ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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第二百七話:嵐

 

 〝ハチノス〟の地下から上がって来たカナタとティーチ達。

 ティーチの仲間はそれぞれ悪魔の実の能力を試してみると訓練場に足を伸ばし、カナタとティーチは執務室へと戻っていた。

 ドカリとソファに腰かけたティーチは、まるで自分こそが部屋の主かのように足を伸ばしている。

 

「しかし姉貴、〝白ひげ〟を殺すのもそうだが、バレットの野郎を引き込む算段は出来てんのかよ?」

「殴り倒して言うことを聞かせる」

「……おれが言うのもなんだが、あの野郎は殴り倒したからって言う事聞くタマじゃねェだろ」

「あの男は利益の有無で陣営を変えることはないだろうからな」

 

 とにかく〝最強〟を目指してストイックに鍛え上げる事しか頭にない男だ。

 それ以外の部分をサポートしているから、バレットはカナタと共同歩調を取っているが……部下になれと言って頷くような男ではない。

 ロジャーの下にいたのは、あくまでロジャーの強さの秘密を知るためだと本人は言っているのだし。

 もっとも、その強さの源泉は結局理解出来なかったようだが。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と思わせればいいだろう」

 

 執務室の椅子に腰かけたまま、カナタは小さく笑みを浮かべて見せた。

 要はロジャーの時と同じ手法なワケだが、違うのはバレットが自発的にそう思うかカナタが思わせるかというところだろう。

 バレットに負けることを一ミリも想定していない、あまりにも傲慢な考え方だ。

 

「勝てるのかよ?」

「負ける要素がないな」

 

 これまで幾度となくバレットと戦ってきたが、カナタはその全てで勝利を収めている。

 前回から多少時間は空いているが、バレットが己を鍛え上げたように、カナタもまた強くなった。

 何より、先程会った時に感じた限りではカナタの想定を超える程強い覇気を感じられなかった。

 

「私を倒したければ全盛期のロジャーとガープの2人がかりでもなければな」

「……笑えねェ冗談だ」

 

 相も変わらず楽しそうに話すカナタに、ティーチは珍しく呆れたように肩をすくめた。

 

「まぁ、バレットにせよニューゲートにせよ、倒すことそのものは心配しなくていい。むしろ問題は〝白ひげ海賊団〟の統率だ」

 

 トップのニューゲートをどれほど正当性を持って倒そうと、その組織はニューゲートが作り上げたものだ。

 カナタに従うことを良しとする者が果たしてどれほどいるか。

 従おうとしなくとも強制的に敵にぶつけてやれば戦わざるを得ないが、なるべく最後の手段にしておきたい。下手なことをするとそのまま寝返りかねないのだから。

 〝黄昏の海賊団〟でさえ、きちんと訓練と教育を施した者以外は下手に散らして配置すればそのまま逃げ出す可能性がある。

 どれほど道理を説こうと、どれだけトップにカリスマがあろうと、人間の生きようとする本能は時に理性を凌駕する。

 ましてや自分の慕っていた男が死んだ直後ならば、尚更。

 

「取らぬ狸の何とやらにならねェといいがな」

「事前に考えておかねば迅速に対処など出来はしない。想定外などいくらでも起こり得る」

「そりゃそうか……順当にマルコにやらせりゃあいいんじゃねェか?」

「奴はNo.2としては高い能力を持っているが、マルコをトップに据えたところで上手くはいかないだろう。トップとNo.2に求められる能力は厳密には別物だ」

 

 だからトップに立てる人間がNo.2に収まると組織としては不具合が起きやすい。

 No.2でなくとも、トップに立てる人間が複数いると組織として纏まらずに崩壊することになる。

 ──かつてのロックス海賊団がそうであったように。

 

「そんなもんか? よく分からねェが……姉貴としてはどう考えてんだよ」

「素質がありそうなのはエースだが、任せるには少々若すぎるのが問題だな」

 

 もう少し経験を積んで柔軟に考えられるようになればとも思うが、海賊は基本的にトップがカリスマで引っ張っているだけの組織だ。〝黄昏〟の在り方が異質過ぎるゆえに忘れそうになるが、年齢や経験を積んで──と考えるのはおおよそ()()()()()である。

