ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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第二百二十五話:エニエスロビー本島行き特急便

 

 司法の塔の一室にて、赤犬及びサイファーポールは連れて来られた罪人4名を並べて詰問していた。

 〝トムズ・ワーカーズ〟のトム、〝ガレーラカンパニー〟のアイスバーグ、〝フランキー一家〟のフランキーことカティ・フラム。

 そして〝オハラの悪魔〟の生き残り、ニコ・ロビン。

 いずれも世界政府として無視の出来ない、貴重な物と知識を持つ人物たちだ。

 

「船大工トム。テメェ、おれ達が大人しく言ってるうちにさっさと渡せばよかったものを……わざわざ面倒事増やしやがって」

「たっはっは、知らんもんは知らん。持ってない物を渡せと言われてもな」

「調べはついてんだよアホが! わざわざ弟子2人も一緒に連れて来てやったってのに、まだ従う気がねェのか!?」

「何と言われようとワシは持っていない。それが全てだ」

「コノ……!!」

 

 ビキビキと額に青筋を浮かべ、スパンダムは座らせたトムを足蹴にして鬱憤を晴らそうとする。

 それを手で制して止めたのは、CP0のゲルニカだった。

 

「スパンダム、それは()()()()

「もういい、って……いやいや、そういう訳にゃァいかんでしょうよ。〝古代兵器〟の設計図が手に入れば、〝四皇〟も〝革命軍〟も全部吹き飛ばせるんだ! 手に入れない理由がねェ!!」

「無駄な時間をかける理由はないと言っているんだ。今回の尋問で吐かないのなら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()まで」

 

 〝ウォーターセブン〟への〝バスターコール〟は既に決定している。もし手に入るならそちらの方が良いが、手に入らずとも全てを灰燼に帰すれば関係ない。

 そうしなければならないほど、状況はひっ迫してきている。

 〝黄昏〟の動きが予想以上に早い。

 〝麦わら〟と共に襲撃してきたカイエもそうだが、各所に置いていた監視から上がって来た報告には、既に〝エニエスロビー〟へある程度の軍が向かっていることがわかっている。

 〝七武海〟の称号剥奪が確定しているとは言え、この早さで政府に牙をむくのはゲルニカとしても想像を上回る意思決定の速さと言わざるを得ない。

 あるいは、()()()()()()()()()()()()()()可能性もあるが──今の時点でなら取れる手はいくらかある。

 トムやアイスバーグにかかずらっている暇はないのだ。

 

「ステューシー、モルガンズに連絡を取って明日の新聞に〝黄昏の魔女〟が〝七武海〟の称号を剥奪されることを載せるように連絡を入れろ」

「今から?」

「速報なら飛びつくだろうさ。奴なら好きに記事を書くだろうが……〝エニエスロビー〟へ攻め込んだことを理由にしてやれ」

 

 〝オハラ〟の生き残りを匿っていたことなども理由のひとつではあるが、この件がインパクトとしては大きいだろう。

 明確に政府への反旗を翻したと取れる内容で、なおかつ〝黄昏〟に非があると思わせられるのが良い。

 

「〝黄昏〟単独では四皇同盟を相手に勝利を収めることは難しいだろう。こちらに戦力を向ける余裕はなくなるハズだ」

 

 その間に〝古代兵器〟を手に入れねばならない。ロビンへの拷問は苛烈なものとなるだろう。

 それに、〝黄昏〟単独では勝てずとも取引のある〝赤髪〟が介入する可能性は高い。

 今は〝アラバスタ〟に滞在していると情報が入っているが、〝黄昏〟には〝赤い土の大陸(レッドライン)〟を飛び越えるフワフワの実の能力者がいる。手を組むなら移動は容易いだろう。

 

「幸い、まだ連中は手こずっているようだからな」

 

 ゲルニカはちらりとスパンダムの電伝虫を見る。

 先程連絡が入って以降、特に連絡は来ていない。定期的に報告があって然るべきだが、現場もバタバタしているのだろう。

 オイモとカーシーが破れたのならその時点で被害報告が上がるハズなので問題ないだろうとゲルニカは考え。

 それでも余計な手間が増えないよう、指示を出す。

 

「〝正義の門〟から出る護送船の準備を急がせろ。〝黄昏〟の援軍が来るとここも騒がしくなる……万が一があってはならない」

「ハッ! 準備を急ぎます!」

 

 トムたちへの尋問は〝インペルダウン〟に連れて行ってからでも遅くはない。まずは奴らから希望を奪うことが先決だ。

 CP0とCP9の面々には準備が出来るまで待機を命じ、ゲルニカもまた同じように休むことにする。

 スパンダムはCP9の2人に土産だと言って何かを渡していたが、他の面々は特に気にも留めていなかった。

 

 

        ☆

 

 

 

 猛烈な勢いで正面突破を図るカイエたちと違い、ルフィは障害物を乗り越えては海兵を薙ぎ倒して進んでいた。

 エニエスロビーの戦力は多い。ルフィ1人でどうにかなるものではないが、避けて抜けられるほど易いものでもない。

 とにかく目の前を塞ぐ海兵たちを1人でも多く倒して前に進んでいた。

 時に建物を駆使して衝突を避け、時に壊した建物を利用して被害を与えつつ進んでいると、ある時から海兵の数が一気に減っていった。

 

