ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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第二百二十三話:ブリーフィング

 

 嵐の海の只中を海列車が走る。

 〝アクア・ラグナ〟の高波をギリギリのところで回避した海列車は、〝エニエスロビー〟へ向けて最高速度で進んでいた。

 全7車両のうち、政府の諜報員が5車両を占め、残りの2車両は海軍の兵士たちが詰めている。

 海軍の責任者は大佐だが、近場で動けるのが彼だけだったというだけの話で、この事態そのものは元帥であるセンゴクまで話が上がっていた。

 現在第1車両にトム、アイスバーグ、フランキーの3人に加えてニコ・ロビンが海楼石で捕らえられており、周りはCP0とCP9で固めてあった。誰が見てもわかるほどの厳戒態勢である。

 とは言え、海列車の車内においては平穏そのものだった。

 

「……我々はどうしましょうか」

「〝海列車〟は途中乗車も途中下車も不可能だ。ネズミがいないか確認したなら、海軍にも他のサイファーポールにも仕事はない」

「了解しました。〝エニエスロビー〟到着まで、海軍は後部車両にて待機します」

 

 海軍は世界政府の下部組織だ。CP0は現場指揮であるTボーン大佐に指示を出し、彼もまたCP0の指示に従う。

 細かい指揮系統こそ違うが、この場においてCP0が持つ権限がトップであることに変わりはない。

 後部車両へ戻っていくTボーン大佐を見送り、ゲルニカは静かに座席についた。

 

「あとはこの4人を〝エニエスロビー〟まで運べば、我々の仕事は終わりだ」

「連中、追ってくると思うか?」

「追ってくるだろうな。海列車の残りは〝ウォーターセブン〟には無かったハズだが、別の手段で来ないとも限らない。気を抜くなよ」

 

 ヨセフはゲルニカの言葉に肩をすくめ、ステューシーは「厳しい人ね」と小さく笑う。魚人のトムは嵐の海の中を泳いで逃げる可能性があるので見える場所に居させているが、人間に耐えられる環境ではない。最低限の警戒をするのみである。

 ロビンたちは一塊に座っており、アイスバーグは対面に座ったロビンを見る。

 顔や体にはところどころに血が滲んでおり、抵抗した跡が見られる。手には海楼石の錠が掛けられているので能力は使えず、逃げ出すことは不可能だった。

 捕まっても落ち着いた様子のトムは、ロビンを上から下まで眺めて口を開く。

 

「まさか、こんな形でお前さんと会うことになるとはなァ……人生わからねェもんだ」

「……私に何か用でも?」

「いいや。だが、〝オハラ〟の生き残りであるお前さんのことはずっと気にかけていた」

 

 公的に〝オハラ〟の関係者として生き残ったのは2人。ニコ・オルビアとニコ・ロビンの親子だけだ。

 その逃亡の手助けをしたとして、巨人のサウロも手配書を出されていたが……そちらの重要度はそれほど高くはない。

 

「母親はどこに?」

「もう10年は会ってないわね。どこにいるのかは知らないわ。そんなことを聞いてどうするの?」

「ふむ……いや何、こんな状況になっても随分落ち着いていると思ってな」

「こうなってしまったからには仕方ないもの。逃げ出す隙を見つけようと思ったけれど、この状態では逃げるのもままならないわ」

 

 ジャラジャラと音を立てて海楼石の手錠がついた腕を上げる。

 海楼石はダイヤのように硬いため、これを付けたまま逃走しても鍵が無ければ外すことすら出来ない。能力者の中には様々な方法で外すことが出来る者もいるが、少なくとも手錠を付けられている本人にはどうしようもないし、現状のロビンに外す手立てはない。

 気の良い仲間たち──ルフィたちはきっと自分を助け出そうと動いているだろうし、そうならないように動きたかったが、こうなってしまうともはやロビンに出来ることはない。

 悔恨と申し訳なさと、僅かながらも「こんな自分でも助けに来てくれる」と信じられることに少しだけ笑みを浮かべ、恐らく自分よりも状況を知っているであろうアイスバーグたちに尋ね返す。

 

「今、どうなっているの?」

 

 周りにはサイファーポールがいる。聞かれても大丈夫なことだけを話す必要はあるが……状況を把握しないことには始まらない。

 トムとアイスバーグは目を合わせ、アイスバーグが頷いた。

 

「おれが話そう」

 

 とは言ったものの、周りにサイファーポールがいる状況で全てを説明は出来ない。

 聞かれても問題ない範囲で、ロビンに現状を説明する。

 時間だけはあるため、静かな車内でアイスバーグが語る声だけが響き、時折嵐に揺れる波の音が聞こえる。

 

「……そう。そんなことに」

「政府はおれ達から設計図を手に入れることに躍起になっている。お前と設計図の両方が手に入れば、〝古代兵器〟を使って大海賊時代を終わらせられるとな」

「難しいでしょうね」

「何?」

 

 〝古代兵器〟がどのような代物であるかは何となくの想像がつくものの、ロビンとしてはそういう認識だった。

 世に四皇と呼ばれる者たちは、単独で圧倒的な強さを誇る。果たして〝古代兵器〟を振るって戦ったとしても、易々と滅ぼされるような者たちではない。

 大なり小なり被害は出るだろう。

 何より、どれだけ兵器を振るったところで()()()()()()()()()()()()()

