『──以上が今回の事の顛末だ』
「ふむ……」
マラプトノカと接触したユイシーズから電伝虫による報告を受け、カナタは面倒くさそうな顔で椅子に背中を預けた。
海楼石が思ったより効かなかったのは想定外だが、それ以外の武器に関しては十分に通用した。良かったことといえばそれくらいのものだろう。
それに、海楼石が効かなかった理由も何となく理解は出来る。海楼石を受けても
「あの女はベガパンクが作った生物だからな。元が悪魔の実の因子によって発生したものとはいえ、ベガパンクの人工悪魔の実を食べても死ななかったということはその辺りの判定に引っ掛からなかったのだろう。理解は出来る」
納得出来るかはまた別の問題になるが。
実質的に複数の悪魔の実を食べているようなものだ。ずるい、と言いたくなる気持ちもあるが、悪魔の実は使い手次第でいくらでも使い勝手が変わる。
マラプトノカは頭は良いが、戦闘に関してはそれほど突出しているようには見えないのが幸いか。
それでも各種能力と素の身体能力だけでもかなり図抜けた強さを誇っているのが厄介なところではある。
『もう少し早く情報が得られていれば、取れる手段もあったと思うが……』
「仕方なかろう。ラグネルの報告を受けてお前に回すまでに見つけられるとは思わなかった」
マラプトノカは空島で小紫にこっぴどくやられた手前、しばらく〝黄昏〟の勢力圏に姿を現すことはないだろうと考えていたのだ。
ユイシーズに出した指示も、近くの島で発見の報があれば急行して捕縛しろというものである。まさか白昼堂々、それも勢力圏の島ではなく直接統治する島に姿を見せるなど想像だにしていなかった。
呆れる程のクソ度胸なのか、あるいは何も考えていないのか。小紫ほどの実力者はそう多くないと高を括った結果かもしれないが、こちらは相応に得るものを得られた。
「奴の肉片や血はどうした?」
『回収できる分は回収してそちらへ送る。だが、こんなものが必要なのか?』
「体組成くらいは分析出来るだろう。色々と特殊なようだし、ベガパンクも全てを把握出来ているわけではないようだからな」
ベガパンクには少しきつめのお仕置きをするとして、マラプトノカへの対処は急務である。
海楼石でも完全には動きを止められなかったのは、鏃に使った海楼石の純度の不足もあった。確実に止めるなら一度頭を吹き飛ばしてから四肢を海楼石で縫い付けるくらいはする必要がある。それがわかっただけでも今回の衝突には意味があったと言えるだろう。
マラプトノカの肉片から肉体の強度を割り出せば、あるいはカイドウに通じる兵器も生み出せる可能性もある。
……まぁ、あの男は素の肉体の強さもさることながら、尋常ではない覇気が肉体の頑丈さを押し上げている。マラプトノカに通じてもカイドウには通じないと考えておくのが無難ではあるだろう。
「しばらく警戒は続けておけ。またぞろ顔を見せるかもしれん」
『了解した。今度はもっと徹底的に叩いておこう』
これだけやられても懲りずにうろつく可能性はゼロではないと、今回証明された。ならばもうしばらくは警戒して配置しておく必要がある。
ユイシーズとの連絡を終えたカナタは、厄介事を呼び込んだマラプトノカの資料を手に持ってため息をこぼした。
「……この時期にユイシーズをあちらに張り付ける必要が出て来るとは」
近く、カナタはニューゲートと──ひいては〝白ひげ海賊団〟との戦争を行う。
戦力を集中させなければならず、不自然にならない程度に少しずつ各地から幹部たちを戻しているところだ。
この大海賊時代に商船の護衛足り得る戦力が各地から減るなど、自殺行為にも程がある。なるべく海軍や他の組織にバレないように準備をしておきたかったが、少し難しいかもしれない。
〝黄昏の海賊団〟は傘下を含めて総勢8万を超える。
内訳は半数以上の5万人が単なる労働者であるため、実質的な戦力はおおよそ3万前後。
