ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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第百九十七話:王城

 

 街並みもそうだが、王城もまた巨人族が出入りするため巨大に作られている。

 カイエの後ろを歩きながらきょろきょろと周りを見ては、巨人族サイズの調度品やら扉にスケールの違いを感じていた。

 どうやって開けるんだあれ、という疑問もセットで。

 サンジはいつの間にか石化から回復しており、結局原因も何も分からなかった。ハンコックに冤罪を被せていたという事実だけが残っただけである。

 ハンコックはカイエの手前大人しくしているが、今にも殺しそうな視線を時折ルフィに向けていた。

 ルフィも流石に悪いと思ったのか、素直に頭を下げる。

 

「疑って悪かった。ごめんな、ハンモック」

()()()()()じゃ!! 謝る気あるのか貴様!?」

 

 火に油を注ぐだけの結果になっていたが。

 

 

        ☆

 

 

 カイエが案内した部屋は普通の人間用のものらしく、やや手広くはあるがルフィたちも見慣れたサイズだった。

 カイエに言われて来客用ソファに腰かけるルフィたち。ソラ、サンジ、ナミ、ウソップとルフィとウタに分かれて座る。誰も何も言わないがウタはごく自然にルフィの隣を陣取っていた。

 未だに睨みつけてきているハンコックはと言えば、2人の妹に引きずられて少し離れた場所に腰を落ち着ける。

 その間にお茶を淹れ、テーブルに置いて自らもソファに腰かけるカイエ。

 ルフィとウソップは熱いお茶を早速飲み始める。

 

「美味いな~」

「落ち着く~」

「ふふ、気に入っていただいたようで何よりです」

「あ、あの! 私たち、小紫に聞いてここに来たんだけど、換金して欲しいものがあって……」

「ああ、私の紹介が必要という話ですね。わかりました。すぐに手配しましょう」

 

 小紫が一筆した手紙もその件についてだ。表向きほとんど知られていない小紫の名を騙る者などほとんどいないが、そこはそれ。報告・連絡・相談は社会人の基本である。

 カイエは受け取った手紙をチラリと流し読みして放置した。本人が書いたことさえわかればいいのでそんなものだ。

 

「えらく話が早いな」

「私は基本的に島の警備などが担当なので、非常時でも無ければ暇ですからね」

「おばちゃん強いのか?」

 

 ルフィの言葉にハンコックがブチ切れそうになっていたが、妹2人がなんとか宥めすかす。

 カイエは特に気にした様子もなく、微笑んだまま「多少は」と答えた。

 警備担当と言っても、矢面に出るのは大半が巨人族だ。カイエが戦うことなど滅多にない。

 

「小紫ほどではありませんが。空島でも色々とトラブルがあったと聞きます。小紫はとびっきり強かったでしょう?」

「ああ。とんでもなかったな」

 

 カイエの言葉にウソップが頷く。

 マラプトノカも大概とんでもなかったが、それを剣技と能力で追い詰める小紫はもう一段階とんでもなかった。

 名を知られていない幹部であれほどの強さ。〝黄昏〟がこれだけの勢力を誇るのも納得出来るというものだ。

 カナタが七武海に入って以降、名前が知られている幹部の方が少ないのだけれど。

 

「彼女は特別ですからね。カナタさんの数少ない直弟子ですし、修羅場もくぐってますから」

 

 カイエとてバレットの鍛錬に付き合わされるくらい強いが、本気の戦闘になればどれほど抵抗出来るかはわからない。

 四皇やそれに対抗出来るような強さの者たちはそれだけ突き抜けているのだ。

 小紫ならバレットと戦ってもいい勝負をするだろうとカイエは考えているし、かつてカナタに手傷を負わせたことを考えれば多少なりとも勝機はあると思っている。

 小紫を含む〝戦乙女(ワルキューレ)〟と〝戦士(エインヘリヤル)〟のトップ4人で、攻め込んできた〝王直〟を退かせた経験さえあるのだ。実力は自分以上だとカイエは認めていた。

 

「小紫ィ~~!?」

「姉様、落ち着いて。どうどう」

「姉様の方が美しくて強いのはカイエ姉様もわかってるから、大丈夫よ」

 

