ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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第二百六話:うねり始める世界

 

 ──新世界〝海賊島〟ハチノス。

 〝楽園〟から戻って来た幹部たちは現在、報告のためにカナタのいる執務室に顔を揃えていた。

 〝アラバスタ〟へ派遣されていた戦力であるジュンシーとリコリス、ジェムとミキータ。〝ミズガルズ〟で相乗りしたティーチとその仲間。それに〝鬼の跡目〟ダグラス・バレット。

 先日強襲した〝パンクハザード〟からシーザー・クラウンを連行して戻って来たフェイユン。

 報告することは多い。

 まず聞くべきは誰かと、カナタは一瞬思案して不機嫌そうに腕組みしているバレットの方へと視線を向けた。

 

「バレット。お前の目的は私と一戦交えたいということでいいのか?」

「ああ。そのためにわざわざここまで来たんだ。さっさと準備しろ」

「それ自体は構わんが、場所の準備が必要だ。数日貰うが、いいな?」

「……仕方ねェな。準備が出来たら呼べ。おれは適当に暇を潰す」

「訓練場にレインがいるはずだ。いい機会だからしごいてやれ」

「テメェ、おれを顎で使うつもりか?」

「〝北の海(ノースブルー)〟のいい酒が手に入ったんだ。多少体を動かした後の方が酒は美味かろう」

「……チッ」

 

 バレットは一つ舌打ちをしたのち、執務室を出て行った。

 カナタは軽く肩をすくめると、ティーチが大口を開けて笑う。

 

「ゼハハハハ!! なんだかんだと丸くなったな、あいつも!」

「思っていたより冷静だったのは意外だ。道中でストレス発散でも出来たのか、存外アラバスタでの戦いを楽しめたのか、どっちだと思う?」

「〝ミズガルズ〟でカイエの姉御が一戦やったらしいからな! 多分ストレス発散出来たんだろ!」

「なるほど」

 

 次にカナタはティーチへ視線を向け、その後ろに緊張した様子の4人を見る。

 見覚えの無い顔ぶれだ。ティーチが連れてきたあたり、何かしら意味はあるのだろうと報告を促す。

 ティーチは後ろに控えていた4人を前に連れてくると、ひとりひとりカナタに紹介していく。

 

「奥からオーガー、バージェス、ドクQ、ラフィットだ! 今回の休暇でおれが集めた仲間さ! あとこれ土産だ」

 

 ティーチが脇に抱えていた宝箱を机の上に置く。カナタは特に警戒することもなくそれを開けると、中には一つの悪魔の実が入っていた。

 最近ではあまり見かけることもなくなってきているが、どこかで見つけて来たのだろうと考え、宝箱を閉めた。

 

「休暇は楽しめたようで何よりだ。そいつらはお前の直属扱いでいいのか?」

「おう! 〝黒ひげ分隊〟とでも言おうじゃねェか!」

「呼び名は好きにして構わんが……ここでのルールはしっかり周知しておくように」

「わかってらァ! それと……こいつらにも悪魔の実を喰わせてェ。あとで宝物庫を確認させてくれ」

「ふむ……使()()()()()()()()()

 

 腕組みしたカナタはスッと目を細め、オーガーたちを探るように視る。

 弱くはない、が……カナタの基準で使い物になるかと言われれば、かなり怪しいところがあった。

 まぁティーチの直属扱いなら別に弱くても困ることはないのだが。

 ティーチはカナタの言葉を受け、ニヤリと口端を上げる。

 

「ああ。こいつらは絶対に強くなるぜ」

「……お前がそこまで言うなら、後で確認しに行こう。どうせお前の土産も持って行く必要があるからな」

「おう、ありがとよ!」

「別室で待っていろ。残りの報告を受けた後で向かう」

 

 ティーチはカナタの言葉に頷き、オーガーたちを連れて部屋を出ていく。

 フェイユンはその背中をじっと見つめていたが、部屋を出て見えなくなったところでカナタへと視線を戻した。

 

「……いいんですか?」

「構うまい。腹の底では色々考えているようだが、害にはならんようだしな」

「……あなたがそう言うのなら」

 

