ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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第二百十九話:悪魔の踊り方

 

 その日の朝は随分と慌ただしかった。

 フランキー一家の本社は常に人がいるというわけではないのだが、今はルフィたちが船を置いている都合上何人かは出入りしている。

 そのうちの1人──まとめ役をやっているザンバイが慌てた様子で入って来たかと思えば、朝食を食べているルフィたちに朝刊を見せた。

 ザンバイの尋常ではない様子に訝しみつつ、朝刊を受け取ったナミはざっと目を通して顔色を変える。

 

「何が書いてあるんだ?」

「……〝ウォーターセブン市長、アイスバーグ氏。暗殺の魔の手伸びる〟」

「暗殺!? あのおっさん、殺されたのか!?」

「死んじゃいねェ! だが新聞によるとだいぶ危なかったらしい……」

 

 ひとまず死んではいないということでホッと胸を撫で下ろす一同。

 だが、ザンバイは非常に困った顔で口を開いた。

 

「悪いが、アンタらはしばらくここにいてくれ。アイスバーグさんはこの島じゃかなり慕われてるからな、町中ピリピリしてんだ……海賊ってだけで疑われちまうかもしれねェ」

「それは……困るな」

「でも船の話とかしたいんだが、どうすりゃいい?」

「あー、その辺の話はアニキを呼んでくるからそっちとしてくれ」

 

 いち職人に過ぎないザンバイではその辺りの詳しい話は出来ないと言う。

 もちろん内装や外装の話ならいいが、金が絡むと棟梁であるフランキーを通さないと何とも言えないのだ。

 

「とにかく今日はここから出ない方が良いってことか……」

「退屈かもしれねェが、安全には代えられねェと思ってくれ」

 

 ルフィたちとて好きで疑われたいわけではない。

 この状況で動き回れば厄介なことになりかねないと理解しているため、不満げな顔こそするものの一応の納得を示す。

 仕方がない、と話が落ち着きそうになったところで、今度はフランキーが姿を現した。

 いつも通りの海パンアロハにサングラス姿だが、どことなく今日はピリピリとした雰囲気である。

 

「あ、アニキ! あの人の容体とかどうでしたか?」

「おうザンバイ、命に別状はねェそうだ。カテリーナが治療してるし、アイツが言うなら大丈夫なんだろう」

「そりゃよかった……」

「カテリーナって昨日船見てくれた女の人でしょ? あの人、船大工じゃなかったの?」

「あいつは自称〝万能の天才〟だからな。建築も医療も何でも出来る」

 

 自称とはいうものの、実際に各分野で功績を残していることを考えれば自他ともに認める称号と言っていいだろう。

 それほどの人材だからこそカナタも常に護衛を付けるよう言っているのだから。

 

「そのカテリーナからご指名だ。ちょっとツラ貸せよ、〝麦わら〟のルフィ」

「おれ?」

 

 朝食のサンドイッチを頬張りながら、ルフィは事情を良く分かっていない顔で首を傾げた。

 

 

        ☆

 

 

 ──同時刻、ガレーラカンパニー本社。

 本社上層階にアイスバーグの私室があり、関係者はベッドで眠るアイスバーグの近くに集まっていた。

 ベッドの横に座っているのはカテリーナだ。夜通し治療にあたっていたためか、顔には疲労の色が見える。

 誰もが気になっているアイスバーグの容体を、職長の1人であるパウリーが訊ねた。

 

「カテリーナさん。アイスバーグさんはどうなんだ?」

「峠は越えてるし、容体は安定してる。意図的かは分からないけど弾丸は急所を外していたし、命に別状はないよ」

「そうか……何はともあれ、生きてるなら良かった」

 

 安堵したように息を吐くと、話を聞いていた周りの職長たちやカリファもホッとしたように胸を撫で下ろした。

 ウォーターセブンにおいて、アイスバーグを慕うものは多い。安心させる意味と、やや機能不全を起こしかけている街を安定させる意味でも、職長の1人であるルルがマスコミに説明するため部屋を出て行く。

 夜中に撃たれてからすぐにカテリーナが駆け付けたため、現場の検証なども進められてはいるが……今のところ何の証拠も出て来ておらず、犯人は推測すら出来ていない。

 困ったものだと思っていたが──麻酔が切れたアイスバーグが目を覚ますと、「犯人を見た」と証言が出たことで状況は一変した。

 

