ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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第二百二十四話:エニエスロビー襲撃

 

「まずはこれを見て欲しい」

 

 そう言ってカテリーナが取り出したのは、〝エニエスロビー〟周辺の海図だった。

 〝エニエスロビー〟の真ん中は黒く染まっており、海図の上に〝正義の門〟が描かれている。島と門を囲むように鉄柵が張り巡らされており、外からの侵入は難しい。

 

「この黒いのなんだ?」

「それは穴だよ」

「穴ァ!? 島の真ん中に穴が開いてんのか!?」

「見ればわかるけど、()()()()()()()()()()()()んじゃなくて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだよね」

「どっちにしても意味わかんねェな……」

 

 その辺りは実際に見たほうが早いだろう。問題はもっと別のところにある。

 カテリーナは〝エニエスロビー〟と〝正義の門〟の間、〝司法の塔〟と書かれた建物を指差す。

 ロビンは恐らくここにいる、と。

 

「この柵ぶっ壊して直接乗り込めねェのか?」

「そうしたいのは山々なんだけどね。司法の塔と正義の門の間は酷い海流になってて、何の策も無しに乗り込んだら大渦に飲み込まれて海の藻屑だよ」

「単なる海流なら、私が抜けるルートとか見抜けるかもしれないけど……」

「止めた方が良いでしょうね。そんな悠長なことをやっている間に攻撃を受けるのがオチです」

「門の向こう側で待ち構えたりとかは出来ねェのか?」

「門の向こうは〝タライ海流〟って呼ばれる海流になっているんだけど、〝凪の帯(カームベルト)〟みたいに海王類の巣になってるんだよね。海軍はこれを越える術を持ってるけど、私たちは持ってない」

 

 結局のところ、正攻法で攻めるのが一番安全なのだ。

 裏をかいたつもりで鉄柵を壊して正義の門と司法の塔の間に入り込んだところで、政府や海軍がそれを想定せずにいるとは到底思えない。

 なので、カテリーナの立てた作戦は至極単純だった。

 時間稼ぎ、である。

 

「ロビンが〝正義の門〟の向こう側に連行されるまではまだ時間がある。こっちはまだ全部の戦力が集まってない。電伝虫で常に連絡を入れてるけど、最速でもあと30分は必要だ」

 

 船での移動は時間がかかるが、配備されている最新式の船なら外輪(パドル)付きで足が速いものもあるし、複数台ある海列車を利用して〝エニエスロビー〟へ向かって来ている者たちもいる。

 現実的に間に合うかどうかは賭けになる。だからこそ、後続が辿り着くまでの時間稼ぎを第一に考えるべきだ。

 相手にCP0がいて、これを相手出来るのが現状だとカイエしかいない以上、取れる選択肢がこれ以外にない。

 

「分かったかい?」

「ああ!! 分かった!」

 

 まず島の正面にある〝正門〟を突破し、第二に〝本島前門〟を突破。そして〝裁判所〟を越える。

 敵兵力およそ2万と想定。

 これを合流した味方と共に襲撃して〝裁判所〟まで進み、跳ね橋を降ろして〝司法の塔〟まで攻め入る。カイエとユイシーズがいれば、相手がCP0でも最低限の時間稼ぎは可能だろうと判断しての事である。

 

「よし、それじゃあ待機を──」

「……あれ? ルフィは?」

「「「え!!?」」」

 

 先程まで隣にいたルフィの姿が見えないことで呟いたチョッパーの一言に、麦わらの一味は全員がギョッとした。

 どこに行ったのかと探ってみれば、既に〝エニエスロビー〟を取り囲む鉄柵の上に乗っていた。

 今までの作戦を聞いていたハズなのに、ルフィの行動に〝黄昏〟組は唖然とするしかない。

 

「ムダだった……」

「わかった、って言ったよな」

「30分も〝待つ〟とか無理だから」

「そりゃそうか」

 

 ルフィのやることだし仕方がない。

 麦わらの一味の面々はルフィの事が良く分かっているため、この行動に呆れはしてもそれ以上は言わない。言っても無駄だとわかっているからだ。

 とは言え、ルフィ1人攻め込ませても上手くいかないだろう。

 事実、鉄柵から〝正門〟の上に飛び移ったルフィ目掛け、海列車近くで待機していた誰かが空を蹴って奇襲をかけた。

 

「〝嵐脚〟!!」

「うわっ!?」

 

