「た、助けてクエーサー!!」
首根っこを掴まれ持ち上げられたDr.ベガパンクの助けを呼ぶ声に、傍にいた護衛の戦桃丸は呆れた顔をする。
「いやァ……今回はおっさんが悪ィだろ」
「そんな……お前だけは私の味方だと思っていたのに!?」
「わいはおっさんの護衛だが、今回の話を聞く限りじゃ悪いのはパンクのおっさんだろ」
持ち上げているのは〝ドレスローザ〟から〝エッグヘッド〟へと移動した〝黄昏〟の幹部、ラグネルだ。
ラグネルの身長は5mを超える大柄ゆえに、ベガパンクは戦桃丸も見上げる程の高さに持ち上げられている。
「申し開きはあるか?」
「いや、本当にすまないんじゃが……私にはとんと覚えがない」
「やはり締め上げねば駄目なようだな……!」
「助けてクエーサー!!」
「もういいよそのやり取り!!」
事の発端はアルファ・マラプトノカと言う女の起こした事件である。
〝黄昏〟の商売の隙間を縫って武器や兵器、奴隷などを売り捌く死の商人……これはまぁカナタとしても面倒ではあるが目くじらを立てる程のものでは無い。
だが〝黄昏〟に弓引いたとなれば話は違う。
〝スカイピア〟と名付けられた空島を襲撃した下手人であるマラプトノカだが、この女が一般的に見て非常に特異な存在であったため、関連する可能性が高いと判断したベガパンクに話を聞くために〝エッグヘッド〟へと来ていた。
そして、その予想は大当たりだった。
「マラプトノカは確かに私の娘じゃ。と言っても別に血は繋がっていないが……」
「どこぞで拾ってきたのか?」
「
「そこはいい。問題は奴が我々に敵対していることだ」
「あの子は私の研究のために資金を集めているハズ。そんな真似をするとは思えん」
マラプトノカとてベガパンクの資金の出処の一つが〝黄昏〟だとわかっている。それでも敵対したのなら相応の理由があるのだろう。
あるいは自身とベガパンクの関係性を見破られることはないと高を括っていたのか。
何にしても、事が起きた以上は相応の責任を求めねばならない。
「アルファ・マラプトノカの情報を知る限り教えろ。虚偽の報告があれば都度予算の減額をすると閣下より命令を受けている」
「そ、それは困る! 政府の予算だけでは到底足りんのじゃ!」
「ならば誠実に答えろ」
「うむむ……」
がっくりと肩を落とし、ひとまず腰を落ち着けてから話すことになった。
体格差が大きいので同じテーブルを囲むのはやや厳しかったが、ラグネルは気にすることなく床に座ってベガパンクの証言を聞く体勢に入った。
「どこから話すべきか……名前か?」
「名前はわかっている。家名があるようだが、どこの出だ?」
「? あれは家名ではない。アルファ、と言うのは識別名のようなものじゃ。マラプトノカと言う名前は後で付けた」
「……年齢は?」
「
「…………先程から妙な返答だな」
ベガパンクがどこぞで拾ってきた子供に妙な悪魔の実を食べさせたのだと思っていたが、どうにも扱いがおかしい。
まるで人間ではないかのような答え方ばかりだ。
被検体にアルファと識別名を付けるまでは理解出来るが、年齢が分からないのはラグネルとしても眉をひそめざるを得ない。
「それはそうじゃろう。あの子はそも人間ではない」
「どういうことだ?」
「詳しいことは省くが、あの子はこの研究所で作られた特殊な生物じゃ」
一般に〝幻獣種〟と呼ばれる能力者たちの血統因子を集め、一個体にその全ての血統因子を凝縮した存在だ。
元はと言えば、現実に存在しない生物に変身できる幻獣種の能力者から抽出した血統因子を使うことで幻獣を生み出すことを念頭に置いた実験であった。
全部ぶち込んだのはベガパンクの悪ノリである。
一匹ずつなら時間をかければ成功するが、複数の血統因子を掛け合わせるとどうなるのか、好奇心が抑えきれなかったのだ。
「結果として生まれたのが被検体α──アルファ・マラプトノカじゃ」
「……なるほど」
正直言っていることはラグネルにはさっぱり分からないが、倫理的にアウトであろうことだけはわかる。
それを目の前の男に求めるだけ無駄だということも、この数時間の付き合いだけでも理解していたが。
「では、
「あー、それはじゃな……」
ベガパンクは実に言いにくそうに視線を泳がせる。
何とか言い訳をして誤魔化そうと考えてチラッとラグネルを見たが、今にもベガパンクを殺しそうな眼光を受けて諦めた。
一気に説明してもわかるまいと、少し話は変わると前置きをして。
「私が作った〝
「お前と記憶を同期している
「ふむ。大まかには正しい」
三大欲求の共有・連動など、細々とした機能はあるが、今はそこは重要ではない。
ベガパンクが
「やりたいことに対して資金、時間、思考……様々なモノが足りない中、私は考えたのだ。
「結果として生まれたのが〝
「うむ。それはそれとして、私は
「今の話と何の関係が……いや待て、まさか──」
「そう、私は
ベガパンクは稀代の天才である。