 フェイユンは気を取り直し、チラリとジェムとミキータの2人を見る。

 この2人のいる場で報告をしても大丈夫か、と心配しているのだ。

 カナタはそれを理解し、「簡素な報告でいい」と告げた。詳しいことは本人も交えて聞き出した方が効率的でもあるし、現段階ではひとまずの報告で構わないと判断した。

 

「〝彼〟は捕縛しました。今は監視を数人付けて独房に入れています。海楼石も付けているので逃げることは出来ないと思います」

「道中で受けた報告と変わりはないか。資料はどうした?」

「目についた分は回収してきましたが、時間制限があったので全部かどうかはわかりません」

「十分だろう。足りない部分はあいつの頭の中に入っているだろう」

 

 仮にも天才を自称するならそれくらいはやって貰わねばな、とカナタは呟く。

 それと、問題がもう一つ。

 

「保護した子供と、実験台にされていた人たちはどうしますか?」

「実験台はわかるが……子供?」

「はい。どこかから連れてこられたみたいで……」

 

 言いにくそうに「彼から聞きだしたところ、巨人化する薬の被験者みたいです」と告げた。

 カナタは眉をひそめ、思わずと言った様子で疑問を口に出した。

 

「……治るのか、それは」

「私にはなんとも」

「そうだな……纏めてスクラのところに放り込んでおけ。あいつに対処出来ないならどうにもならん」

 

 覚醒剤入りのキャンディを舐めさせられていたようで、船で運ぶ途中に禁断症状で暴れることもあったという。

 鎮圧そのものは簡単だが、相手が子供と言うことで非常にやりにくい上に自らの体を傷つけることを厭わなかったため、鎮静剤などの物資が底をつきかけたらしい。

 シーザーに対する評価がまた一つ落ちた。

 

「そちらの詳しい報告はスクラから受けることにしよう。あいつに関しては……まぁ後で良かろう。どうせベガパンクとの話も今すぐとはいかんからな」

「わかりました」

 

 カナタの言葉に頷き、フェイユンは執務室にある扉を開けて出て行った。

 残るはジュンシー、リコリス、ジェム、ミキータである。

 〝アラバスタ〟に関する件は他者に聞かせるようなものでもないため、他の者たちは先に部屋から出したのだ。

 

「〝バロックワークス〟への潜入、及び〝アラバスタ〟防衛戦。ご苦労だった、諸君」

「呵々、ロビンとジェムの情報があればこそよ」

「クロコダイルは聡明な男だ。情報の全てを得ることが出来ていたとは思わないが、無策で対処させていればこう簡単にはいかなかっただろう」

 

 〝ミズガルズ〟にはカイエや巨人族の兵隊がいた。最悪そちらを駆り出して対処させればどうにでもなっただろうが、重要な貿易拠点の戦力を根こそぎ動かすことは難しい。

 〝黄昏〟の足を引っ張りたがる輩は山のようにいる。出来るだけ隙を見せる機会は少ない方が良い。

 誤算と言えば、四皇同盟が動いたことくらいなのだから。

 

「ジェム、お前も良くやり遂げてくれた。スパイ任務は難しいが、情報が割れていないお前は都合が良かったからな。不安もあったが、無事に戻ってくれて何よりだ」

「いえ、カナタさんの期待に応えられて何よりです!」

「まぁ女連れで帰ってくるとは思わなかったが」

「勘弁してくださいよ、それ道中ずっとティーチさんにからかわれてたんですから……」

 

 からからと笑うカナタとジュンシーを尻目に、ジェムはがっくりと肩を落とす。

 ミキータはやや顔を赤くしているがまんざらでもなさそうな顔だ。

 そして、カナタはこの部屋に入って来てからずっと不機嫌そうにしているリコリスへと視線を向ける。

 ペンギンを模したパーカーを被り、肌の露出は極めて少ないが、脚に付けた装備はずっとそのままだ。

 

「リコリス、クロコダイルはどうだった?」

「……大したことなかったわ。覇気も使えないような雑魚なんて相手にならないもの」

「そうか。だが、()()()()()()()()()ようだな」

 

