第二百八話:〝フランキー一家〟
この世界はクソだ。
まともに生きるには人権を認めてもらうには莫大な天上金がいる。
金を得る方法は幾つかあるが、天上金とは国の人口に比例して多くなるものだ。場合によっては
人権を認められない場合、海軍や世界政府の庇護を受けられないだけでなく、奴隷狩りの対象となることさえあった。
どこまでも天竜人を中心として考えられた治世。
〝
だから、島を出た。
……島を出たところで、世界を取り巻くルールが変わるわけでもないのだとわかっていながら。
☆
嵐に酷くやられたゴーイング・メリー号では航行は困難だと、ロビンの提案で海難救助を頼むことにした。
〝黄昏〟が発案、提供する海難救助とは、電伝虫を特定の番号へ向けて発信することで〝黄昏〟の影響下にある島に設置された電波塔で念波をキャッチし、三角測量の要領で船の位置を伝えるというシステムによって成り立っている。
対応する電伝虫そのものは存在せず、世界中のどこで発信しても近場の電波塔がそれをキャッチすることで対応出来る。
もっとも、近場の島から船を出すのでそれなりに時間がかかるし、金もかかるので出来れば世話になりたくない者も多い。それでも命には代えられないと助けを求める者が多いのだが。
「オメェらが救助を要請した海賊か?」
その男たちがやってきたのは、救助を要請してからおおよそ一日半ほど経ってからだった。
三角測量で大まかな位置は分かるとはいえ、精度の高さはそれほどでもない。障害物の無い大海原は見晴らしがいいが、それでも潮に流されることもあれば天候次第で発見が遅れることもある。
救助を要請してから一日半なら十分に早い方と言えるだろう。
助けを呼んだルフィたちはと言えば、やることも無いのでラジオを流しながら各々暇そうに釣りをしたり筋トレをしたり本を読んだりと好き勝手していた。
「ア~~~~ウ!! 余裕そうじゃねェかオメェら!! だが、船の状態は見りゃわかる! よくこの状態で生きてたもんだぜ! 運が良いな!!」
その男は両腕を上げ、体を傾けて謎のポーズを取る。後ろの四角い髪型の女性2人も同じようにポーズを取り、男は格好つけて名乗った。
「おれの名はフランキー!! 解体屋兼船大工をやってるフランキー一家の棟梁たァおれ様のことよ!!!」
海パンにアロハシャツ、青い髪をリーゼントにしたサングラスの男と、この男の方が海賊だと言われても信じてしまいそうな雰囲気がある。
思わずポカーンと眺める一同の中で、チョッパーが思わず呟いた。
「なんだ、あれ……」
「知らねェのかチョッパー。あれは変態だ」
「あれが変態なのかー」
「オイオイ長鼻の兄ちゃん、そんなに褒めるなよ」
「いや褒めてねェよ」
何故か照れるフランキーに思わず手を振って否定するウソップ。
変態であることに誇りを持つフランキーにとって、その言葉は否定や罵倒の類ではなく誉め言葉になるのだろう。
ウソップにはちょっと理解出来ないタイプの男だ。
「何はともあれ、まずはこのおれに船を見せてみな!