「2人組だった。だが両方とも仮面を被っていたから素顔は見ていない……」

「そうですが……ですが、犯人が複数犯と言うだけでも貴重な証拠です」

「そうか、それならいい……カテリーナと話がしたい。2人きりにしてくれるか?」

 

 カリファに証言を警察へ届けるよう頼み、アイスバーグはカテリーナと私室に2人きりとなる。もっとも、壁の傍にはカテリーナの護衛がいるので完全に2人きりと言うワケではないのだが。

 ともあれ。

 バタバタと犯人逮捕に燃える職長たちが各地に散って指示を出しに行く傍ら、このアイスバーグの私室だけがシンと静まり返っていた。

 

「……今回は助かった。お前がいてくれて命拾いをした」

「ふふ、何せ私は天才だからね。お酒飲んでたのがちょっと不安だったけど」

「酒を飲んだのにおれの治療をしてたのか!?」

「叫ぶと体に障るよ」

 

 思わず叫んだアイスバーグを落ち着かせ、「それで」とカテリーナは仕切りなおす。

 

「何もそれを言うためだけに残したんじゃないんでしょ」

「ああ──おれを撃った二人組は仮面を被った白い服の男たちだったが……あれは多分、政府の諜報員だ」

「……そっか」

「おれも遠目にチラッと見た事がある程度だが、恐らくCP0だろう。『これは警告だ』と言っていた……おれの持ち物を狙って、遂に強硬手段を取るようになってきたらしい。いよいよおれの身も危なくなってきたな」

 

 自嘲気味に笑みをこぼすアイスバーグを尻目に、カテリーナは真剣な顔で考え込む。

 CP0はサイファーポールの中でも特別だ。

 天竜人の代理人、あるいは天竜人の護衛として活動することもある彼らは、暗殺ではなく正面から戦う強さをこそ求められる。

 その彼らがわざわざ暗殺を仕掛けて来た。それも一度目はわざと失敗させている。

 なるほど、確かに警告と呼ぶにふさわしいだろう。

 

「コーギー君が来た直後にこれ、ってことは多分、向こうも意思疎通が出来ていないんだろうね」

 

 サイファーポールは基本的にナンバーごとに長官が置かれ、統括している。意思疎通が出来ていないということはそれだけ急な動きだったという事。

 アイスバーグの持ち物。天竜人の代理人であるCP0が動く理由。

 かなり急な動きだったのなら、それだけ重要な切っ掛けがあったハズだ。

 

「アイスバーグ君。私は君の持ち物に関することを知らないけれど、おおよそ推測することは出来る。そのうえで答えて欲しいんだけど……政府が欲しがってる()()、古代兵器関連のものだったりするのかい?」

「…………お前に隠し事をするのは難しいな」

 

 カテリーナとアイスバーグはそれなりに長い付き合いだ。

 カナタを通じて造船業を学びに来て、海列車を共に作り、今でもこうして近い立場で話が出来る貴重な友人でもある。

 だが、それでも彼女は立場上海賊だ。アイスバーグが教えることは難しい。

 今まで隠し通せてきたのは、カテリーナ本人がなるべく踏み込まないように配慮してきたからに過ぎない。

 

「ウォーターセブンの船大工には代々受け継がれてきた設計図がある──古代兵器〝プルトン〟の設計図だ」

「古代兵器、〝プルトン〟……」

「強硬策を取った理由は分からないが、おれはどちらかと言えば〝歴史の碑文(ポーネグリフ)〟を読めるニコ・ロビンの事を警戒していた。あの女が歴史を知りたいだけの行動で古代兵器が復活するのは困るからな」

「……そうなる前にカナタさんが手を打つよ。多分ね」

 

 ロビンとカナタの関係性は軽々に口にして良いことではない。カテリーナとしてはアイスバーグの心配も理解出来るし、安心させてやりたい気持ちもあるが、これは漏れると非常に困る情報だ。

 同時に、昨日いきなり予定をキャンセルしてルフィと行動を共にしようとした理由に納得が出来た。

 あれはルフィを通じてロビンの事を探ろうとしていたのだろう。

 