 一方、先程までルフィを敵視していたハンコックは小紫の名前が出るとそちらに敵意を向けていた。

 さっきから怒ってばっかりだな、とルフィはのんきなものだが、カイエは苦笑するばかりである。

 

「あの2人は少々折り合いが悪いもので……」

 

 ハンコックは自らが最も美しいという自負がある。

 〝アマゾン・リリー〟特有の強さこそが美しさであるという価値感、加えて幼少期から幾度となく世話になったことなどもあってカナタの事は自分より上だと認めているが……小紫に関してはそうではなかった。

 カナタの直弟子であることやカイエとの仲の良いことなど、ハンコックの機嫌を損ねるようなことばかり耳に入るものだから、ハンコックははっきり言って小紫の事が嫌いだった。

 小紫は自分の方が美しいと思っているし、ハンコックの敵意など気にもしていないのでこの2人はなるべく同じ場所にいさせないようにするのが暗黙の了解である。

 

「〝黄昏〟も大変なんだね」

「貴女は……」

「私はウタ。アラバスタでライブやるから、〝エレジア〟からここに来たの」

「ああ、テゾーロの合流待ちですね」

 

 ウタの護衛はハンコックに一任していたので、カイエは頭の片隅に置いておくだけでそれほど重要視はしていなかった。

 とは言え、〝赤髪の娘〟と言う肩書はカイエとしても無視出来るものでは無い。

 ルフィの麦わら帽子も含め、何かと縁があるものだとカイエは思う。

 

「シャンクスとは昔馴染みです。見習いの頃から知っていますが、彼も家庭を持ったのですね」

「あー……いやァ、あはは。私はシャンクスの娘だけど、血は繋がってなくて……」

「血縁の有無など些細なことでしょう。貴女が彼を親だと思い、彼が貴女を娘だと思っているのなら家族でいいのです」

 

 母親はいないだろうが、そんなものはよくある話だ。

 カイエだって実の両親に捨てられてグロリオーサに育てられたし、同じようにグロリオーサに育てられたハンコック達はカイエの事を姉と慕っている。

 血縁など重要ではない。重要なのは親と子の間に愛があるかどうかなのだ。

 目を丸くするウタに、カイエはにこりと笑った。

 

「麦わら帽子と左腕を無くしてこの海に戻って来たシャンクスのことは話題になりましたが、私はしばらく会っていません。シャンクスがどう思っているかは、貴女が直接確かめると良いでしょう」

「……うん」

 

 カイエの言葉に頷くウタ。

 良いことを言って貰った──と思い返すと、聞き捨てならないことを言っていることに気付いた。

 

「ちょっと待って。シャンクスが帽子と左腕を無くしたってどういうこと?」

 

 ギクッ! とウタの隣で固まるルフィ。

 カイエは「知らなかったのですか?」と不思議そうな顔をしている。かなり話題になったらしいのでウタが知らないことが不思議なのだろう。

 帽子は隣にいるルフィが被っている。では当然、左腕に関して何か知っているのではないかと視線がカイエからルフィに行った。

 ルフィはさっと目を逸らした。

 

「ルフィ」

「…………」

「こっち見なさい、ルフィ」

 

 じとーっとした目で見つめられ、ルフィは耐えきれずに白状した。

 

 

        ☆

 

 

 シャンクス関連の事を洗いざらい吐かされたルフィはウタに睨まれており、両手で頬を思いきり引っ張られている。

 ルフィはウタにされるがままだ。

 カイエも初耳のことだったが、シャンクスらしいと言えばらしい行動だと納得していた。

 ナミたちはこの後やることも行く場所も特に決まっていないが、いつまでもここにいては邪魔だろうと席を立つ。

 黄金の査定をするために後ほど人を派遣するので、船の場所だけ伝えて部屋を出る。

 

「楽しい時間でした。また会うこともあるかもしれませんね」

「ああ、またな!」

 

 気安く話すルフィにハンコックはまた眉がつり上がっていた。

 ともあれ、やることは終わった。

 正確な金額が出るまでは山分けも難しいだろうし、町を見るだけ見て今日は引き上げようと提案するウソップ。

 ナミは特に異論はなく、ルフィも特に行きたい場所があるわけでは無い。ウタも用事はないが、ルフィたちの船を見てみたいと言う。何かあったら呼ぶようにと子電伝虫に一つだけボタンが付いたものを渡されているので、この島にいる間は好きなように動けるらしい。

