ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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第二百二話:宝払い

 

「そこでおれは言ってやったんだ。『お前は紛らわしいから逆を向け!』ってな! そうしてカレイはヒラメの反対方向を向くようになったのさ」

「へー! じゃあカレイはヒラメなのか!」

「そうだ。カレイはヒラメなんだ」

「ウソップは凄いなー」

 

 ウソップの嘘を聞いてチョッパーがキラキラと目を輝かせている。

 傍で聞いていたウタは微妙な顔だ。

 

「……あれ、放っておいていいの?」

「実害はないし放っておいていいでしょ」

 

 チョッパーは世間知らずなので色々な意味で教育に悪いような気もするのだが、ナミは放っておいていいと言うのでウタもそれに従う。

 もっとも、彼女の意識は現在黄金の方に向けられていてウソップ達のことなど眼中に無いのだが。

 すべて換金すれば8億ベリー。ナミでなくとも目の色を変える金額だ。

 ウソップやチョッパーだって興味がないわけでは無いのだが、実際に換金されるまではどれだけ騒いだところで使えはしない。

 ルフィもつい先ほどまで「銅像を載せる」とか「船の修理」とか騒いでいたが、今は腹の虫を鳴かせて静かになっている。

 

「それより、もうすぐ昼だろ。メシどうすんだよ」

「サンジ君はいないし……私が作ろうか?」

「えェ!? お前作れんのか!?」

「アンタよりはよっぽど上手に作れるわよ。1人10万ベリーね」

「「「フザけんな!!!」」」

 

 小遣いが吹き飛ぶとかそんなレベルではない。

 ルフィもウソップも、話を聞いていただけのゾロまでもがツッコんでいる。

 

「じゃあおれが作る!」

「待て待てルフィ! お前料理なんて出来ねェだろ! ここは大人しくメシ屋に行こうぜ!」

「ゼポが作ってくれるんじゃない?」

「そうだぜ、おれに任せろ」

 

 ロビンの言葉にゼポがサングラスを上げてパチンとウインクをする。サンジに敵わないまでも料理は上手なゼポがいれば食事に困ることはない。

 とはいえ、だ。

 それを知っているウソップがわざわざ「メシ屋に行こう」と言い出したのにはちゃんと訳がある。

 

「でも冷蔵庫空っぽだぜ」

「そうなんだよなァ……」

 

 船の食料は基本的にサンジが管理している。

 次の島までの大まかな日程はナミが決め、それに合わせて船旅中の食料を割り振っている。メリー号はそれほど大きな船ではないので、余分な食料を大量に積むことは出来ないからだ。人数に対して冷蔵庫が小さいせいである。

 今回は空島から〝ミズガルズ〟までそれほど距離が無いことと黄金を山ほど積み込むという事情があったので食料は少なめに積んでおり、この島で換金したあとで食料を買い込むつもりだったので現在船には食料がない。

 何なら換金ありきで考えていたので現金もそれほどない。

 

「じゃあ宝払いで」

「いやムリだろ」

 

 実際に黄金を持っているとは言えど、〝宝払い〟は基本的に詐欺と認識されている。

 要はツケなので一見の客にして貰えるとも思えない。ウソップがツッコむのもやむなしであった。

 

「じゃあどうすんだよ!」

「どうすんだよって……どうする?」

「私に振らないでよ。色々困ってるのは本当なんだから」

「何と言うか、その……ルフィの仲間やるのって大変ね」

 

 他人事なので軽く言えるが、幼馴染としてウタはちょっと頭が痛くなってきていた。

 宝払いは昔から言っていたが、あれは酒場のマキノと顔見知りだったから通っていたのだ。しかも多分、ルフィが知らない間に誰かが払っている。

 ウタはルフィの親と会ったことはないが、多分親とか親戚だろうと思っていた。その割に酒場へ入り浸りだったのは不思議なのだけど。

 それはともかく。

 

