ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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第百九十六話:ウタ

 

「「久しぶり~~!!」」

 

 お互いを認識すると同時に、立ち上がったウタとルフィはハグをしていた。

 ウソップ達はそれを呆然と眺めているばかりで、いきなりの展開についていけていない。

 最初に口を開いたのはサンジだった。

 

「ルフィ!! テメェその子とどういう関係だ!!?」

「幼馴染なんだ」

「お・さ・な・な・じ・みィ~~!!?」

 

 嫉妬で血の涙を流しそうになっているサンジを尻目に、ルフィは懐かしそうにウタと話し始めた。

 

「まさかこんなところで会うなんてなァ! ここに住んでんのか?」

「ううん。私は昨日ここに着いたばかりで、少し滞在したらまた出るの」

「どっかの船に乗ってるのか?」

「うん。所属は一応〝黄昏〟になるのかな。アラバスタで今度内乱が終わったから、復興支援を兼ねてライブをやるの。私も参加するんだよ!!」

 

 アラバスタはルフィの通って来た島の中でも特に思い出深い。

 クロコダイルの事もあるが、何より仲間だったビビの事が大きいだろう。彼女と別れてそれほど時間が経っていないが、それでも寂しく思うし、寂しくても前を向いて旅を続けている。

 それはそれとしてウタがライブに出ると聞いて、ルフィは嬉しそうにしていた。

 

「ライブをやるのかァ……ウタも頑張ってるんだな!!」

「もちろん! でもルフィだって凄いじゃない!! 見たよ、手配書。一億ベリーだなんて、随分な悪党になったじゃない?」

 

 じとーッとした目で、しかし口元は笑いながらウタはそう言う。

 懸賞金が億を超えるというのは滅多にない。よほど大きな事件に関わらなければ出ない金額なので、相当なことをしたのだと想像は出来るが……新聞では詳細が出ないため、ウタはルフィが何をやったのかは分からなかった。

 それでも、幼馴染が〝海賊王になる〟という夢に向かって進んでいることは感じ取れるので、ウタは自分の部屋にポスター代わりに一枚手配書を張っている。

 

「話したいことはまだまだたくさんあるけど……そっちの人たちはルフィの友達?」

「ああ、おれの仲間だ」

「やっぱり! いつもルフィがお世話になってます!」

「いや、まったく」

「このやり取り前にもやった気がするな……」

 

 ぺこりとお辞儀をするウタにサンジとウソップ、ナミは釣られてお辞儀を返す。

 何となくアラバスタで似たやり取りをしたことを思い出し、ウソップは「結局誰なんだよ」とルフィに訊ねた。

 

「こいつはウタ! シャンクスの娘だ!」

「そうか、シャンクスの……〝赤髪〟のシャンクスの娘ェ!!!?」

 

 目玉が飛び出る程驚くウソップとサンジ。ナミとソラも唖然とした顔でウタの方に視線を移す。

 本人を見た事があるわけでは無いので断言は出来ないが、「言われると似てるような……似てないような……」などと言い始めるサンジ。

 血は繋がっていないので似ていなくて当たり前である。

 

「ウタでーす。ルフィの幼馴染でお姉ちゃんみたいなものです!」

「姉ちゃんじゃねェだろ」

「私の方が年上なんだからお姉ちゃんなんですー!」

「何をォ!?」

 

 いがみ合う、というには少々可愛い喧嘩である。

 あれこれ言い合う2人に肩をすくめ、ナミは呆れたように声をかけた。

 

「ちょっとルフィ。今から行くところがあるんだから!」

「ん、そうだな」

「何か用事があるの?」

「黄金を手に入れたから換金してもらうんだ」

「黄金!?」

「ルフィコラァ!!」

 

 ルフィのあまりの口の軽さにウソップが思わずツッコミを入れ、ルフィの頬をこれでもかと引っ張る。

 危機感もクソもない男であった。

 ウタはびっくりしていたが、それはそれで面白そうと考えて「ついて行ってもいい?」と尋ねる。

 

「いいんじゃねェか?」

「所属が〝黄昏〟ならカイエさんと会っても特に問題はないと思うわ」

「じゃあ決まりね! 私そのカイエさんって人に会ったことは無いけど」

「ねェのかよ!」

 

 何しろ先日この島に着いたばかりである。

 〝エレジア〟からほぼ出たことが無かったゆえに、物珍しさに目を引かれて興味本位でウロウロしていたらルフィと出会ったのだ。

 運がいいのか悪いのかはさておき、好奇心の強さはルフィの事を悪く言うことも出来ない。

 

