ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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第二百一話:〝ジェルマ〟

 

「おい、あれ本当に大丈夫か?」

 

 勢いだけで押し切ったサンジを尻目に、ボニーは渋い顔をしていた。

 不意打ちだったとはいえボニーに一方的にやられているのだ。政府の諜報員相手に足手纏いなど抱えていられる余裕はない。

 ドレークは肩をすくめ、「問題は無いだろう」とボニーの意見を一蹴する。

 

「あたしの背中を預けられるかって話だぞ。追われてんだ、信用出来る奴以外に背中は預けられねェ」

「あの男の覇気は悪くない。サイファーポール相手でもそうそう遅れは取らないハズだ」

「……アレでか?」

「あれでだ。第一、おれとお前の共闘はこの島限定だ。気になるなら早く島を出ることだな」

 

 取り付く島もないドレークの言葉にボニーは舌打ちし、「足引っ張ったら容赦しねェぞ!」とサンジに言い放って部屋を出た。

 ドレークは床から立ち上がって同じように部屋を出ようとして、サンジに付いてくるようにと指で合図をする。

 気になることはいくらかあるが、まずは食事だ。

 ドレークが案内した先は船の食堂らしく、使われた形跡があまりないキッチンを横目にドレークは果物の入った籠をテーブルに置く。

 

「好きに食え」

「……キッチンは使わねェのか?」

「おれは最低限の事は出来るが、いちいち他人に振舞ってやるほど暇でもねェ。この島にいる間は店で買った方が早いし美味い」

「冷蔵庫に食料はあるな……勝手に使わせてもらうが、いいな」

「……構わねェ」

 

 サンジは簡単にキッチンを掃除してからフライパンと鍋を取り出し、パスタを作り始めた。

 普段使っている場所でもないというのに、その動作には澱みがない。材料さえあればそれ以外の要素など些事だと言わんばかりだ。

 あっという間にペペロンチーノを作り上げると、慣れた手付きで盛り付けて食べ始める。

 

「…………」

 

 料理人だから、と言うのもあるのだろうが、フォークの扱いが様になっている。きちんとした教育を受けて来た証だ。

 海賊と言うのは、この時代のせいもあってかまともな教育を受けていないものが多い。

 食事のマナーまで学んでいるということはそれなりに教育水準は高かったのだろう。そこまできちんとした教育を行うのは貴族か規模の大きい商人くらいのものだ。

 ドレークは普段のクセでサンジの細かいところまで観察していると、サンジが食事の合間に口を開く。

 

「それで、おれは何をすりゃあいいんだ?」

 

 ロビンが政府に狙われているのは話の流れでわかる。政府の諜報員がこの島に来ていることもわかる。

 だが、どうやって見分けるかも倒した後どうすればいいかもわからない。

 

「今ロビンを狙っているのは政府と海軍だ。諜報員はこっちで見分けるから、取り敢えずぶちのめして縛って転がしておく」

 

 カイドウとリンリンも狙っているが、この島を攻め落とすのはあの2人でも難しい。少なくとも直接攻めては来ないだろう。

 四皇が動けば必然的に動きは漏れる。動いたなら動いたでやりようはあるし、ドレークが心配するようなことではない。

 政府と海軍がロビンを狙ってミズガルズで好きに動かれる方が面倒だ。

 

「ボニーちゃんはなんで協力してんだ? さっきの話を聞く限りじゃ、あの子はお前と所属が同じってワケじゃなさそうだが」

「……あいつは、まァ色々事情があるんだと。おれも詳しいことは知らねェが、政府に追われてるから一時的に匿ってるだけだ」

 

 カナタから直に指示が下りてこなければ、わざわざこの島に留まってボニーの追手の処理などやっていない。表向きドレークは独立した海賊なのだ。

 相応の理由はあるのだろうが、細かい事情までは把握出来ていないし聞こうとも思っていない。

 聞きたければ勝手に聞け、と言うスタンスだった。ドレークは興味がないので聞かないだけだ。

 サンジは呆れたような顔をしている。

 

「それでいいのかよ。お前らも大概適当だな」

「食ったなら出るぞ」

 

 サンジは洗い物を手早く済ませ、ドレークに続いて船を降りていく。

 向かっているのは〝王城〟近くの店だ。

 闇雲に探したところで政府の諜報員など簡単に見つからない。連中はそういう〝潜む〟行動が得意だから諜報員なのだ。

 一方で、ミズガルズには内海に入る段階で簡単な審査がある。

 もちろん、本当に姿を隠したがる諜報員は海軍に紛れていたり、海賊のフリをして入り込むが……基本的に〝偉大なる航路(グランドライン)〟では海軍は軍艦を使用しているので内海に入るには乗り換えねばならず、内海に入れる程度の大きさの船なら外側の島と内側の島両方で監視が出来る。