「仕方ないわね。今回は私が奢ってあげる。感謝してよね!」

「ホントかー!? ありがとうウタ!」

「躊躇なく奢ってもらうつもりだぞあいつ」

「メシと聞いて我慢出来る奴じゃねェからな」

「待ってルフィ。そもそもウタはお金持ってるの?」

 

 ゾロとウソップがぼそりとツッコむ横でナミが当然の疑問を投げかける。

 この島に来てすぐ出会った相手だが、今のところ一度も宿に戻っていない。財布は持ち歩いているだろうが、流石にこの人数に食事を奢るとなるとそれなりにお金を持っていなければ出来ないだろう。

 手持ちが足りずに食い逃げなど、この島でやったが最後、海の果てまで追いかけられかねない。

 その辺りの疑問に対し、ウタは胸を張ってドヤ顔をした。

 

「安心して。ちゃんと財布あるし──最悪〝宝払い〟で何とかしてもらうから」

「「オメェもそれかよ!?」」

「結局そこに落ち着くのね……」

 

 しかし、ルフィと違ってウタにはきちんと公的な立場がある。〝黄昏〟の賓客と言う立場を証明すれば請求はそちらに行くので不可能ではないだろう。

 欠点としては後でウタが怒られることか。

 あれこれ話してもお金が生えてくるわけでもなし、換金にも少し時間がかかるとなれば、ウタの提案を飲むほかにない。

 

「決まりね!」

 

 パンと手を叩き、ウタはニコニコ笑いながら方針を決めた。

 

 

        ☆

 

 

 メシ屋へ行く、と言っても、全員でぞろぞろと出掛ける訳にもいかない。

 船には黄金が置いてあるので、半分で出て行って食事を買って帰ることになったのだ。

 ウタは上機嫌に先頭を歩いており、後ろ髪もウタの機嫌を示すように上向いている。

 

「どこで買うんだ?」

「い~い匂いがするなァ……こっち行こうぜ!」

「あ、待ってよルフィ!!」

 

 港にはそれなりに飲食店が多い。ルフィの求めるメシ屋も色々あるが、持ち前の嗅覚で真っ直ぐ選んで走りだした。

 何を基準に選んだのかは分からないが、急に立ち止まったルフィは躊躇なく店の暖簾をくぐる。

 鼻腔をくすぐる匂いに釣られて入ったが、しかし店の中にいたのは1人の少女のみ。他に客はいなかった。

 もっとも、少女の目の前のテーブルには山のように置かれた皿があったのだが。

 

「うめ~~!! おっちゃん、これおかわり!!」

「……構わねェが、お前本当に金持ってんのか? 相当な量だぞ。食い逃げする気なら衛兵を呼ぶが」

「食い逃げなんかしねェよ。ここでしたら厄介なのに追われるし」

「分かってんならいいけどよ」

 

 厨房の中で1人のコックが中華鍋を振りながら少女と会話しているのが聞こえ、少女が1人でこれだけの量を食べたということにルフィたちは目を丸くする。

 

「ん、客か。悪いな、適当に座るといい。注文が決まったら呼んでくれ」

「あ、ああ……持って帰りてェんだけど、いいか?」

「持ち帰りか。いいぜ、用意しよう」

 

 大抵は酒場で食べて飲んで帰るが、船に持ち帰って仲間と食べる者もそれなりにいる。珍しいことではない。

 さて何があるんだとウソップとナミがメニュー表を覗き込む横で、ルフィがそちらをチラリとも見ずに言う。

 

「この店の料理全部くれ」

「遠慮って言葉を知らんのかお前は!!」

 

 スパーンとウソップがルフィの頭を叩く。ウタとナミも呆れた表情だ。

 

「でもあとでウタに返すんだろ?」

「返すつもりはあったのね……」

「失礼だなお前! ちゃんと返すぞ!」

 

