ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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第二百四話:忘れるな

 

 ──海底監獄インペルダウン。

 世界に数多く存在する犯罪者の中でも、特に()()()()()()とされる犯罪者たちを集めた監獄だ。

 〝凪の帯(カームベルト)〟に存在するために逃げ出すことは容易ではなく、そもそもが絶海の建物であるため、公的には脱走など過去1人を除いて出したことはない。

 無論、侵入者など言わずもがなである。

 もっとも、侵入者や脱獄者はいないが投獄される者はそれなりにいる。大海賊時代に入って以降、激増した海賊の数に比例してインペルダウンに投獄される海賊の数も増えていた。

 今日もまた、インペルダウンに海賊が投獄される。

 

 

        ☆

 

 

 インペルダウン、署長室。

 監獄署長であるマゼランへの報告書を片手に、副所長であるハンニャバルは扉をノックした。

 

「マゼラン所長、報告書を持ってきました」

 

 待てど暮らせど返答は来ない。

 さてはまたトイレに引きこもっているな、と推測し、ハンニャバルは勝手に扉を開けて中へ入る。

 署長であるマゼランは毒の能力者であるため、毒料理が好きなのだが……毒が完全に効かない体質になったわけでは無いらしく、一日10時間ほどトイレに籠っていた。

 それでいて睡眠は8時間しっかりとるので、実質的な勤務時間は4時間に満たない。それでも監獄署長と言う座にいるのは彼が相応に優秀であるが故だろう。

 ともあれ、いつも通りトイレに入っていることを確認すると、ハンニャバルは書類を机に置いておく旨を伝えて部屋を出ようとする。

 だが、ふとマゼランの椅子が視界に入った。

 

「…………」

 

 監獄署長のみ座ることを許された椅子である。

 その座を狙っているハンニャバルとしては、文字通り喉から手が出る程座りたい。

 キョロキョロと周りを見渡し、この部屋に誰もいないことを念入りに確認すると、ハンニャバルは自身が座るには少々大きすぎる椅子に座る。

 

「これが……署長の景色」

 

 満足げに頷くハンニャバルの背中から、ぬるりと1人の男が現れた。

 

「楽しそうだな」

「うおおおっ!!?」

 

 ガターン! と派手にひっくり返るハンニャバル。

 先程まで背中側にいた男は巻き込まれる前に横を抜けてソファに腰かける。

 頭を打ってタンコブが出来たハンニャバルは、打った場所をさすりながらその男の方を見た。

 

「シ、シ、シ、署長になりたい!! 間違えた! シリュウ看守長! どうしてここに!?」

「見て分からねェのか。サボってんだよ」

「そんな堂々と……」

 

 しかし、監獄署長がアレなのだから、真面目に働くのも馬鹿らしい気分になるのは理解出来なくもない。

 ハンニャバルは倒れた椅子を戻し、そそくさと部屋を出て行こうとする。

 が、シリュウは葉巻に火を点けながら呼び止めた。

 

「待て、ハンニャバル」

「はい! なんでしょうか!」

「マゼランへの報告書を持ってきたんだろ? おれにも見せろ」

「はあ、構いませんが」

 

 どうせ後でシリュウにも共有される書類である。新しく入って来た犯罪者の情報など、隠すようなモノでもない。

 机に置いた資料を渡し、再び出て行こうとすると「まァ茶でも飲んで行けよ」と押し留められる。

 正直、恥ずかしい場面を見られたのでさっさと出ていきたいところではあるのだが、上司にそう言われてはハンニャバルも無下には扱えない。

 シリュウが淹れたお茶(マゼランの私物。毒ではない)を飲みつつ、そわそわしながら待つハンニャバル。

 

「……今回の連中は大したことなさそうだな」

「まァそうそう億超えの賞金首なんて出てこないでしょう」

「海楼石はちゃんと着けたんだろうな?」

「〝地獄のぬるま湯〟*1で大騒ぎする元気がある連中なので、能力者ではないと判断して海楼石は着けてません」

「そうか」

 