 見聞色による不審人物の見分け方はカナタやフェイユンがノウハウを積み重ねたこともあり、高い確率で諜報員の乗った船を見つけ出せていた。

 

「まずは情報を貰う。その後で連中を襲撃して捕らえて、ここの警備に引き渡せば終わりだ」

「……〝黄昏〟は七武海だろ? 政府の諜報員を捕らえて立場が悪くなったりしねェのか?」

()()()()()問題になるだろうな」

 

 バレなければ犯罪ではない、と言いたいらしい。

 サンジは思わず胡乱げな顔をしてドレークを見るが、ドレークは素知らぬ顔だ。

 〝黄昏〟も海賊だ。後ろ暗いことくらいはあるだろう。流石に限度はあるが。

 

「お前はロビンの事をどこまで知ってる?」

「どこまでって……考古学者で〝歴史の本文(ポーネグリフ)〟を探してることくらいは知ってるけどよ」

「その〝歴史の本文(ポーネグリフ)〟を読むことを政府は全面的に禁じている。あいつの故郷のオハラはそれをやって〝バスターコール〟で滅ぼされた」

「!?」

 

 ドレークの言葉に、サンジは咥えていたタバコを落とすくらい驚いた。

 そして、それぞれの単語が脳内で繋がっていく。

 空島にあったロビンの故郷である〝オハラ〟。

 〝歴史の本文(ポーネグリフ)〟を解読したことで滅んだ故郷。

 オハラにあった石碑と、そこに刻まれた名前。石碑に花束を添えて祈るロビン。

 

「そう言う事か……」

 

 空島でのロビンの行動が繋がった。

 〝西の海(ウエストブルー)〟から持ってきた、と言うのが比喩でも何でもない本当のことなら、オハラの行動に加担する〝黄昏〟と敵対する〝政府〟と言う構図は容易に描ける。

 政府にバレれば七武海の地位など吹き飛びそうな話だが、そうなっていないということはバレていないという事だろう。

 それを知ったサンジ自身もちょっと危ないかもしれない、とんだ厄ネタであった。

 頭の痛い話ではあるが、サンジにロビンを裏切るつもりは毛頭ない。他の面々には黙っていれば大丈夫だろうと考える。

 

「〝黄昏〟とロビンの関係はなるべく表沙汰にしたくない。お前たちも十分気を付けてくれ」

「……善処するよ」

「まァバレたところで、という気もするがな」

 

 〝黄昏〟の貢献度は高い。

 数多くの海賊を討ち取り、秩序の維持に貢献し、海運による物流の安定化をもたらした功績は、政府と言えども無視は出来ない。

 過去に物流が滞って物価が跳ね上がったこと、カイドウとリンリンのどちらかなら単独で抑え込める戦力を持つことを鑑みれば積極的に敵対を選ぶことは無いハズだ。

 あくまでもドレークが知っている中では、と言う前提ではあるが。

 

「とにかく、手早く諜報員を片付けた後、お前たちは早めに島を出ろ。行方をくらませればしばらく時間を稼げるはずだ」

 

 

        ☆

 

 

「いない?」

「ああ」

 

 〝王城〟付近にある店の奥、情報提供をしてくれる協力者のいるそこで、ドレークは訝しげな顔をしていた。

 

「そんなハズはない。昨日の時点で結構な数が入り込んでいるという話だったハズだ」

「昨日はな。だが夜のうちに解決しちまったよ」

「……誰が動いた? 〝戦乙女(ワルキューレ)〟か〝戦士(エインヘリヤル)〟の誰かか?」

 

 〝黄昏〟の勢力は大きい。ましてやこの島は直轄地だ。ドレークが知らない手勢がいても不思議はなく、その手勢がケリを付けていてもおかしくはない。

 カナタはドレークに諜報員の始末を命じたが、それはドレークのみで仕事をしろと言っているわけではないのだ。

 使える手勢が他にいるのならそちらを使っていても変ではない。

 

「〝ジェルマ〟だ」

「なんだと……!?」

 

 驚愕に目を見開くドレークとサンジ。

 

「確かに奴らは協力関係だが……諜報員の始末に利用出来るほどの関係だったのか?」

「詳しいことはおれも知らねェ。だが、少なくとも〝ジェルマ〟側は世界政府より黄昏(ウチ)に付いた方がいいと判断したみたいだぜ」

 