 カナタもそれを自覚してか、少々面倒くさそうな顔をしていた。

 この海においては、頭角を現した者は若かろうと老いていようと強く他者を惹きつける。

 ……カナタがエースを推薦してしまえば、エースが〝白ひげ海賊団〟を乗っ取ろうとしてカナタを焚きつけたと捉えられかねないので、口出しは出来ないが。

 

「しかし、ニューゲート以外にあの規模の組織を纏められそうな者もいないか……エースには悪いが、早々に百獣・ビッグマムの海賊同盟とぶつけて規模を縮めるしかあるまい」

「……姉貴、えらいエースの肩を持つな。なんだ、あんなガキに惚れ込んだのか?」

「……友人の子と言うのは存外可愛く感じるものでな。我が子とはまた違うな。私も初めての感覚だよ」

「姉貴に子供いねェだろ。つーかダチの子供? 誰だよそいつ」

「ロジャーだ」

 

 ガターン!! とソファごとひっくり返るティーチ。

 後頭部をぶつけて出来たタンコブをそのままに、驚いた顔で起き上がる。

 

大事(おおごと)だろそれ! ロジャーの野郎にガキがいたってのか……!? 海軍が放っておかねェハズじゃねェのか!?」

「詳しいことは知らんが、ガープが匿っていたらしいからな。どうにでもなったのだろう」

「あいつ一応海軍の〝英雄〟だろ……」

 

 呆れた様子でガープの顔を思い描き、「確かにあいつならやりかねない」と納得するティーチ。あれだけ色々とやらかし、天竜人嫌いを公言しておきながら信奉者が多すぎて政府も手を出せない男だ。

 ガープとロジャーはライバルだったし、戦っている最中に仲間とは違う絆でも芽生えたのだろう。ロジャーはそういう人たらしの才能がある男だった。

 ともあれ。

 

「なるほどな……姉貴が入れ込むハズだぜ」

 

 カナタはロジャーに恩がある。

 ティーチは過去に救われたことがあるくらいにしか知らないが、それでもロジャー海賊団は過去に何度も〝ハチノス〟へ寄港している。快活で騒がしい男だった。 

 懐かしそうに顎を撫でながら思い出していると、カナタはどこかから連絡を受けて立ち上がった。

 

「どこに行くんだ?」

「尋問だ。お前も来るか?」

「暇だし、行くとしようじゃねェか。ゼハハハ!」

 

 どこに行くかも分からないまま、ティーチはカナタの後ろをついて行く。

 カナタは移動中も子電伝虫で誰かと連絡を取っていた。

 

「アイリス、次の仕事だ。詳しいことは後ほど伝える。いつでも出られるように準備だけしておけ」

『はーい。まったくもう、人使いが荒いですねえ』

「今回は少々大変になるだろう。数人連れて行く裁量権を与える。上手く使え」

『……そこまでするってことは結構大変な仕事なんです? はー、厄介そうですね……』

 

 カナタから連絡を受けたアイリスは厄介そうな仕事の気配にため息をこぼしていた。

 お世辞にも真面目とは言い難い態度だが、多少態度や性格が悪くともきちんと仕事をこなすならカナタは特に何かを言うことはない。強者とは常に傲慢なものであるという認識もあるのだろう。

 己の強さへの自信はそのまま覇気の強さにもつながる。決してマイナスばかりではない。

 ティーチを伴ったまま、カナタは港からやや離れた研究棟へと足を運んだ。

 〝ハチノス〟は多くの海賊とその家族が住むが、実のところ島の大きさはそれほどでもない。

 ()()()()()()()()()()()()がこの島に隠されているから、今でも密偵が絶えないのだ。

 その一角に、研究者であるシーザー・クラウンが縛られ、座らされていた。顔は腫れ上がり、うっ血しているところがところどころに見える。

 両腕を海楼石の錠で繋がれ、首には奴隷に使われる爆弾が付いたものが着けられている。背後にはシーザーがおかしな真似をしないように見張りが付いており、カナタに小さく会釈をする。

 

「こうして直接会うのは初めてだな。シーザー・クラウン」

「ウゥ……アンタが〝魔女〟か……! お、おれを殺すのか……!?」

「それはお前の態度次第だ」

「た、頼む! 殺さないでくれェ! おれはまだ、死にたくねェ!!」

 