 ペラペラと資料をめくっていくシリュウ。

 大抵は1000万から高くても5000万程度。ランクで言えば精々レベル3の〝飢餓地獄〟止まりの連中だ。

 シリュウが興味を引くような海賊はいない──と思っていたのだが、1人の海賊のところで止まった。

 金額も経歴も大きく目を惹くようなものはない。だが、その男は一時期〝世界最悪の犯罪者〟ドラゴンと行動を共にしていたらしい。

 今や世界政府も無視できない程度には大きな組織になった〝革命軍〟のトップと、何らかの繋がりがある海賊。

 目立つ経歴は無いが、シリュウはジッとその海賊を見る。

 〝道化〟のバギー。懸賞金は1500万ベリー。

 

「……この経歴は本当なのか?」

「海軍が確認したらしいですし、本人もそう言ってるらしいですよ」

「そうか……」

 

 本人は偶然乗せていくことになっただけで繋がりはないと言っているらしいが、インペルダウン内部で拷問にかけられて情報を絞り出されることになるだろう。

 ドラゴンに関する情報は少ない。政府も海軍も彼に関する情報は喉から手が出るほど欲しいのだ。

 シリュウが黙ったままその経歴を見ていると、部屋の奥のトイレから男が出て来た。

 監獄署長マゼランである。

 

「あ~~……今回も長い戦いだった」

「毒食べるからでしょ」

「おれは毒が好物なんだ。毒人間だからな。それにこう言うだろう──『毒を以て毒を制す』」

「制してないからゲリになるんでしょ」

「なんて心無い言葉を……おれは部下に恵まれないな。はァ」

「ちょっ! ため息やめてくださいよ! あんたの吐息本物の毒ガスなんですから!」

「ザマァ見ろ……ん? なんだ、シリュウもいたのか」

 

 いつも通りのやり取りをしていると、マゼランはソファに座ったまま黙っているシリュウが目に入った。

 

「今日もサボりか? 感心せんな」

「トイレに籠りっぱなしのお前に言われたくねェな」

「そうだそうだ!」

「何故お前が偉そうなんだ……!」

「ギャアア! シ、シ、署長になりたい! 間違えた! シリュウ看守長助けて~~!!」

 

 首を掴まれて持ち上げられたハンニャバルが悲鳴を上げるのを見て呆れつつ、シリュウはソファから立ち上がった。いつものことなのでハンニャバルは放っておいてもいいと判断したのだ。

 後ろから聞こえる悲鳴を聞き流し、いつまでもサボり続けているわけにはいかないと背筋を伸ばす。犯罪者を閉じ込め、外に出さないように管理し、罪に対する罰を与えるのが仕事である。

 やり過ぎはマゼランに止められているものの、多少の拷問は認められているため、それを目的にここへ出向して来る者もいる程だ。

 シリュウはどちらかと言えば犯罪者を斬ることを期待してインペルダウンへと配属を希望したが、今のところ満足に人を斬れていないので不満は大いにある。

 

「おれの我慢が利かなくなるか、あるいは()()()()()()のが早いか……どっちが先になるかね」

 

 葉巻を口にしたまま、シリュウはマゼランの部屋から出て行った。

 

 

        ☆

 

 

「このバカ息子どもが!!!」

 

 ゴツーン!! とゲンコツが落とされる。

 派手な音と共に殴りつけられた2人──エースとドーマは殴られた部分をさすりながら正反対の反応を見せた。

 

「何すんだよオヤジ!!」

「すまねェ、オヤジ……」

 

 エースは怒られたことに納得いかないと反骨精神を見せており、逆にドーマは悪いことをした自覚があるためか萎縮気味だった。

 殴ったニューゲートは溜息を吐き、2人の様子に困った様子を見せる。

 ドーマはともかく、エースは何も悪いことをしていないと思っているためか反省が見えない。

 

「エース……お前、あの女のところに行ったって? 何のマネだ?」

「何のマネって、そりゃ食いもんとか酒とか薬とかを売ってくれるように頼みに行ったんだよ!」

「あいつがそんな頼みを聞くと思ってんのか?」

 

 カナタがニューゲートの事を潜在的敵対勢力として扱っているように、ニューゲートもまたカナタの事を敵として見ている。カイドウたちと違って表立って敵対していないだけで、火種一つあれば容易に戦争が起こる間柄なのだ。

 エースがやっていることは、不用意に近付いて戦争の火種を作りかねない行為だ。

 ロクに補給すら出来ない現状で、〝黄昏〟と戦争など自滅行為に他ならない。強く諫めねば、とニューゲートはまなじりを決する。

 