「おお、そりゃ頼もしい! 頼むぜ海パン男!」
「モズ、キウイ。オメェらは曳航の準備しといてくれ」
「分かったわいな」
「任せるわいな、アニキ」
船大工としての実力は分からないが、救助に来た以上はそれなりに腕のいい技術者なのだろうと考え、ウソップはフランキーを連れて船内へと入っていく。
今のうちに曳航の準備を進めるらしく、モズとキウイと呼ばれた2人が指示を出して太いロープを持ち出していた。
この手の仕事に慣れているのか、フランキー一家と呼ばれた男たちはテキパキと動いて曳航の準備をしていく。
ルフィたちは特に手伝うこともなく手持無沙汰にしていたが、フランキーに次ぐまとめ役であろう男──ザンバイがメリー号に乗り込んで諸々の説明をし始めた。
「この船の船長は誰だ?」
「おれだ」
「私が航海士。船の事なら私も聞くわ」
「そうか。じゃあ、今回の費用なんだが」
当然だが海難救助は無料で助けてくれる制度ではない。あくまで生存率を上げるだけのもので、金さえ払うなら海賊だろうと何だろうと助けるのが仕事である。
フランキー一家は下請けなので、金さえ払えば素性にも興味はない。
「そもそも金持ってるのか?」
「ああ、あるぞ。8億」
「8億!?」
「ちょっとルフィ! 勝手にうちの財政事情話さないで!!」
「いいじゃねェか。減るもんじゃあるまいし」
「減るかもしれないでしょ!? 考えなしに喋るの止めなさいよ!」
びよーんとルフィの頬を思いきり引っ張るナミ。いかにルフィが船長だと言っても、ナミに口で勝てる日は来なさそうである。
海賊など基本的にその日暮らしの自転車操業が基本だ。多少貯蓄がある場合でも、精々食料や医薬品を買うために貯め込んでいる程度で、百万を超えるような金など持たないことが多い。
それを優に飛び越えて億などと言うものだから、ザンバイも目を丸くしていた。
「そうか、それだけあるなら心配はねェだろう。船の修理費と救助費用諸々合わせて1億だ。耳を揃えて払ってくれ」
「「フザけんな!!」」
あからさまに吹っ掛けた金額にナミとルフィがキレた。
まぁそりゃそうかと、ザンバイは頭を掻きながら訂正する。
「最低価格は50万くらいだ。上乗せがどうなるかは、まぁどの程度応急処置が必要になるか次第だな」
船を動かす人件費と船の応急処置に使う材料の値段を加味すれば、これでも安い方だ。
どうしても払おうとしない海賊は、賞金首を海軍に引き渡して残った船は使える部分を材料に使いまわすので、どちらかと言えばそちらの方が儲けは大きいくらいである。
ナミは微妙に渋い顔をしていたが、大金が手元にあることと安全には代えられないと金額に納得する。
諸々の説明が終わったところで、フランキーとウソップが甲板に戻って来た。
「あ、アニキ! どうでした?」
「ちっとばかし処置が必要だな。水漏れと舵は最低限直しておかねェと駄目だ。それ以外は後回しでも沈みやしねェ」
言うが早いか、フランキーは一度戻ったかと思えば材料と道具を手に持ってメリー号の中へ入っていく。
ウソップは興味深そうにフランキーの処置を見ており、あっという間に水漏れの穴と壊れた舵を修繕していく手際の良さに感嘆の息を漏らした。
「ほー……スゲェな、こんなキレイに直るモンなのか」
「そりゃ兄ちゃん、おれはこの道20年だからな。ナメて貰っちゃ困るぜ」
「20年!? スゲェわけだな……」
「しかし、オメェらの乗るこの船も良い船だな。ヘタクソだがきちんと手入れされてる。大事に乗って貰ってる船ってのは分かるモンだ」
「ヘタクソで悪かったな」
綺麗に穴を塞ぎきれず水漏れしていた修理の痕を撫でながらフランキーが笑うと、ウソップが拗ねたように鼻を鳴らす。
ウソップにせよ、ゼポにせよ、船大工ではなく単に少し器用だから船大工の真似事をやっていたに過ぎない。
やはり本職に比べれば大きく劣ってしまうものだ。
フランキーはウソップの様子を見て「悪かったな」と笑い、残った材料と道具を持って甲板へ上がる。
「ここからだと……近いのは〝バナロ島〟か。ザンバイ、ひとまず〝バナロ島〟に向かう。舵取れ」
