ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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第百九十九話:行方不明のコック

 

「サンジを探しに行こう」

 

 夜中まで待ってもサンジは帰ってこなかった。訝しみながらゼポの作った夕食を食べて寝たが、起きてもまだ帰ってきていなかった。

 いくらなんでもおかしい。

 ルフィはパンに野菜やチーズなどを載せて焼いたもの(ゼポ作)をモリモリ食べながら、探しに行こうと告げる。

 概ね賛成意見ばかりだったが、ゾロだけは「放っておけ」と突き放した。

 

「母親が連れて行ったところってんなら、つまり親父とかもいるんだろ。話がこじれてるだけじゃねェのか? 家族間の話におれ達が割り込んだって余計に話がこじれるだけだ」

「でも、そこに留まってるかどうかは分からないじゃない」

「だったら尚更どこ探すんだよ。この島は人工島だって言うが、巨人族があちこちで働く島だけあって滅茶苦茶に広いぞ。当てもなく探したって見つかりゃしねェだろ」

 

 数十人、数百人の人海戦術で探すならともかく、広い島中を数人で走り回って探すのは流石に無理がある。

 区画分けされていると言っても一区画が巨大なのだ。目星を付けることもせずに走り回ったところで徒労に終わるだけだ。

 ウソップはゾロの言葉に頷いた。

 

「ゾロが探しに行ったら今度はゾロを探す羽目になるしな。二次遭難が起きるぞ」

「ああ、そりゃ大変だ」

「斬るぞ」

 

 ウソップの言葉にルフィが頷くと、ゾロが静かに額に青筋を浮かべる。

 ともあれ、連絡や言伝の一つも無しにいなくなるというのはおかしい。せめてソラのところに行って確認くらいはすべきだろうが……肝心のソラの行先を誰も知らなかった。

 〝王城〟のところまではウソップとナミも同道していたが、そこから別行動したのでざっくりとした方向しか分からない。

 チョッパーが口元を汚しながら食べるのを見てナプキンで拭いていたロビンが意見を出す。

 

「カイエさんに聞けば居所はわかるんじゃないかしら」

「そうね。もう一度行ってみましょう!」

「でも、黄金の査定するから人を送るって言ってたろ? 誰か残ってないと駄目じゃねェか?」

「じゃあ私とゾロが残るから、アンタたちで探してきなさいよ」

 

 麦わらの一味の金庫番はナミなので、黄金の査定をすると言うのならナミが残っているべきだ。

 探す気のないゾロが残るのも、まぁ妥当なところではあるだろう。

 と言うか、そもそも全員でぞろぞろと連れだって探しに行く意味も無い。ソラのところにいるのなら探す必要は無いし、いないのなら当てが無さ過ぎてどうにもならない。

 なので、とりあえずルフィとウソップ、ロビンとペドロの4人で動くことになった。

 昨日ゴーイング・メリー号に泊まっていたウタもいるが、彼女とてこの島に詳しいわけではない。ハンコック達にはまた小言を言われるかもしれないが、ウタとしてはナミたちともっと話したいという気持ちが強かったので留まることにしていた。

 

「よし、とにかくサンジを探しに行こう!」

「ロビンは場所わかんのか?」

「〝王城〟の位置くらいはわかるわ」

 

 昨日のうちにある程度地形は頭に入れている。

 少々回り道をするかもしれないが、迷うことは無いだろう。

 

 

        ☆

 

 

 そうして辿り着いた〝王城〟は、昨日とは打って変わってざわついていた。

 ロビンは眉をひそめ、ひとまずフードで顔を隠してカイエに会いたいと入口で用件を伝える。

 だが、受付をしていた女性は困ったような顔をする。

 「カイエさんは今いないんです」、と。

 

「いない?」

「詳しいことはわかりませんが、用事が出来たと先程出ていかれました」

 

 すれ違う形でいなくなったらしい。ルフィたちは顔を見合わせ、どうしようかと困った顔をする。

 ソラの居場所が分かればいいのだが、果たして知っているか……ひとまず聞いてみるべきと、ペドロが前に出た。

 