 ウタは奢りのつもりだったが、ルフィは換金が済んだら返すつもりだったらしい。

 逆にナミは完全に奢ってもらうつもりだったようだが。

 どのみち限度額はウタの財布に入っている額までだ。ツケは利かないだろう。

 メニューをみながらあれこれ話していると、山のように皿を積んでいた少女がジッとルフィの方を見ていることに気付いた。

 相変わらず食事をする手は止まっていないが。

 

「ねえ、あの子凄い見てるけど……知り合い?」

「知らねェ」

 

 ウタはちらりと少女の方を見て、バッチリ視線がかち合う。

 それでも少女はルフィたちをずっと見ている。ともすればガンを飛ばしていると言われても仕方がないほどに。

 目の前の皿が空になったことに気付き、少女はまた新しく注文をしようとして──子電伝虫に連絡が入った。

 小声でいくつか言葉を交わすと、チラリとルフィの方を見たあとで立ち上がる。

 

「オヤジ、会計頼む。これで足りるか?」

「まいどあり」

 

 口元を汚しまくった少女は一度袖で拭い、懐から札束を出してテーブルに置く。

 奥から出て来たコックの男は必要な分だけ受け取り、残りを少女に手渡す。

 

「じゃあな、〝麦わら〟」

 

 それだけ残して、少女──ボニーは店から出て行った。

 4人は目をぱちぱちと瞬かせ、互いに顔を見合わせる。

 

「ルフィの事、知ってたみたいね」

「まァなんだかんだと1億の首だしな。やっぱ知られてるんだろ」

「照れる」

「照れるな照れるな。狙われてんのよ? 自覚あるの?」

 

 懸賞金の額が上がるのは名誉なことだと思っている節があるためか、ルフィは笑顔だ。

 程なくして包んで貰った昼食が出て来たので、ルフィたちは機嫌よく船へと戻り始めた。

 

 

        ☆

 

 

 一方、サンジ。

 王城にてある程度事情を聞かれたものの、〝黄昏〟の情報屋が運営する店での出来事と言うこともあり、釈放されるまでにそれほど時間はかからなかった。

 時刻は昼過ぎ。遅い朝食を取ったので空腹感はないが、ドレークと共に王城内部にあるカフェで一息つくことにした。

 あれこれ起こっていて情報が錯そうしているからだ。

 

「……で、結局何がどうなってんだよ」

「ロビンを狙ってサイファーポールが動いているのは間違いない。政府の役人がいたからな。だが……ジェルマが動いていたとなると……」

 

 本格的に〝黄昏〟と歩調を合わせに来たと見るべきなのだろう。ジェルマとて世界政府加盟国の一国だが、除名も織り込んでいるハズだ。

 〝黄昏〟の経済圏に入れば海軍による治安維持がなくともある程度海賊被害を減らせる。加盟国が非加盟国にやっているように、()()()()()()()()()()()()()()()からだ。だから除名も大きなリスクではない。

 カナタのやっていることは、世界政府加盟国という集まりを内側から壊す毒だ。バレれば七武海から除名されるだろう。

 だが、このタイミングで動いている理由まではドレークには読めなかった。

 

「……詳細はわからない。だが少なくとも、お前たちにとって悪いことではないだろう」

「そりゃまァ……ロビンちゃんに危険が及ばないってんなら、良いことだと思うけどよ」

「さっきボニーも呼んでおいた。もう一度政府の役人を洗って、本当にいないことを確認出来たなら早々に島を出たほうが良い」

 

 政府の役人とそれに協力する者たちがいないのなら、早々に島を出て行方をくらませた方がいい。今後どこに行くにせよ、タイミングを逃せばずっと付きまとわれることになる。

 ニコ・ロビンと言う女は爆薬なのだ。どこの勢力の手に渡っても戦争の引き金になりかねない。

 