 

「ゴールド・ロジャーが作ったこの時代は、誰かが〝ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)〟を手に入れるまで終わらないわ。手に入れても終わる保証は無いけれど、少なくとも見つけない限り()()を求めて海へ出る者たちが居なくなることはないわ」

 

 これまで〝新世界〟に皇帝のように鎮座している者たちを打ち倒すことが出来たとして、その後に生まれてくる新世代の海賊たちはこれを好機と流れ込んでくるだろう。

 人の夢は終わらない。

 正体不明の秘宝は、暴かれるその日まで人の欲望を煽り続ける。

 それに、ロビンとしても気になることはあるのだ。

 

(……〝古代兵器〟がどのような存在であれ、攻撃を仕掛けるものなら燃料や動力になるものが必要なハズ。専門ではないから分からないけれど、〝古代兵器〟が本当に島一つを消し飛ばすことさえ出来るなら必要なエネルギー量も莫大になる)

 

 少なくとも、現行の大砲や銃の比ではないエネルギーが必要になる。気軽に使えるような代物では無いハズだ。

 何を()べるつもりか知らないが、その点で言えば振るわれる回数は限定的と言えるだろう。

 ……世の中にはほぼ無限にエネルギーを生み出し続ける、あるいはエネルギーを生み出す燃料を作れる能力者もいるので、楽観視は決してできないが。

 

「たっはっは!! 確かに、ロジャーの言葉に踊らされてごまんと海賊が増えたからな!! ロマンを求め続ける限り、海賊は生まれ続ける。そりゃそうだ!!」

「笑い事じゃねェだろ! ったく……まァ政府の思い通りにならねェと思えば胸がすくってモンだがよ」

「ンマー、事はそう単純じゃねェだろうが、一理あるのは確かだな」

 

 遠目で睨んでくるルッチが見えるが、アイスバーグは敢えて無視する。

 これでも裏切られたことをそれなりに根に持っているのだ。これまで仲良くしてきたと思っていたし、しっかり働いてくれていた分ショックを受けている。表に出していないだけだ。

 しかし、このままいけばアイスバーグもロビンも、トムもフランキーも命の危機だ。

 アイスバーグは体を座席に預け、少しばかり眠ることにする。

 どのみちやることもない。カテリーナの事を信じて助けに来てくれるとしても、いざと言う時動けるように体力を回復させておかねばつらいだろう。

 

(……頼んだぞ、カテリーナ)

 

 アイスバーグが友人として、また同僚として最も信頼する女性が上手くやってくれることを願いながら、意識をゆっくりと手放した。

 

 

        ☆

 

 荒れる波を越え、海列車はつつがなく〝エニエスロビー〟へ到着した。

 罪人として連行される4人は駅で降り、いくつかの門を越え、裁判所を通り、〝司法の塔〟と呼ばれる建物へと連れられる。

 

「罪人としてここに来ることになるとはなァ」

「跳ね橋の修理に来た時以来か。たっはっは」

「恩知らずのバカ政府どもがよ! もっと丁重に扱いやがれってんだ!!」

 

 アイスバーグとトムは大人しかったが、フランキーは鎖でグルグル巻きにされたのが不満なのか海兵に噛みついたりと暴れていた。

 CP0もCP9も呆れながら連行しており、やがてとある部屋へと辿り着く。

 CP9の長官がロビンに会いたがっていると連絡を受け、拘禁する部屋ではなく応接室へと連れて来たのだ。

 中に入ると、2人の男が中で待っていた。

 1人はCP9の長官、スパンダム。

 もう一人は──。

 

「……お前がここにいるとは。何の用だ?」

 

 ロビンは、その男の顔に覚えがあった。

 3mを超す大柄な体格。角刈りの頭。赤を基調としたスーツ。

 驚愕と、その男に関連する過去の記憶が結びついて呼吸が浅くなる。

 フランキーとトムはスパンダムの顔にこそ覚えはあるが、もう一人の男に覚えはない。だがアイスバーグはその顔を良く知っていた。

 

「五老星がバスターコールをやるけえ、ゴールデン電伝虫を渡せとセンゴクさんに言うたんじゃろうが。生憎センゴクさんは忙しゅうてのう。ワシが代わりに来たんじゃ」

 

 スパンダムはその男におもねるように笑みとゴマを擦るように手を動かす。

 立場的にも権力的にも、スパンダムは政府の中ではそれなりに高い方だが……目の前の男はそれ以上の権力の持ち主であった。

 海軍において3人しか任命されない役職である〝大将〟の一角。

 

「それに、ニコ・ロビンに関する案件ならワシも無関係ではないけェのう」

 

 過去にロビンの故郷である〝オハラ〟を滅ぼすために発令されたバスターコールの参加者。

 海軍大将〝赤犬〟──サカズキである。

 

 

        ☆

 

 