 ドレークはジェルマの事を──ジャッジの事をよく知らない。

 だが、少なくとも〝戦争屋〟と呼ばれていることは知っているし、〝北の海(ノースブルー)〟で有名な〝海の戦士ソラ〟の物語に出て来る悪の軍隊であることも知っている。

 信用出来るか否かはドレークが決める事ではないので口を出すことは無いにしても、このタイミングで、というのは少々気がかりでもあった。

 本格的に手を組む理由としての()()があったのか。

 ドレークは腕組みをして黙り込み、考えを巡らせた。

 

「直近で大きな動きがあったのは〝七武海〟の空席と四皇が動いたことくらいのハズだが……〝北の海(ノースブルー)〟に関連するようなことがあったか……?」

 

 百獣・ビッグマムの海賊同盟の資金源を減らすための一手だろうか。

 先の衝突で何か気付いたことがあったのかもしれない、とあれこれ考えていると、ドレークたちが入って来た入口から同じように誰かが入って来た。

 見知らぬ顔の四人組だ。

 そちらに目を向けていると、視界の端でサンジが目を見開くのがわかった。

 

「ん? ……お前、サンジか?」

「へェ……久しぶりじゃないか。こんなところで会うとはな」

 

 赤、青、緑、ピンクとそれぞれ特徴的な髪色をした3人の男と1人の女。

 サンジは見開いた目を細め、イラつきを隠そうともせずに睨みつけた。

 

「イチジ、ニジ、ヨンジ、レイジュ……」

「呼び捨てにしてんじゃねェよ、()()()()()

 

 サンジの言葉に嘲笑しながら返すニジ。

 彼らの兄弟の縁は既に切れている。だから、互いに互いへの遠慮など欠片もない。

 剣呑な雰囲気を察したのか、ドレークは目を細めて4人を見回す。

 白いワイシャツに髪色と同じネクタイをした変哲もない恰好だが、そこらの海賊とは比較にならない血の臭いがする。

 

「お前ら、何者だ?」

「誰だ、お前は」

「そいつは〝黄昏〟の諜報員だ。敵じゃねェ」

 

 情報を提供する男が喧嘩でもされたらたまらないとイチジの疑問に答える。

 この場所を知っている時点で関係者であると想像はしていたのか、イチジは納得して次の質問を投げかけた。

 

「そうか。だが、その出来損ないと一緒にいるのはどういうワケだ?」

「単に協力してもらってるだけだ。それより、おれの質問に答える気はないのか?」

「我々は〝ジェルマ〟だ。〝黄昏〟とは協力関係にある。敵対する気はない」

 

 ジャッジの意向は理解しているのか、イチジはドレークに対して敵対の意思は見せない。サンジに対しても興味はないようだが、後ろにいるニジとヨンジはそうでもなさそうだった。

 

「久しぶりに会ったんだ。少しくらい遊んでも構わないだろ?」

「ここで遊んでいるほど暇じゃないだろう。だがまァ、あの弱虫が多少マシになったかどうかは……興味が無いと言えば嘘になるが」

「止めておきなさい。次の仕事があるでしょう」

「急ぎじゃねェだろ。少しくらい遊んでも──構わねェよな!」

 

 飛び出したニジは笑いながらサンジに殴りかかり、咄嗟に反応したサンジはくるりと回転してその顔面に踵落としを決める。

 吹き飛ばされるニジに目を丸くしたヨンジは、その一瞬の隙に顔面へと蹴りを食らって同じように吹き飛んだ。

 特に興味も示さなかったイチジさえ、今のサンジの動きに視線を吸い寄せられている。

 だが、肝心の蹴り飛ばしたサンジは苦い顔をしていた。

 

(なんだ、この異様な硬さ……まるで鋼鉄でも蹴ったみてェな感触だ)

 

 人間を蹴った時の感触とはまるで違う。

 確かにサンジ以外の3人は子供の頃から異様な頑丈さを発揮していたが、ここまでではなかったはずだ。成長するにつれて頑丈さも上がっているのかと吹き飛ばしたニジとヨンジを睨みつける。

 

「驚いた。おれの速度に合わせて蹴るとは」

「だが大したことはないな」

 

 ニジとヨンジは吹き飛ばされたにも関わらず、その表情からは痛痒を感じていないことがわかる。

 普通じゃないのはわかっていたが、サンジの蹴りを正面から受けてこれとは、人間とは思えないほどの頑丈さだ。

 蹴っているサンジの足の方が先に音を上げそうな程の硬さなど、尋常ではない。

 

