ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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第二百十四話:自分で何とかしろ

 

 ルフィが気が付いた時には、辺りは真っ暗になっていた。

 清潔なベッドの上で手当てをされて寝かされており、いくつも並べられているベッドにはゾロやサンジが同じように寝ている。

 むくりと起き上がって周りを見ると、枕の横に麦わら帽子が置いてあった。

 無意識にそれを手に取って頭にかぶると、腕に包帯が巻いてあるのが目に入る。

 

「…………」

 

 包帯は巻いてあるが、別に出血しているわけではない。

 ユイシーズはひたすらルフィたちをボコボコにしていたが、後に引くような痛みなども特に感じられない。

 つまり、ルフィたちは手加減されていたのだ。

 軽い痣くらいにはなっているだろうが、それだって特に気にするような傷でもない。

 5人がかりで戦って全く歯が立たなかった。フェスタが言っていた「ここから先出て来る敵」の強さとやらを、とにかく分かりやすく叩き込まれたわけだ。

 じっと自分の手を見ていたルフィだが、動けないわけでもないし、何より空腹から腹の虫が鳴っている。

 ベッドから降りると、ルフィは鼻を利かせて食べ物がある方向を探る。

 

「こっちだ! うまそーな匂いがする!」

 

 とにかくいい匂いのする方向目掛けて走り始めるルフィ。

 どうやら階下から漂ってきているらしく、それにつられて階段を駆け下り、バタバタと音を立てながら廊下を移動する。

 辿り着いたのは食堂だった。時間的には夕食よりだいぶ遅い時間のようだが、この島では酒と博打で遅くまで騒がしいのも珍しくはない。

 この食堂も例に漏れず、遅くまで開いているようだった。

 ……この建物が何のためのものなのか、ルフィはさっぱりわかっていないが。

 

「うんめー! おっちゃんこれうめーな!!」

「おー、そう言ってくれるのは嬉しいが……いやよく食うなお前。何人前食ってんだよ」

 

 そう言いながらも料理の手を止めない男。忙しい時分ならばともかく、ルフィひとりしかいない今なら作る傍から消えて行っても特に負担は大きくないのだろう。

 バクバクガツガツと手を止めずに食べているとやがて満足したのか、ルフィは膨らんだ腹を抑えながら「腹いっぱいだ」と笑みを浮かべる。

 口の周りは随分汚れていた。

 料理人の男が使った食器を片付けていると、ふとルフィが気になったことを訊ねて来た。

 

「なァおっさん」

「なんだボウズ」

「ここどこだ?」

「お前、なんで知らないでここに……ああ、気絶してたんだったか。ここは港に近いホテルだよ。食堂は外部からでも入れるがね」

「なんでおれはここにいるんだ?」

「そこまでおれが知るか」

「おれがお前たちをここに連れて来たんだ」

 

 呆れ顔の料理人が事情を知るはずもなく、ルフィも「そうかー」で済ませようとしていたところで、食堂の入口から声がかかった。

 ユイシーズである。

 昼間の服装とは違ってシャツとジーパンの随分ラフな格好だ。完全に休むだけ、といった雰囲気である。

 ユイシーズはルフィの対面に座ると、料理人の男にお茶を頼む。

 

「この島にも病院はあるが、お前たちの怪我で病院に放り込んだところでベッドに寝かせておくだけだからな。お前たちの船医のタヌキが治療をしたあとはここのベッドに転がしていた」

「そうか」

「……だが驚いたな。明日の朝までは到底目覚めんだろうと思っていたが、こうも早く目を覚ますとは。思ったより頑丈なのか?」

「ああ、うん。あのくらいなら平気だ」

「……そうか」

 

 呆れているような、驚いているような。ユイシーズは何とも言えない表情で置かれたお茶を一口飲む。

 ルフィも食後のお茶を飲んで静かな時間が流れていると、ユイシーズから口を開いた。

 

「お前たちの実力不足は分かったハズだ。おれはそれなりに強い方だと自負しているが、それでもおれ以上に強い奴はいる。ここで諦めるのも一つの道だ」

「いや、諦めねェ」

 