しかし各地の商船の護衛を全て接収するわけにもいかないので、実際にカナタと共に戦場に立てるのはおおよそ2万を少し超えたくらいの数になる。
こうなると、ほぼ全員が戦闘員である四皇の勢力と衝突すると数の上では不利になる。
もっとも、この世界の戦力は単純な数字だけで測れるものではない。
雑兵をいくら揃えたところで四皇クラスの覇王色に耐えられないなら意味がない。そういう意味では数的不利の現状でも四皇と張り合える〝黄昏〟も十分四皇クラスの勢力と言えた。
「……仕込みは必須か」
〝白ひげ海賊団〟と一戦構えるとなれば、海軍も政府も静観はしないだろう。
四皇、海軍、七武海の三大勢力による世界の均衡を保つことを考えるなら、〝黄昏〟が突出した勢力になることは避けたいハズだ。
カナタとニューゲートの決闘ともなれば、カイドウとリンリンも出張ってくる可能性だってある。なるべくなら個別に対応していきたいが、そう簡単に掌で転がってくれる相手なら苦労はない。
カナタは電伝虫の受話器を取り、ティーチを呼び出す。
昼間から酒を飲んでいたティーチは、やや赤い顔のままカナタの執務室をすぐに訪れた。
「呼んだか、姉貴!」
「仕事だ。ニューゲートのところへ行って、エースから渡ったであろう手紙の返事を聞いてこい」
「手紙の返事ィ?」
ティーチは眉をひそめた。
四皇の一角へ使者として向かうのだから、相応の地位と立場が必要なのはわかる。だがそれで返事を聞いて来るだけ、と言うのはどうなのか。
訝しむティーチだが、カナタはそれを見越して海図を広げながら言葉を続ける。
「ニューゲートが船長の座を降りればうちの経済圏に組み込んでやる、と伝えた。十中八九断ってくるだろう。そうなれば宣戦布告でいい。お前向きの仕事だろう?」
「ゼハハハハ!! 飲めない要求突きつけて、断れば宣戦布告か! 悪辣だな!!」
「私とて鬼ではない。選択肢は常に用意してやっている」
肩をすくめるカナタにげらげらと笑うティーチ。
机の上に海図を広げると、密偵からの情報でニューゲートの乗るモビー・ディック号がどのあたりにいるかを指し示す。
「先日得た情報から、現在位置はここ。ここから針路は東南東へ向いていて、これまでの情報から考えるにこの島を目指しているものと思われる。先回りしろ」
「間に合わなかったら?」
「間に合わせる。お前が使ってる丸太船じゃなく、うちで用意した高速船を使え」
「なんでだよ」
不満そうな顔をするティーチをギロリと睨みつける。
なんでも何もない。あんな舵さえついてないイカダのような船でモビー・ディック号を先回りなど出来る訳がないからだ。
懇切丁寧に説明してやってもいいが、時間の無駄なので「命令だ」の一言で済ませる。見た目に反してこの男は頭がいいので、説明しなくても酒が抜ければ理解出来るだろう。
ティーチは不満そうな態度を崩さないが、カナタとて暇ではないのだ。
「私はこれから出る。バレットとの約束もあるからな」
「ああ、あの合体野郎を引き込むんだったか? この間レインがボコボコにやられてたが、勝算に変わりはねェのかよ」
「問題ない。だが丸一日はかかるだろうと、先にあれこれ仕事を済ませていた」
カイドウとリンリンもそうだが、強者は体が頑丈過ぎるが故に決着をつけるにも時間がかかる。普段なら時間で区切るが、本気でやるとなればどちらかが倒れるまでやるのが筋というものだ。
「宣戦布告に関してだが、極力私とニューゲートの一騎打ちで決着を付けたい」
「あん? こっちも一騎打ちでやるのか?」
「なるべく〝白ひげ海賊団〟は無傷で抱えたい。互いに全力で衝突しては遺恨が残ることもあろう」
ニューゲートを倒した後で無理矢理徴集してもいいのだが、元々エースが食料や医薬品に困って頼ってきたのが発端だ。