 咄嗟にそれを回避したルフィは、門の上で転がって攻撃してきた相手を見る。

 猫のように鋭い目の男だ。三本のモヒカンの上に帽子を被っており、派手な服装と相まって一見して政府の諜報員のようには見えない。

 

「まさか本当に侵入者が来るとは思ってなかったっしょ。でもまァ、ここから先に通すわけにはいかねェんで……死んでくれ」

「おれはロビンを助けに来たんだ、邪魔すんな!!」

「シャウ! あの女助けに来たって!? 無駄っしょムダ!! ここにいったいどれだけの兵力がいると──」

 

 余裕を見せた諜報員──ネロが姿勢を低くして飛び出そうと構えた瞬間、上からその頭を掴まれて床に叩きつけられた。

 ルフィを追って乗り込んで来たカイエである。

 

「まったく、話を大人しく聞いていたかと思えばこの行動……もう取り返しは付きませんよ?」

「おれはおれで何とかやるから、おばちゃんたちは何とかしてくれ」

「……この身勝手具合、どうにも覚えが……」

 

 見た目は全く違うのに、どうにも昔死んだ仲間を思い出す。

 人の言うことを聞かないこととか、自分勝手な行動でトラブルを引き起こすあたりが特に。

 まぁそれは今は関係ない。やりたいと言うならやらせるしかないだろう。この手の相手に言うことを聞かせるのは骨が折れるので、好き勝手にやらせておいてフォローは仲間にやらせる方がいい。

 

「見えますか? あの向こう側の塔に恐らくロビンはいます。我々はその一つ手前の〝裁判所〟で合流し、橋を架けて再度突入します。それまでは好き勝手にしなさい。すぐに追いつきます」

「わかった!!」

 

 本当か? と疑問に思っているうちにルフィは駆け出し、〝本島前門〟へ向かっていく。

 あれはあれで勝手に目立ってくれるだろう。言い方は悪いが囮だ。

 カイエも〝正門〟を開けるために下に降りようとしたところで、先程床に叩きつけたネロが起き上がったのに気付く。

 顔面から血を流し、怒りに燃えた目をしているが……カイエの半分程度の身長では、どうにも迫力に欠けていた。

 

「テメェ……!! 良くもやってくれたっしょ!! 許さねェ!!!」

「意外と頑丈ですね。CP9ですか?」

「ああ、おれァCP9の新入りさ……! だが殺しの天才と呼ばれた男だ! テメェみてェな()()()()()()()には負けねェよ!!」

 

 〝剃〟による高速移動でカイエの背後を取り、〝嵐脚〟でその背中に斬撃を放つネロ。

 だが、当たる直前にカイエの姿が目の前から掻き消える。

 

「な──」

「未熟ですね。この程度でCP9に入れるとは、世界政府も随分と人材不足のようです」

 

 〝指銃〟が使えれば不要のハズの拳銃を持ち、〝鉄塊〟が使えれば叩きつけた程度で傷を負うハズがないのに血塗れになっている。

 〝剃〟の速度は極めて遅く、〝嵐脚〟も使えるだけで威力は低い。

 カイエの速度についてこられないほどの身体能力なら、敵にもならない。

 

()()()()に用はありません」

 

 驚愕するネロの顔面に武装色を纏った拳を叩き込んで今度こそ意識を刈り取り、一瞥することもなくカイエは〝正門〟の前に降りた。

 上で争っていたことは下の海兵たちも承知しており、一斉に銃口を向ける。それでもカイエは悠然と、「まずは掃除ですね」と姿勢を低くする。

 この状態で戦っても時間の無駄だ。元より隠し続ける意味もない。

 ──カイエの姿が、影が、メキメキと音を立てて巨大化していく。

 

 

        ☆

 

 

「んな、なんじゃありゃあ!!?」

 

 車窓から〝正門〟を見ていたウソップは、双眼鏡を手に持ったまま目玉が飛び出る程驚いていた。

 カイエは元々3メートルほどの身長でこの場の誰より高かったが、今の彼女はその比ではない。

 巨人族にも匹敵する巨体に、下半身は蛇のそれとなっており、紫色の髪は何本か纏まって毛先が蛇に変化している。両腕の肘から先は蛇の鱗に覆われ背には翼まで生えており、その姿はありていに言って怪物であった。

 

「彼女はヘビヘビの実を食べた能力者だよ。〝自然(ロギア)系〟より希少とされる、〝動物(ゾオン)系〟幻獣種──モデル〝ゴルゴーン〟」

「幻獣種……!?」

 