「でも、そっか……そうなると、やっぱりルフィ君を呼んだのは間違いじゃなかったみたいだね」

「〝麦わら〟を呼んだのか? 何故だ?」

「事情を把握するには関係者を集めたほうが良いだろう? ボチボチ皆集まるだろうから、そこで話すとしよう」

 

 カテリーナの言葉通り、アイスバーグの私室には呼ばれてきたであろう者たちが集まって来た。

 フランキーとルフィ、それにトムとトムの秘書のココロである。

 トムは海列車を作った功績もあって政府から要人として扱われており、護衛と称した監視が今でもついているので、彼らには遠慮してもらっている。

 

「たっはっは……大変なことになったな、アイスバーグ」

「わざわざすまねェな、トムさん」

「いいってことよ。たまには出歩かにゃ、体が鈍っちまう」

 

 御年75歳、まだまだ元気と言わんばかりに力こぶを作るトム。今でも船造りに携わっているが、もっぱら後進の指導に当たることの多い男である。

 いい歳なのに困ったもんだよと肩をすくめるのは、トムの秘書を務めるココロだ。

 朗らかに笑う2人とは対照的に、フランキーはイライラした様子を隠しもしないし、ルフィは呼ばれた理由が分からず戸惑っている。

 

「オイ、カテリーナ! いい加減なんでこいつを呼んだのか理由を教えろ!」

「そりゃ無関係じゃないからさ」

 

 フランキー、トム、ココロはアイスバーグとカテリーナ含む〝トムズ・ワーカーズ〟と呼ばれる造船会社の関係者だ。アイスバーグの持ち物を政府が狙ったというのなら呼ばれる理由も理解出来る。

 だがカテリーナがルフィを呼んだことだけはフランキーには理解出来ず、カテリーナが「無関係じゃない」と言う言葉にもさらに混乱するだけだった。

 

「そういうはぐらかそうとする言い方は好きじゃねェんだよ……! さっさと話せ!」

「そうだね。アイスバーグ君もまだ安静にしないといけないし、長々と話すのは良くない」

 

 しかし、説明するためにまずは先に情報の共有をするべきだとアイスバーグの方を見る。

 アイスバーグはあまり気乗りがしないようだったが、それでも最終的には頷いた。

 まず一つ目、アイスバーグが狙われた理由。恐らくは彼の持ち物を狙った政府の犯行であること。

 二つ目、狙われたアイスバーグの持ち物がとある設計図であること。

 

「……話したのか、アイスバーグ」

「ほぼバレていた。彼女相手に隠し事をし続けるのは難しくてね」

「たっはっは……そりゃ仕方ねェ」

「で、狙ってきている推定政府の諜報員なんだけど。全部鍵を開けられていたんだよね。会社の入口とアイスバーグ君が撃たれた部屋は内から施錠出来るんだけど、無理矢理こじ開けた形跡がないんだ」

「鍵を持ってたってことか?」

「そうだね。入口はともかく、アイスバーグ君の部屋の鍵は一部の人しか持ってない。だから多分、今回の襲撃を手引きしたのはカリファだよ」

 

 当たり前のように自身の秘書が犯人の手伝いをしたと聞き、アイスバーグは目を丸くする。

 普段アイスバーグの部屋に出入りする人間は限られるし、鍵を持っている人間となるとさらに限られる。最有力候補としてアイスバーグの秘書であるカリファが挙げられるのは何ら不思議なことではない。

 加えて、カテリーナにはもうひとつカリファを疑う要素があった。

 

「トビ」

「何でしょうか」

 

 今の今まで壁の花として静かに護衛の仕事をしていた少女が、カテリーナの声に反応した。

 

「君、この町に居て怪しいと思う人の名前を上げてくれるかい」

「アイスバーグ氏の秘書カリファ。職長カク。職長ルッチ。酒場の店主ブルーノ。以上四名はおよそ立場に見合わぬ強さを持つと推察いたしまする」

「な──」

 

 職長2人に秘書。それに酒場の店主。トビの挙げる名前に、ルフィとカテリーナ以外の面々が唖然とした顔をする。

 事前に聞いていたカテリーナとしても、これだけ内側に入り込まれているとは思っていなかった。

 苦々しい顔のまま、それでも誰かが言わなくてはいけないと感じて。

 