子供たちが日々の糧に困らなくなるならニューゲートも嫌とは言わないだろう。
ニューゲートのナワバリを〝黄昏〟の経済圏に組み込むなら、どのみち〝白ひげ海賊団〟の協力は必要だ。
「姉貴が勝てば〝白ひげ海賊団〟は姉貴の傘下に置く、か。じゃあ白ひげのジジイが勝ったらどうするんだよ?」
「当然、
ニューゲートが勝てば〝黄昏の海賊団〟は傘下となる。
カナタが勝てば〝白ひげ海賊団〟が傘下となる。
勝てば総取りとは、つまりそういうことだ。
この言葉にティーチは目を丸くする。
「オイオイ、大きく出たじゃねェか。負けるとは思わねェがよ、相手はあの〝白ひげ〟だぜ?」
「あの老いぼれに負ける気はない。奴としても、この条件なら受けざるを得ないだろうしな」
〝黄昏〟の仕事をニューゲートが代わりに出来るとは到底思えないが、カナタとて今は報告書を読んで決済印を押しているだけである。
大まかな方向さえ示せるなら誰がトップに立っても仕事は回るようになっている。そうでもしなければカナタは仕事に忙殺されて鍛える時間がなかったのだ。
……各国との折衝やある程度の物資供給の割り振りなどは差配しているが、これらはカナタが七武海だから必要な仕事でもある。ニューゲートがトップになるなら不要だろう。
問題があるとすれば、カナタとニューゲートの決闘を聞きつけた外野の方にある。
「カイドウとリンリンが乱入してくる可能性もある。なるべく戦力は集めておきたい」
「赤髪の野郎はどうするんだ? 裏で手ェ組んでるんだろ?」
「あいつは今、娘の晴れ舞台を見に行くと張り切っているからな。出来ればカイドウかリンリンのどちらかににらみを利かせておいて欲しいところだが……難しいだろう」
「肝心なところで役に立たねェな……」
「それと、政府と海軍が横槍を入れてくる可能性もある。〝
「つっても、姉貴は七武海だろ。味方が強くなる分にはあいつらもとやかく言ってこねェと思うが」
「……そんな簡単に済むなら私も楽だったんだがな」
ただでさえ五老星はカナタのことを危険視している。
七武海として認められているとはいえカナタは海賊だ。世界経済に深く食い込んでいる〝黄昏〟を排除することは難しいが、本質的に敵である以上は強すぎる影響力など持たせたくはないのだろう。
大海賊時代が始まった頃は到底人手が足りなかったゆえの判断だろうが、この辺りはカナタを安易に七武海に引き入れた失策だ。
とはいえ、五老星とて馬鹿ではない。
ベガパンク率いる
どうあっても、最終的に〝黄昏〟は世界政府と敵対せざるを得ない、と言うワケだ。
「今はいくら考えても可能性の域を出ない。連中の動きを考えて今後のプランは幾つか用意している。心配は不要だ」
「……姉貴がそう言うなら、おれはそれに従うぜ」
上に立つのがティーチだったのなら、幾らか方針について言いたいこともあったのだろう。
だが、ティーチはあくまでカナタを立てる判断をした。直感的に
必要な時は色々と考えることもあるが、ティーチは基本的に
「ニューゲートへの宣戦布告だが、決闘の日程は──」
細々としたことを口頭で伝え、必要なことはメモを取らせて確実にニューゲートに伝わるようにする。
宣戦布告の使者など、最も危険な役割だが……それでもティーチならば問題はないだろうと、カナタは考えていた。
☆
一方、〝ミズガルズ〟。
カナタからの連絡を受け、島内部の防衛は統括支部長と巨人族のディルスに任せることとし、カイエは一時的に〝新世界〟へ戻る準備を進めていた。
警備の引継ぎさえ済ませれば、あとは身の回りの細々とした道具を纏めるだけだが、それとは別に傘下の海賊である九蛇海賊団へ連絡を入れるために港へ訪れていた。
「カイエ姉さま! わざわざ来ていただかなくとも、私たちが足を運んだのに……」
「ウタの護衛として、今日にでもアラバスタへ出るのでしょう? その前に顔を見に来ただけです。忙しい時に顔を出せとは言いませんよ」
