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麦わらの一味がミズガルズを出航してからわずか数時間後、港には世界政府の船の姿があった。
船員は世界政府のエージェントだけで固められており、中でも目を惹く仮面を被った男女は最悪の相手だった。
物陰に隠れたまま、ドレークはその姿を見て冷や汗を流す。
(CP-0だと……!? それも仮面を被った特級のエージェントが、この島に一体何の用だ!?)
サイファーポールの中でも〝0〟を冠する彼らは、存在を隠された〝9〟とは別の意味で特別な存在だ。
世界貴族……即ち天竜人直属の諜報機関であり、海軍の意思を完全に無視した行動さえ取る。暗殺者集団でありながら自らを示威するような姿をしているのは、公的にその存在を認められているために逆らえば死ぬという端的な事実を思い知らせるためだろう。
彼らが動くのは天竜人からの指令によるものであるため、動きが確認されるときは歴史的な事件が起きる前触れとさえ言われる。
まずもって
(ロビンが出航した直後に現れるとは……あいつもほとほと悪運が強いな)
ロビンの存在を感知してCP-0が動くとも考えにくいが、それでも見つかればゼポやペドロであっても抵抗は難しい。
ミズガルズで偶発的に出会っていれば、両方にその気がなくともカイエとCP-0が衝突していただろう。
そして、どちらが勝ったとしてもロビンを手中に収めた事が知られれば今度は再び四皇同盟が動く。彼女1人の動向で世界情勢が動くなど、ドレークとしては正直勘弁してほしいところだが……それでも抱え込む方がリスクが高いことは理解出来ている。
ロビンの母親であるオルビアが〝ハチノス〟から出ないのは、その存在が知られれば間違いなく戦争になるからだ。
それほどに〝
何にせよ、滅多なことでは動かないCP-0が動いた理由は調べる必要がある。
物陰から僅かに顔を出し、四人の行動を見張ろうとした、その瞬間。
「──っ!!?」
ドレークは即座に身を隠し、その場から離れる。
あの場でCP-0を見ている者は他にいくらでもいただろうが、それでも一度見つかった以上その場に留まるのはリスクが高い。
「厄介なことにならなければいいが……」
ここ最近の海の情勢は不安定だ。
この状況でCP-0が動いているという事実が、ドレークには不安で仕方がなかった。
☆
「…………」
「どうした、マハ」
「……いや、何でもない」
丸顔のひょっとこ面を片手で持った男はどこかをじっと見ていたが、やがて興味を失ったかのように正面に向き直る。
ミズガルズは政府の諜報員もそれなりに立ち寄る島だ。常に情報が入るように駐留している者もいるが……少々トラブルが起きているようで、情報収集は上手くいっていなかった。
「何があった?」
「それが、駐留していた部隊が軒並み行方不明になっているようで……」
「……ニコ・ロビンに気付かれていたか?」
「だとしても、それなりの数がいた諜報員たちを全員消すなんて中々出来る事じゃないと思うけれど」
「〝黄昏〟はどう言っている?」
「島内における政府の諜報員の動向は把握していない、と」
「…………」
ミズガルズは〝黄昏〟の統治する島だ。
政府の諜報員がいたとしても、普段は互いに不干渉を貫いている。ロビンを手助けする誰かがいたとして、諜報員とのいざこざが起きて〝黄昏〟が気付かないというのは奇妙に過ぎる。
となれば。
「……懸念が現実になってきたな」
「懸念?」
「なんでもない。これ以上は追っても時間の無駄だろう。痕跡を残しているとも思えないからな」
この島にいる全員が全員〝黄昏〟の手先と言うワケでもない。探れば何らかの情報が出てくる可能性はあるが、これだけ徹底して政府の諜報員を消したのならダミーの情報も用意しているだろう。精査する時間も必要になるし、時間をかければそれだけ遠くへ逃げられる。