「もう少し色々見てェところはあったんだがな……」

「海賊だろ。追われて島を出る事なんて珍しくもない……それに、お前はジェルマとあまり会わない方が良さそうだ」

「…………」

 

 ヨンジははっきりと「家族」と言った。サンジの事を察するには余りある情報だ。

 深いことはわからないが、不仲なことなど見ていればすぐにわかる。兄弟関係、親子関係も上手くいっていないのだろう。

 父親とはそれなりに関係良好なドレークには分からないことだ。

 サンジは父親の事を思い出したくも無いのか、別の話題を口にする。

 

「……ここで〝指針(ログ)〟を貯めたらどこに行くんだ?」

「次の島は水の都〝ウォーターセブン〟だ。多くの船大工がいる島だな」

「船大工がいる島か……船の修理もしたいし、丁度いいかもしれねェな」

「もっとも、今の時期は避けたほうが無難だ」

「? 島に入るのに時期があんのか?」

「島によって気候は違うが、周期的に()()()()()ってのは大抵どの島にもあるもんだ」

 

 ウォーターセブンで言えば〝アクア・ラグナ〟と呼ばれる高波がそれにあたる。

 年に一度島を襲う嵐で、この時期はいつも島を挙げての避難になる。外海はシケで大荒れだし、島の内部に船を運ばない限り高波で船がやられてしまう。

 なので、事情を知る者ならこの時期は避けるのが当然の判断だ。

 

「年に一度、島を襲う嵐ね……」

「〝偉大なる航路(グランドライン)〟の天候は予測出来ないものが多いが、この手の周期的なものは大体わかる。多少ズレることはあるが、今年はまだ嵐が来たと聞いてないからな。万全を期すならずらした方が良い」

「となると、別の島で暇を潰す必要があるのか。面白いところはあるか?」

「美食の町〝プッチ〟にカーニバルの町〝サン・ファルド〟……それに賭博の町〝バナロ島〟だな」

 

 〝ミズガルズ〟から行ける島の永久指針は大抵どこでも売っているが、ドレークのおすすめはこの3つだと言う。

 サンジはタバコの煙をくゆらせながら頭の中にメモをする。

 

「よく知ってんな……いや、ありがてェけどよ」

「各地の島をうろうろするのがおれの仕事だからな。ある程度色んな島の特色は覚えてる」

 

 〝黄昏〟の諜報員として方々に行くため、この手の知識は勝手に備わったのだと言う。

 そうこう話しているうちにボニーが現れ、ドレークは席を立った。

 サンジもそれに続き、3人で別の情報屋のところへと足を運ぶ。

 

「さっき〝麦わら〟に会った。強い弱いはあたしじゃ分かんねェけど、1億の首だ。強いんだろ」

「ああ。あいつは〝海賊王〟になる男だからな」

「〝海賊王〟か……」

「〝楽園(こっち)〟じゃ口にするだけで笑われる夢だな」

「お前もそう思うのか?」

「おれは興味がねェ。だが、()()()()()()()()()()()()()()()だけが成れるものだと思ってる」

 

 この海には強者が多い。

 多くの中将、3人の大将、1人の元帥。

 世界政府に手を貸す七武海。

 海の皇帝と呼ばれる4人の海賊。

 必ずしも全員を倒す必要は無いとはいえ、彼らを打ち倒して世界一周を成し遂げる覚悟も無いような者に達成出来る目標でもない。

 それを知ってもなお()()()()()にのみ、口にすることが許された夢だ。

 

「……四皇の誰もが〝海賊王〟を目指してるワケじゃない。チャンスはあるだろう」

 

 もっとも、目指していても成れていないのにはきちんとした理由がある。

 ロビンを仲間として共に旅をし、いずれ彼女が歴史の真実を知る時が来れば……あるいは、ルフィが〝海賊王〟になることもあるかもしれないが。

 ドレークは詳しいことを知っているわけではないし、これ以上の情報を提供する義理もないと口を噤んだ。

 

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