ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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メリクリ


第二百九話:バナロ島

 

 フランキー一家に曳航されて辿り着いた〝バナロ島〟に着くなり、ルフィたちは特徴的な巨大な岩を見上げた。

 〝バナナ岩〟と呼ばれる、バナロ島のモニュメントのようなものである。

 用意されている港の一角に船を停めると、フランキーは船を降りてルフィたちへと言葉を投げかけた。

 

「オウ、お前らちょっと待ってな。〝ウォーターセブン〟までの海列車に船を載せるよう予約して来るからよ」

「……ちょっと待ってフランキー。海列車って何? それに船を載せるって」

「あん? なんだ、オメェら海列車を知らねェのか?」

 

 ナミの疑問にフランキーはサングラスをずらして驚いた。

 これほど便利で素晴らしいものを知らないなんて、とでも言いたげな顔である。

 

「海列車ってのは、〝記録指針(ログポース)〟も無しに島から島へと物を運ぶ列車さ。蒸気機関を使って外車(パドル)を回し、線路を走るだけで島の往来が可能になるっつー素晴らしい発明だ!」

「島から島へ……? それに、蒸気機関を使った外車(パドル)……?」

 

 イマイチ想像しにくいのか、ナミの頭の上には疑問符がいくつも浮かんでいる。

 フランキーは「実物を見ねェと想像はしにくいだろうな」と笑い、ついてこいと誘って駅の中へと入っていく。ナミはルフィと顔を見合わせ、ウソップやチョッパーなどと共に興味津々と言った様子で船を降りていく。

 港から少し離れたところにある海岸沿いに駅が建てられており、入口でフランキーが駅員と何かを話している。

 その間に外から駅を見ていると、「ポッポー!!」とけたたましい音が響いてきた。

 

「な、なんだ!?」

「おい、あれ見ろよ!!」

 

 海の上を黒い煙を吐きながら走る船──〝海列車〟パッフィング・トムである。

 初めて見る列車に唖然としつつも、速度を落として駅に停車した海列車を見続ける。

 それに気付いたフランキーが自慢気な表情で、ルフィたちの視線を辿って海列車へと視線を向けた。

 

「どうだ、スゲェだろ? あれが〝海列車〟パッフィング・トムさ! トムって偉大な船大工が作ったんだぜ!!」

「ああ、スゲェ。驚いた……」

「蒸気で外車(パドル)を回して……水面の少し下で揺れてるこれが線路なのね? なるほど……」

 

 驚いたように目を白黒させるルフィの横で、ナミは海列車がどうやって移動しているのかを理解していた。

 確かにこうすれば島から島へ移動出来る。普通の帆船と違って移動時間もかなり短縮されるだろう。もっとも、ナミにわかるのはそこまでで、詳しい原理などはさっぱり分からない。

 フランキーは誇らしいのか、鼻の下を擦りながらルフィたちの称賛の声を聞いていた。

 

「こんなの作るなんて、スゲェ奴もいるんだな」

「ああ、トムさんは偉大な船大工だからな! 〝ウォーターセブン〟の船大工にとっちゃ、憧れでもあるし超えたい人でもあんのさ」

「へェ……」

「凄いわね……ところで、さっき言ってた海列車に船を載せるって、まさかあれにメリー号を載せるって事?」

「……いや、流石に船は載らねェだろ!?」

 

 見た目的にも船が載るような大きさには見えない。どうするつもりだ、とフランキーに視線を向けると、フランキーは呆れたように肩をすくめた。

 

「あれに船が載る訳ねェだろ。船を載せるのは専用の車両がある。予約ってのはその車両を連結してきてもらうことだ」

「あ、そういう……」

 

 流石に客室の上に船を載せる訳にはいかない。

 メリー号くらいの船なら専用の車両があるらしく、それに積んで運んでくれるらしい。

 巨人族が入ることを想定しているためか、駅はかなり広めに造ってある。メリー号程度の大きさの船なら十分に駅の構内に入るし、積み込みも可能なのだろう。

 問題は誰が積み込むのか、と言う話なのだけれど。

 