「彼らは敵だよ。色々と思うところはあるけどね……静かに探ってるだけなら私たちが手出しをする余地はなかったけど、こうなると話は別だ」

「……どうするつもりだ?」

「トムさんたちをここに呼んだのは、本命の襲撃が今日あると思ってるからだよ。バラけてるより一ヶ所に固まってくれた方が守りやすいからね。援軍も呼んであるけど、こっちは間に合うかどうか賭けかな」

 

 CP0に近しい実力を持つ者など、如何に〝黄昏〟が潤沢な人材を持つとは言えそうそういない。

 カテリーナの護衛に付いているトビでさえ、相手がCP0クラスなら時間稼ぎが関の山だろう。

 そこで、カテリーナはルフィを呼んだのだ。「無関係ではない」と理由を付けて。

 

「ルフィ君。ロビンは今、どこにいるんだい?」

「分からねェ。昨日から帰ってきてねェんだ」

「……そっか。()()()()()

「オイ、カテリーナ! 1人で納得してねェで説明しろ!!」

 

 長々と説明するカテリーナに業を煮やしたのか、フランキーが腕組みをしたまま声を荒げた。

 カテリーナは臆することなく、簡潔に言い切った。

 

「多分、政府はロビンを捕まえたんだ。古代兵器を確保出来る目途が立ったから、設計図も急いで確保しようとして今回の事件を起こした」

「……証拠はあんのかよ」

「無いよ。無いけど、一番最悪のパターンがそれだからね」

 

 ロビンとプルトンの設計図を手に入れれば、古代兵器の力を使って政府は大海賊時代を終わらせにかかるだろう。

 もっとも、力の行使が()()()()で終わるとは到底思えないが──。

 ともかく、残っている現物が手に入る可能性があって、それに対抗するために残された設計図をこのままにしておくのは政府としても都合が悪い。プルトン同士で潰し合っても政府に利は無いのだから。

 だからアイスバーグが持つであろう設計図を確保しに動いたし、一度目を警告で済ませた。

 素直に差し出せば良し。そうでなければ──ということだ。

 

「一応聞くけど、渡す気はないんだよね?」

「当然だ。設計図を残しているのは暴れはじめた兵器を止めるためだからな。政府の横暴に手を貸す気はない」

「そっか、それならいいんだ。もし渡すつもりなら止めなきゃいけなかったからね」

「しかし、今日も襲撃があるならどうするんだ? 政府の諜報員相手にまともに戦える奴なんてそういないだろう」

「アウ! おれが全員ノしてやろうか?」

「君でも無理だよ。CP0って滅茶苦茶強いからね? カナタさんでも警戒してるくらいなんだから」

 

 カナタが警戒しているのは諜報員としての側面が大きいのだが。

 それでも警戒をし過ぎて悪いということはない。アイスバーグやトムの命がかかっているのだから。

 警戒網を敷くのは当然として、この島にいる〝黄昏〟の面々を集めて防衛戦をやる必要がある。

 それでも戦力は足りないので、カテリーナは視線をルフィへ向けた。

 

「ニコ・ロビンをさらった政府の諜報員は、多分今夜現れる。君たちだって仲間をさらわれてるわけだし、言いたいことはあるよね?」

「当たり前だ!」

「じゃ、君らも来なよ。人手は多い方が良い」

「良いのか!?」

「うんうん、いいよ。どうせ駄目って言っても来そうだしね」

 

 どうもルフィは言葉で説得したところで言うことを聞いてくれるタイプには見えない。なのでどうせならとこちら側の戦力として取り込むことにした。

 特にペドロとゼポは3億を超える懸賞金を付けられているだけあって戦力として期待できる。

 海賊だからと忌避している場合ではないのだ。

 アイスバーグはまだ微妙な顔で納得しかねているようだが、快活としたルフィの雰囲気にトムは誰かを思い出してか笑みを浮かべている。

 

「よーし、それじゃあ防衛戦だ! 今夜の山場を越えれば援軍も期待できるし、何としても乗りきろーっ!」

「おーっ!!」

 

 カテリーナに合わせてルフィが拳を突き上げた。

 アイスバーグとフランキー、ココロはそこはかとなく不安な気持ちでいっぱいになっていた。

 

 

        ☆

 

 

