ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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第二百十一話:〝冒険男〟

 

 マラプトノカとユイシーズの衝突によって発生した衝撃波は辺りにいた者たちを吹き飛ばし、騒然とさせるには十分すぎるほどだった。

 場末のチンピラ同士の喧嘩や〝楽園〟の海賊同士の戦いならば慣れた者も多いが、覇気使い同士の戦いなど早々みられるものではない。

 ケンカを煽った者も囃し立てた者も、2人の戦いの本気さに冷や汗をかいて這う這うの体で逃げ出していた。

 とはいえ、派手な衝突音に気付いて逃げ出す者もいれば、興味を抱いて遠目に眺める者がいるのもまた道理である。

 

「おー、派手にやってやがんなァ。片方は知らねェ女だが、もう片方は〝冒険男〟か」

「しばらく新聞に載ってませんでしたけど、こんなところにいたとは驚きっすね、船長」

 

 2人は建物に身を隠しつつ、衝突を面白そうに眺める。

 彼らは普通の人間に比べて腕の関節が一つ多く、ゆえに腕は地面につくほど長い。手長族と呼ばれる種族である。

 片方の男は編み込んだ長い髪と眼鏡が特徴的で、顎に手を当てたままユイシーズとマラプトノカをじっと見ていた。

 

「何の理由でぶつかってんのか知らねェが、あの男は〝怪物狩り〟で一時期新聞を賑わせた海賊だ。並の強さじゃねェハズ……正面から凌ぐ女は何モンだよ」

「さァ……ちょっと待ってください船長。まさか手ェだすつもりじゃないでしょうね!?」

「オイオイ、おれを誰だと思ってんだ? ──ああいう奴らを横からおちょくって逃げるのが楽しいんだろうが!」

「止めてくださいよ!?」

 

 悲鳴を上げる仲間を尻目に、男──スクラッチメン・アプーは、どのタイミングで手を出すべきかと思案し始める。

 先程までは画面に映るルフィたちの事を楽しんで見ていたが、今はすっかり興味の対象が移っていた。

 仲間の男は必死の形相でアプーを説得し始める。

 

「少なくとも片方は〝冒険男〟ですよ!? 〝クラーケン〟だの〝バジリスク〟だの、妙な怪物を倒してた男が弱いワケないでしょう!!?」

「だが懸賞金はおれ以下だぜ。政府はその強さそのものには脅威を感じてねェ。違うか?」

「それは……そうかも、しれねェっすけど」

 

 ユイシーズの懸賞金は1億を超えていない。

 新聞を騒がすことは多々あれども、それは様々な場所を冒険して打ち倒した怪物に注目が集まり、新聞屋が記事にしていただけだ。どこかの島を襲ったとか、略奪をしたなどとはとんと聞かない。

 だが、懸賞金制度はあくまで()()()()()()()()()()()()()()だ。

 懸賞金が低いからと言って、必ずしも強さがそれに直結するわけではない。

 一際派手な音と共に衝撃波が辺りに飛び散り、肌をビリビリと打つ。アプーたちは咄嗟に物陰に隠れてやり過ごすと、戦場が段々と移っていくのを確認した。

 

「どこに向かってやがんだ?」

「まだちょっかい出す気なんですか?」

「あたぼうよ! ちょっかい出さねェにしても、あいつの強さはちょっと興味があるしな」

 

 ユイシーズのことはここ数年新聞に載っていない。

 懸賞金が高い海賊がどこかの傘下に収まったり、あるいは誰かと同盟を組むことがあれば新聞にすっぱ抜かれて世を賑わせることもある。

 だが彼は元々の懸賞金がそれほど高くなく、〝怪物狩り〟で賑わすことはあれどそれ以上の価値を見出さなかったのだろうとアプーは考えていた。

 〝黄昏〟の傘下に収まったなら懸賞金が上がることもない。話題性としては低いのだ。

 

「追いかけるぞ!」

「ちょっ!」

 

 仲間を連れてユイシーズとマラプトノカの2人を追いかけるアプー。

 単なる殴り合いではなく、マラプトノカは色々と武器を取り出しているようだが、ユイシーズ相手にはあまり効果が出ていない。

 拳、と言うより両手の爪で鉄さえ切り裂いて見せるが、ユイシーズはそのことごとくを避けるか防ぎきっている。実力は疑うべくもないだろう。

 段々と追い詰められていくマラプトノカも、状況を打開しようと姿を変えた。

 巨大な白い狐──彼女の本来の姿へと。

 

「うおっ!? 何だありゃァ……能力者か!?」

 

