫の向こうでざわついたのがわかる。

 事情が分からないロックスターは口を挟むに挟めず、電話口で「あの子が?」とか「初ライブ?」とか言っているのを聞きながらどうしたものかと思っていた。

 少々間を挟み、シャンクスが話しかけて来た。

 

『悪いな。ちょっとざわついた』

「いえ……しかし、これどうします?」

『大事なものだ。持ってきてくれ』

「分かりました」

『他には特に何も無かっただろう?』

「そうですね、特には……あ、そういえば。〝白ひげ〟の隊長がいましたよ」

『……何?』

 

 ロックスターは顎をさすりながら、遠目にすれ違ったエースの事を思い返す。

 エースは近年〝白ひげ海賊団〟に入り、若くして二番隊隊長の座を手にした男だ。その注目度は非常に高い。

 ロックスターもまた例に漏れず、エースの事を知っていた。

 

「ありゃ〝火拳〟ですね。〝白ひげ〟もうちみたいに取引してるんすかね?」

『そんなハズはねェ。カナタさんと〝白ひげ〟は犬猿の仲だ。そもそも〝白ひげ〟の隊長に会おうなんてカナタさんが考えるワケがねェ……そいつは本当にエースだったのか?』

「見間違えなんかしません! ありゃ確かに〝火拳〟でした!!」

 

 だとするなら余計に問題だ。

 シャンクスは困ったように考え込む。

 

『あの2人、もう20年以上いがみ合ってる間柄なんだよなァ……今更仲を取り持つことなんか出来るとは思えねェが……』

 

 エースとルフィは兄弟らしいし、ルフィの事はカナタも知っている。その繋がりから考えると()()()()()()()()()と考えるべきだが……そこまでエースに入れこむ理由が分からない。

 シャンクスやガープから話を聞いただけでルフィに入れこむとも考えづらいし、カナタとエースには他に何かしらの関係があるのだろう。

 まぁ魚人島関連で直接やり取りしてるならありえない話でもないか……? と思うも、どうにもしっくりこないのか首をひねるシャンクス。

 あの2人の間に何があったのかはシャンクスも知らないし、魚人島関連の話だって又聞き程度の話しか知らない。

 材料が少なすぎて現時点では判断が難しい。今は情報収集に徹するべきだろう。

 

『……大丈夫だとは思うが。まァなんかありゃカナタさんから連絡入れてくるだろ。お前はそのままこっちに戻ってきてくれ』

「了解です。いい酒が入ったらしいんで、積んで貰ったらすぐに戻ります」

『おっ! そりゃ楽しみだ! お前が帰ったら宴だな!!』

「飲みすぎるな、と伝えてくれと言われました」

『また言われてんのかよ!』

『毎度のことだな……お頭の酒癖全部知られてるから仕方ねェかもしれねェが』

「手のかかる奴だって言われてました」

『おれァ手ェかかんねェよ!! なァベック!!』

『かかる』

 

 バッサリと切り捨てたベックマンの言葉にげらげらと笑う声が聞こえてくる。

 言われた当人は非常に不服そうな顔をしていた。

 だが、ともすれば四皇の1人を侮っているとも取られかねない言葉だ。シャンクスとカナタはどれほど親密なのか、ロックスターは純粋に気になっていた。

 

「お頭とカナタさんは長い付き合いなんですか?」

『ん? まァそりゃな……おれが見習いの頃からの知り合いだから、もう20年以上……30年くらいか』

 

 赤ん坊の時に顔は合わせているハズだが、どちらも覚えていない。なので初対面はそれよりもずっと後と言っていいだろう。

 そりゃ長い付き合いだ、とロックスターは頷き──30年来の知り合いという点で引っ掛かった。

 

「30年くらい? ……言い方からお頭と同じかちょっと上くらいの歳だと思ってましたけど、その若さで海賊の船長を?」

『あの人、おれより10コ上だぜ。47だよ』

 

 ロックスターは今日一番の大声が出た。

 




備考
・シャンクスはエースの親を薄々感づいてはいるが確信はない
・シャンクスはロジャーとカナタの約束を知らない
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