 ルフィは一切退かなかった。

 完全敗北を喫したとしても、お前では無理だと言われても、だからどうしたと返すだけだ。

 だってそうだろう。夢を追うことをそう簡単に諦められるのなら、今ここでこうして海賊などやっていない。

 どれほど辛く、厳しい道だったとしても、夢を叶えるためなら足を進められる。

 〝海賊王〟の座に興味はなくとも、世界一周を目指して旅をし、最終的に〝黄昏〟の傘下として収まったユイシーズには、あまりに眩しい姿だった。

 

「前に進むための一歩が如何に重く苦しいものか、おれは知っている──〝麦わら〟、お前はその冒険の先に何があろうと前に進めるか?」

「進むさ。おれは〝海賊王〟になる男だ」

 

 今はまだ勝てない相手がいるなら、どうにか勝てるよう強くなるしかない。ルフィの底抜けに前向きな姿勢にユイシーズは笑みをこぼし、「なるほど」と納得した。

 これは、確かにカナタが気に入るハズだ。

 先程報告した時の楽しそうな声を思い出しながら、ユイシーズはルフィを改めて見る。

 

「であれば、忠告しておこう。ニコ・ロビンについてだ」

「ロビンになんか用でもあんのか?」

「用があるのはむしろ、周りのお前たちの方だな」

 

 ルフィと一戦交えたことはカナタに報告する程のことではない。だが、カナタの方からユイシーズへと連絡が入って来たのだ。

 内容は簡潔で、「ロビンを狙ってCP0が動いている」というものだった。

 どこから手に入れた情報なのかは分からなかったが、現在のロビンの位置も含めて現状を余さず報告している。カナタも何らかの対策を打っている事だろう。

 それら全てをルフィに伝えたが、あまり理解出来ていない様子を見てなんとなく事情を察し、「仲間の方にも話しておこう」と提案しておく。

 

「ああ、うん。そうしてくれ」

 

 興味がないわけではないのだろうが、サイファーポールのことすら知らないのでは事情を呑み込めなくても仕方がない。

 ロビンの事を守ろうとするのであれば、少なからず政府から狙われる。知識の不足は致命傷になり得る。

 この島での件で敵を知ることを怠る愚かさを知ったハズだ。自らの力を過信することの厳しさを理解したハズだ。

 ……()()()()、と前に進める者だけが大成出来るのだろう。

 すべてを知って行動することなど誰にも出来ない。自分の力を信じる事さえ出来ない者に勝利など訪れない。

 結局のところ、何があっても()()()()()が強いのだ。

 

「期待しよう、〝麦わら〟のルフィ。お前たちの事はお前たちで何とかすることだ」

 

 

        ☆

 

 

 〝ミズガルズ〟から〝ウォーターセブン〟へ向かう海上にて。

 政府の船に乗ったCP0──ゲルニカは、五老星から情報を受け取っていた。

 

『──ニコ・ロビンの居場所が分かった。次の目的地もな。万全の態勢で迎え撃ち、これを捕縛せよ』

「ニコ・ロビンに味方の組織などはいますか?」

『アラバスタでクロコダイルを下した〝麦わら〟のルフィ率いる一味にいるようだ。ニコ・ロビンと以前から手を組んでいるペドロ、ゼポの両名も確認出来ている。少数だが総合懸賞金(トータルバウンティ)は10億近い。ゆめ油断するな』

「了解しました」

『それと──CP9の長官が以前から工作員を潜ませていたようだ。裁量権を与えるので好きに使え』

「CP9が工作員として? 一体何を目的に?」

『古代兵器〝プルトン〟の設計図を探らせている』

 

 ゲルニカが息を呑んだ。

 古代兵器を復活させ得るニコ・ロビンと、古代兵器そのものの設計図。共に手に入るとなれば、この世界の情勢は大きく変わる。

 失敗することなど許されない重大な任務だ。気合も入るというものである。

 

「設計図の在処など、詳細は分かっているのでしょうか?」

『CP9の長官から工作員の情報を送らせる。周囲にバレないよう接触し、任務を遂行せよ。また、ニコ・ロビンの捕縛は他勢力にバレないよう行え……バレたと判断した場合、最悪()()()()()()()()()()

 

 ウォーターセブンは腕のいい船大工の集まる島である。政府や海軍にも多数の船を卸しているし、〝海列車〟を開発した島でもあるため、出来ることなら残しておきたいところではある。