「いいか、エース。テメェがおれ達の事を思って行動したことは理解してやらァ。だが、テメェは今や二番隊の隊長だ。下手に敵に近付きゃァ、外だけじゃなく内にも余計な波風を立てることになる」

「……カナタさんには色々世話になったんだ。敵じゃねェ」

 

 ニューゲートの小言に、エースは反感を覚えて口答えをする。

 その言葉に、ニューゲートは眉をひそめた。

 

「あァ? オメェあいつと知り合いだったのか?」

「言ってなかったか? おれはオヤジに会う前にカナタさんに会ってんだ」

 

 兄弟分のサボは革命軍だったし、あまり他言するようなことじゃないとデュース*2に諫められていたので、エースは特に話すこともなかった。

 なのでニューゲートも初耳である。

 まぁエースとて海賊。〝白ひげ海賊団〟に所属する前に知り合った者くらい居ても不思議は無い。

 無いが、相手が〝黄昏の魔女〟となると少々事情は変わってくる。

 

「それに、おれだって何の勝算も無しに直談判に行ったわけじゃねェ!」

「……だったら、何か成果はあったのか?」

「これだ!」

 

 エースは大事そうに懐から手紙を取り出すと、ニューゲートに手渡した。

 訝し気に手紙を観察し、丁寧に蝋で封をされた手紙に〝黄昏〟のマークがあることを確認してから開封する。

 中に入っていたのは短い手紙だった。

 ニューゲートが中身を改めている間、ドーマにマルコが話しかけていた。

 

「相手は七武海で、下手すりゃ四皇にも匹敵するような相手だよい。よく会えたな?」

「聞いてくれよマルコ! おれもどうせ門前払いだろうと思ってたんだが、エースの名前を出したらすぐに会うって言われたんだ」

「そりゃまた……何か弱みでも握ってんのかよい」

「弱みなんか握ってねェよ! ただ……おれの親父がな……」

「「?」」

 

 歯切れの悪いエースの言葉にマルコとドーマが首を傾げる。

 エースの血筋の事を知っているのは、〝白ひげ海賊団〟の中ではニューゲートのみ。当のニューゲートはエースの言葉を聞いて得心していた。

 ロジャーとカナタの間柄はそれなりに有名だった。

 男女の間柄だっただの、裏で操っていただの、根も葉もない噂からありえそうなものまで様々な噂が流れていた。

 男女の関係にあったかどうかはともかく、ロジャーの行動を裏で支えていたのは間違いない。当の本人が言っていたのだから。

 

「なるほどなァ……それでこの手紙か」

「おれも見てねェんだけど、何が書いてあったんだ?」

「〝白ひげ海賊団〟の船長を降りろ、だとよ」

 

 船の中が一斉にざわついた。

 本気でそんなことを要求しているのなら、それは〝白ひげ海賊団〟の面々を挑発しているとしか思えない。

 

「ほ、本当か!?」

「持ってきたのはお前だ、お前も読んどけ」

 

 ニューゲートはエースに手渡し、エースは慌てたようにそれを読みだす。

 気になったのか、他の隊長陣も後ろから覗き込むように手紙を読み始めた。

 

 ──要求するのはたった1つ。〝白ひげ〟エドワード・ニューゲートが船長の座を降りて他の者を船長に据える事。

 ──〝白ひげ〟エドワード・ニューゲートのその後の処遇に対する要求はない。

 

 ただこれだけである。

 憤りを見せる者もいたが、マルコなどはむしろ真逆の感想を抱いていた。

 

「これは……どちらかと言えば、おれ達の事を考えてのことかよい」

「あの女はおれの事は嫌いだが、エースの事は随分気にしているらしいな。〝金獅子〟の件もある。後始末に走るのは面倒なんだろ」

 

 つまるところ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と言っているのだ。

 〝白ひげ海賊団〟は全盛期からすれば縮小したとはいえ、現在でも〝四皇〟の一角を占める一大勢力である。戦うのも愚策なら潰すのも下策になり得ると判断したのだろう。

 何しろカナタは20年前の〝金獅子海賊団〟崩壊の折に起こった混乱を知っている。

 どさくさに紛れてナワバリを広げたり勢力を広げたりといったこともしたが、それはそれとして秩序を良しとする者にとっては無視出来ない被害があったのも事実だ。

 