 四つある目がギョロギョロと動いてユイシーズを捉えると、開いた口から破壊の息吹が放たれる。

 これはまずいと、アプーは咄嗟に仲間の頭を押さえて伏せた。

 

「〝熱息(ボロブレス)〟!!!」

 

 あらゆるものを吹き飛ばす破壊の息吹は、しかし狙われているユイシーズが咄嗟に上空へと移動して狙いを逸らしたために町への被害は出なかった。

 それでもやや水平に放たれた〝熱息(ボロブレス)〟は遠くの海で爆発し、凄まじい水柱を立てて轟音を響かせる。

 あれにちょっかいを出すのは流石にマズい、とアプーが冷や汗を流すほどだ。

 しかしユイシーズは臆することなく上空から攻め始め、同時に何かを合図するように叫んだ。

 

「アレックス!! デルバルト!!」

 

 地面から突如として伸びた多数の鎖がジャラジャラと音を立ててマラプトノカに巻き付き、一時的にでもその動きを制限する。

 続いて辺り一面に大量の紙が舞い上がり、ペタペタとマラプトノカの肉体に張り付いては視覚を遮って動きを止めていく。

 何らかの能力者による攻撃だろうが、辺りに人の影はない。アプーと同じように姿を隠しているのかと思えば、身動ぎするマラプトノカに引っ張られて鎖が引きずられると同時に1人の男が姿を現した。

 引きずられて地面に擦られ、スプレーのようなものが剝がれている。

 

「クソッ、なんて力だよ!? 急げデリック!!」

「任せろ!!」

 

 またしても見えない誰かが攻撃をすると、今度はマラプトノカの体表を覆う鱗に弾かれガキンと音を立ててクロスボウの弾が地面に落ちた。

 クロスボウによる攻撃のようだが、鱗が硬質すぎて通らないのだろう。

 

「硬すぎだろ!? 小紫のやつ、ホントにあれを斬ったのか!?」

「あいつ大体何でもぶった切るから感覚麻痺してんじゃねェか……?」

「話してる場合か! 次だ!!」

 

 ギョロリと動いたマラプトノカの視線に気付き、ユイシーズは彼女が動くより先に上から殴りつけて地面に叩きつけた。

 即座に鎖と紙がマラプトノカの動きを止めようと纏わりつき、嫌がったマラプトノカの口から漏れた炎が体表を覆って紙を燃やし尽くしていく。

 白い鱗が黒く染まっていくのは覇気によるものだろう。

 視界を紙で覆ったところで見聞色からは逃げられない。次の攻撃に移ろうとするマラプトノカの横っ面を再びユイシーズが殴り飛ばし、今度は港の方から大砲と思しき玉が直撃した。

 

「鱗に阻まれて攻撃が通ってねェ! どうにか鱗を割れ!!」

「動きを止めるのも限界だぞ!!」

「迫撃砲、次弾装填急げ!!」

 

 連続した砲撃音と共にマラプトノカへと降り注ぐ砲弾の雨。

 アプーたちは巻き込まれてはたまらないと、姿勢を低く保ったまま物陰に入り、様子を窺いつつ顔を見合わせる。

 

「こりゃ無理だ。逃げようぜ」

「最初からそう言ってるじゃないですか!?」

 

 神妙な顔で言い放つアプーに、慣れている部下も流石に悲鳴を上げた。

 

 

        ☆

 

 

「ハハハ! 中々やるな!!」

「そちらこそ、小紫さんほどではありませんが、面倒なことをしてくれますね!!」

 

 攻撃や移動の素振りを見せれば即座にユイシーズが先んじてそれを潰すため、マラプトノカのストレスは非常に溜まっていた。

 罠にかけようとフェイクの動きを見せてもそれに釣られることはない。恐らく精度の高い見聞色によってマラプトノカの動きを完全に見切っているのだろう。

 これだから高位の覇気使いは厄介なのです、とマラプトノカは恨み言をこぼす。

 とは言え、ユイシーズの攻撃以外はほぼ通じていない。単なる目くらましと動きを止めるための鎖と紙はさておき、ボウガン、迫撃砲、バリスタ──艦砲射撃による攻撃でさえ鱗にはヒビすら入らず、ユイシーズもこれには驚きを示した。

 

「だが、ううむ……これは厄介だな。カイドウに劣らない防御とは聞いたが、これほどとは」

 

 元来の覇気の強さもあるだろうが、マラプトノカとて小紫との一戦から何も学んでいないわけでは無い。

 障子を割くように気軽にザクザク斬られるのは、回復するからと言って何度も経験したいものではないのだ。

 動きを制限していた紙を焼き尽くした後は炎を纏わず、逆に氷で覆って攻撃と熱を防いでいる。並の攻撃ではこの二重の防御を破ることは難しいだろう。

 ユイシーズはマラプトノカの動きを制限しつつ、これを打倒する方法を考えていた。

 