 カナタは全てを見透かしたように小さく微笑み、リコリスを見る。

 最終的にバレットが倒したとはいえ、クラッカーはビッグマム海賊団の誇る〝将星〟の1人、そう容易く落ちるような相手ではない。

 リコリスはまだ若く、経験が浅い。内部闘争で実力だけは付いたが、精神的な部分はまだ甘かった。外にはまだいくらでも強い敵はいると知り、折れることなく進める精神性を培えたのなら今回の派遣は成功と言えるだろう。

 

「精進することだ、リコリス。お前はまだ強くなれる」

「ふん! 言われなくてもやってやるわよ」

 

 全部見透かされたのが不愉快なのか、プイッと明後日の方を向いて腕組みをするリコリス。

 その態度にジェムが苦言を呈するが、リコリスはどこ吹く風と言った様子だ。

 

「お前が捕らえたというMr.3とミス・ゴールデンウィーク……ギャルディーノとマリアンヌはどうするんだ?」

「あの2人は私がもらうわ。芸術家だし、私の欲しいものを作ってくれるもの」

「そうか。お前が世話をするならいい。好きにしろ」

「そんなペットみたいな……」

 

 ジェムが呆れたような顔をする。

 カナタはそれなり以上に長く生きているが、芸術に関してはとんと興味がない。音楽は好きだが傾倒する程でなく、美術は審美眼だけが磨かれてそれそのものに対する興味は極めて薄い。

 だが、そういったものに傾倒する人間がいることは理解していた。それでやる気が出るのなら好きにしろ、と言うスタンスである。

 今度はカナタはミキータへと話しかける。

 

「お前はうちで働くということでいいのか?」

「は、はい! スパイ行為を手伝う代わりに斡旋してくれるって話だったので!」

「そうか。ではこの紹介状を持って港にいるスコッチと言う禿げた巨漢の男を探せ」

 

 カナタはメモ帳に「ジェムからの紹介」と書いて自分のサインを沿え、二つ折りにしてミキータに渡す。

 カナタは仕事を取ってきて采配するが、細かい人員の割り振りまで口を出すことは少ない。スコッチなら顔も広く年季もあるのできちんと采配してくれるだろうと判断してのことだ。

 ミキータは震える手で紹介状を受け取ると、大事そうに胸元にしまい込む。

 報告はこれで終わりだ。

 リコリスはさっさと背を向けて部屋を出て行こうとし、ジェムは慌てたようにカナタに頭を下げてそれを追いかける。

 ミキータはこの島に不慣れなのでジェムに案内してもらおうとしてついて行くのを見送り、部屋にはジュンシーとカナタの2人が残された。

 

「……さて、どうだった?」

「Mr.4ペアは両名殺害。悪魔の実の回収はしていない。Mr.3ペアはリコリスの庇護下に。Mr.1ペアとクロコダイルは海軍に先を越されて〝インペルダウン〟へ行った。そして肝心のMr.2だが、殺害して悪魔の実も回収済みだ」

 

 ジュンシーは大きめの袋から箱を取り出すと、蓋を開けて中に入っていた悪魔の実──マネマネの実を見せる。

 カナタはそれを確認して頷くと、ジュンシーは蓋を閉めて机の端に置く。

 最後に取り出したのは畳まれた大きな紙であり、広げるとカナタの机よりも大きな面積になるほどだった。

 〝アラバスタ〟の王家の墓に安置されていた〝歴史の碑文(ポーネグリフ)〟──その写しである。

 机に載り切らないそれを床に広げると、カナタは顎に手を当ててじっくりと眺める。

 

「少なくともあの島で確認出来た石はこれひとつだ。あの島は遺跡もあるようだし、探せばもっと見つかるやもしれんが……」

「いや、不要だ。大っぴらに探すと政府の目につく」

 

 少しの間ジッと見続けていたが、カナタはやがて飽きたように椅子に座る。

 ジュンシーが再び紙を畳んで机の上に置くまで、何かを考え込むように口元に手をやって真剣な顔で机を見下ろしていた。

 

「何かわかったのか?」

「……いや」

「そうか。儂はしばらくこの島にいる。次の仕事も今のところないのだろう?」

「そうだな。ゆっくり休んでおけ」

「そうさせてもらおう。老骨に長旅は堪える」

 

