ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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第二百十三話:模擬戦

 

『おいユイシーズ、ちょっと顔出せよ』

 

 そんなブエナ・フェスタのぶっきらぼうな呼び出しに首を傾げつつも、ユイシーズは律義に彼のところへと顔を出していた。指定されたのはフェスタがいつも興行で使っている巨大な闘技場のひとつである。

 カナタへの報告も終わって、マラプトノカと戦った仲間と一緒に酒場にでもと考えていた矢先のことだ。

 特に世話になったわけでも仲が良いわけでもないが、立場上フェスタとユイシーズは同僚である。島一つを任されているフェスタとカナタ直轄の〝戦士(エインヘリヤル)〟次席のユイシーズでは、どちらの地位が上とは断定出来ない。指揮系統が別なので互いに互いへの命令は出来ないのだ。

 まぁ、特にやることが詰まっているわけでもないので顔を出していたワケだが。

 

「呼んだか、フェスタ」

「おう、来たなユイシーズ」

 

 葉巻を咥えて煙を吹かすフェスタは、見るからに上機嫌だった。

 隣には先程までデービーバックファイトをしていた麦わらの一味がいた。

 フォクシー海賊団はデービーバックファイトに負け、取るものを取られて全員帰らせたのだ。

 ユイシーズはルフィたちをちらりと見て、フェスタへ視線を戻す。

 

「彼らは?」

「〝麦わら〟には勝てばこの先立ち塞がるこの海のレベルを教えてやるって条件で興行に参加させたのさ。あとはわかるだろ?」

「……つまり、なんだ。おれに彼らと戦えという事か?」

「そうだ」

「断る」

 

 きっぱりと断りの返事を入れるユイシーズ。

 ピクリと片方の眉を上げ、フェスタは理由を問い質した。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 この言葉に噴き上がったのは、ルフィ、ゾロ、サンジの3人である。

 麦わらの一味の中でも特に強さへのこだわりが強いからだ。下に見られることを嫌う、負けず嫌いの性質が多分にあることも要因だろう。

 

「おれ達より強ェと言うが、そんなに違うようには見えねェがな」

「そうだ! おれだって強ェぞ!」

「……何を言っても聞く気は無さそうだな。厄介事をおれに押し付けるのなら、まずは相談くらいしろ、フェスタ」

「ハッハァ!! 聞いたら快く頷いてくれんのかよ? 頷かねェだろ!?」

「まぁ、そうだな」

 

 何を見てもユイシーズにメリットがない。ただ弱い者いじめをするためだけに呼び出されたとなれば、ユイシーズのテンションも下がろうというものである。

 フェスタはその辺りの事を理解しているのかいないのか、葉巻を一度吸い込んで口の中を煙で満たし、ゆっくりと吐き出す。

 相手してやれよ、と適当に投げ出すのは簡単だ。だがこれでも一応雇われである以上、フェスタとしても多少はユイシーズに配慮しなければならない。

 一から十まで自分で決めていた船長時代が懐かしいが、あの頃だって祭りをやる上でスポンサーの意向はある程度酌む必要があった。相手が一本化しただけマシだろう。

 

「〝麦わら〟は1億の首だ。その上、コイツの一味にはニコ・ロビンがいる」

「……オハラの生き残りか、噂は聞いている」

「お前がどこまで知ってるか分からねェが……カナタの奴は、ニコ・ロビンが政府や四皇の連中に捕まることを危惧してる」

「だろうな。〝古代兵器〟だか何だか知らないが、そういったものを復活させられる可能性があると聞いている」

 

 だが同時に、〝黄昏〟の艦隊を大々的に動かして捕縛に当たらない辺り、警戒してはいてもカナタの中で優先度は低いのだろうと考えていた。

 アラバスタの一件で百獣・ビッグマムの海賊同盟相手に大立ち回りはしていたが、ロビン本人を捕まえようとは動いていなかった。それがどういった考えの下で出された判断なのかは分からないが、カナタがこの件に消極的なのは傍から見ていてもわかる。

 ユイシーズの考えを見抜いてか、フェスタはにやりと笑った。

 