「心配しなくても積み込みは向こうがやる。オメェらは金の心配だけしてろ」

「そう、それよ! いくらかかるの!?」

「船の移動はそんなにかからねェ。列車の運行のついでに人件費と輸送費乗せるだけだから、せいぜい10万ってトコだ。問題は船の修理費の方だな」

 

 海の上では船の総点検が出来なかったのでこれから診ることになるが、修理の場所や量によっては中古の船を新しく買いなおした方が金額的に安い場合もある。

 その場合でも引き取った船の解体のためにウォーターセブンに移動しなければならないので、どちらにせよ必要ならと先に海列車の予約を取りに来たのだ。

 

「まーでもそっちは心配いらねェよ。金はあるから」

「お、強気だな麦わらの兄ちゃん。船一隻いくらするか知ってんのか?」

「知らねェ。けど──」

「はいはいそれ以上は喋らないの。とりあえず金額の心配はしなくていいわ。よっぽど法外な金額じゃなきゃ、私たちの方にも蓄えはあるから」

「そうか。まァ海賊の蓄えってのは大抵ロクでもねェもんだが……聞かねェでおこう」

「それで、予約って言ってたけどいつなの?」

「明後日だ。点検はそれほど時間もかからねェが、暇だろうからこの島回ってくるといいぜ」

 

 フランキーが島の内部を指差すと、ルフィは「じゃあそうしよう」と楽しそうに足を向け、即座にナミとウソップに止められる。

 ルフィ1人で町に放り出してもトラブルしか起こさないのは分かり切っている。一度船に戻って船番を残しつつ、補充するものがあれば補充に行く必要もあるのだ。

 ……予定が狂ったので食料品の振り分けも調整が必要だ。

 

「とにかく、一旦船に戻りましょ! 今後の予定は共有しておかないと」

「そうだぜルフィ! 一旦戻ろうぜ」

「…………わかった」

「イヤそう!」

 

 これでもかとばかりに嫌そうな顔をするルフィにチョッパーが思わずツッコんだ。

 

 

        ☆

 

 

「ああ、そうだ。この町での注意点だが……」

 

 忘れていたとばかりにフランキーが振り返った時には、既にルフィたちは船に戻っていた。

 ポリポリと頬をかき、「……まァ1日2日でどうなるって訳でもねェか」と気を取り直してから海列車の予約のために書類を書く作業に戻った。

 受付の歳を食った男は軽く笑い、さっきまでいたルフィたちを思い返す。

 

「ギャンブルとは無縁そうだが、煽りに弱ェ海賊も多いからな。新聞には載ってねェが……これ、見てみな」

「あん? ……ちょっと待て、〝麦わら〟のルフィ、懸賞金1億ベリーだと!?」

「海賊ってのは見た目じゃ分からねェもんさ。お前さんだってわかるだろう?」

「……そうだな」

 

 フランキーは船大工として活動し始めてからそれなりに長く、その分多くの海賊を見てきたが、億超えの賞金首を見たのは数える程しかない。

 年に3人から4人出る危険な世代だと言われることもあれば、1人も億を超える賞金首が出ない年もある。

 海賊として逸材ではあるが、多くの悲劇があったうえで認定されているのだから世の中としては生まれない方が良い存在でもあるのだ。

 最近新聞を賑わせるような名前の中にルフィの名はなかったハズだが、逆に言えば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()である可能性もある。

 

「ここ最近は特に数が多い。この島にももう1人、いたハズだ……面倒事を起こしてくれなきゃいいがね」

「ここは〝黄昏〟のシマだろ? あの人を敵に回そうとする海賊がいるとは思えねェが」

 

 フランキーの言葉に男は顎を撫でながら首を横に振った。

 

「そんな損得勘定が出来る奴が海賊になどなるものか。大抵の海賊は夢見がちな大馬鹿者か、他人から奪う事に快楽を覚える大馬鹿者のどちらかさ」

 