「え、〝ウォーターセブン〟じゃねェんですか?」
「ああ。ひとまずそこで総点検が必要になりそうだ」
「了解です、アニキ!! 野郎ども、目的地は〝バナロ島〟だ!!」
ザンバイの指示に従い、船はゆっくり旋回して〝バナロ島〟へ向かう。
フランキー一家の船は二頭の謎の生物が曳いており、風向きを気にせず海を渡っていた。
フランキー本人は自分の船に戻らず、メリー号の船内でサンジにお茶を貰っていた。
ルフィとチョッパー以外の面々は船内にいて、船を曳く馬のような生物を不思議そうに見る。
「あれ何なんだ? 見た事ねェ生き物だ」
「ありゃ〝ブル〟って生き物でな。いくつかランクがある中で最上級の〝キングブル〟って種類さ。これくらいの船なら軽々曳いちまう」
「へー……珍しい生き物がいるんだなァ」
「世の中海獣に船曳かせたり、海王類さえ食っちまうような生き物に曳かせたりもする。〝キングブル〟は〝ウォーターセブン〟以外じゃあまりみねェけどな」
海を渡るのは命懸けだ。
天候は元より、海賊や海獣、海王類に襲われることだって十分にあり得る。
フランキー一家の乗る〝バトルフランキー55号〟には多くの武装が載っていて海王類さえ仕留めて見せるが、巨大な嵐を前にすればなすすべなく沈む可能性は常にある。
船の多くは風に左右されるが、生き物に曳かせるのはそう言った荒れた天候でも風向きに左右されず進めると言う利点がある。
生き物なのでその日の調子に左右されることもあるので、絶対ではないが。
「ところであのタヌキは何してんだ?」
「ああ、チョッパーは動物と喋れるんだ。お前らのとこの〝キングブル〟と喋ってんだろ」
「ほー。
〝バトルフランキー55号〟の船首付近で〝キングブル〟と話すチョッパーを不思議そうに見ていたフランキーだが、ウソップの言葉に納得を見せる。
悪魔の実は人知を超えた異能だ。理解は出来なくとも〝そういうものだ〟と納得は出来る。
「ここから〝バナロ島〟までは1日くらいだ。その間、船を点検させてもらうが構わねェか?」
「ああ、どうせこの船もドックに入れて修繕してもらおうと思ってたんだ。事前に見ていてくれるんならありがてェ」
「だがウソップ、その変態の腕はいいのかよ?」
「ア~~ウ、ナメた事言ってくれるじゃねェの、ぐるぐる眉毛の兄ちゃん。おれァこの道20年! 〝黄昏〟からの信頼も厚い船大工だぜ!?」
「確かに、海難救助は〝黄昏〟がおこなっている事業。それでここに来ている以上、腕は確かだと判断していいと思うわ」
「……まァ、ロビンちゃんがそう言うなら」
サンジの疑問にロビンが答えるとひとまず納得した様子を見せるサンジ。
一方で、その名前にフランキーが反応していた。
「……ニコ・ロビン?」
サングラスをかけているのでどんな目をしているかは分からないが、フランキーはロビンの方を驚いたように見ていた。
ロビンの方は面識が無いので反応は無い。ロビンは懸賞金を掛けられて長く、金額もそうだが〝オハラ〟の生き残りだからと気にかけている者は多い。
今回もその類だろうと考え、表面上は気にしないようにしつつもフランキーの反応を窺っていた。下手をすれば政府や海軍が飛んできかねないからだ。
「なんだお前、ロビンちゃんのこと知ってんのか?」
「知らねェ方がおかしいだろ。そいつは……いや、いい。お前らだってわかって乗せてんだろうしな。それよりお茶のお代わりくれ」
「熱いから気ィつけろ」
「おう、ありがとよ兄ちゃん……で、だ。船をどうするかも含めて考える時間は必要だろ。金の用意もあるだろうから、数日時間を……ぶあっちィ!!」
「今熱いから気ィ付けろって言っただろ!」
思っていたより熱かったのか、フランキーは口を付けたお茶にびっくりしてひっくり返った。
☆
そうして、フランキーの予想通り一日ほどで一行は〝バナロ島〟へと辿り着いた。
あらゆるものを賭ける、ギャンブルの聖地──〝祭り屋〟ブエナ・フェスタの治めるその島へと。
来週はお休みです
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