 シーザーは〝ガスガスの実〟のガス人間。自然系の能力は極めて少なく、有用なものが多いが、ガスガスの実はどちらかと言えば戦闘よりも資源の面から見て非常に有用な能力だ。

 多様な種類のガスをその意思一つで自在に生み出せる能力は、資源の類が掘り出せない〝ハチノス〟においては極めて貴重かつ重要な能力になり得る。

 その一点だけでも、シーザーを殺して能力を奪う事には利点がある。

 だが、能力者であるシーザー本人もまた優秀な人間だ。

 ベガパンクと比べてしまうと見劣りするものの、ベガパンク以上に倫理観が無いのでカナタの指示に従って様々な兵器を作ることに役立つだろう。

 薬品等に精通することも、ガスの能力を使う上で必要な力だ。適任者としては彼以上の人間はそうそういない。

 総合的に判断して、シーザーは殺すよりもその頭脳と能力を利用する方がメリットが大きいと判断した。

 

「──では、これを見てみろ」

 

 カナタは数枚の紙をシーザーに渡す。

 両手は海楼石の錠で不自由なものの、紙を見るくらいなら可能だ。

 シーザーは必死な顔でペラペラとその紙を確認していき、その内容を理解するごとに冷や汗をかいていく。

 

「お、おい! これは誰が考えた!?」

「お前からの質問は許可していない。私の質問に答えろ」

「わ、わかった……」

「ひとつ、お前はこれを造れるか?」

「造れる……と、思う。だがこれは、実験を何度かやってみないことには正確には分からねェ」

「ふたつ、ガワは既に完成している。必要なのは推進力となる燃料だ。お前なら作れるか?」

「……距離にもよるが、作れる」

「ふむ……良かろう。ネックはそこだけだったからな。お前の協力があるなら完成は早まるだろう」

 

 シーザーは自他ともに認める天才科学者だ。命惜しさに出まかせを言っている可能性を否定出来ないとしても、抱え込むメリットは十分にある。

 もしダメなら、その時は脳に電極を刺して身体機能を機械で補い、能力を使い続けるだけの肉の塊にするだけだ。

 そう脅すと、シーザーは顔を真っ青にしながら何度も頷いていた。

 後ろで聞いていたティーチは状況を良く分かっていないのか、シーザーとの取引が終わった段階で口を開く。

 

「姉貴、何を造ろうとしてんだ?」

「兵器だ」

「兵器ィ?」

 

 この広い海の中で、覇気を使える者や能力者は極めて少ない。大多数の人間は銃で撃たれれば死ぬし、剣で致命傷を負えば戦えなくなる。

 逆に言えば、武器や兵器を使えば大多数の人間を無力化することも可能だと言う事。

 とは言え、大砲や銃をちまちま撃ったところで埒が明かない。海軍との敵対を想定するなら、相当数の海兵と戦うことを想定しなければならない。

 人数差を引っ繰り返すのは、常に強力な兵器だ。

 

「遠距離から敵を撃滅、無力化する兵器──〝弾道ミサイル〟だ」

 

 

        ☆

 

 

 〝ミズガルズ〟を出たルフィたち麦わらの一味は、美食の町〝プッチ〟へと航海を続けていた。

 晴天かつ風は穏やか。釣りをしながら〝美食の町〟と称される次なる島に思いを馳せるルフィだが、ウソップは頭を悩ませていた。

 

「〝空島〟で船が焼けたところ、修理はしたんだがどうにも水漏れしてるみてェでよ……やっぱ船大工のいるところで見てもらうのが一番じゃねェか?」

「つっても、ルフィはもうメシの事で頭一杯みてェだからな。多少寄り道したところで大きくは変わらねェと思うが」

 

 ダンベルで腕を鍛えながらゾロが答えると、ウソップは「そうなんだよなァ」とルフィを見る。

 釣りをしているものの、魚はピクリとも反応してこないので暇なのだろう。

 ルフィは「次の島ではどんな美味いメシが喰えるんだろうなァ……」と涎を垂らしていた。

 あれに「今から針路を変えよう」などと言いだすと、絶望した顔をするのが目に見えているのでウソップとしても言い出しにくい。

 

「まァ、もうしばらくは大丈夫だろ」

「次の島に船大工がいるかもしれねェしな」

 

 2人は楽観的に話をして、甲板に出て来たナミが指示を出す声を聴いた。

 