 小さく笑いながらジュンシーが出て行くと、カナタは再び何かを考え込み始めた。

 本人も意図することなく、疑問が零れ落ちる。

 

「〝プルトン〟はワノ国、〝ポセイドン〟は魚人島……古代兵器は3つあるハズだ。残りの一つはどこに……?」

 

 

 

        ☆

 

 

「この島の外郭部には色々な兵器が置いてあるが、これほどの備えが必要なのか、船長」

「おれはそこまで関わってねェからな。姉貴が必要だと思ったから用意したんだろ」

 

 狙撃手であるオーガーは目がいい。そのため、船からここに来るまでの間に目について気になったことをティーチに訊ねていた。

 大砲と言うには口径が小さく、銃と呼ぶには本体が大きい。迫撃砲にも似ているが、備え付けてあるために持ち運べる様子でもない。

 ティーチはこれらを〝対空砲〟と呼んだ。

 

「……対空砲? 空を飛ぶ能力者への備えか?」

「さァな。カイドウみてェな奴に対する備えかもしれねェが、あいつにゃ大砲なんざ効くわけねェ。()()()()()()()()()()()()()んだろ」

 

 とは言え、空を移動する手段など、そのほとんどは能力者によるものだ。

 空を駆ける六式使い相手なら効果があるかもしれないが、三次元的に高速移動する六式使い相手に銃弾など早々当たらない。

 ……もっとも、対空砲を扱うものが覇気使いであれば当たるし通用する可能性は十分にある。

 島の奥にはもっと様々な兵器を隠しているのだろうし、こればかりが防衛の要と言うワケでもない。

 興味深そうに見ていると、紅茶を飲んでいたラフィットが話しかけてくる。

 

「ホホホ、随分熱心に見ていますね。それほど気になったのですか?」

「ああ。銃の精度は狙撃手の腕に直結する。この銃も気に入っているが、より良い武器があればそちらに変えてもいい」

「なるほど……真面目ですね。私はまだ内心、〝魔女〟への緊張が抜けませんよ」

「ウィーッハッハッハ! なんだラフィット、ビビってんのか!?」

「あの小さい体躯であれほどの威圧感です。流石に〝七武海〟最強は伊達ではありませんね」

 

 〝七武海〟は政府の集めた実力ある海賊たちだが、カナタとミホークは頭一つ飛び抜けて強い。

 他の面々は四皇幹部相手に善戦出来るほどの実力だが、この2人は〝四皇〟本人と正面から打ち合えるし、ともすれば打ち破れるほどの実力がある。

 見た目で侮れるような相手ではない。

 

「ゼハハハハ! あれはまだ落ち着いてる時の姉貴だからな! 暴れてる時の姉貴はもっとおっかないぜ!!」

「ホホホ、それは怖い!」

 

 げらげらと笑っていると、執務室から出て来たカナタが別室にいたティーチ達の部屋へと入ってくる。

 その手には箱が2つ抱えられており、今から宝物庫に向かうと告げた。

 

「よし、行くか!」

 

 ティーチ達もカナタの後に続き、ハチノスの中心にある〝ドクロ岩〟の中を移動する。

 宝物庫は防犯と災害対応の観点から地下に作られており、入り口には常に複数人の監視がいる。

 カナタを先頭に地下へ下りると、複数ある扉の一番奥へと歩みを進める。他の扉と違い、この扉の鍵はカナタしか持っていない上に外壁は海楼石で覆われているため、侵入は極めて難しい。

 他の扉に興味があるのか、バージェスがカナタへ質問を投げかけた。

 

「ここの宝物庫には金銀財宝があんのか?」

「そういうものもあるが、今回の目的はそちらでは無かろう。歴史的な価値や金銭的な価値も大いにあるが、その辺りの物はいくらでも代えが利く」

 

 一方、この扉の中身は代えが利かない。

 分厚い海楼石の扉を開け、明かりをつける。

 ──中にあったのは、所狭しと並べられた棚と、その中に整然と置かれた悪魔の実の山だった。

 

