ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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第百九十五話:〝ミズガルズ〟

 

 トンテンカンと小気味のいい音が木霊する。

 〝空島〟から落下した折に、タコが風船のように膨らんでゆっくり落下していたのだが……肝心のタコが途中でしぼんでしまい、海面に叩きつけられた結果メリー号が何ヶ所か破損してしまったのだ。

 水漏れしていた船底部に始まり、連鎖的にあちこち修繕することになっていた。

 

「いやー、はっはっは。ここまで連続して壊れるとは思わなかったなァ」

「笑い事か!! やっぱ黄金載せ過ぎたんじゃねェか? あれが重いんだよ多分」

「バカね、黄金を載せられるだけ載せなかったら何載せるのよ」

「そりゃそうなんだが……」

 

 記録指針(ログポース)を見ながら針路を確認するナミと、話しながらも手を止めないウソップ。

 男衆は軒並み駆り出されて船の修繕に当たりつつ、次の島に向けて船は進んでいる。

 

「でも、危ないのは本当なのよね」

「だよなァ。ウソップの修繕にも限度があるだろうし」

「あのな、おれは狙撃手であって船大工じゃねェんだよ。メリー号の修繕はやっぱ本職にやらせた方が良いに決まってる」

「……乗り換える?」

「アホ言え!!」

 

 くわっ! と怒り顔を見せるウソップ。

 肩をすくめるナミは「後で提案しようと思ってたんだけど」と気にした様子もなく続ける。

 

「ウソップもこう言ってることだし、メリー号の修繕をして貰わない? 腕のいい船大工に修繕してもらうのが一番だと思うのよ」

「いいなそれ! じゃあよ、この際必要なんだから〝船大工〟を仲間にしよう!!」

 

 ナミの意見に賛同するようにルフィが笑う。

 ウソップのツギハギ修理にも限界がある。本職に完全に直してもらい、なおかつこれから先も船を直してくれる仲間がいてくれれば安心というものだ。

 船長のルフィが良いと言うならほとんど決まりだろう。他の面々も反対することは無いだろうし。

 あとはどこでやってもらうか、という話なのだが……その辺の話はやはりロビンやソラに聞いたほうが詳しく教えてくれるだろう。

 

「後で要相談ね」

「綺麗に修理してもらえりゃおれは文句ねェけどな」

「やっぱり費用とか時間とか必要になるじゃない」

「そりゃまァ……」

「ししし! それまではおれ達で今まで通りに修繕だなァ!」

 

 バキッ! とテンションが上がったルフィの金槌が釘から外れ、修繕していた部分を叩いて塞ごうとしていた穴が再び開いた。

 

「あっ」

「ルフィ~~~~!!!」

 

 直そうとして壊していては世話もない。ナミは「駄目ねこれは」と言わんばかりに肩をすくめ、ウソップは隣で作業していたルフィの頬を引っ張って咎めていた。

 

 

        ☆

 

 

「船の修理をしたいなら、目指すは〝ウォーターセブン〟ね」

「〝ウォーターセブン〟?」

「〝水の都〟と呼ばれる島よ。行ったことは無いけれど、多くの船大工がいて造船業で成り立つ島だと聞いているわ」

「へェ……そこなら海賊になりてェって船大工もいるのかな?」

「さァ。それは行って勧誘してみないと分からないわね」

 

 メリー号の船内でサンジに紅茶を入れて貰い、ティータイムをしている時に話題をだしたところ、ロビンがそう言った。

 ロビンはオルビアと同じで政府に狙われる身であるため、自由に色々な島を出歩くことは難しかった。なのでウォーターセブンに訪れたこともない。

 それでも、ウォーターセブンの噂は耳に届いている。

 

「〝海賊王〟の乗っていた船もそこで作られたと聞くわ」

「〝海賊王〟の船が作られた島なのか!? スゲェ!!」

「スゲェ!!」

 

 思わぬ情報にテンションが上がるルフィ。ウソップも同様に驚いており、2人とも口に詰め込んだパンの耳を吹き出している。

 汚いとナミにゲンコツを食らいながら、2人はどんな船大工を仲間にするべきかとあれこれ話していた。

 「巨大な奴がいい」だの「いやそれは船に入るか分からねェだろ」だのと楽しそうにしているのをロビンが見ていると、甲板にいたソラが船内に入って来た。

 

「楽しそうね」

「お、サンジの母ちゃん! 〝船大工〟を仲間にしてェんだ! 知ってる奴いねェか?」

「船大工? そうね……〝ミズガルズ〟も一大拠点として使われてるから、一応船の点検なんかをするために船大工は常駐していると思うわ」

「でも、それは〝黄昏〟からの引き抜きってことにならないかしら?」

「そうなるわね」

 

 もちろん本人がそれでいいというのなら引き抜くことも可能だろうが、実際に引き抜けるかと言われると難しいだろう。

 きちんとした給金と多くの仕事、それに家族がいれば尚更の事。

 だが、それさえ捨てさせるほどのロマンを魅せられるのであれば海賊になるものもいるのもまた事実。ロジャーが死したのちに始まった〝大海賊時代〟はそういった者たちを海へと駆り立てたのだから。