 だが、ニコ・ロビンを捕縛したことが知れれば百獣・ビッグマムの海賊同盟が動き出す可能性が高い。どれだけ万全の防備を敷いたところで、四皇のうち二つの勢力を同時に相手取るのは非常に厳しいものとなるだろう。

 〝黄昏〟の戦力を当てにすれば勝てるだろうが、五老星はそれを考えていなかった。

 ニコ・ロビンとカナタが裏で繋がっていると考えているからである。

 空島にあった〝オハラ〟、ニコ・ロビンが〝ミズガルズ〟を訪れるのと時期を合わせて一掃された諜報員、そして過去オハラへのバスターコールに介入した〝残響〟のオクタヴィアと、オクタヴィアを下したカナタ。

 今現在も行方不明のニコ・オルビアを含めて〝黄昏〟が裏で手を引いている可能性は高く、それ故に後背を突かれる可能性を考えて〝黄昏〟を当てには出来ない。

 不審に思われることはあるだろうが、確定的でない情報なら誤魔化しようはある。

 

「……〝バスターコール〟の権限はどなたが?」

『センゴクにゴールデン電伝虫をCP9の長官に与えるよう指示している。手渡すには時間がないため、必要な時はお前から命令せよ。〝オハラ〟の一件のやり残しだ。海軍も手は抜かんだろう』

 

 ゴールデン電伝虫はバスターコールを発令するための特殊な電伝虫だ。

 海軍大将及び元帥しか持つことを許されていない特別なものだが、逆に言えば正規に貸与されれば発令の権限を委譲出来るものでもある。

 実際に担当するのがセンゴクか海軍大将かは不明だが、誰が担当になっても戦力的には万全だ。

 

『速やかに命令を遂行することを期待している』

「……御意のままに」

 

 ゲルニカは連絡を終え、必要な命令を頭の中で繰り返す。

 最優先はニコ・ロビンの捕縛。

 次いで古代兵器〝プルトン〟の設計図の奪取。

 ロビンの捕縛を他勢力にバレないよう行い、これに失敗した場合はウォーターセブンへのバスターコールを発令すること。

 概ねこんなところだろうか。〝プルトン〟の設計図を奪取出来なかった場合のことは聞いていないが、現場で工作員として潜入しているCP9に話を聞くまでは何とも言えない。

 現存する可能性があるだけで、現物を実際に確かめたわけではないからだ。存在自体が怪しいので、探すだけ徒労になる可能性も決してゼロではなかった。

 最悪バスターコールで全てを灰燼に帰すよう命令が下っていることを考えると、五老星も設計図が現存する可能性自体高いとは考えていないのだろう。

 

「……頭の痛い問題だが、何とかするしかないか」

 

 ペドロ、ゼポの両名については資料がいくらかある。これまで政府や海軍が捕えようとして交戦した記録もあるので、実力も大体わかるだろう。

 麦わらの一味についても同様だ。クロコダイルを下し、細かく素性を辿っていけば何かと実力のある一味だとわかるが……それでもCP0の敵にはなりえない。

 問題は、ウォーターセブンにいるであろう〝黄昏〟の関係者だ。

 あそこには今、厄介な人物が滞在していると聞いている。

 

 




今章短いですが、ちょっと幕間挟んで終わりになると思います。次章が長いので…。

次章予告!
「次なる島は船大工たちの治める島。水の都と呼ばれる美しい都市を前哨戦に、正義を背負う者たちがいかなる手を使ってでもと海賊たちを追い詰める。
 バスターコールの権利を得たサイファーポール。
 水の都に潜む政府の暗殺者たち。
 船大工たちと七武海を巻き込み、事態は誰もが想像しないほど大きく膨れ上がっていく。

 次章、白夜司法機関エニエスロビー/悪魔の子

 ──あなた達が無事でいられるのなら、私の事は見捨ててくれて構わない」

次章予告その2
「陽気に笑う船大工。悪意に嗤う諜報員。誰もが敵の大きさを知れば身をすくめて諦めるけれど、友達のためなら諦めることなどありはしない!
 偉大な冒険を成し遂げた海賊。
 交易拠点を守る巨獣。
 雷鳴響かせる剣士。
 きっと大丈夫、誰が出てきても負けはしないさ。

 次章、白夜司法機関エニエスロビー/悪魔の子

 任せてくれたまえ! 何しろ私は天才だからね!」
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