「徹甲榴弾、徹甲焼夷弾、徹甲弾の順に撃ち込め!!」

「了解!」

 

 再び動きを止めるためにマラプトノカの足に鎖が巻き付き、直後に左前足目掛けて徹甲榴弾がさく裂した。

 派手な爆音と同時に次弾である徹甲焼夷弾が撃ち込まれ、今度は爆発と同時に炎上する。

 これによって少なくとも体表の氷は剥げ、覇気によって黒く染まった鱗が表面に出た。

 氷が再び体表を覆うより先に徹甲弾が鱗に直撃し、明確に鱗へとヒビを発生させる。

 

「ぐ、これは……!?」

「お前に通用するよう調整した特製の徹甲弾だ。効いたようだな」

 

 マラプトノカの頑丈さは事前に小紫の報告書で情報を得ている。出来得る限りの準備は既にしていたし、念のため弾頭に覇気を込めて威力の底上げも図っていた。

 これはマズいと続けて放たれる徹甲弾を回避しようと身動ぎした瞬間、ユイシーズに腹部を殴打されて一瞬呼吸が止まる。

 徹甲弾は僅かに逸れてマラプトノカの左肩に直撃し、青い炎と共に再生しようとするのを見てユイシーズは声を上げた。

 

「回復させるな!」

 

 船に積み込んだ砲台は全部で4つ。連続で撃ち込むにしても、次弾装填の時間は僅かでも必要だ。

 回復することは既に周知の事実であるため、そちらに対してもユイシーズは準備を整えた。

 

「デリック! 割れた鱗を狙え!」

「あいよ!」

 

 デリックと呼ばれた男はクロスボウを構え、徹甲弾によって割れた鱗の合間に見える肉目掛けて弾丸を放つ。

 クロスボウの弾は寸分違わず鱗を避けて内側へと突き刺さり、刺さった瞬間からマラプトノカを覆っていた青い炎が止まった。

 

「これは……海楼石!? 馬鹿な……!」

 

 クロスボウの弾の(やじり)に海楼石を使うことで、能力の能動的な発動を抑制した。僅かな時間であれ、能力の使用を止められれば戦況は優位に傾く。

 だが海楼石は非常に硬く、加工が難しいのでそれほど鏃の数が多いわけではない。

 相当な技術がなければ扱うことなど出来ない。

 それゆえに信じられないとユイシーズを睨みつけ、海楼石の効果で動きが鈍った瞬間に装填が終わった徹甲弾が直撃した。

 連続して撃ち込まれた徹甲弾は鱗を明確に砕き、腹部に巨大な穴を開けてみせた。

 瀕死の重傷ではあるが、出来れば捕えろと言われているだけで基本的に生死問わずである。生かすだけ害悪なので捕縛が無理なら駆除を優先というのがカナタの方針であった。

 

「まあこんなものか……?」

 

 聞いていたより大したことはなかったな、とユイシーズは思う。

 事前に情報があるかないかで大分違うとはいえ、それでも小紫が苦戦するような相手とは思えない。

 能力が厄介なようなので、海楼石で抑え込むのを基本戦術に組み込んだのが上手くハマったというだけならいいのだが……何となく釈然としないまま、ユイシーズは背を向けた。

 後は海楼石の手錠で両手両足を抑え込めばいい。辺りに隠れていた〝戦士(エインヘリヤル)〟の同僚に労いの言葉をかけようとすると、慌てた声が彼の耳を打つ。

 

「おい、ユイシーズ!! あの狐女、回復してるぞ!!」

「何!?」

 

 慌てて確認すると、海楼石の鏃は抜けていないにも関わらず、マラプトノカの腹に開いた大穴は青い炎に包まれて塞がれていく。

 悪魔の実の能力はあの鏃が刺さっている間は力が使えなくなる。少なくとも〝黄昏〟では能力者を用いた実験でそれは判明済みだし、能力者本人の精神力でどうにかなるものではない。

 では何故マラプトノカが能力を使えるのか。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 抑え込めるのは悪魔の実の能力だけだ。海楼石で能力を抑え込んでも、元々の膂力が優れている者の身体能力を抑えきれるわけではない。

 

「小紫め……いや、彼女を責めるのは筋違いか。だがこれでは……!」

 