 サンジとソラは別行動をすると言う。

 

「ワリィが、ちょっと行ってくる」

「ああ、元々そういう話だったもんな」

 

 ソラをこの島に送り届ける代わりに、ソラが快復した理由を知りたい。

 そういう条件で船に乗せたのだ。チョッパーも気にしてはいたが、サンジはジャッジを信用していない。どうせロクでもない手段だろうと考え、先に自分だけで行って確認するつもりだった。

 倫理観にもとる行為をしているのなら、チョッパーには見せられないと考えて。

 ルフィたちは町を見ながら船に戻ると言って王城を出ていく。

 残ったサンジとソラは、ルフィたちとは別の道を歩き始めた。

 

「……あの男は、まだ色々とやってんのか?」

「ええ。彼にとって、〝ジェルマ〟の復興は何が何でも成し遂げたいことだから。私はもっと別の手段があると思っていたけれど……」

 

 自分の子供さえ改造してしまうというのは、ソラからしても狂った所業だった。

 己の肉体の改造ならまだいい。自分の望みのために取れる手段を取ることは決しておかしくはない。

 だけど、己の子供が胎の内にいる時から改造を施そうなど、狂気としか呼べない。

 ソラは反対し、血統因子に影響を及ぼすほど強い薬を服用することでサンジだけは人の心を持ったまま生まれて来た。

 代償に、ソラの肉体は弱り果て……サンジが逃げ出す時には、既にベッドから起き上がることさえ出来ないほどに弱っていた。

 

「でも、昔に比べれば落ち着いたと言えるでしょうね」

 

 強大な軍事力を持つ〝黄昏〟と近しくなった。

 互いに利があれば利用し合う関係でもいいと考えたジャッジは、カナタの手を取ることを選んだのだ。

 もちろんソラとてスクラには世話になった身である。カナタには恐れを抱くが、スクラの患者を救うという一念だけは信用に足るし、スクラがカナタの事を信用しているならソラも大丈夫だろうと思っている。

 ……不安が無いかと言われれば嘘になってしまうけれど。

 

「〝北の海(ノースブルー)〟には闇が多い。武器や麻薬の密輸、奴隷売買……世界政府が表向き禁止している品物が当然のように出回る市場もあるわ。あの人は、〝北の海(ノースブルー)〟に存在する闇を少しでも知っている人物を味方につけておきたかったんでしょうね」

 

 世界最大の海運業を生業とする〝黄昏〟をして、()()()()()()()()

 カナタは武器と奴隷の売買を禁じているため、裏取引ではもっぱらそのどちらかが売買されている。麻薬も同じだ。

 当然ながら、そういった武器や奴隷、麻薬を取り扱って資金を得る組織は大きくなりやすく、後ろ盾にカイドウやリンリンを選ぶ可能性は高い。

 〝西の海(ウエストブルー)〟にいる五大ファミリーも含め、カイドウやリンリンへの資金の流入を断って締め上げたいと考えているのだ。

 ジャッジはカナタにとって扱いやすく、()()()()()()()ので選ばれたのだろう、とソラは考えていた。

 相手の欲しいものがわかっているならこれほど交渉しやすい相手もいない。

 

「あなたも気を付けるのよ、サンジ。カナタと言う女は、どれだけ良いことをやっているように見えたとしても──どこまで行っても〝海賊〟なの」

 

 ジャッジは悲願を叶えられると目が曇っている。

 イチジ、ニジ、ヨンジはジャッジの言葉に従うばかりで反論することは無い。レイジュも同じだ。

 ソラだけでも、疑いの目を持っていなければならない。

 でなければ、取り返しのつかないことになるような──嫌な予感がするのだ。

 

「……おれだって、今は海賊だが」

「あなたは私の息子だもの。自慢の、優しい子よ」

「…………」

 

 ソラの言葉にサンジは何とも言えない顔をしながらぐしゃぐしゃと頭を掻いていた。

 

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