「ルフィの姉ちゃんみたいなモンってことは、サボとも知り合いなのか?」

「? サボって誰?」

「知らねェのか?」

「ルフィのお兄さんって言ってたけど……会ったこと無いの?」

「ルフィ、兄弟なんか居たの? 一人っ子じゃなかったっけ?」

「ウタが居なくなった後で出来たんだ」

 

 ウタが居なくなったあとで兄が2人出来た。

 ルフィの理解出来ない言葉にウタの頭の中でクエスチョンマークが乱立していた。何ならウソップたちも同じようなことになっていたが、ルフィは気にした様子もない。

 それよりも、ウタは気になっていたことがある。

 「それよりも!」とビシッとルフィの被っていた麦わら帽子を指差した。

 

「その麦わら帽子! それ、シャンクスのだよね?」

「シャンクスから預かってるんだ」

 

 〝海賊王〟になる、という目的は当然あるが、その道中でいつか麦わら帽子をシャンクスに返すのもルフィの旅の目的の一つになっている。

 ふーん、とウタはじとーッとした目でルフィを見る。

 何か色々と思うところはあるようだが、ウタは言葉にしようとはしなかった。

 「ま、いいわ」とポケットに手を突っ込み、先導するソラに続いて全員が歩き始めた。

 

「しっかし、お前なんでいきなりいなくなったんだ?」

 

 ルフィはどうしてもそれだけが長年気になっていた。

 〝赤髪海賊団〟の音楽家として、シャンクスたちと一緒に海に出ていたウタ。

 ルフィは毎回連れて行けと駄々をこねていたが、シャンクスはそれをまともに取り合うこともせず海に出ては数ヶ月ほどで戻ってくる。そんな日々だった。

 しかし、ある時ウタだけが帰ってこなかった。

 出航の時は何も変わった様子など無かったハズだが、帰って来た〝赤髪海賊団〟の面々の顔は一様に暗く、ウタを探すルフィにシャンクスはこう言ったのだ。

 

 ──ウタは、自分の夢を叶えるために船を降りた。

 

 別れの言葉も無かった。

 シャンクスの言葉一つで納得など出来るはずもなく、ルフィはシャンクスと大喧嘩して……紆余曲折の後に仲直りをしたものの、ルフィの中でこの一件はずっと頭の片隅にあったのだ。

 

「ん~~……シャンクスからは何て聞いたの?」

「お前が夢を叶えるために船を降りたって」

「そっか……」

 

 先程までとは打って変わり、非常に話しづらそうな顔をする。ウタの髪もテンションに応じてか元気なく下を向いている。

 何を話したものかと悩ませていると、ルフィは何となく事情を察したのか、「でもいいや」とあっけらかんと言い放つ。

 

「ウタが今、元気でやってるならそれでいい。シャンクスたちとの間に何かあったのかなんて、知らなくても困らねェしな」

「ルフィ……」

 

 ルフィの言葉に目を丸くするウタ。

 ナミやウソップ、サンジはルフィにこういうところがあると理解しているためか、互いに顔を合わせて小さく笑っていた。ソラはその信頼関係を喜ばしく思い、口元に笑みを浮かべる。

 一方で、ウタは唇を尖らせてルフィの足を蹴っていた。

 ゴムなので痛くは無いが、いきなりの衝撃に怒るルフィ。

 

「何すんだよ!?」

「ルフィのクセに生意気! ……ほんと、どこでそんなこと覚えたのよ」

 

 昔のルフィならこんなことは出来なかった。デリカシーも何もなく根掘り葉掘り聞いて来ただろうし、ウタはそれを考えてどう話すべきか悩んでいたのだから。

 でも、今のルフィはこうやってウタの事情を考えて「話さなくていい」と言外に告げたのだ。

 ルフィは、ウタの知らないところで色んな事を経験して、フーシャ村で喧嘩していたあの頃とは違うのだと。ウタは否応なしに理解してしまう。

 この気持ちをどう言葉にすればいいかもわからず、ウタは困ったような顔をして、ルフィから目を逸らすようにそっぽを向いた。

 

 

         ☆

 

 

 〝ミズガルズ〟は広い。

 元より物流の中間地点として作られた面もあるため、その倉庫の数と大きさはもちろんのこと、巨人族が不便しないように作られた道路や建物もあって島そのものが相当な広さを誇る。

