本年もよろしくお願いします
ブエナ・フェスタの興行とはゲームである。
いくつかある種目の中から選んだゲームを連続して行い、互いに賭けたものを奪い合う。
ただし、
船だけは暗黙の了解で奪わないことになっているが、それ以外──金、物資、
〝デービーバックファイトによって奪われた仲間、
〝勝者に選ばれ引き渡された者は、速やかに敵船の船長に忠誠を誓うものとする〟
〝奪われた
以上を〝敗北の3ヶ条〟とし、互いの了承の下で宣誓してゲームは決まる。
「今回はオーソドックスな3コインゲーム、つまり3つのゲームで奪い合ってもらう。いいな?」
「構わねェ」
「フェーッフェッフェッフェ!! 随分な自信だな〝麦わら〟ァ! おれをこのゲームで負けたことのねェ〝銀ギツネ〟のフォクシーと知っての言葉かァ!?」
「お前のことは知らねェ。誰だお前」
「知ら……ない……?」
「ぷーっ!! ぷぷぷ」
ルフィが全く知らないことに気落ちしたフォクシーとその部下ハンバーグを尻目に、フェスタはゲームの説明を続ける。
3つのゲームの参加人数は3人、3人、1人で必要人数は7人。麦わらの一味は9人いるので2人余るのだが、誰が出るかでナミとウソップは即座に辞退した。
ただでさえ危険なゲームだ。自分がそれほど強くないと自負があるナミとウソップは出ようとは思わない。
「まァ誰が出るかは決定だな」
一つ目のレースにはロビン、ゼポ、ペドロ。
二つ目の球技にはチョッパー、ゾロ、サンジ。
三つ目の戦闘にはルフィ。
誰を取られても参加者の変更は出来ないため、仮にゾロを取られれば二つ目のゲームでは2人でゲームをすることになる。
戦闘に誰が出るかで若干揉めたが、最終的にこの形に落ち着いた。
「それじゃ、ゲーム開始としようじゃねェか。デービー・ジョーンズにゲーム開始の報告だ!!」
指で弾いた3枚のコインは高々と宙を舞い、海へと落ちて開戦の合図となった。
☆
「気が付いたらえらいことに巻き込まれてやがんな……」
まさかちょっと目を離した隙にデービーバックファイトをやることになっていたとは思わなかった。フランキーは「思っていたより喧嘩っ早いな」と呟きつつ、近くの店で箱買いしたコーラを一本取り出して傾ける。
コーラ特有の強い甘みと炭酸で喉を潤し、周りの観客同様にルフィたちのゲームを肴にする。
始まってしまったものは仕方がないし、どうせやるなら派手に盛り上げて楽しむのがフランキーの性分だ。
横に座る妹分のモズとキウイも屋台で買った焼きそばを手に麦わらの一味を応援している。
誰もメリー号のことなど気にしていないが、フランキーの舎弟の中でもまとめ役のザンバイだけはそれを気にして後ろから話しかけた。
「しかしアニキ、あいつらの船を見るんじゃないんですか?」
「……あァ、構わねェだろ。もう見たからな」
「もう見たんですか!? 相変わらず早いっすね……」
フランキーは船大工としてそれなりに長い。ザンバイたちはまだ見習いと言っていい年数しか携わっていないので分からないことも多いが、フランキーならばあっという間にどこが悪いのか見抜いて直してしまう。
こればかりは長年の経験もあるが、今回ばかりはフランキーもザンバイを叱らなくてはならない。
「バカ野郎! あの船見りゃ一発で分かんだろ!」
「すんません!! ……その、どこを見れば良かったんですかね」
「甲板が中心からズレてる。ありゃ竜骨がやられた時特有のズレ方だ」
「竜骨……って、じゃああの船……」
「……そうだな。いつ沈んでもおかしくはねェだろ」
船は竜骨を基礎として組み立てられる。甲板がズレれば船全体のバランスがズレて危険だし、折れたマストのせいで余計に船が傾いていたからザンバイもわからなかったのだろう。
マストや舵、甲板の穴は修理すれば何とでもなるが、土台となる竜骨が破損していてはどうにもならないし、竜骨を取り換えることも出来ない。
竜骨を取り換えるということは船を一から作り直すことと同義だからだ。
ザンバイはそれを理解して口を噤み、フランキーを見る。
「あのままウォーターセブンまで連れて行こうと思ったが、下手すりゃ辿り着けずに船が沈む危険もあった。船大工1人仲間にしてねェ〝麦わら〟の怠慢と言えばそれまでだが、少なくともヘタクソなりに船を修理して大事に乗ってたのは事実だ。おれは船を大事にしねェやつは嫌いだが、ちゃんと大事に乗ってることが分かる奴は嫌いじゃねェ」
船を大事にしながら航海してきたことはフランキーにもわかった。
だが、それはそれとして船が限界であることも分かった以上、そのまま航海を続けさせることは船大工として認められない。
知った上で船と一緒に心中する気なら止める気も失せるが、彼らの意思はまだ確認していないのだ。
だから多少金がかかってもバナロ島を経由して海列車で船を運ぼうとしていた。船を大事にしすぎてフランキーの言葉に受け入れられずにそのまま航海へ出る可能性もあったというのに。
「アニキ、そんなだからウチの資金繰りはカツカツなんだわいな」
「アニキのそういうところは美徳だけど、あんまり続いたらウチは破綻するわいな」
「うぐっ……」
2人の妹分の言葉にギクリと体をこわばらせるフランキー。