 バナロ島は元々無人島だった。

 そこに他所の島から逃げて来た者たちで新しく開拓村を作り、生活の基盤を作り、海賊に襲われて全滅しそうなところで〝黄昏〟に助けられた。

 巨人族と比べてもなお巨大なフェイユンが腕の一振りで船ごと粉々にしてしまうさまは、男の目にくっきりと焼き付いているほどである。

 そこからはあっという間だ。

 最初は貿易の拠点として整備され、途中から治める者が変わって町づくりの方向性が変わり、現在は海賊相手に酒と食事とギャンブルを提供する島になった。

 

「……アウアウ、アンタも苦労してんだなァ~~」

「なんでアンタが泣いてんだ」

「バカ! 泣いてねェよ! バカ!」

 

 だばーっと滝のように涙を流すフランキーを見て、感傷的な気分が引っ込んだ。

 男は苦笑しながら小さいため息を吐き、「さっさと書類書いちまえ」と促す。喋ってばかりで書類が進んでいなかった。

 

 

        ☆

 

 

 船に戻ったルフィたちが見たのは、やや剣呑な雰囲気で船から降りて会話していたゾロとサンジの2人だった。

 2人がケンカしているわけではない。睨みつける程の眼光で見ているのは、1人の男だった。

 もじゃもじゃ頭にサングラスをかけ、ゾロとサンジの2人を前に一切腰が引けていない。口元には葉巻がくわえられており、出っ張った腹とは裏腹に姿勢は良かった。

 

「何してんだ、ゾロ、サンジ」

「帰ったのか、ルフィ」

「お前に客だよ。お前を出せってうるせェんで、静かにさせようかと思ってたトコだ」

 

 煙草をふかすサンジの視線は強い。単にルフィを出せと言うだけでなく、かなり挑発されたのだろう。戦えるようにも見えないが、この島で面倒事を起こすと船の修理に差し障ると考えて手を出さなかったのかもしれない。

 もじゃもじゃ頭の男は振り返り、サングラスをずらして自身の目でルフィを捉える。

 ウソップとチョッパー、ナミの3人はその眼光の鋭さにささっとルフィの背に隠れ、様子を窺うようにそーっと顔を出した。

 

「だ、誰!?」

「フーっ……お前が〝麦わら〟か?」

「ああ。おっさん誰だ?」

 

 男の威圧感など意に介さぬとばかりに、ルフィはいつもの調子で誰何した。

 男は小さく笑い、胆力はあるようだと認めて名乗る。

 

「おれァフェスタ。ブエナ・フェスタって言やァわかるか?」

「知らねェ」

「バカ! 何で知らねェんだよ! ブエナ・フェスタって言ったら、〝海賊王〟と同じ時代を生きた海賊だろ!?」

 

 その辺りの事情は流石にウソップでもわかるのか、ルフィの腰をバシバシと叩きながら叫ぶ。

 〝祭り屋〟フェスタの名は方々で知られている。海賊の海賊による海賊のための祭りと称し、様々な場所でパトロンから資金提供を受けつつ様々な祭りを開催しては参加する者も見る者も楽しませるエンターテイナー。

 そんな男が、ルフィに何の用だと指差すウソップ。

 それに対し、フェスタはジロリとウソップを睨みつけた。

 

「〝海賊王〟と同じ時代を生きた、か……笑わせんじゃねェ! そんな奴はいくらだっている。同じ時代に生まれて生きて海賊やってりゃ偉いのか? 違ェだろ!? 重要なのはその時代に何をして知られるようになり、どんなことをして熱狂を伝播させたかだ!!」

 

 「違うか!?」と睨みつけられ、ウソップは半分ビビりつつもフェスタの言い分に理解を示す。

 分かればいいとフェスタは上がったテンションを無理矢理下げ、ルフィへと視線を戻した。

 

「知ってるぜ、〝麦わら〟のルフィ。〝東の海(イーストブルー)〟イチの出世頭。〝道化〟のバギーに〝首領(ドン)〟クリーク、それに〝ノコギリ〟のアーロンを倒して3000万。クロコダイルを倒して1億の首になったんだって?」