九蛇の船を訪れたカイエを見て、マリーゴールドが慌てたように声を上げた。
その声に気付いてか、周りにいた九蛇の船員たちもこぞってカイエの周りに集まってくる。
カイエは九蛇の血筋ではないが、グロリオーサの娘として扱われているので実質的な身内扱いだ。〝
嫌な顔をせずにそれに対応していると、ひょっこりウタが顔を見せる。
「あ、カイエさんじゃん。やっほー!」
「こんにちは、ウタ。準備は終わったのですか?」
「うん! 元々泊まるのに使う着替えくらいしか宿に運んでなかったし、荷造りはすぐ終わったよ」
ミズガルズはアラバスタへ向かう中継地点として寄っただけなので、荷物のほとんどは船内に置いたままだった。
船を降りて島で宿を取ったのは、船で移動する際の疲れを癒す意味もあるが、今回の興行の主役である〝黄金帝〟ギルド・テゾーロが到着するのを待っていたからでもある。
「ハンコックはどこですか?」
「テゾーロさんと警備の打ち合わせだって、さっき出て行ったけど」
「おや、そうですか」
男嫌いのハンコックがテゾーロと打ち合わせに出たことに目を丸くするが、何かしら2人の間で通じるものもあったのだろうとカイエは思う。
どちらにしても都合が良い。両方に連絡を入れるため、カイエは名残惜しむ声に苦笑しつつ一度船を降りて、近くに停まっている別の船へ向かった。
〝黄昏〟のマークが入った船へ乗り込むと、カイエの姿に気付いた男が近付いて来た。
「これはこれは、カイエ様。テゾーロ様に御用ですか?」
「ええ、ハンコックも来ているのでしょう? 案内して貰えますか?」
「分かりました、こちらです」
タナカと呼ばれる男に続いて船内に入る。
大きな船の中でも防諜対策を施された部屋の前へ案内されると、タナカがノックの後に用件を告げる。
「失礼します。テゾーロ様、カイエ様がお見えになりました」
「何? 入ってもらえ」
「はい。ではカイエ様、こちらへどうぞ」
ドアを開けたタナカはドアの横に控え、カイエが中に入る。
中にはテゾーロと副官のバカラ。それにハンコックと副官としてサンダーソニアがいた。
テゾーロとハンコックはカイエの姿を見るなり立ち上がり、歓迎するように笑みを浮かべる。
「ようこそ、カイエさん。貴女には挨拶に行こうと思っていたところです」
「久しぶりですね、テゾーロ。噂は色々聞いていますよ。手広くやっているようですね」
「カナタさんの助力あっての成果です。あの方には頭が上がらない」
「カイエ姉様はどうしてここに?」
本来なら、〝黄昏〟の幹部として立場が上であるカイエの方へとテゾーロが出向くのが当然である。
顔を出すのが遅いと礼を失することになるのだが、まだテゾーロは島に着いたばかり。ハンコックとアラバスタまでの護衛計画に関して一段落してから顔を出そうと思っていたところに現れたので、テゾーロとしては笑みを浮かべつつも背中に冷や汗が流れていた。
どんな理由があれ、組織という枠組みにおいて立場の上下は絶対的なものだ。目下の者のところへ目上の者が足を運ぶなど、本来ならやるべきではない。
ハンコックはあまりその手のことに無頓着なので、「もしや打ち合わせより先にテゾーロをカイエ姉様のところへ行かせるべきだった?」とソニアの方が冷や汗を流している。
カイエはそれに気付いて苦笑するばかりであった。
「急遽連絡することが出来たので、こちらに足を運んだのですよ。礼を失したから、などと言う理由で来たりはしません」
カイエの言葉に胸を撫で下ろすハンコック以外の三名。
椅子に腰を落ち着けると、カイエは早々に本題へ入った。
「九蛇海賊団の護衛に関してですが、アラバスタへ到着次第引き上げることになりました」
「……というと、つまり彼女たちは我々をアラバスタへ送るだけで、帰りの護衛はないと?」