 物流倉庫が建ち並ぶ港は島の外周部分に作られ、それに付随して市場などは少々内側に作られ、島の中心部分には政治的に必要な物やこの島に住む人々の居住区が存在する。

 無用なトラブルを避けるため、島の中心部分には島外の者たちはあまり近付かないのが暗黙の了解だ。

 もちろん初めて訪れた海賊にそんなものを求めたところで無駄なので居住区内への立ち入りは基本的に出来ないようになっているが。

 

「この辺は店もあんまり無いんだな」

「居住区域が近いのよ。市場へ行けば必要なものは大体手に入るけど、海賊もそれなりに多いから、この辺りにある店は居住区域に住んでいる人向けね」

 

 掘り出し物などは無いが、日用品や食料品は大抵この近くの店で手に入るようになっていると言うワケだ。

 設立当初は巨人族とのスケールの違いや海賊とのトラブルが絶えなかったためか、現在ではこういう措置が取られているらしい。

 

「居住区域へは基本的に島外の人たちは入れないの。まァ、私たちが用のある場所は居住区に隣接してるけど内部ではないから入る必要は無いけれど」

 

 居住区の外郭を沿うように道を歩いていくと、島の中心に一際巨大な建物がある。

 形状が城なので便宜的に皆は王城と呼ぶが、この島に王はいない。

 カナタから任命された〝楽園〟の海の統括支部長があらゆる方針を決めている。

 カイエもそこにいるであろうとソラは考え、もうすぐ着く──というところで、ルフィたちは道を阻まれていた。

 正確には、ウタが。

 

「ようやく見つけたわよ、ウタ」

「大人しく部屋で待っててと言ったのに、悪いコね」

「うげっ……」

「誰だおめーら」

 

 ヤバい、と顔色を悪くするウタを背に隠し、ルフィが一歩前に出る。

 サンダーソニア、マリーゴールドの両名は邪魔をしようとするルフィに眉根を顰めた。

 

「あなたこそ誰?」

「おれはルフィ。ウタの友達だ」

「昨日着いたばかりで友達が出来たの?」

「あー、いやー。ルフィは前々からの友達って言うか、幼馴染っていうか……」

 

 2人を前に微妙に歯切れの悪いウタ。

 ウソップとナミは既にサンジの背中に隠れており、サンジはタバコを咥えたまま様子を見守っていた。

 ウタに用事があるとはわかるが、敵意があるようには見えないので今は様子見でいいだろうと思っているのだ。

 

「私たちはその子の護衛よ」

「〝黄昏〟の大事な歌姫の1人なんだから、護衛くらいは当然でしょう?」

「とにかく、勝手に抜け出した以上は罰を受けてもらうわよ」

「私たちだって、貴女に勝手なことをされると姉様に怒られるんだから」

「だって、面白そうだったのに部屋で待ってるなんてつまらなかったし……」

 

 ソニアとマリーの苦言に口をとがらせて反論すると、じろりと睨まれて思わずルフィの背中に隠れるウタ。

 文字通りの意味で蛇に睨まれたカエルであった。

 

「あなたの事情は良いから、早く部屋に戻りなさい。勝手に出歩いていることが姉様に知れたら──」

「──妾に知れたら、何じゃ。ソニア」

 

 ビクッ、と背後からの声にソニアが驚く。

 マリーと共に振り向くと、そこには1人の女性が仁王立ちしていた。

 長い黒髪に抜群のプロポーション。老若男女を問わずに魅了してやまない〝九蛇〟の女帝代理──ボア・ハンコックである。

 

「〝九蛇〟の女帝とこんなところで会うなんて……」

 

 ソラはこの場の誰よりも存在感を発揮するハンコックを見て苦い顔をする。

 横暴、我儘、自分勝手……彼女は美しく、強く、しかしそれ以上に性格が悪かった。

 〝七武海〟の傘下であるために懸賞金が付けられることは無いが、その強さは〝黄昏〟の中でも指折りである。下手にトラブルになれば一方的にやられる可能性は高かった。

 ハンコックはソラの言葉に反応し、見下すように顎を上げる。

 

「訂正せよ。妾は〝九蛇海賊団〟の船長ではあるが、女帝ではない。その称号は〝九蛇〟を統べるため、最も強く美しい者の肩書。即ちカナタ様のものじゃ」

「……そう、ごめんなさい。あなた達のこと、私は良く知らないから」

「ふん。ゆめ忘れるな、妾は代理にすぎぬ」

 