「どうなってんだよ、その硬さ……!」

「サンジ、お前は出来損ないだから発現しなかったが……おれたち兄弟は本来、生まれた時から超人なんだ」

 

 人間に〝外骨格〟を。

 異常な〝回復力〟を。

 強大な〝腕力〟を。

 ──そして、何者にも動かされぬ〝氷の心〟を。

 プロトタイプとして生まれたレイジュは氷の心こそ持たないが、それ以外の要素を兼ね備えた超人であり、サンジ以外の兄弟たちは全てを備えた超人だ。

 彼らには普通の弾丸さえ通じず、戦場において無類の強さを発揮するが故に〝戦争屋〟として名を馳せた。

 

「わかるか? ()()()()()のお前じゃあ──おれ達には勝てやしねェ!」

 

 今度は驚愕すらない。

 サンジを掴もうと飛びかかってきたニジと衝突した瞬間、2人纏めてヨンジが外へと投げ飛ばした。

 味方ごと攻撃したわけではない。壁よりニジの方が頑丈だとわかっているから戦いやすい外へと強制的に移動させたのだ。

 即座に追いかけるヨンジ。

 

「ハハハ! 少しはやるようになったみたいだが、相変わらずだな!」

 

 サンジの顔面を殴りつけるニジ。サンジはニジの腹に強烈な蹴りを叩き込むが、今度は真正面から受けた上で数メートルほど押し戻されるだけだった。

 最初の一撃こそまともに食らったが、ちゃんと戦えば〝スーツ〟無しでも耐えることは簡単だ。

 今度はヨンジが飛びかかってサンジに組み付こうとしたところで、横合いからヨンジの腕をドレークが掴む。

 

「……何の真似だ?」

「それはこちらの台詞だ。この男は協力者だと言っただろう。敵対したいのか?」

「家族の問題だ。部外者が口を挟むな!!」

 

 楽しんでいたところを止められて頭に血が上ったのか、ヨンジは空いた方の手でドレークを掴み上げようとする。

 しかし、ドレークはその腕を掴んだ上でギロリとヨンジを睨みつけた。

 言って止まらないのならば仕方がない、と言わんばかりに。

 

「な──」

 

 ドレークの姿が変わる。

 人形態から獣形態へ。ジェルマの持つ外骨格ほどではなくとも、分厚く頑丈な外皮を持つ生物──恐竜へと。

 その姿に、思わずヨンジが声を上げた。

 動物(ゾオン)系の中でも希少な部類の能力だ。数多くの戦場を見て来たヨンジでも、その能力者を見た事は数える程しかない。

 

「古代種の能力者か!」

「グルルルル──!!」

 

 強靭な顎と硬質な牙を使ってヨンジに噛みつき、その腹を嚙み砕かんとばかりに力を籠める。

 流石にそれは見過ごせなかったのか、横合いからイチジがドレークの顔面に殴りかかった。

 強烈な衝撃に緩んだ瞬間、ニジがヨンジの足を掴んで助け出す。

 辺りは突然始まった戦いに騒然とし始め、やる気のないレイジュを除く3人は鋭い眼光でドレークを見ていた。

 もはやサンジのことなど眼中にもない。

 

「やる気か? 我々と?」

「それはこちらの台詞だ。同盟関係に口を出したいのなら、家族の問題だなどと戯言をほざくな」

 

 こうなっては仕方がないと、イチジは腕輪のようなものを取り出した。

 ニジとヨンジもそれに続き、慌てたようにレイジュが口を挟む。

 

「待ちなさい! 本気でやるつもり!?」

「なし崩しでも始めた戦いだ。我々の強さを見せつけるいい機会だろう」

「バカなことを言わないで! 関係悪化は避けられないわよ!!」

「黙ってろレイジュ。あっちもやる気だ」

 

 一触即発の状況の中、全員を覆う影が落ちる。

 〝ミズガルズ〟の防衛をしている巨人族、ディルスである。

 その足元にはハンコック、サンダーソニア、マリーゴールドの三人もいた。

 イチジたち4兄弟の視線は全てハンコックに注がれている。目がハートになるほどの熱視線だ。

 

「貴様ら、ここで何をしている!」

「九蛇のハンコックとは、話が通じない奴らが出て来たな……ディルスがいるのが救いか」

 

 ハンコックはカナタ至上主義者だし、カイエなどのストッパーがいない場所では凄まじい我儘ぶりを発揮する。喧嘩の仲裁には一番不向きな人間であった。

 反面、ディルスは巨人族の戦士として強さを重視するところはあるが理性的だ。

 ここは〝王城〟に近い。必然的に最大戦力が揃っているところでもあるため、これだけの面々がすぐに揃ったのだろう。

 ドレークは喧嘩を止めたかっただけで喧嘩をしたかったわけではない。

 獣形態から人形態に戻り、戦意はないとアピールする。

 