「これは……!?」

「ホホホ……これは凄まじい……!」

「おォ……こりゃあ凄いな……ガフッ」

「おいおい、こんな大量の悪魔の実があるとかマジかよ!?」

「ゼハハハハ!! 驚いたか、まァ驚くよな!! ここにある棚に並べてあんのは全部悪魔の実だ!」

 

 棚に置かれた悪魔の実の前には、全て実の名前が書かれている。

 種別としては〝超人系(パラミシア)〟と〝動物系(ゾオン)〟がほとんどで、その中でも有用さと希少性でいくつかランクを分けてあった。

 ティーチが持ってきた〝バネバネの実〟は一番下のランクへ。ジュンシーが持ってきた〝マネマネの実〟は一番上のランクへと振り分け、それぞれ安置されていく。

 これらの悪魔の実は一つ一つが最低価格1億ベリーを超える。所狭しと並べられたこれらの実をひとつ売り払えば、それだけで一生遊んで暮らせるだけの金が手に入る可能性があるのだ。

 金銀財宝よりも余程価値が分かりやすい代物と言えるだろう。

 

「いくつ悪魔の実が欲しいんだ?」

「分かりやすく使える奴が良いな。ラフィットは能力者だから、3つくれ」

「3つか。欲しい能力の方向性は?」

「おれァ力が強くなる奴がいいな!」

「私は狙撃手ゆえ、距離を取りやすくなるようなものがあれば」

「ゲホッ……おれは、そうだな……医者だし、直接戦闘は出来ねェ。それを補えるような能力があれば、それを」

 

 バージェス、オーガー、ドクQの要望を聞き、ペラペラと目録をめくっていく。

 この3人はティーチの推薦があるとはいえ、実力はまだ〝戦士(エインフェリア)〟や〝戦乙女(ワルキューレ)〟に敵うものではない。

 相応のランクにしておくかと考えていると、後ろから覗き込んでいたティーチが声をかけて来た。

 

「姉貴、こいつらにやる悪魔の実はいいヤツにしといてくれ」

「……お前の贔屓だろう」

「ああ。だからその分、()()()()()()()()()

 

 ペラペラとめくっていた手を止め、カナタはティーチを見る。

 ティーチはいつも通りの笑みだが、今回ばかりはその真意を見る必要があると感じた。

 ゆえに、カナタはティーチを射抜くように真っ直ぐ視線を向ける。

 

「そこまでそいつらに入れ込んでいるのか?」

「おれが集めて来た仲間だ。絶対に強くなる。姉貴に損はさせねェ!」

 

 己の力と、己が集めてきた仲間の力を微塵も疑っていない。カナタは目を細め、数秒程考え込み……手に持っていた目録をティーチに預け、カナタは部屋の奥へと歩いていく。

 それほど時間もかからず戻って来たカナタの手には3つの悪魔の実が抱えられており、欲しがっていた3人にそれぞれ投げ与えられる。

 

「〝リキリキの実〟〝ワプワプの実〟〝シクシクの実〟。お前たちの要望に沿った悪魔の実だ」

 

 〝リキリキの実〟の単純な怪力は基礎的な強さに上乗せされるが、応用はあくまでそれに今出来る事と大きく変わらないためランクは低い。

 残りの2つは戦術的に極めて大きい意味を持つ悪魔の実だ。本来なら裏切ることのないと判断できる〝戦士(エインフェリア)〟や〝戦乙女(ワルキューレ)〟でも上位層に与えるべき能力だが、能力の厄介さは使い手にもよる。

 狙撃手、医者ならその能力も十全に使いこなせるだろう。

 

「ほォ……あるとは思ってたが、予想以上にこいつらにピッタリな能力じゃねェか」

「その分働いてもらうぞ」

「構わねェ! だが、どうするんだ? ボチボチ動くのか?」

「……本来ならドラゴンたちの準備が整ってから同時に動くつもりだったが……」

 