「すまない。ソラと言う人物を探している。昨日もここに来ているハズだが」

「昨日も……?」

 

 受付の女性がスッと視線をルフィに向ける。昨日〝王城〟の前で騒いでカイエと一緒に入ってきたのを思い出したのだろう。

 あ、と声を上げてソラの事を連鎖的に思い出す。

 ソラ自身、ジェルマの一員と言うこともあり、しかもこの島にジェルマの一団が滞在してそれなりに長い。内情までは分からずとも彼らの居所くらいは知っていた。

 

「ソラさんは……恐らくジェルマのところだと思いますが」

「おれ達も行方が分からないんだ。手当たり次第に探そうにも手掛かりも何もない」

「なるほど……」

 

 顔見知りだとわかってもらえたので、特に何事もなくジェルマのいる港を教えて貰えた。

 ソラのところにサンジがいるなら話が早いが、とペドロは思うも、難しいだろうなと内心考えつつ、ソラのいる港へと歩き始める。

 

 

        ☆

 

 

 ジェルマの居城はとても目立っていた。

 電伝虫を模した巨大な船を見上げ、ルフィとウソップはぽかんと口を開けるばかりである。

 

「でっけーな……」

「ここにサンジの母ちゃんがいるのか?」

「多分な。場所は間違ってない」

「こんにちはー。お邪魔しまーす」

「早ェよ!!」

 

 ウソップがペドロに確認している間に、ルフィは階段を使って船に乗り込んでいた。

 甲板には大勢の人がいた。船員だろうか、と考えるウソップ達の前に、彼らが一斉に集まってくる。

 

「何者だ? 何の用事でここに来た」

「うおっ!? びっくりした……」

「私たちはソラさんに会いに来たの。伝えてくれるかしら?」

「ソラ様に……? 待っていろ」

 

 ルフィたちを取り囲む男たちは皆、一様に似た顔と体格をしていた。

 同じ体格、顔……となると、先の空島での一件を思い出す。流石に関係ないとは思うのだが、ロビンは思わず警戒に入っていた。

 程なくして、白衣を着たソラが現れて手を振ってくる。

 周りを囲んでいた男たちはソラが近付いて来ると同時に離れ、少し離れたところで監視し始めた。

 

「遊びに来てくれたの? 嬉しいけど、今ちょっと立て込んでるのよね……」

「立て込んでる?」

「ええ」

 

 ソラは言いにくそうに言葉を濁す。

 ジェルマは〝戦争屋〟である。彼らが立て込んでいる──忙しいということは、つまり戦いがあると言う事だ。

 ソラ自身はあまり戦うことに乗り気ではないので、その勇名を誇ることも無い。なるべくなら戦争など無い方が良いのだが、ジェルマの国王であるジャッジの決めたことは絶対だった。

 帰って来て早々に忙しくなっているのも大変だが、ルフィたちとて単に遊びに来たわけではない。

 

「おばちゃん、サンジどこ行ったか知らねェか?」

「? サンジならあなた達のところにいるんじゃないの?」

「それがよ、サンジの奴、アンタと一緒にどっか行ってからこっちに帰って来てねェんだ」

「少なくとも、私はあの子が帰るところまでは見送ったわ。いなくなったとしたら、その後ね……」

 

 ソラにとっても無視出来る話ではない。捜索に行きたいところだが、ジャッジはそれを許さないだろう。

 サンジは勘当された身である。ジェルマにとってソラはジャッジの妻と言うだけで重要だし、今更サンジに執着する理由も無いから捜索を許可する理由が無い。空島にいたのはあくまで〝黄昏〟が護衛を請け負ったから許可を出しただけなのだ。

 ソラの顔色が悪い。

 大きくなったとはいえ、我が子の安否不明と言うのは親にとって不安になっても仕方が無いだろう。

 

「あなたたちはサンジを探すんでしょ? どこを探すの?」

「ここと私たちの船の直線経路を探すつもりよ。いなくなるとしたら、そこが一番可能性が高いから」

「おばちゃんはどうすんだ?」

「私は……なんとかジャッジを説得して島を出るのを待ってもらうわ」

 