 追走する海列車〝ロケットマン〟車内。

 一度線路を捕まえてしまえばスロットが利くことはなく、また減速も不可能であるため、カテリーナは機関室ではなく客室の中で電伝虫を使って連絡を入れていた。

 カイエは強いが、敵の数と質を考えればカイエひとりでロビンを奪還することなど不可能である。

 なので、近場の島々に連絡を入れて援軍を要請していた。

 その様子を見てウソップが疑問の声を上げる。

 

「すぐに来れるのか?」

「間に合うかどうかは五分かな。でも可能性がゼロよりマシだよ。スピード勝負だしね」

 

 元々朝の時点で援軍の要請はいれていたのだ。ジョルジュが「好きにやれ」と言ったので、何が起きても良いようにと〝ウォーターセブン〟に戦力を集結させるつもりでいた。

 予定が変わって行先が〝エニエスロビー〟になったので、その旨を伝える連絡である。

 船がどれだけ速くても海列車ほどの速度は出ない。時間稼ぎが多少なりとも必要になるだろうが、時間をかけすぎると今度は〝バスターコール〟と正面衝突することになる。

 政府、海軍と争うことはもう避けられないだろう。

 あとはどれだけこちらの被害を減らせるか、である。

 

「ところであれは何してるの?」

 

 カテリーナが車両の中で座禅させられているルフィ、ゾロ、サンジの3人を見ながらウソップに問いかけた。

 返事はウソップではなく、ペドロから来た。

 

「修行だ。時間も無いし、この短時間で何が変わると言うワケでもないが……そういうものがある、と肌感覚で知っていれば実際に戦った時に驚くことも無いだろうとな」

 

 これまでも時々、時間がある時にやっていたことだ。

 空島でマラプトノカに良いようにやられて以降、特にこの3人は覇気の存在を気にしていたし、それが顕著になったのはバナロ島で完膚なきまでにやられたからだろう。

 相手はCP0だ。付け焼刃でどうにかなるような存在では無いにしろ、死線を潜ろうと言うなら敵の手札を知っておいて損はない。

 

「カテリーナ、何人集まりそうですか?」

「そうだね……」

 

 ミズガルズにいる支部長からは色好い返事を貰えたし、実際あそこに駐留している戦力は〝楽園〟でも最大規模であるため、やや時間がかかっても相当な戦力になるだろう。

 バナロ島にいるブエナ・フェスタはこれからやろうとしていることに大笑いしながら援軍を約束してくれた。

 そして、空島にいる小紫は私兵を連れてすぐに出ると言っていた。

 ──その総数、およそ1500人。

 それを話すと、ウソップが目玉が飛び出る程驚いていた。

 

「1500人!!? おめーらそんなに仲間がいるのか!!?」

「即応出来る人数だけだからね。もっとちゃんと兵力を集めれば5000人くらいまでは膨れ上がるけど……」

 

 〝黄昏〟全体の人数でも10万には届いておらず、その中の戦闘員は4万弱程度。

 世界中を巡って商売をする特性上、戦力は各地の海に散っているため、即応できる人数には限りがある。

 ……もっとも、支配下に置いている国から戦力を供出させればこの限りではないが。

 

「ですが、数の上ではこちらが不利でしょう。〝エニエスロビー〟に駐留する戦力は1万以上です。それにバスターコールが加わるなら、およそ8000人は追加されることになります」

 

 軍艦1隻に乗る人数はおよそ800人。

 バスターコールは中将5人が軍艦10隻を率いて起こす軍事行動であるため、単純計算で8000人増えることになる。

 直接戦うワケでは無いにせよ、数が脅威であることに変わりはない。

 裁判所があるだけで権威の象徴に過ぎない〝エニエスロビー〟に戦力を集中させる意味は少ないため、兵士の質もそれほど高くはないが……今回は少々特別だ。

 増員されていても決して不思議ではなく、加えてCP0が五老星の指示を受けて動いているなら世界政府軍が展開されている可能性もある。

 

「敵戦力は2万以上を目安に考えたほうが良いでしょうね。雑兵だけでも面倒ですが、今回はCP0が4人に中将5人。私ひとりでは流石に手に余ります」

「ユイシーズと小紫が来るし、小紫は道中で何人か拾ってくるって言ってたけど」

「……まぁ小紫なら雑兵が10万人いても負けはしないでしょうね」

 

 やや遠い目をしながら、カイエは妹分を思い出す。

 ハンコックとは非常に相性が悪いが、あの2人は現状こちらの海で最高戦力と言っていい。小紫は単独ならまだしも軍勢を引き連れてなら間に合うかは微妙なところで、ハンコックに至ってはアラバスタだ。流石に間に合わない。

 近場にユイシーズが居たのは運が良かったと言える。

 

「1500対20000か。分の悪い戦いだな」

「数だけならね。でも大丈夫だよ、アイスバーグ君たちを尋問したいだろうから、バスターコール発令まではまだ時間がある」

 

 時間があるなら打てる手はある。

 ()()()()()のために、カナタは世界政府に知られない形で伏兵を用意しているのだ。

 

「ジャッジには連絡済みだ。〝ジェルマ〟も援軍に来るよ」

 

 サンジが露骨に嫌そうな顔をした。

 

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