「マルコ、オメェはやる気あるか?」

「やめてくれよい……おれには荷が重いし、おれ達はそもそもオヤジが船長だからこそ集まってるんだよい」

「まァそうだろうな。おれだって降りる気はねェよ」

 

 赤の他人、それも敵勢力のトップに言われてはいそうですかと簡単に船長の座を降りるわけにはいかない。

 海賊にだって面子はある。簡単に言うことを聞いては侮られるというものだ。

 たとえそれが、こちらから頼んだことであっても。

 

「カナタさん、これだけは譲れねェって言うから何かと思えば……」

「あいつはおれの事が嫌いなだけだからな。おれさえいなくなりゃァ別に放置しても良いと思ってんだろう」

「……オヤジ、カナタさんになんかしたのか?」

「何もしてねェ──とは言えねェか。ちょっと戦ったな。それとあいつの母親と昔、同じ船にいたってだけだ……父親も大体予想出来てるがな」

 

 あまり思い出したくもないのか、ニューゲートは嫌そうな顔をして酒を呷る。

 横にいた船医たちは顔をしかめるが、何度言っても聞いてくれないのだ。

 酒で喉を潤すと、ニューゲートは昔を思い出すように空を見上げる。

 

「人間みんな海の子だ。差別をする気はねェが……あの女はとにかく得体が知れねェ。初めて会った時からな」

 

 最初に会ったのは、そう──ワノ国だったか。

 上陸したワノ国で船が壊れたから、そこに住んでいた侍たちに修理のための材料を貰って。

 世話になっているうちに侍たちと仲良くなり、滞在している間にカナタたちもまたワノ国を訪れていた。

 将軍殺しをしたらしいと聞き、世話になった礼にとニューゲートはカナタたちの前に立ち塞がった。

 当時から並々ならぬ覇気を宿し、戦えば戦うほどにこちらの手の内を暴かれていく気味の悪さは忘れようにも忘れられない。

 

「……でも、おれはあの人に世話になったんだ。サボのこともあるしよ……」

「誰だそりゃ」

「おれの兄弟分だ! ……海賊じゃなくて革命軍にいるけどよ」

「革命軍のサボって……!」

 

 マルコが唖然とした顔をする。

 革命軍のサボと聞いて知らない者は少ない。なにしろ革命軍の参謀総長──即ちNo.2である。

 この間懸賞金が掛けられたと散々騒いでいた弟はガープの孫らしいし、とんでもない兄弟だな、と額に手を置くマルコ。

 

「とにかく! おれァこの船の船長の座を降りる気はねェよ! どうしても降ろしたけりゃおれを倒せるくらい強くなりやがれ!」

「おれはオヤジやみんながメシ食うのに困らねェようにと思ってやってきたんだよ! ちょっと待っててくれ、もう一回行って直談判してくるからよ!!」

「おいマルコ! こいつの手足を繋いでおけ!! あの女に借り作るなんざ死んでも御免だ!! しばらく頭冷やしやがれ!!!」

「手足繋ぐのはともかく、頭冷やさせるのは賛成だよい」

 

 カナタに言われて船長の座を降りるなど、〝白ひげ〟の名が廃る。

 エースは仲間や傘下の海賊たちの事を思ってカナタに譲歩を引き出してきたのだろうが、それでも妥協できることと出来ないことがある。

 マルコとジョズにずるずると引きずられて船内に消えていくエースを見送り、ニューゲートはフンとため息を吐いた。

 

「困った息子だぜ」

 

 ニューゲートはやや困ったように、しかし優し気な声色でぽつりと呟いた。

 事態を見守っていた他の隊長たちも、ニューゲートの零した言葉に笑っている。

 

「それで、オヤジ。昨日の連中がまた来てるみてェなんですが……」

「ああ、通せ」

 

 四番隊隊長のサッチは、ニューゲートの言葉に頷いてその場を離れる。

 数分で戻ったサッチの後ろには、3人の男たちがいた。

 名をトレーボル、ディアマンテ、ピーカと言う。

 3人とも、懸賞金は億を超えない程度ではあるが……新世界でやっていけるだけの実力はあったし、本人たちもそう自負していた。

 それでも、〝白ひげ〟を前にして冷や汗が止まらず、手先の震えは止まらない。

 〝本物〟はこれほどまでに違うのかと、息を吞む。

 