 海楼石で傷の回復を止められないのであれば、マラプトノカがノックダウンするまでダメージを与え続ける必要がある。

 即座に攻撃に移ろうと構えると、マラプトノカはユイシーズではなく地面目掛けて破壊の吐息を発した。

 

「〝熱息(ボロブレス)〟!!!」

 

 威力よりも速度を優先したが故に威力はお粗末だが、それでも並の人間なら蒸発して余り有る熱量である。

 ユイシーズは上空に逃げ、周りにいた仲間たちは各々回避するなり建物を盾にして防いでいた。あれしきでやられるほど 〝戦士(エインヘリヤル)〟は易い存在ではない。

 鏃の刺さっていた腕の部分を自力で抉り取り、即座に青い炎が肉体の損傷を癒している。

 これ以上好きに動かせては逃げられると、ユイシーズはすぐさま動くが──マラプトノカは獣形態から人獣形態へと変化し、その強大な膂力を以てユイシーズを真正面から殴り飛ばした。

 

「ユイシーズ!」

「平気だ! 奴を逃がすな!!」

 

 両腕を交差させてマラプトノカの攻撃は防いだものの、衝撃は殺しきれずに吹き飛ばされている。

 その隙に港目掛けて駆け出したマラプトノカ目掛け、ジャラジャラと音を立てて鎖が放たれる。

 しかしそれも空中で自在に飛び回って回避し、高速で離脱していく。焔雲による空中移動のため、〝月歩〟と違って速度はそれほどでもないが自由度は高い。

 紙吹雪が空に舞ってマラプトノカの行く手を遮るも、数度の衝突で力負けして吹き飛ばされた。

 

「なんだこの腕力!? どうなってやがる!?」

「覇気だけじゃない、元々の膂力が突き抜けてるぞ! 気を付けろ!!」

 

 なりふり構わないマラプトノカの逃走に舌打ちし、ユイシーズは疾く空を駆けてマラプトノカに追いつく。二度の妨害で速度を落としたためにギリギリで追いつける速度まで落ちていたからだ。

 直接の攻撃は危険だと判断し、拳を交わすことなくマラプトノカの尻尾を握って地面目掛けて思いきり投げつける。

 こうなればとにかくダメージを与えることを優先するべきだと判断し、地上に降りて追撃に移る。

 だがマラプトノカも易々とやられてはくれず、体表に氷の鎧を纏って守りを固めていた。

 

「色々手を尽くしていたようですけれど、残念でしたね。わたくしはそう簡単に捕まる安い女ではありませんので」

「いいや、お前はここで倒れてもらう」

 

 地面の下を伝ってきた鎖がマラプトノカの両腕に絡みついて動きを止めた瞬間、ユイシーズの拳がマラプトノカの胸へと突き刺さった。

 流し込んだ覇気は肉体を内側から破壊し、ぐらりとマラプトノカの肉体が傾く。

 対象を確実に殺すために使うジュンシー直伝の技を浴びせ、しかし青い炎が自動的に肉体を修復しようとするのを見て手を休めず次の攻撃に移る。

 しかし二撃目はわざと倒れることで回避され、瞬間的に獣形態へと姿を変えて鎖を無理矢理引き千切った。

 至近距離で巨大化したマラプトノカに押さえ込まれたユイシーズは、反撃に移ることも出来ずに両腕で押し潰そうとしてくるマラプトノカの足を受け止めている。

 捕縛に移ろうと周りの仲間たちが動くも既に遅く、マラプトノカは焔雲を掴んで上空へと退避した。

 

「それでは皆様、ごきげんよう! もう二度と会わないことを祈っておりますわ!」

 

 まぁまぁ必死な様子で逃げていくマラプトノカを押さえつけることは難しいと判断し、〝戦士(エインヘリヤル)〟の面々はため息をこぼした。

 地面に半分埋まっていたユイシーズも起き上がると、軽くため息を吐いて呟いた。

 

「……任務失敗か。色々と想定はしていたが、想定以上の相手だったな」

 

 真正面から打倒するならまだしも、逃げの一手を打たれると中々に厳しい相手だった。

 身体能力の高さもさることながら、多種の能力を使いこなす頭脳も侮れるものではない。これは要報告だろう。

 上から押さえ込まれて痺れの残る両腕を見ながら、次に会った時の対策を練っておこうと考え始めた。

 




ユイシーズの愉快な同僚たち
・アレックス ジャラジャラの実の鎖人間
・デルバルト パサパサの実の紙人間
・デリック  クロスボウ使い。非能力者
全員覇気使い
名前は出てないけどイロイロの実のスプレー人間とかもいます。透明化はこいつの能力

次に名前が出てくることがあるかわからないので覚えなくていいです
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