偶発的に出会う可能性も決してゼロでは無いにしても、大々的に動いて四皇同盟に勘付かれるのも厄介だ。
ゲルニカはため息をこぼす。
「仕方がない、補給が済み次第出るぞ。ニコ・ロビンは優先対象だが少々厄介なことになって来た」
「あら、もう?」
「遊びに来たわけじゃないんだぞ。〝ウォーターセブン〟で例の魚人が持ってる設計図のことを確認して、また個別に任務だ」
「分かってるわよ。私だって表向き〝歓楽街の女王〟なんて言われてるんだし、良い化粧品でもあればと思ったんだけど」
「……一時間だけだぞ」
「はーい」
仮面を被ったまま、ステューシーは機嫌よく立ち並ぶ店の方へと歩いて行った。
残されたゲルニカ、マハ、ヨセフの三人。
特に会話は無かったが、ぽつりとマハが呟いた。
「……ステューシーには意外と甘いな」
「…………」
そんなつもりはなかったが、そう見えたらしい。
どうせ出航まで暇なのだ。各々時間まで自由にしていいと言うと、2人はそそくさと船の中へ戻っていった。特に何かをやる気はなかったらしい。
☆
海底監獄インペルダウンには階層がいくつかある。
表向き最深部はレベル5とされているが、残虐の度が過ぎて新聞にさえ載せられないような事件を起こした者たちが投獄されるレベル6まで存在し、これまで〝金獅子〟のシキを除いて脱獄を許したことはない。
だが、監獄内で
投獄された囚人たちはあまりにも不自然に姿を消すため、看守たちの間では〝鬼の袖引き〟と噂されている。
姿を消した囚人たちは果たしてどこへ行ったのか──囚人服を着たバギーは、案内されるがままにパーティ会場のような場所に足を運び、それを見た。
「ウェルッ!! カマーー!!! ン~~フフフ、よく来たわね赤鼻ボーイ!!! ここはインペルダウンレベル5.5番地、囚人たちの秘密の花園!! ア~~ッ、〝ニューカーマーランド〟!!! ヒィーハー!!!」
体に対してあまりにも巨大な顔面。
四肢を包む網タイツにボンテージの衣装は、初めて見る者にとってあまりにも強い衝撃だった。
その衝撃たるや、バギーが〝赤鼻〟と呼ばれてもツッコむことなく呆然とするほどである。
「な、なんだあいつ……? それにここにいる連中も! なんでおれはここに連れてこられたんだ!?」
訳が分からないまま、とにかく急げと急かされて捕まっていた場所から連れてこられたバギー。
インペルダウンに投獄された時は運の尽きかと思われたが、手錠には海楼石も入っていなかったし、なんとか逃げ出そうと隙を見つけている間にこんなところに来ているしで状況が目まぐるしく変わる現状についていけていなかった。
迎え入れた〝ニューカマーランド〟のオカマたちは無理もないと言いつつ、ひとまず席を進めて酒と料理を振舞う。
「状況は簡単に説明してあげるわ。それより、先に一つ聞いておきたいんだけど……ヴァナータ、ドラゴンとどういう関係?」
「ドラゴン? ドラゴンって、〝革命軍〟の?」
「そのドラゴンよ。ヴァナータがここに投獄される直前、ドラゴンと行動を共にしていたと聞いてるけど?」
「あいつとは……あー」
何と話せばいいのか、バギーは言葉に詰まる。
ドラゴンとは〝
元を質せばバギーが〝ロジャー海賊団〟の見習いであり、ドラゴンが〝黄昏の海賊団〟の一員だったからなので、そこから説明することになるのだが……ロジャー海賊団の元船員と言うことがバレると今後非常に動きにくくなるのでなるべくなら誤魔化しておきたかった。
返事に困っていると、イワンコフは酒をぐびぐびと飲みながら先に身分を明かす。
「ヴァターシは〝革命軍〟の幹部よ。ここに捕まっているのも同じ理由……だから、ヴァナータが同志なら助けるのもやぶさかじゃないわ」
「いや、おれは〝革命軍〟じゃねェが……」