 見下すような視線のまま──事実、見下しすぎて見上げているようなポーズになりながら──ハンコックはソラに言い放った。

 ルフィたちが今まで見てきた中で1、2を争う美女である。威圧感は半端ではない。

 ウソップはサンジの背に隠れながら「コエー」と怯えているほどである。

 

「お、おっかねェ女だな。なァサンジ……サンジ?」

 

 ハンコックの存在感に目を惹かれたままであったが故に気にすることすらなかったサンジの方を見るウソップ。

 サンジは、石化していた。

 驚きのあまり目と歯が飛び出すウソップ。

 

「え~~~~!!? なんで石化してんだ!?」

 

 同じくサンジの後ろに隠れていたナミもウソップの叫びでようやく気が付いたらしく、「なんで!?」と驚いていた。

 ソラとルフィ、ウタもギョッとした表情をする。

 目をハートにしたまま石化しているサンジはそれほど異様だったのだ。

 

「〝九蛇〟に襲われた船は物言わぬ石像だけになるって噂……もしかして、貴女がやったの!?」

「何ィ!?」

 

 ソラは過去に聞いたことのある噂を思い出し、ハンコックを敵意の籠った目で見る。

 ルフィもそれを聞いて拳を握り、敵意を露にした。

 

「お前がサンジを石にしたのか! 元に戻せ!!」

「何もしておらぬが」

 

 ソニアとマリーはハンコックの能力発動の前兆を知っているので、特に何のアクションも起こしていないまま石にすることは出来ないとわかっている。

 なので余計に石化したサンジを見て混乱していた。

 ハンコックに至っては何もしていないのに勝手に石化していた上に敵意まで持たれていて困惑するほかにない。

 

「嘘つけェ! じゃなんでサンジは石化してんだ!!」

「知らぬと言っておろう!!」

 

 ハンコックは能力を使っていないので冤罪のハズなのだが、相手を石化出来る能力者はこの場にハンコックしかいない。

 状況証拠的にはハンコックが犯人と言えるが、しかし本人は頑なに否定している。

 ソニアとマリーにも何が何だかと言う状態で、「とにかく一度能力解除を試してみたらどうかしら」と提案する。

 怒り心頭のハンコックであったが、それが手っ取り早いと掌を上に向け、吐息を吹きかけた。

 

「目覚めよ……」

 

 顔を近づけられ、吐息を吹きかけられたサンジは──「メロリンラブ!!」と叫んで体勢を変え再び石化した。

 

「ええ~~~~!!? なんでまた石化したんだ!?」

「妾のせいではないではないか!!」

 

 ギャーギャーと騒いでいると、目の前の王城から1人の女性が姿を現した。

 紫色の髪を首の後ろでまとめた、穏やかな雰囲気の女性である。

 

「……何を騒いでいるのです?」

「カイエ姉様! こやつらが妾に無礼を!!」

 

 怒り心頭と言わんばかりの表情で振り向くと、既にそこには間近に迫ったカイエの顔があった。

 カイエはハンコックよりだいぶ身長が高いため、少しばかりしゃがみ込んでその顎を掴んで()()()と上を向かせる。

 そのまま吐息がかかりそうなほどの距離でハンコックに囁いた。

 

「そう怒ってはいけませんよ、ハンコック。美しい顔が台無しです。あなたはもっと優雅でいなくては」

「あっ、カイエ姉様……そんな……」

 

 カイエに耳元で囁かれたハンコックは、先程までの怒りがどこへ行ったのかと思うほど大人しくなる。

 ソニアとマリーはキャーキャー言いながら両手で顔を覆い、指の隙間から2人を見ていた。

 そうして大人しくなったハンコックを離し、カイエは背筋を伸ばしてルフィの方へと視線を向ける。

 見知らぬ顔が多いが、見知った顔もある。カイエはソラを見て、にこりと微笑んだ。

 

「おかえりなさい、ソラ。小紫から話は聞いています。なんでも、私に用があるとか」

「え、ええ……」

 

 急展開について行けないまま目を白黒させていたソラは、小紫から預かった手紙をカイエに渡す。

 カイエは開けることなく懐に仕舞いこんだ。

 

「外で話すのもどうかと思いますし、まずは中へ。歓迎しましょう」

 

 カイエは笑みを携えたまま、王城へといざなった。

 




備考
 ハンコック 191㎝
 カイエ   335㎝
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