 尾の一振りで海兵たちを薙ぎ払い、髪の毛先が変化した蛇からレーザーが発されている。

 あっという間に海兵たちを倒したカイエは、準備が出来たと合図を送ってきていた。ついでのように鉄柵もレーザーで破壊されている。

 侵入するのに不都合はない。

 

「少なくとも〝正門〟前は安全になった。じゃあ早速乗り込もうか!」

「……ねェちょっと」

「何かな?」

「これ、どうやって止まるの?」

 

 〝ロケットマン〟は一度スロットルが入ると勝手に最高速まで上がり、速度調整が利かない。つまり()()()()()()()

 どうやって速度を落とすつもり、とナミは問いかけたつもりだったが、カテリーナは首を横に振った。

 今更何を言っているのか、と言わんばかりである。

 

()()()()()()

 

 ブレーキで止まるなら速度の調整は不可能ではない。が、〝ロケットマン〟はそうではない。

 燃料である石炭を燃やし、蒸気を全部消費するまで止まることはない。なのでブレーキなど気休めにしかならないのだ。

 じゃあどうやって停車するんだと全員の目がカテリーナの方を向くが、カテリーナは既にトビの背中にいてトビは窓枠に足をかけている。

 普通にやっても止まらないならこうするしかない。

 

「じゃあ各々、気を付けて脱出して!」

「ちょっと待てーっ!!!」

 

 全員がツッコむより先にカテリーナは〝ロケットマン〟を脱出し、その僅か数秒後に陸地へ乗り上げた〝ロケットマン〟は制御出来ないまま暴走して〝正門〟に衝突しようと走り続ける。

 下手をすれば門を通り抜けて穴の底へ真っ逆さまだ。

 派手に揺れる車内では脱出もままならず、ウソップとナミとチョッパーの悲鳴が響く。

 このままだと流石にマズいと誰かが行動を起こすより早く、急激に振動が止んだ。

 

「……と、止まった……?」

「全く、無茶をするものです」

 

 蛇の尻尾部分を巻き付けて持ち上げているカイエと、車内にいる面々は目が合った。

 助かったと安堵し、横倒しに置かれた車内から何とか這い出す。

 横倒しになってもなお車輪が動き続けており、元に戻せばすぐにでもまた走り出しそうであった。

 

「何はともあれ、上陸は成功です。このまま〝裁判所〟まで突入し、〝司法の塔〟までの道を作ります」

 

 本来なら後続が来るまで時間を稼げれば良かったのだが、ルフィの行動でそれはご破算になった。

 次善策として〝裁判所〟から〝司法の塔〟に続く橋を守らねばならない。〝司法の塔〟にまで渡った後で橋を上げられては孤立し、脱出もままならなくなるためだ。

 麦わらの一味を先行させ、道を確定させたところで〝黄昏〟の援軍が襲撃をかける。作戦としてはこれが最も確実なものとなるだろう。

 とは言え、だ。

 

「……この強い〝声〟……どうにも嫌な予感がしますね」

 

 カイエはカナタやフェイユンほど見聞色が得意と言うワケではないため、それほど広範囲を索敵出来るわけではないが……〝司法の塔〟から感じられる強い〝声〟の数とウォーターセブンで見たCP0の数が合わない。

 それでも作戦は動き出している以上、止まるわけにはいかない。

 

「乗ってください。のんきに走っていてはあっという間に囲まれますよ」

「あ、ああ」

 

 今のカイエは巨人族にも匹敵する巨体である。少々詰めれば10人くらいは掌の上に乗ることが出来るため、そのまま〝本島前門〟まで攻め込む。

 〝正門〟は既に破壊されているため、閉められる恐れもない。

 ナミやウソップは目の前に広がる海の穴に唖然としているが、ゾロとサンジ、ゼポとペドロは〝本島前門〟の前に現れた門番──巨人族の2人に険しい顔をした。

 

「ふわァ~~……侵入者か。さっさと追い返して寝るとしよう」

「オイも」

 

 オイモとカーシーの2人は眠そうにあくびをしており、それでも棍棒を構えて迎撃の意思を見せる。

 それを見てゾロが声を上げた。

 

「おい、降ろせ! おれ達も戦う!」

「不要です。大人しく掴まっていてください」

「は!?」

 

 左の掌に乗せていた麦わらの一味へ髪の一本が落ちないように巻き付き、両手が空いたカイエはそのまま勢いを落とさず真っ直ぐに突っ込む。

 まさか速度を落とさず突っ込んでくるとは思わなかったのか、狙われたカーシーは驚きつつも棍棒を叩きつけた。

 