「じゃあ何よ」
「海賊だ! あいつとは……そう、昔、あいつが海賊だった頃に知り合って」
「……! ヴァナータ、それいつの話?」
「え? ありゃあ確か……〝金獅子〟と戦った直後だったハズだから、25、6年前か?」
「……期間は一致するわね」
ドラゴンが海賊をやっていた期間はそれほど長くはなく、おおよそ3年前後だ。
カナタ達が〝黄昏の海賊団〟と呼ばれるより以前、〝魔女の一味〟と呼ばれていた頃に所属していた。
今となっては〝革命家〟としての顔が有名になったので当時を知る者は少ないが、ゼロではない。
「じゃあヴァナータ、カナタとも知り合いなの?」
「うえ!? い、いやまァ知ってるがよ……」
顔繋ぎをしてくれ、などと言われても困るので濁り気味の返事をするバギー。
これらの話を聞き、イワンコフは顎に手をやって少しばかり考え込む。
インペルダウンに投獄されていることから〝黄昏〟の傘下ではない。だがドラゴンが在籍していた頃の〝黄昏〟を知っていて、なおかつ今のドラゴンが船に乗る程度の信用がある。
それなり以上の付き合いになるはずだが、イワンコフはバギーの顔を知らない。
素性が極めて謎にあふれているが、ドラゴンがバギーを信用して同じ船にいたことは政府の調べで確定している。少なくとも敵ではないのなら、ここにいても大丈夫だろうと判断を下した。
「まァ、ここにいれば少なくとも拷問を受けることはないし、ヴァナータも安心していいわよ」
「そりゃありがてェ話だ! インペルダウンに入れられるってんで、生きた心地がしなかったんだよ!」
「ン~~フフフ!! 情報を持ってきたキャンディに感謝することね!!」
モリモリ肉を食べてぐびぐび酒を飲むバギーを前に、イワンコフは彼をここに連れて来るに至った経緯を思い出す。
インペルダウンに〝革命軍〟の同志がいるとは聞いていなかったが、イワンコフがここに投獄されて以降、ゴミに混じってイワンコフ達にとって重要な情報がたびたびもたらされていた。
今回も同じように手に入れた情報の中にバギーの事が書かれていたので、もし〝革命軍〟の同志であればと思って即座に救出に動いたのだ。
結果はハズレだったが、ドラゴンの知り合いなら何かしらの情報が海軍や政府に漏れていた可能性もある。結果オーライと言うところだろう。
誰が情報をもたらしているのか全く分からないのは不気味だが、外と連絡も取れない以上は誰が味方か確かめようもない。
……扱っている情報からして、恐らく高い地位にあるだろうと予測は出来るのだが、イワンコフにわかるのはそこまでだ。
「で、脱獄はいつするんだ?」
「まだしばらく脱獄する気はないわよ。ヴァターシはドラゴンと共に革命をする!! 彼が動くときがヴァターシの脱獄の時!! だからしばらくはここで生活してもらうことになるわね!」
「オイオイそりゃ本気か!? おれァ海賊やりてェんだよ!! こんなとこさっさとオサラバしてェんだよ!!!」
「じゃあ檻の中に戻る? 脱獄するにしても、入念に準備をしないとどのみち捕まって拷問されるだけよ」
勤務時間の短いマゼランはさておき、不定期にインペルダウン内をうろつくシリュウにでも見つかれば酷い目に合うのは確実だ。
それを聞いたバギーは「ぐぬぬ」と唸り声をあげ、脱力したように机に突っ伏した。
「おれの海賊人生が……アルビダにモージにカバジ、あいつら元気にしてりゃあ良いんだが……」
「気落ちせずとも、ここ最近の海の情勢は悪化していく一方のようだし、革命の機運も高まっているわ。ヴァターシ達がシャバに戻る日は近い」
バギーには教えられないが、〝革命軍〟のバックには〝黄昏〟もいる。
酒を片手に突っ伏したまま、バギーは「本当かよ」と懐疑的な視線を向ける一方、イワンコフはドンと構えてスイカに皮ごとかぶりついていた。