相手の必要以上に手を焼くうえ、宵越しの銭は持たないなどと言い張ってあちらこちらで宴をするものだから、フランキー一家は基本的に自転車操業なのだ。
基本は造船業の仕事だが、たまに賞金首を捕まえて海軍に突き出す賞金稼ぎの仕事で日々の糧を得ているくらいである。
口を尖らせてキウイとモズの説教を聞いていると、すぐ近くに来た誰かが声をかけて来た。
「おや、お困りですか?」
「あん? ……マラプトノカか。何の用だよ」
「何の用だ、とはまた随分なご挨拶ですね。わたくし、あなたとそれなりに取引してきたと思うのですけれど」
フランキーの左側、キウイを挟んでもうひとつ隣に腰を下ろしたのはマラプトノカだった。
相変わらずのスーツ姿だが、今日は珍しくサングラスをしている。
「サングラスを付けてるのは珍しいな。イメチェンか?」
「違います。わたくし、ちょっと色々あって〝黄昏〟と敵対しているので変装です」
サングラスをかけただけで変装になるわけねーだろ、とフランキーは思ったが、空気を読んで黙っていることにした。
ぐびぐびとコーラを流し込むフランキーに対し、マラプトノカは静かに広場に設置されたモニターでルフィとフォクシーのデービーバックファイトを見る。
モニターから目を離さないまま、マラプトノカはフランキーに話しかける。
「フランキーさん、最近船造りの仕事って受注されました?」
「なんだいきなり。受けてねェが……」
「ふむ……」
モニターから目を離さないまま考え込むマラプトノカに、フランキーは思わず眉根を寄せる。
「オイ、今の質問に何の意味があるんだ」
「いえ、特段大きな意味があると言うワケでは無いのですけれど……ここ最近、〝黄昏〟があちらこちらで新型の船を造っているらしいので、もしやフランキーさんのところにも注文が入っているのかな、と思っただけです」
「新型の船だァ? そういうのはアイスバーグの野郎のところの仕事だろ」
「わたくし、フランキーさんの腕は認めているのですよ? いつも海パン姿の変態ですけれど」
「変態だとォ……? おいおいそんなにホメんなよ~~照れるじゃねェか」
「褒めてませんが」
本気で照れているフランキーに思わずツッコミを入れるマラプトノカ。
とは言え、〝黄昏〟が新型の船を造っているというのはフランキーにとっても聞き逃せない情報だ。いち船大工として純粋に興味がある、
どんな船なのかと尋ねるも、マラプトノカもまだ詳細は分かっていないようで首を横に振った。
「何もわからず、新型の船を造っているという噂話が聞こえて来たから裏を取っている最中なのですよ」
船造りにはそれなりに人数が必要になる。船の大きさにもよるが、ガレオン船と同じ規模ならウォーターセブンの誇る船大工でも数十人規模で動員される。
どれだけ緘口令をしこうとも、人の噂に戸は立てられない。
〝黄昏〟の新型船となれば海軍も政府も高値で情報を買ってくれるだろう。
ここ最近は世界政府内でも対〝黄昏〟の声が大きくなっている。百獣・ビッグマムの海賊同盟相手に大暴れしたらしいのでその関係だろうとマラプトノカは睨んでいた。
実際、マラプトノカ自身も小紫と言う海軍大将にも匹敵する戦力と一戦を交えたのだ。警戒するのはむしろ当然だと考えている。
「新型の船、ねェ……ウォーターセブンで造ってねェなら〝新世界〟のどこかじゃねェのか?」
「その可能性が高そうですね」
〝新世界〟にある〝黄昏〟の影響下にある島は対四皇や対政府のために色々と防諜対策がしてある。警戒が強いので情報を得るのは容易ではない。
困ったこと、とため息を吐くと、何かを感じ取って勢いよく後ろを振り向く。
「──っ!?」
白銀に赤いメッシュが数か所入った髪。精悍な顔立ちと鍛え上げられた肢体。
堂々たる風格を纏ってマントをなびかせるその男は、まっすぐにマラプトノカの下へと歩いて来た。
この距離まで気付かなかったことにマラプトノカは歯噛みし、近付いて来るその男を睨みつけながら近付いて来るのを待つ。
「お前がアルファ・マラプトノカか?」
「……ええ。お初にお目にかかりますわね。お名前を聞いてもよろしいかしら?」
そう言いつつも、マラプトノカはどうにか戦闘を回避して逃走経路を確保しようと視線を巡らせる。
戦っても負けるとは思っていないが、つい先日同じことを考えて酷い目にあったばかりだ。多少なりとも警戒してしまう。
「おれはユイシーズ。〝黄昏の海賊団〟傘下のひとりだ」
「〝冒険男〟が誰かの傘下に入ったことにも驚きですけれど、わたくしに何か御用でも?」
「ああ、聞きたいことは色々ある。我々に敵対行動をとったお前が何故ここにいるのか、とかな」
一触即発の雰囲気にフランキーたちも遠巻きにしているが、この島には根本的にフェスタの集めた海賊が多い。
ケンカ上等と言わんばかりに囃し立てる者たちも多い中、フランキーは自分のコーラが入った瓶を守るように抱え込んで距離を取った。
大事な自分の燃料である。壊されてはかなわない。
「色々と知りたいことがあるのですよ。直接聞いても教えてもらえなさそうなので、訪ねて回っているところです」
「そうか──少々迂闊だったな」
バチバチと白い火花が飛び散り、2人の拳が衝突した。