「まァカナタ自身は無理に捕縛しようとは考えてねェようだな。だがニコ・ロビンが四皇や政府に捕まるのは困るってのが本音さ」

「自由にさせておくと危険な人物を捕えておくことを忌避するような人ではない、と思っていたが……」

「あいつにゃあいつの事情があんだろ。正直なトコ、予想が付かないワケじゃねェ」

 

 元海兵の巨人族であるサウロは隠そうと思って隠せるものでは無いし、フェスタとて古い時代を生きた海賊である。個人的に情報を得る伝手はそれなりに用意していた。

 オハラへの〝バスターコール〟を襲撃した〝残響〟のオクタヴィア。その後オクタヴィアを倒したカナタ。

 そして、ロジャー以前に暴れ回ったロックス海賊団の一員であるオクタヴィアとカナタの関係性──後姿はよく似ており、仮面を被ってしまえばその下がどちらでも外見で判断するのは難しい。

 この際オハラから学者を連れ出したのがオクタヴィアでもカナタでも構わないのだ。結果的にオクタヴィアはカナタに倒されているし、それならば最終的にカナタの手元に学者がいる可能性が高いことに変わりはない。

 フェスタが気付いた以上、()()()()()()()()()()()()()

 ロビンとカナタがどこかで繋がっているのなら、表立って捕らえようとすると邪魔が入ることは想像するに容易い。コソコソ動き回るハズだ。

 

「これでもカナタの奴にはそれなりに世話になってるからな。おれなりにあいつには期待しているトコもある。多少気ィ回すくらいはするさ」

 

 ロジャー亡き今、この時代を〝白ひげ〟のものだと呼ぶものがいる。

 カイドウやビッグマムとて負けておらず、世代は一つ下だが赤髪だって負けてはいない。

 群雄割拠するこの海の中で、世界を沸かせる〝熱狂(スタンピード)〟を生み出すのが誰か──フェスタは、他ならぬカナタこそが次代をけん引する存在になるのだと考え、賭けた。

 強く、美しく、そして恐らくフェスタが考えている以上に()()()()()()()に、フェスタは全てを賭けているのだ。

 

「〝黄昏〟全体としちゃ、最終的に損することはねェハズだ。これでお前がやる気を出さねェってんなら……」

「……その時はどうするつもりなんだ?」

「まァ、なんだ。大人しく頭下げるしかねェわな」

 

 肩をすくめてぷかぷかと煙を吹かすフェスタに、ユイシーズは肩透かしを食らった気分だった。

 それなりに長く生き、プライドもある男だ。軽々しく頭を下げるような男ではないが……彼にそこまでさせる何かがある、というのは今しがた説明を受けた。

 要は、ニコ・ロビンが捕まらないように、あるいは捕まっても取り戻せるように、世話になっている麦わらの一味の戦力を底上げしたい。そういうことなのだろう。

 ……相変わらず、ユイシーズ本人にはメリットは無いが。

 組織として利益があるのなら、動くことに否はない。

 

「いいだろう。相手をしよう」

 

 

        ☆

 

 

 ルフィはフォクシーとの戦闘で負った傷など気にも留めず、軽く体を動かして調子を確かめていた。

 

「傷が痛むなら明日でも構わないが?」

「いや、いいよ。やろう」

 

 闘技場の中に残ったのは戦闘に自信のある3人にプラスしてペドロとゼポの2人である。

 他の面々は戦う事に自信がないのと、医者であるチョッパーに倒れられると困るという理由で観戦であった。

 開始の合図は特にない。共に海賊である以上、そんなものが必要だとは思わなかったのだ。

 最初に仕掛けたのはルフィだった。

 

「ゴムゴムの──〝銃弾(プレット)〟!!」

 

 勢いよく殴りつけるも、ユイシーズは涼しい顔でその拳を掴む。

 伸びたり縮んだりするゴムの肉体に眉を動かすことはあったが、それでもユイシーズに危機感を抱かせるほどではない。

 ルフィは掴まれた腕を縮め、その勢いで接近してもう片方の腕で殴りかかる。

 ユイシーズは冷静に、掴んだ腕を離して顔の前で拳を構えた。ボクシングの構えに近いが、少々違う──パンクラチオンと呼ばれる格闘技の構えである。

 

「ルフィ、不用意に近付くな!」

 