 探すにしても勝手にいなくなると煩いだろう。それもサンジに関連するとなればなおの事慎重に動かねばならない。

 とにかく、今やれることをやるべきだ。

 方針は決まった。全員が顔を見合わせると、一度頷いて行動を始める。

 先頭はフードを被ったままのロビン。殿は目と鼻の利くペドロだ。

 船を降りて、メリー号へ真っ直ぐ向かって歩き始める。

 

「しかし、サンジの奴どこ行ったんだろうな」

「船に戻ってこない。母ちゃんのとこにもいない……となるとなァ」

 

 ゾロも言っていたが当てが無さ過ぎる。

 せめて何か一つ、足がかりになるようなものでもあれば──。

 そう考えながら急いで大通りを曲がると、向こう側から曲がって来た男とロビンがぶつかった。

 後ろにいたルフィが咄嗟にロビンを支えた。

 

「大丈夫か?」

「ええ」

「悪ィな。だがなにをそんなに急いで──」

 

 ぶつかった男の言葉が止まった。

 ロビンはその男の顔を確認し、昨日追って来ていた男だと理解し……ぶつかった拍子にフードが外れていることに気付いた。

 

「──お前、ニコ・ロビン……!?」

 

 顔を隠すも、既に遅い。

 後ろにいたルフィの顔を確認すると、男はすぐに踵を返してどこかへと走り去っていく。

 ルフィは首を傾げ、疑問を口にした。

 

「何だったんだ?」

「…………」

 

 なるべくなら誰かに知らされる前に始末をしておきたいところだが、ここは人通りが多い。下手な行動は余計に注目を浴びることになるだろう。

 ロビンがこの島にいること自体は昨日の時点でバレている。緊急度はそれほど高くはないと判断し、フードを目深に被りなおして歩き始める。

 

「先を急ぎましょう。早くコックさんを見つけなきゃ」

 

 用事を済ませて島を出たほうが良い。

 ロビンは自身が誰に狙われているのかを理解している。下手に相手に時間を与えるのは悪手だということもわかっている。

 最悪、アラバスタの二の舞になる可能性まであるのだから。

 

 

        ☆

 

「ほー、こりゃ素晴らしい!!」

 

 一方、ナミたちの方にはカイエと鑑定士の老人が訪れていた。

 老人は空島から持ち帰った黄金を前にテンションを高くしながら、鑑定用のルーペを使って細部を覗き込んでいた。

 

「仲間の一人が行方不明、ですか?」

「そうなの。貴女ならソラさんの場所を知ってるかもって、ロビンたちが向かったんだけど……」

「すれ違いになったのでしょう。私は彼を連れてくるために回り道してきてますからね」

 

 船の室内でカイエはゼポが淹れてくれたお茶を一口飲み、いなくなったサンジの事を思う。

 昨日何故か石にされていた男だ。結局石になっていた原因は何一つわからないままだったが、あれは何だったのだろうか。

 ハンコックは何もしていないと言っていたし、カイエ自身も何かした覚えはない。

 その男が今度は行方不明とは。

 どこかに泣きついたところで彼らは海賊。誰も助けてはくれないだろう。こうして縁があるからカイエは話を聞いているが、そもそも海賊が姿を消すこと自体はそれほど珍しい事態ではないのだ。

 この島にはほぼいないが、〝人攫い〟は割とどこにでもいる。天竜人がいる以上は廃れることのない文化だろう。

 

「……今回は関係無いでしょうけど」

 

 人攫いがもし〝ミズガルズ〟にいたのならとっくに見つかっている。

 この島は世界政府非加盟国なので世界政府は守らないが、逆に言えば世界政府が相手なら見逃すような者たちでもこの島では見逃されないという事である。

 武器と奴隷の取引を、カナタは認めていない。

 もしこの島で秘密裏に取引しようものならすぐに見つかるし、カイエが潰している。

 だから、恐らく人攫いは今回の件に関わっていない。

 

「何か心当たりは無いのですか?」

「心当たり……うーん。サンジ君が行きそうな場所……」

「サンジが行きそうな場所と言えば……」

 

 ナミはチョッパーと目を合わせる。

 