「天気が変わりそうだから、少し針路を変えるわ。面舵取って!」

「よし来た!」

 

 指示を受けたウソップが舵を取り、船はやや針路を変えて嵐を避けようとする。

 ルフィも釣りを止めて帆を動かすのを手伝い始め、ナミの言うとおりに動かすが……〝偉大なる航路(グランドライン)〟の天候は変わりやすく、並の航海士では予測すら難しい。

 雲の動きはナミの予想を上回る速さで空を覆い、巻き起こる風で波が荒れ始めた。

 

「雲の動きが予想より早い! 風が強いわ、帆を畳んで! 破けちゃう!!」

「任せろ!」

 

 ナミの指示に従って帆を畳もうと、ゾロがロープを力いっぱい引いた瞬間──メインマストがミシミシと音を立てて傾いた。

 

「は!?」

「ちょっとゾロ!?」

「い、いや! おれはいつも通り引いただけで……!!」

「とにかく急いで帆を畳まないと! このままじゃ煽られ──キャア!!」

 

 真正面から吹いた突風で帆が大きくたわみ、船が大きく煽られて帆が裂け始めた。

 慌ててゾロがロープを引いて何とか帆を引き上げるも、メインマストが傾いた上に風で煽られたせいで船が大きく揺れ、全員が船体にしがみつく。

 なんとか誰も船から落ちずに済むと、横合いからぶつかった漂流物が船の側面に穴を開けた。

 

「船の横に穴が! ウソップ、塞いで!!」

「任せろ! チョッパー手伝え!!」

「う、うん!!」

 

 木材と釘とハンマーを手に船底へ下りていくウソップとチョッパー。

 抜けた2人の分をペドロとゼポが補おうと甲板を動き回り、何とか嵐を抜けようとナミが海流を見極める。

 

「10時の方向にいい海流があるわ! 面舵一杯!!」

「面舵いっぱーい!!」

 

 勢いよくゼポが舵を切った瞬間──補強してあった根元部分からバキリと舵が圧し折れた。

 

「はァ!!?」

「うっそでしょ!?」

 

 圧し折れた舵を持ったまま倒れ込むゼポ。

 舵が圧し折れ、帆は破れ、浸水をなんとかしのぎながら嵐が過ぎ去るのを待つしかなくなったメリー号。

 メインマストが傾いてバランスが崩れたためか、船はぐらぐらと揺れながら嵐に流されていく。

 

 

        ☆

 

 

 そして。

 嵐を抜けた時には、船はボロボロになっていた。

 

「……どうすんだ、これ」

 

 帆は破れ、舵は折れ、メインマストは傾いて浸水はなんとか穴を塞いだ程度。

 ゼポもウソップも本職の船大工ではなく、これを直すのは難しいか、それなりに時間がかかるだろう。

 どうするんだ、と途方に暮れる面々に、ロビンは一つ提案をした。

 

「……この状況なら仕方ないわ。海難救助を要請しましょう」

 

 ロビンの提案に、皆が頷いた。

 




カナタさんの前世は友達0人(ガチ)勢

次回予告!
「次の島は──賭博の町!?
 嵐で船がボロボロになったおれ達は、海難救助で〝バナロ島〟へと送り届けられる。
 そこに居たのは、仲間を賭けてギャンブルをする海賊たちだった!
 世界でも指折りの〝祭り屋〟!
 海パン一丁で船大工をやってる変態!
 割れ頭!
 この島ホントにロクな奴がいねェ~~~~!!!!

 次章! 海賊強奪遊戯バナロ島/冒険男

 ルフィ! アフロの力を見せてやれ!! アーイエー!!!」

次章予告その2
「多くの資金をつぎ込み開拓した島はギャンブルで栄える島となった。多くの人が集まり、賑わい、毎日が祭りのような日常を送る島。
 海賊は毎日のように訪れ、騒ぎ、狂騒は常に煽られ続ける。
 勝つことだけを求められる場で、仲間を奪われ、誇りを奪われて項垂れる敗者もいる。
 冒険を続ける上で苦難や試練は訪れ続ける。弾き返せなければ、死ぬだけだ

 次章 海賊強奪遊戯バナロ島/冒険男

 前に進むための一歩が如何に重く苦しいものか、おれは知っている──〝麦わら〟、お前はその冒険の先に何があろうと前に進めるか?」


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