 横合いから攻撃を仕掛けたペドロの剣を軽く動いて避け、標的をルフィからペドロへと変える。

 〝エレクトロ〟による電撃を剣に纏わせ、ユイシーズの振るう拳を防ぐ。

 しかしユイシーズは一切電撃の影響を受けず、防いだ剣ごとペドロの胸部を殴打して吹き飛ばした。

 

「カハッ──!!」

「ペドロ!」

「他人を気にする余裕があるのか?」

 

 吹き飛んだペドロに視線を奪われたルフィは、即座に距離を詰めて来たユイシーズに反応しきれず、顔面に強烈な一撃を貰う。

 通常、ゴム人間のルフィに打撃は通用しない──が、能力者である以上、覇気を纏えばその耐性も貫ける。

 普段打撃によるダメージを貰うことがないこともあってか、ルフィは顔面を打ち抜くパンチにチカチカと視界が明滅していた。

 鼻血を出しながら吹き飛ばされ、入れ替わるようにゾロとサンジが連続で攻撃を仕掛ける。

 

「〝鬼斬り〟!!」

「〝首肉(コリエ)シュート〟!!」

 

 斬撃と足技はそれぞれ片手で止められ、2人は目を見開く。

 手応えが普通の人間とは違う、まるで鋼鉄でも攻撃したかのような手応えだったからだ。

 

「テメェ、人間じゃねェのか!?」

「これしきで驚かれても困るな」

 

 空島で一戦交えたマラプトノカの仲間にも似た感触だったが、あちらと違うのは防いだ腕の部分が黒く変色していたことだろう。

 あれは覇気だ、とゾロは直感的に理解した。ゼポやペドロの教えがなければ、気付けもしなかった。

 サンジには同じように蹴り技で返し、三刀を振るうゾロには両腕に覇気を纏って防ぎながら連続した打撃を叩き込む。

 一撃の威力が段違いだった。

 体の芯に響くような打撃は、食らっただけで体力を大きく奪われていく。

 

「覇気使いってのはこう戦うんだ、よく見てろ!」

 

 倒れるゾロとサンジを下げ、意識が落ちていないことを確認しながらゼポが前に出た。

 両手に覇気と電撃(エレクトロ)を纏い、姿勢を低くしながらユイシーズへと殴りかかる。

 だが、触れれば通用する電撃さえユイシーズには通じていなかった。ゼポと当たり前のように近接戦を繰り広げている。

 

「エレクトロが通じねえのはどういう理屈だ、ゆガラ!?」

「おれの覇気をそこらの覇気使いと同じにみられては困るな」

 

 その程度で〝戦士(エインヘリヤル)〟の次席など取れるはずがない。

 ユイシーズの覇気は通常の肉体を強化する効果だけではなく、体の外側へ鎧のように纏う使い方を会得している。純粋にこれを打ち破る攻撃か、あるいは鎧を内側から破壊するような覇気を使わねば、ユイシーズの肉体にダメージは通らない。

 

「ゼポ!」

 

 地面を滑るように移動して接近したペドロと、攻撃を受けつつも倒れないゼポの両面からの攻撃に対し、ユイシーズは死角からの攻撃さえまるで見えているかのように回避してみせる。

 麦わらの一味の中で現状、最大戦力と言っていい2人が瞬く間に崩されて倒れていく。

 僅か数秒の事であった。

 一撃の重さが段違いであることも理由だろう。

 まるで見えているかのように死角からの攻撃に対応することも理由だろう。

 ただ純粋に、ユイシーズは戦士として強かった。

 

「──まだやるか?」

 

 挑発するかのように見るユイシーズに、ルフィは腹に力を込めて立ち上がった。

 ゾロもサンジも、一撃受けただけではまだ負けたと認める気もない。

 返答は不要である。ただその戦意をもって答えとし、3人は再びユイシーズ目掛けて攻撃を仕掛けた。

 何度も何度も、当たるハズの攻撃を躱され、まるでどう逃げようとしているかわかっているように振るわれる拳にダメージを蓄積されていく。

 何度も何度も──全員が遂に立ち上がることさえ出来なくなるまで、ユイシーズは一切加減も躊躇もせずに殴り続けた。

 

 〝麦わら〟のルフィ並びにその一味の、完全敗北であった。

 

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