 ……流石にルフィはそこまでするつもりはないようだが。

 

「まー面白い奴がいればだな。気の合う奴がいれば一緒に旅をしてェ! あと〝音楽家〟も探そう!」

「いやそれは置いとけよ」

「後回しでいいでしょそれは」

「ふふ、音楽家もいれば楽しいわよ」

「だよな!? ロビンわかってるじゃねェか!!」

 

 やいのやいのと盛り上がる面々。

 サンジはキッチンで夕食の仕込みをしながら、ソラが楽しそうにしているのをチラリと見て安堵する。居心地が悪いと思われてはどうしようかと考えていたのだ。

 その時──ぐらりと大きく船が揺れた。

 

「なっ、なんだなんだ!?」

 

 バン! とドアを開けて甲板に出ると、甲板で針路を見ていたペドロとゼポ、ゾロの3人が同じ方向を見ていた。

 巨大な海獣が暴れているのがやや遠目に見える。あれのせいで波が立っているらしい。

 漁でもしているのだろうか。

 程なく海獣の頭部が切り裂かれて大人しくなり、同時に銛が放たれて回収されていく。

 よくよく見れば船の大きさもとんでもない。メリー号の何倍もある海獣より更に大きく、一般的なガレオン船より更に大きいサイズと言えるだろう。

 メインマストに描かれているのはやはりというべきか、〝黄昏〟のマークだった。

 

「〝ミズガルズ〟の海域に入ったのね。近海の見廻りと漁を兼ねているんでしょう」

 

 ソラはその辺りの事情を知っているのか、目を丸くして驚く麦わらの一味と違って落ち着いていた。

 ロビンも実際に見るのは初めてらしく、興味深そうにしている。

 

「あの船の後ろをついて行けば〝ミズガルズ〟まですぐよ。どうせ針路もそっちを指してるでしょ?」

「……ホントだ。同じ方向ね」

「ただ、あっちの船の方が足が速いでしょうから追いつけはしないと思うけれど」

 

 海獣という荷物があるとはいえ、あちらは元々巨大な船で速度が違う。メリー号も現在は限界まで黄金を積んでいるので速度も出ないため、どんどんと離されていく。

 だが、程なくして島が見えて来た。

 牧歌的で島の果てまで続く草原──その中に建設された巨大な城塞。

 城塞は島を横断するように造られており、城塞の上にはいくつもの砲台が備え付けられていた。

 

「すっげーな。ここが〝ミズガルズ〟か!?」

「ここはまだ外側よ」

「外側?」

「〝ミズガルズ〟っていう島はね、()()()()()()()の」

 

 元々あった島はドーナツのように点々と並んでいる形状の島だった。その内海があった場所に人工の島を浮かべたのが〝ミズガルズ〟なのだとソラは言う。

 説明を聞いても良く分からないのか、ルフィとウソップ、チョッパーの3人は揃って首を傾げていた。

 

「二重……?」

「人工の島……?」

「よく分からねェ」

「……まァ、実際に見てみたほうが早いわね」

 

 ソラは苦笑し、島の外周にそって船を動かす。

 すると、先程漁をしていた巨大な船と鉢合わせした。

 あの船も内海の方へと入るのかと思いきや、そのままメリー号の横を通って反対方向へと進んでいく。

 

「なんだ? 中に入らねェのか?」

「あの船は大きすぎて中に入れないのよ。外周部にある島は繋がってて、年に一度干潮になると人が通れるようになるくらい浅いから……あの規模の船が通ると満潮時でも座礁しちゃうの」

「中に入らねェんじゃなくて入れねェのか。大変なんだな」

「通れるように工事しても良かったんでしょうけど……元々住んでいる人たちが遊牧民族だったらしくて、彼らの生活を脅かす真似はしないって約束したって話を聞いたわ」

 

 ソラも詳しいことは知らないらしく、その辺りはあいまいだった。

 ただ、悪いことばかりではないらしい。

 小型船ばかりなら迎撃は難しくないし、大型船が通れないことは防衛上意味があるのだと。

 何より()()()()()()()()()()

 

「この船なら内海まで入れるから、城塞の近くまで行って許可を貰いましょう」

「許可がいるのか?」

「空島ほど厳格じゃないわ。〝黄昏〟のブラックリストに載ってないかどうかの確認だけね」

 

 それも海賊旗を見れば大体わかるので、出入りは相当簡単らしい。

 1日に何十隻も往復しているのでそこまで時間をかけてはいられないという事情もあるのだろうが。

 どちらにしてもルフィの顔さえ見せておけばあちらも呼び止めはしないとソラは言う。

 島の内海に入ると、少し離れた場所に島が見えた。

 

「今通った島は〝ロングリングロングランド〟……内海に見えているあの島こそが〝ミズガルズ〟本島よ」

 

 内海は広く、島そのものは小さく見える。

 だが、近付いてみればそのような印象はひっくり返った。

 