「こうやって会うのは初めてだな、〝白ひげ〟! 会えて光栄だ! べへへへへ!!」

「御託はいい。テメェらにゃ世話になった。傘下に入るってんなら構わねェが」

 

 酒、食料、薬。

 この海において〝白ひげ海賊団〟とその傘下はこれらを入手するのが極めて難しく、ナワバリにしている島から時折上納金だと()()()()()()()()ことはあれど、金でこれらを買う機会はほとんどない。

 流通のほとんどを牛耳っている〝黄昏〟が意図的に制限をかけているためだ。

 そんな中でも3万前後の人間を養うことが出来たのは、彼ら〝ドンキホーテファミリー〟が物資を横流ししていたからだ。

 金額は他所に流れている物よりだいぶ高いが、無理をしているのはわかっていたのでニューゲートたちも文句は言わない。間接的に〝黄昏〟と敵対する行為ゆえに、暴かれれば粛清の対象となるからだ。

 そして現在、彼ら〝ドンキホーテファミリー〟は凋落して追われる立場にあった。

 

「匿ってくれたことはありがたく思う。だが、おれ達はまだ諦めてねェ。もう一度成り上がるために今は色々と計画を立ててる! だから、傘下には入らねェが、少しの間身を隠させてほしい!」

「ほォ……傘下にも入らず、おれのナワバリに居ようってのか?」

 

 覇王色の覇気、ではない。

 威圧していると自覚すらしていないだろう。ニューゲートはごく自然にしているつもりでも、トレーボルは顔面蒼白だった。

 如何に老いたとは言え、目の前に立つこの男はかの〝海賊王〟と対等に渡り合った怪物である。カイドウと比べれば穏健な男とは言え、相手は〝四皇〟。機嫌を損ねれば次の瞬間には首が飛んでいても不思議ではないのだ。

 ほんの数秒の時間が何分にも何時間にも感じられる。

 周りにいる隊長たちのこともあってか、トレーボルの心が折れるのは時間の問題だと思われたが……ニューゲートは「そうか」と頷いた。

 

「ナワバリに傘下でもねェ海賊がいるのをあまり認めたくはねェが……世話になった礼もある。おかしな真似しでかさねェってんなら、滞在するのを咎める気はねェよ」

「そ、そうか! ありがてェ!」

 

 ニューゲートの言葉にホッと息を吐き、トレーボルは土下座せんばかりの勢いで頭を下げた。ただでさえ猫背なので船の床に頭が付こうとしているほどだ。

 ディアマンテとピーカも声こそ出さないが見るからに安堵しており、肩を撫で下ろしていた。

 

「じゃ、じゃあおれ達はこれで失礼する!」

「あァ。気ィ付けていけ」

 

 そそくさと自分たちの船へ戻っていくトレーボルたちを見送ると、座って聞いていたビスタが心配そうに声をかけた。

 

「オヤジ、大丈夫なのか?」

「……連中の悪い噂はよく聞くからな。だが、実際に会ってみると……随分拍子抜けだ。あんな連中にカイドウやリンリンを手玉に取れる胆力は無さそうだが」

 

 ニューゲートは顎をさすりながら先程の3人を思い返す。

 実力、胆力、気力……そういったものがあらゆる意味で足りていない。カイドウやリンリンを相手にするには最低限必要な要素すら足りていないように見える。

 となれば、恐らく後ろに誰かいるのだろう。

 

「連中の後ろにいる奴がどう考えているか次第か。だが、世話になったのも本当だ。仁義を通すのがおれの流儀だ。文句はあるか、ビスタ」

「いいや。オヤジがそう言うなら従おう」

 

 もし何かしでかすのなら、その時は〝白ひげ〟の名を存分に思い知ってもらうだけだ。

 老いと病で弱くなったとしても、あの程度の奴らに遅れを取るほど耄碌した覚えはないのだから。

 

*1
消毒用の100度に沸騰させた熱湯

*2
スペード海賊団におけるエースの右腕だった男

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