「どォりゃァァァ!!!」

 

 ゴギィン!! と凄まじい音が響き、棍棒とカイエの左腕がぶつかった。

 しかしそれでもカイエは止まらず、右腕に武装色の覇気を纏わせて殴りつける。

 再び凄まじい音が響き、カーシーはその頬を殴りつけられると同時に門へと叩きつけられた。

 

「巨人族相手の戦闘なら慣れてますからね! この程度で怯むと思われては心外です!!」

「カーシー!!」

 

 オイモは唖然としつつも棍棒を振り上げてカイエへ振り下ろしており、カイエはこれを両腕を交差させることで防ぐ。

 下半身が蛇になっている分、上からの衝撃は受け止めやすい。オイモの右足に尻尾が巻き付いてそのまま逃がさないようにすると、何本もある髪の蛇からレーザーが放たれた。

 

「どわああああ!!?」

「オイモ!?」

 

 真正面から防ぐ暇もなくレーザーを受け、オイモは衝撃と焼け付く体に悲鳴を上げる。

 カイエは休む間を与えず両腕に武装色の覇気を纏い、カーシーの体を滅多打ちにして意識を飛ばす。

 オイモはレーザーをまともに受けて膝をついており、カイエは立て直されるより先に顎を拳で打ち抜いた。

 あっという間に巨人族2人を()()()カイエは、大きく息を吐き出して〝本島前門〟を破壊しようと拳を構える。

 

「それくらいはおれ達でやる」

 

 カイエが動くより先にゾロとペドロが走り、巨人族でさえ通れる大きさの門を切り裂いて通れるようにした。

 閉められて援軍が続けなくなることを考えれば壊す方が良い。どうせ占領出来るような場所でもないのだ。

 再びカイエの掌の上に乗せられた麦わらの一味は、改めてカイエの強さを目の当たりにして……CP0はこれと同じくらい強いと思うと、背筋がゾッとする。

 

「ここからが本番ですよ。ここから先は抵抗も激しくなります。振り落とされないよう、気を付けて」

 

 カイエの言葉に全員が頷き、〝裁判所〟目掛けて動き出した。

 

 

        ☆

 

 

「何ィ!? 侵入者だとォ!? どうなってやがる!! さっさと撃ち殺さねェか!!」

『た、ただいま〝本島前門〟にてオイモとカーシーが全力で戦っています! 全く問題ありません!』

「そうか……〝麦わら〟の方はどうなった?」

『はっ、それですが……囮のつもりなのか、挑発して逃げるばかりで戦おうとはしておらず……』

「ハッ! 逃げ回るだけか! 捕まえたらまた連絡を入れろ!」

『わかりました!!』

 

 スパンダムはイライラしつつも機嫌よく、全く問題はないと赤犬に報告する。

 目の前で報告を聞いている限り、赤犬から見ても問題はないと思える。巨人族とは言え2人で足止め出来る程度ならそれほど強くはないし、先に侵入した〝麦わら〟も逃げ回っているばかりなら捕まるのも時間の問題だろう。

 流石に1万を超える兵力の前には逃げるしかなかったのだろう、と嘲笑する。

 

「すぐにでも捕まるでしょう。海軍大将の手を煩わせるまでもねェ!」

「そうか……ならええがのう」

 

 ちらりと〝裁判所〟方面を見る赤犬。

 ここからでは〝裁判所〟があるのでその先にある〝本島前門〟を見ることは出来ない。だが、その先に強い〝声〟があることはわかる。

 果たして今の報告が正しいのか疑問はあるが……ここは政府の島で、仕切っているのは目の前の男だ。

 赤犬はゴールデン電伝虫を届けに来ただけで政府の指示もない以上、この島において決定権はない。

 だが。

 

(……〝麦わら〟のルフィ。()()()の息子で、英雄の孫が……ここまで乗り込んで逃げ回るとは到底思えんがのォ)

 

 赤犬はそう思いつつも、現状出来ることはないと判断し。

 ぬるくなったお茶に口を付けた。

 




ドラゴンと赤犬、同い年だしドラゴンが元海軍だしって考えると多分同期なんだろうなぁって。
ガープとルフィの関係性はクザンは知ってたみたいなのでサカズキも知ってそうですけど、ドラゴンとの関係はどうなのか不明なんですよね。一般兵は知らないけど大将ならまぁ知ってても不思議は無いかな…と思ってこんな感じに。
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