同じ頭脳を持つ者がいれば同じ作業でも手分けすることが出来、同じ思考速度で会話することが出来るなら会話の節々から様々なアイデアを生み出すことさえ可能だ。
そういう意味で、自分と同じ頭脳でありながら少しだけ違う思考回路を持つ存在とは極めて貴重で得難い存在と言える。
ベガパンク程の天才と同じレベルに並ぶ天才など、世に2人もいないからだ。
「結局、その人工悪魔の実を食べさせる人選の時点で難航し、計画はとん挫したワケだが……悪魔の実そのものは残っていて、倉庫に転がっていた」
「管理はどうなっているんだ……」
「まァ油断したという他にあるまい。ともあれ、あの子はその悪魔の実を食べて
いうなればヒトヒトの実モデル〝ベガパンク〟か。
マラプトノカはそれを口にしたことで人の能力──それどころか稀代の天才の頭脳を得るに至り、今では自分勝手に色々やっていると言うワケだ。
「……私は血統因子とやらには詳しくないが、お前をベースにした悪魔の実を食べたなら、姿はお前に似通うんじゃないのか?」
「そこは私も疑問に思ったんじゃ。なので詳しく検査をしたが、結果は分からず仕舞いだった」
本気で悔しそうな顔をしている辺り、科学者として謎を解き明かせなかったのが不満なのだろう。
マラプトノカ自体、様々な血統因子を混ぜ込んで生み出した怪生物だ。何かしら人知の及ばぬ不思議なことがあってもおかしくはないが。
最終的にベガパンクはその姿については「自分の理想とする姿」であると定義したらしい。
「肉体のベースは九尾の狐だった。あれの能力は自身の姿を好きなものに変えるものでな。恐らくは無意識のうちにそれが作用しているのだろう……と考えている」
「……いくつの血統因子を混ぜ込んだんだ?」
「
ベースになった〝九尾の狐〟。
カイドウの能力である〝青龍〟。
カイドウの子供、ヤマトの能力である〝大口真神〟。
マルコの能力である〝不死鳥〟。
いずれも単体で存在するだけで強力な能力だが、血統因子が混ざった結果それぞれの能力そのものは弱まっている。
ベガパンクの言葉を聞くうちにラグネルは非常に嫌そうな顔をしていく。
「今聞き逃せない情報があったぞ……カイドウに子供がいるのか?」
「知らんかったのか? まァ私も知ったのは最近だが……」
〝幻獣種〟の生物を自在に操れるようになるとするなら、それは政府の戦力が向上することに繋がる。
なのでサイファーポールも非常に協力的だった。中でもCP0が持ってきた血液に興味を抱いたベガパンクは、誰のものでどんな能力者かを訊ねた。
「表に出ていないカイドウの
「……ヤマト、か」
「カイドウに反抗的ゆえに、普段は手錠と首輪を付けてワノ国の本拠地に留めているらしい」
「覚えておこう。忘れずに閣下へ報告せねばな。しかしどうやってそんなものを手に入れた?」
「金で買った。この海で資金繰りが上手くいっているのは〝黄昏〟とその恩恵を受けている〝赤髪〟、〝海軍〟以外におらんからな。〝白ひげ〟の隊長の能力も似たような経緯で手に入れた」
〝白ひげ〟相手の窓口はCP0ではなく別の者だが。
ともあれ、そうやって手に入れた血統因子を混ぜ込んで生み出したのがアルファ・マラプトノカと言うワケだ。
防戦一方だったとはいえ、小紫相手に生き残れる相手である。ラグネルとて油断できる相手ではない。
〝黄昏〟と世界政府から得た資金を敵対勢力に横流しするなど、本来なら締め上げてボコボコに叩きのめすところだが……ベガパンク相手ではそうもいかないのが難しいところであった。
彼の成果物の恩恵は〝黄昏〟も少なからず受けている。
「アルファ・マラプトノカを造り出したのはいつだ」
「大体……4~5年ほど前か。海で働くようになったのは3年ほど前だと記憶している」
〝黄昏〟で把握している情報とあまり変わりない。あの見た目から年齢は20代程度と推測し、商人として動き出す以前の経歴が一切追えないことを不気味に思っていたものだが……何のことはない。そもそも
最後にラグネルは「お前が言うことを聞かせられないのか?」と問うたが、ベガパンクは力なく首を横に振った。
「私の下に資金や資材が送られてくることは時たまあるが、頻繁に連絡を取っているわけではない。ましてや言うことを聞かせることなど不可能だ」
「手綱を握ることも出来んか。厄介な奴を野放しにされたものだ」
「申し訳ない……それ以外で私にできる事なら何でも頼ってクエーサー」
ベガパンクとしてもスポンサーに迷惑をかけるつもりはない。
並の商売でベガパンクの求める資金を得ることは出来ないと理解しているが、それでも出来れば真っ当に生きて欲しいと思うのが親心というものだ。
それはそれとして。
「私にわかることは全て話したが……資金提供の方はどうなる?」
「少なくとも奴が我々に損害を与えたことは事実だ。資金は多少なりとも減るだろう。具体的な金額は追って伝えることになる」
ベガパンクはそれを聞いてがっくりと肩を落とした。
来週はお休み
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