 ウォーターセブン、裏町のとあるカフェ。

 近くの島で仮面を被る仮装カーニバルをやっている影響で、今この島で仮面を被っていても不思議に思われることはない。

 楽な反面、これからの事を思うとやや面倒な気持ちになりつつあった。

 白塗りの顔の男──ゲルニカはコーヒーを飲みつつ、今朝の新聞に目を通す。

 そこへ、顔の上半分を覆う仮面を被った女──ステューシーが目の前の席に座った。

 

「ちょっと派手にやったのね。彼女を捕まえたことはどの勢力にも知られないように、って話だったから、もっと静かにやると思っていたわ」

「設計図は少々派手に動いてでも回収する必要がある。CP9がもう少し使()()()連中なら、我々も苦労をすることはなかったんだがな」

「あるのは確実なの?」

「さァな。失われているならそれはそれで構わん。現物が手に入るなら造れなくなったところで困りはしない」

 

 だが、失われたと確実に言えない限りCP0には任務を遂行する義務がある。

 早々に見つかってくれれば良いのだが、そうでなくては延々と探さなくてはならなくなる。余計な手間が増えることを思えば、今現在任務に就いているCP9が早々に見つけていないことに恨み言の一つも言いたくなるというものだ。

 ステューシーはくすくすと笑うと、自分もコーヒーを注文してゲルニカの前に置かれているスコーンを一つ手に取る。

 

「余り時間をかけると〝黄昏〟が嗅ぎつけて来るのではなくて? 派手な行動はいい手だと思えないけれど」

「設計図の事を知っているならもっと派手に動いてアイスバーグ氏を守っているハズだ。そうしない時点でアイスバーグ氏と〝黄昏〟の間には情報に差がある」

「ふぅん……〝黄昏〟に設計図が渡っている可能性は無いのかしら?」

「ゼロでは無いだろうが、おれはないと思っている」

「その根拠は?」

「アイスバーグ氏と〝魔女〟はそれなりに長い付き合いがある。トムが〝黄昏〟の船の一隻を造っているし、これは確定だろう。そのうえで、アイスバーグ氏の性格と〝魔女〟の思想を考えればおおよそ推測は出来る」

 

 現状、最も設計図を持つ可能性が高いのはアイスバーグだ。それに次いで兄妹弟子であるフランキーとカテリーナ、それに師であるトム。

 だがカテリーナが持つのなら〝黄昏〟の手に渡っていると考えるべきだし、そうなっているならもうどうしようもない。

 同時に、カテリーナに渡すのはアイスバーグの警戒心を考えれば無いだろうとゲルニカは考えていた。

 どれだけ高潔な精神を持っているように見えても、カテリーナに渡せば〝黄昏〟に渡る可能性がある。カテリーナ自身を信じていようとも、カナタは必要なら()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()と理解しているからだ。

 ラジオなどの文化的な要素が取り沙汰されることが多いので見過ごされがちだが、〝黄昏〟は武器や兵器を数多く製造している。

 売りに出していないだけで自分たちで使う分は作っているのだ。この大海賊時代で力を持たぬことはカモにされるだけなので理解は出来るが、それは同時に力を行使することに躊躇いがないと理解させる一助になっている。

 それに何より。

 

「〝黄昏〟が設計図を手に入れているなら、とっくに古代兵器は復活している。奴らは世界政府に対して反抗的なところがあるし、革命軍の〝反逆竜〟ドラゴンとも近しいと噂があるしな」

「そうね。古代兵器があれば世界を引っ繰り返すのも難しくはなさそうだもの」

 

 注文したコーヒーを受け取って口を付け、鼻腔をくすぐる香りと苦みを舌で感じて楽しむステューシー。

 ゲルニカは新聞を畳み、ここに来てようやく視線をステューシーへ向けた。

 

「設計図が見つからないならそれはそれで構わない。五老星から正式に通達が出た──この島は〝バスターコール〟で消す。それに合わせてアイスバーグ氏、トム氏、カティ・フラムの三名は〝エニエスロビー〟へ連行する予定だ。出発は今夜11時。用意をしておけ」

 

 連れて行った後で拷問でも何でもしてゆっくり聞き出す、とゲルニカは言外に伝え、もし現物がこの島に残っていても島ごと消滅させて消すつもりなのだとステューシーに理解させた。

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