「「女の人がいっぱいいるところ」」

「……それは、また」

 

 スコッチと同じタイプか、とカイエは苦笑する。

 最近はスコッチも頭頂部が薄くなってきたので現在はスキンヘッドにしていて怖がられることも多いが、元々女好きで金もある。色んな場所を飲み歩いて2、3日帰らないなどザラだった。

 一晩いなくなっただけで騒いでいるからにはそのレベルではないのだろうが、一つの参考にはなるだろう。

 

「ところで、ウタは何をキョロキョロしているのですか?」

「今日はハンコックさんはいないの?」

「彼女はテゾーロが来るまで暇ですからね。今日は好きなようにさせています」

「そうなんだ」

 

 甲板に繋がるドアを開けて外をきょろきょろと見回していたのは、ハンコックを探していたのだろう。今度見つかれば連れ戻されると思ったのだろうか。

 ウタはハンコックがいないとわかるとドアを閉め、カイエの隣に座る。

 改めて見ると、やはり目を惹く美人だ。

 背は高く、脚はすらりと伸びて、整った顔立ちと艶のある紫の髪は男女を問わず人を惹きつける。

 出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいる。と言っても戦闘員なので、よくよく見ればとても筋肉質なのがわかる。

 ……カイエ自身はカナタに憧れがあるので、スタイルはともかく背は低い方が良かったのだけれど。

 

「カイエさんって美人だよね」

「……いきなりどうしました?」

「サンジさん、カイエさんが呼べばどこからともなく出てきそうだなって」

「まさか」

「「ありそう」」

「まさか……」

 

 悪い信頼のされ方だった。

 カイエは〝黄昏〟の中でも古参に入り、幹部の中でも若い方に入るので下から頼られることは多いが、こういうパターンは初めてだった。

 

「……まぁ、そのうち見つかるでしょう。何か事件があったとは聞いていませんし」

 

 昨日の今日なのでまだ情報が上がってきていないだけかもしれないが、急を要するなら子電伝虫に連絡が入るようになっている。

 連絡が来ないということはその程度なのだろう。

 

「出来る事なら手伝いましょう。ロビンも世話になっているようですからね」

「……やっぱりロビンと知り合いなの?」

「それなりに長い付き合いですね」

 

 オハラから連れ出してからの仲なので、かれこれ20年程の付き合いになる。

 歳の近いカイエが面倒をよく見ていたので、ロビンにとってティーチが兄貴分ならカイエは姉貴分だ。

 ティーチと違って考古学の分野には詳しくないが。

 ここに来たのも、久々にロビンの顔を見れるかもしれないと思っての事である。彼女は妹分の事をとても気にしているのだ。

 ゾロとゼポは席を外しているので、チョッパーこそいるが女子会としてロビンの話などしてもいいのだが……ロビンの過去は機密が多すぎて迂闊に話せない。

 どちらかと言えば自分で話すより聞く方が好きなのもあるので、彼らの旅路を聞かせてもらうことにした。

 

「鑑定もあの量ですから、すぐには終わらないでしょう。ロビンたちが帰ってくるまで待つのも暇ですし、良ければあなた達のこれまでの旅路を聞かせてください」

「あ、それ私も興味ある!」

「そうね……そんなに長い期間一緒に旅をしたわけじゃないけど、それでも良いなら」

「ええ、構いません」

 

 カイエはにこりと笑い、ナミとチョッパーから色々と話を聞き始めた。

 

 

        ☆

 

 

「あら、マハにゲルニカにヨセフ。任務?」

「ああ。お前にも召集がかかった」

「珍しいわね、私までなんて。歓楽街で情報を集めるよりも重要な任務なの?」

「ニコ・ロビンが見つかった」

「──なるほど。四皇に先んじて、と言うワケね」

「急ぐ必要がある。再び四皇同盟に動かれては厄介だ」

「捕縛?」

「秘密裏に出来るならな。あの女目当てにインペルダウンまで攻め込まれては敵わん。最悪、殺害して〝歴史の碑文(ポーネグリフ)〟の情報が渡らないようにする必要がある」

「場所は?」

「──〝ミズガルズ〟だ」

 

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