「おれに交戦の意思はない。奴らが目の前で喧嘩を始めたから止めたまでだ」

「戯言を……ヨンジを本気でかみちぎる気だっただろう!」

「お前らの頑丈さは見ていればわかる。ちょっと抑えつけただけで止まる相手ではないと思ったまでだ」

 

 ニジとドレークの口論でヒートアップしかけたところで、ディルスが足踏みを鳴らす。

 否が応でも反応せざるを得ないその存在感を前に、ドレークもニジも視線をそちらへ向けた。

 

「両者の言い分は後ほど聞く。大人しく詰所まで連行される気はあるか?」

 

 無ければ無いで構わない。叩き潰して無理矢理にでも連れていく、と……言わずとも伝わる威圧感だった。

 あまりおおごとにするのはどちらにとっても得策ではない。

 ドレークは両手を上げて戦意が無いことをアピールし、隣に立つサンジは額から血を流しつつ同じように両手を上げる。

 問題だったのはむしろジェルマの方だった。

 

「我々はやることがある。拘束されている暇はない」

「ではここで叩き潰して連れていく。文句はないな?」

「出来るものならやってみろ」

 

 〝黄昏〟と〝ジェルマ〟の間には同盟関係がある。

 下手に拘束すれば外交問題になる可能性があり、その手のことが苦手なディルスとハンコックは面倒くさそうな顔をして顔を見合い、「ここで潰してから考えるか」と思っていた。

 海賊だ。そういうこともあるだろう。

 と、ハンコックが両腕を上げて石化させてしまおうとしたところで──1人の人影が空から降りて来た。

 城から文字通り跳んで来たのだろう、カイエである。

 

「……また妙な状況ですね」

「カイエか。話が分かりそうな奴が来て助かる」

「ドレーク、独立した以上は外部と同じように裁定しますよ」

「十分だ。相手に肩入れされなければな」

 

 カイエはそこでイチジたちに目を向けた。

 元々〝ジェルマ〟との窓口を担当しているのはカイエだ。彼らが何故この島にいるのか、理由まで含めて知っているが……それはそれとして面倒事を起こした彼らを適切に裁くのも彼女の仕事である。

 

「イチジ、ニジ、ヨンジ、それにレイジュ……レイジュは特に手出しはしていない、と言う理解でいいですか?」

「ええ。馬鹿やったのはそこの3人よ」

「良いでしょう」

 

 次の瞬間には、イチジの頭を掴んで地面に叩きつけていた。

 即座に反応したニジの拳を避け、その足を踏みつけて顔面を強烈に殴打して引っ繰り返し、最後に飛びかかってきたヨンジの脳天に踵落としを決めて制圧する。

 イチジだけは咄嗟に頭部を庇ったので気絶せずに済んだようだが、〝レイドスーツ〟を起動させようとした一瞬の間に追加で数発の打撃を食らって意識を奪う。

 鮮やか過ぎる手際だった。

 手慣れていなければこうも鮮やかにはいかないだろう。ドレークとサンジも思わず目を丸くする。

 他方ではハンコック達三姉妹が黄色い声援を上げてディルスが呆れていた。

 

「このまま話を聞くだけ時間の無駄ですし、彼らはジャッジのところに連れていきます」

「それがいいでしょうね。彼らに言葉で反省を促すなんて時間の無駄でしょうし」

 

 この都市で無用なトラブルなど不要である。

 カイエは3人を纏めて抱え上げると、重さを感じさせない足取りでレイジュと共に〝ジェルマ〟のいる港へ足を向けた。

 

「ドレーク、貴方はディルスたちの方へ。ディルス、不要だとは思いますが、簡単に事情だけ聞いておいてください」

「良いだろう」

 

 厳かに頷くディルス。

 今回トラブルを起こしたのは広義で言えばどちらも身内だ。甘い対応になるだろうが、一般人に怪我人が出た訳でもなし、目くじらを立てる必要もない。

 海賊同士の喧嘩などこの海では日常茶飯事だ。いちいち厳正な対処などしていてはパンクしてしまう。

 こうして、サンジはドレークを伴って再び〝王城〟へと足を踏み入れることになった。

 

 




ドフラミンゴのことが記憶から消えてるのであらゆるところで真相に辿り着けないバグが発生中の模様(なんならカナタもどうしてこのタイミングで自分が動いたのか理由が抜けている)
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