「端的に言えばそうなります。しかし、アラバスタへ滞在する商船には護衛がいますので、そちらと連携を取ってもらうことになるでしょう」
「それは構いませんが……随分急な話ですね?」
九蛇の護衛はカナタの提案である。
つまり、彼女の決定に異を唱えられる誰かか、あるいは彼女自身が決定を翻したということになる。
九蛇海賊団は〝黄昏〟の傘下の中でも一、二を争う武闘派の海賊団だ。彼女たちの護衛は安心出来る要素だったが、テゾーロやウタの安全よりも優先すべき出来事があったということだろう。
テゾーロとしてもそこは気になるところだった。
「今はまだ箝口令が敷かれていますから、詳しいことは話せませんが……少なくとも、アラバスタにいる間は護衛は不要だと判断されました」
「それは……何故です?」
「〝赤髪〟がアラバスタへ来るそうです。彼らがいるなら護衛は不要でしょう」
カイエの言葉に、その場にいた全員が目を丸くする。
何しろ現四皇の一角を占める〝赤髪海賊団〟がアラバスタへ来るとなれば、なおの事護衛が必要になる。如何に彼らが四皇の中でも穏健派だと言っても、海賊は海賊だ。警戒を緩める理由にはならないハズだった。
「シャンクスと私は昔馴染みですし、彼はカナタさんともそれなりに親しい間柄です。今回のライブの招待状を送ったところ、快く参加の返事をもらいました。なので、彼らが何かをすることはないでしょう」
これにはテゾーロも唖然とするばかりである。
〝赤髪〟は〝海賊王〟の後継として目されているところがある。かつてロジャー海賊団の船員だったシャンクスと、ロジャー海賊団と付き合いの多かった黄昏の海賊団。
確かに接点はあるな、とテゾーロは遠い目をしていた。
九蛇海賊団が護衛から外れるということで、カナタの中でテゾーロたちより優先すべきものがあったのだと考えたが、何のことはない。九蛇の護衛が必要無いほど強大な味方がいるならいいだろうと判断されただけだ。
「なるほど、〝赤髪海賊団〟が……しかし、彼らは我々の安全に配慮してくれるのでしょうか?」
「そこはきちんと伝えておきますから、大丈夫ですよ。何かあれば彼らが率先して動いてくれるでしょう」
ウタの件はテゾーロには伝えていない。本人が伝えたいときに伝えるように、とカナタから指示が出ているだけだ。
子供は親の弱点足り得る。シャンクスの立場を考えれば、下手にウタの存在を公にするのは控えたほうがいい。伝えるにしてもごく少数に絞るべきだと考え、ウタにはなるべく信用出来る者だけに話すようにと念を押してある。
「そうですか。それなら安全でしょうね」
「……カイエ姉様。それでは、私たちはアラバスタへ送り届けた後、どこに向かえば良いのです?」
「女ヶ島へ戻ってください。そして島の防衛として最低限の人員を残し、準備をするようにと──カナタさんからの命令です」
カナタから直接受けた仕事を取り上げられ、やや不満げだったハンコックとソニアの顔が引き締まる。
カナタからの命令など滅多に出るものではなく、ましてやこの指令は〝戦争の準備〟を示すものだ。
九蛇の護衛がテゾーロたちから外されたのは、シャンクスたちが護衛の代わりを務めてくれるからという理由以外にも原因がある。
カイエの言葉を受け、ハンコックは九蛇の皇帝代理として相応しく頷いた。
「いつでも出られるように準備を整えます」
「頼もしい限りです」
必要なことは伝え終わったと、カイエは立ち上がって部屋を後にしようとする。
テゾーロは慌ててお茶の用意をさせていると言うも、カイエは首を横に振った。
「色々と忙しいのですよ。お茶のお誘いは嬉しく思いますが、また次の機会にしましょう」
近く、カイエもこの島を発つ必要がある。それまでに仕事の引継ぎなどを済ませておかねばならない。
残念そうな顔のテゾーロとハンコックを尻目に、カイエは優雅にその場を去っていった。