「デッケェ……!」

 

 あらゆる物のスケールが大きい。

 船も、建物も、港も。普通の人間が使うものよりも10倍は大きい相手を想定しているようなサイズである。

 それも当然。この島には巨人族が住んでいる。

 

「島の防衛をするための戦士。それに積荷の積み下ろしを手伝う人夫。この島で働く巨人族は結構多いのよ」

「巨人族がそんなにいっぱい住んでるのか!?」

 

 だからこそこれだけ巨大な建物が多いのだろう。

 とは言え、割合で言えば普通の人間の方が遥かに多い。普通の人間用の宿も相当数あるというので、まずはそちらに船を停めて宿を抑えたほうが良いとソラは言う。

 特に誰も異論を挟むことなく船を移動させ、港に船をつける。

 区画ごとに特色があるらしく、現在船を停泊させている場所ではホテルなどが建ち並ぶ場所のようだった。

 

「〝ロングリングロングランド〟では指針(ログ)が貯まるけど、〝ミズガルズ〟は元々偉大なる航路(グランドライン)の島じゃないから指針(ログ)が貯まらないの。移動したいのならあっちの島で貯めるか、ここで永久指針(エターナルポース)を買う必要があるわ」

「へェ……」

「どこに行くにしても、ここなら大抵の永久指針(エターナルポース)が売ってるわよ」

 

 もっとも、〝ウォーターセブン〟に行きたいなら〝ロングリングロングランド〟で指針(ログ)を貯めると言う手もあるのだけれど。

 ルフィとウソップは既にワクワクしているようで、視線があちらこちらに移っている。

 すぐにでも飛び出していきそうな2人の首根っこを掴み、ナミは「まずやるべきことがあるでしょ」とたしなめた。

 

「黄金の換金をしなきゃ。こんなの持ったまま歩き回るわけにもいかないし、不便でしょ」

 

 量が量なので持ち歩くのも危ない上、治安は良いが周りは海賊ばかりだ。油断すると奪われかねない。

 なので、まず最初に小紫から貰った手紙を渡して換金の仲介をして貰わねばならないのだ。

 

「じゃ、班分けね」

 

 船で留守番をするメンバーと手紙を届けに行くメンバー。

 最低限それが出来る人数がいればいいので、班分けは簡素に行われた。

 船番のゾロとペドロ。

 手紙を届けに行くナミ、ルフィ、ウソップ、ソラ、サンジ。

 自由行動のチョッパー、ロビン、ゼポ。

 

「この島には海賊が多いけど、海軍が物資の補給のために寄ることもあるから気を付けるようにね」

 

 〝ミズガルズ〟に関しては不干渉地帯と定めているらしく、よほどのことが無い限り海軍が海賊を捕まえるために動くことはない。

 それでもやはり海賊と海軍が同じ島にいるとトラブルを起こすことは多いので、面倒を起こさないように気を付けることは無駄では無かった。

 

「チョッパーたちはどこに行くの?」

「島を探索しながら本を探すんだ!」

「何がどこで売られているか分からないから、その辺りも見て来るわ」

「ロビンちゃんをしっかり守れよゼポ」

「言われるまでもねェ。ゆガラより付き合いが長ェんだぜ」

 

 チョッパーたちは本を見に行くらしく、船から先に出て行った。

 ゾロとペドロは船で何やらやっており、普段筋トレしているゾロは刀を手にペドロから何かを教えてもらっているようである。

 それを尻目に、ナミたちは船を降りて島の中心街へと足を向けた。

 

「まずは仲介してもらうために……カイエさんに会わないとね」

「誰なんだ、それ?」

「この島の……そうね、警備とかを受け持ってる一番偉い人よ」

 

 〝楽園〟担当の支部長もこの島にいるのだが、ソラはこちらと面識がない。

 一方、カイエなら色々と縁があるので話しやすい面もあり、手紙を渡すならこちらだと判断していた。

 〝黄昏〟の古参に入る人物なので、顔も広く仲介人としても適切である。

 カイエと会った後でソラとサンジは別行動をするつもりらしく、そのためにサンジが付いて来ていた。

 

「よーし、じゃあ出発だ!!」

 

 歩き出したルフィが町に入るなり、丁度角から出て来た人物とぶつかる。

 ルフィは軽くよろめく程度だったが、相手はバランスを崩して尻もちをついていた。

 フード付きのジャケットを着た少女だ。

 

「いたた……ごめん、前見てなかった」

「ああ、こっちこそ悪ィな」

 

 お互いこの島が珍しくて周りが良く見えていなかったのだろう。ルフィが倒れた相手に手を差し伸べると、相手はそれを掴もうとして手を伸ばす。

 そして、お互いに顔を見た。

 麦わら帽子を被った少年の顔を。

 赤と白のツートンカラーの髪の少女の顔を。

 

「……ウタ?」

「──ルフィ?」

 

 お互いに見覚えのある、しかし記憶よりも随分大人びた──幼馴染の姿がそこにはあった。

 

 

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