「……!」

「驚くなよ。おれァ今はカナタのトコで世話になってんだ。色々耳にも入ってくる……で、だ。ひとつ、聞きてェ」

 

 サングラスを外し、葉巻を手に持って、フェスタは真剣な面持ちで問いかけた。

 

「お前、なんで海賊やってんだ?」

 

 対し、ルフィの答えは実に簡潔。

 

「〝海賊王〟になるためだ」

 

 一切迷いも逡巡もない答えだった。その即答ぶりに、思わずフェスタも目を丸くする。

 ルフィの目には迷いがない。それだけを目的としていることがハッキリとわかり、遊びや誤魔化しで言っているわけでは無いことなどすぐにわかった。

 

「そうか、〝海賊王〟か……ハッハァ!! ハハハハハハ!!! い~ィ表情だ、モンキー・D・ルフィ!! 気に入ったぜ!! ──だが、お前じゃ〝海賊王〟は無理だ。諦めな」

「何ィ!?」

「やる気云々じゃねェ。今のお前じゃあ弱すぎる。誰がその座を狙ってると思ってんだ? 誰と競おうと思ってるかわかってんのか? 分かってねェんだろうな! そのままじゃあ、テメェはプチっと虫みてェに潰されるだけさ!!」

 

 何がおかしいのか、フェスタは腹を抱えてげらげらと笑う。

 ルフィが拳を握った時には、既にウソップがパチンコを構えて〝火薬星〟を放っていた。

 しかしフェスタはそれを見ていなかったにも関わらず、僅かに体を逸らして回避する。目を丸くするウソップを尻目に、フェスタはひとつの提案をした。

 

「だがお前は良い時にこの島へ来た。お前、おれの興行に出る気はねェか? いいモン見せてくれたら、礼にこの先で必ずぶつかる敵って奴を見繕って用意してやる! この先、お前が〝海賊王〟になるなら超えなきゃならねェ敵ってのが数多くいる。そのレベルを知っておくのは悪いことじゃねェぜ」

「こ、超えなきゃいけない敵ってなによ!」

「敵は敵さ。〝海賊王〟を狙う同業他社なんざ、この海には掃いて捨てる程いるんだぜ!」

 

 少なくとも本気で狙っている怪物が2人いる。回避するにせよぶつかるにせよ、この先の海のレベルを知ることは決してマイナスにはならない。

 そして、それは決してルフィだけに留まる話ではない。

 

「お前の部下も連れて来い! その程度で〝海賊王〟のクルーを名乗るなんざ笑わせるぜ!」

 

 威勢だけじゃこの先の海じゃ通じない。

 かつてクロコダイルも言っていた。ルフィはこれまで若さと勢いだけで突き進んできたが、必ずどこかで立ち止まる時が来る。

 どうせいつかは戦わなきゃいけない敵なら、今のうちに知っておくのは決して悪いことではない。

 ゾロは少なくともそう感じていたし、空島でマラプトノカや小紫の怪物さを目の当たりにしてからは、決して若人を脅すための常套句などではないと肌で感じていた。

 だが、決めるのはルフィだ。

 ゾロはあくまでルフィの顔を立てるつもりで、自身の意見を告げようとはしなかった。

 

「どうする、〝麦わら〟!?」

「やる」

「ルフィ!?」

 

 ナミとウソップが愕然とした様子を見せる。

 いくら煽られたからと言っても簡単に挑発に乗り過ぎではないのか。止めてくれとゾロに視線を向けるも、ゾロもまたやる気で狂暴な笑みを浮かべていた。

 その時、ナミとウソップ、それにチョッパーは悟った。味方はいないのだと。

 




今年の更新はこれでおしまいです。
遅々とした進みですが、今年も筆を折らずに済みました。来年も頑張って書きますのでよろしくお願いします。

ちなみにフォクシー戦は基本的に原作ロングリングロングランド編と同じなのですっぱり飛ばす予定です。
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