 〝黄昏〟の戦力は円熟期に入っている。老兵が引退する直前かつ、新兵が使い物になるようになった時期。

 今を逃せば新兵は増えるが老兵は減る。つまり、ジュンシーを始めとする実力者達が一線を引くことになるのだ。

 それに、ここ最近は海が荒れてきている。

 爆心地はロビン──それと一緒にいる〝麦わらの一味〟だ。

 恐らく、遠からず大きな事件が起こる。ロビンが巻き込まれるとなればカナタも手を打たざるを得ず、そうなれば〝七武海〟の座も返上することになるだろう。

 水面下で動いて手を打っておくなら今しかない。

 

「……海軍の手を借りずにカイドウとリンリンを潰すにはやや分が悪い。革命軍はこちらに手を貸す余裕も無いだろう」

 

 いつ政府との関係が破綻するかにもよるが、現状では海軍に背を預けるのはリスクが高い。ゆえに単独で百獣・ビッグマム海賊同盟を相手取らねばならないが、これは少々厳しいものがある。

 海軍は漁夫の利を取りに来るだろう。

 シャンクス率いる〝赤髪海賊団〟とは秘密裏の同盟関係を築けてはいるが、あの男もあの男で信用しすぎるのは危険だとカナタは考えていた。

 

「まずはバレットを完全に引き入れる。あの男1人で勢力図は書き換わる」

 

 現段階でも同じようなものだが、正式に引き入れるのと外様では内部での扱いも変わってくる。

 次に〝七武海〟の対処だ。空いている2席は誰が座るか決まるまで放置していていいが、現在席に座っている者たちで敵対関係になりやすいのはミホークとモリアの2名。

 前者は政府からの指令なら従う可能性があり、後者はあくまで利害関係が一致しているから同じ席に着いているだけに過ぎない。敵対することに否は無いだろう。

 残りのくまとジンベエだが、革命軍所属のスパイと半分〝黄昏〟傘下の魚人なら政府側に着くことはないだろうと判断し。

 

「ミホークを消すのは難しい。あの男は動かないように手を打っておく必要がある。モリアは……生かしていてもプラスにはならん。適当に消してよかろう」

 

 数人付けてアイリスを派遣すれば失敗はないだろう。

 目下最大の問題である海賊同盟と海軍に関しては、〝黄昏〟の勢力を増やす以外に対処法がない。

 だから、カナタは決める。

 

「ニューゲートを殺し、〝白ひげ海賊団〟を取り込む」

「取り込むゥ!? オイオイ姉貴、流石に船長殺されて黙って従うような腑抜けじゃねェだろ!?」

「普通ならな」

 

 可能性はゼロではない。

 こちらはまだ準備が必要だ。詳細はきちんと詰めておかねばならない。

 とはいえ、勝算は薄いだろう。期待はしすぎることなく、常に最悪を想定しなければならない。

 だったら、とティーチは笑う。

 

「〝白ひげ〟を殺すんなら、あいつの能力も貰うんだろ? だったらよ──その悪魔の実、()()()()()()

「……悪魔の実の能力者は2つの実を食べれば死ぬ。それが分かっていて言っているのか?」

「当然だ! 失敗する可能性もあるが、成功すりゃあ()()()は最強だ!! この海の覇権を握るのも遠くねェ!!」

 

 野心に溢れた、ギラギラとした目でカナタを見るティーチ。

 失敗すればカナタは大きなカードを失うことになる。それでもその賭けに乗る価値はあるのか。見定めるように赤い瞳がティーチを射抜き、本気で言っていることを理解する。

 

「本気で言っているんだな」

「本気も本気さ。おれと姉貴、2人でやりゃあこの海に敵なんざいねェ!! そうだろ!?」

 

 何事にもリスクは付き物だ。

 ここ一番でリスクを恐れずに賭けられるかどうかが、海賊としての進退を決めると言っても過言では無い。

 得られるリターンと失うリスクの2つを天秤に賭け、これまで培ってきた常識と研究成果が不可能だと判断する。

 それでもティーチは退く気は無さそうだ。

 

「……だったら、まずはお前が2つ実を食べても死なないと言う根拠を示すことだな」

 

 この部屋にはもう用はない。

 今後の動きを決めるためにも、一度執務室に戻る必要がある。

 ──こうして静かに、しかし確実に世界は大きく動き始めた。

 

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