「半数は〝本島前門〟へ!! 海賊が真っ直ぐ突き抜けて来るぞ!!」

 

 そう叫んで指示を出している者がいた。

 バタバタと慌てた様子で走っていく様子を見て、ルフィは息を整えつつ破顔する。

 

「あいつらが来たんだな! これで楽になる!」

 

 ここからでは建物もあって見えないが、派手に暴れているのだろう。仲間の事は信頼しているし、一緒にいたカイエが強いことは知っている。

 ルフィはただ真っ直ぐ、行けるところまで行くだけだ。

 世界政府の兵士を殴り倒し、海兵を蹴り飛ばす。

 暴れに暴れて辿り着いて、仲間を取り戻せればそれでいい。

 

「ハァ……ハァ……」

 

 そうやって、ルフィは〝裁判所〟の屋上まで辿り着いた。

 先に進もうにも道がなく、下は底が見えない大穴があるばかり。どうしようかと頭を悩ませていると、大気に透明な扉が現れた。

 

「〝空気開扉(エアドア)〟」

 

 現れたのはルッチたちと共にいたCP9──ブルーノ。

 悪魔の実の能力を利用することで移動してきたが、ルフィはその能力を知らないために「どうやったんだ今の!? 手品か!?」と驚愕している。

 ブルーノはルフィの言葉に答えることなく、裁判所前の被害状況に目をやる。

 

()()()()()()()()()()()()と思って来てみれば、この有様とは。〝世界政府〟始まって以来、前代未聞だぞ。〝政府の玄関〟にここまで踏み込んで来た海賊は──いつまで暴れる気だ?」

 

 溜息を吐いて肩をすくめ、ルフィのやらかしたことを端的に言い表すブルーノ。ウォーターセブンでのルフィの戦意の高さを思えば、ことここに来て逃げ回るなどありえないと考えたブルーノは正しかったわけだ。

 ここまでの大事になれば、どうあれルフィの所業は世界中に知れ渡る。それに協力した者たちもまた然り。

 世界は大きく揺れるだろう。政府はある程度織り込み済みとは言え、先手を取って攻めて来るとは思っていなかったに違いない。

 それも、〝黄昏〟本隊ではなく〝七武海〟の一角を落としたとはいえまだ頭角を現したばかりのルーキー相手にこの状況。

 当の超新星(ルーキー)はブルーノの言葉に気負うことなく、当然のように答えて見せた。

 

「死ぬまで!!」

 

 

        ☆

 

 

「あの女、そういえば置いて来ちまったが……良かったのか?」

「〝正門〟の近くには残った兵士がそこそこいただろ? トビちゃんが一緒とは言え、無事なのか心配だぜ」

「カテリーナの事なら心配いりません。どこかに隠れてコソコソと何かやっているのでしょう」

 

 あらゆる分野に精通する天才だけあって、カナタの立案した戦術もいくらか頭に入っている。こういう場合にどう動けば効率的に敵を混乱させられるかは理解しているだろうとカイエは言う。

 直接的な戦闘力は無いが、この手のサポートなら得意なのだ。

 それに、傍には護衛のトビもいる。死にはしないだろうと放っておくことにしたのだ。

 探すのにも時間がかかるのだし、時間をかけすぎるのは良くなかったのもある。相手に準備の時間を与えると迎撃網が厚くなってしまうのだ。

 

「〝本島前門〟を突破しましたが、政府と海軍の置いた戦力の大半はここから先に配置されています。しっかり掴まって、振り落とされないよう注意してください」

 

 カイエは獣形態の時下半身が蛇になっているため、蛇行しながら〝裁判所〟目掛けて移動している。その横合いには並走するように犬に乗った兵──法番隊が駆けている。

 彼らが腕に付けている刃程度ではカイエの体を貫けはしないが、飛び乗って攻撃してこられると鬱陶しいし邪魔だ。それでも攻撃がまばらなのは蛇行しているために攻めあぐねているのだろう。

 カイエは蛇の形を取った髪からレーザーを散発的に撃って牽制しつつ進むが、次第に迫撃砲や銃弾の密度が分厚くなっていく。

 効きはしないが鬱陶しいことこの上ない。

 

「面倒ですね……」

「この道は準備万端で待ち構えてるみたいだ! 道を変えたほうがいいんじゃねェか!?」

「いいでしょう。そちらの方が楽そうです」

 

 カイエは白い翼で迫撃砲を弾きながら横道に入り、中央の大通りから一本逸れた道を走る。

 それでも対応するように兵たちが追いかけて来るが、先程までのように準備万端で待ち構えられていた時と比べれば随分と走りやすい。

 足止めをしようとする兵を薙ぎ倒し、迫撃砲で迎撃しようとする兵にレーザーを放ち、もはや走る要塞と言っても過言では無いカイエ。

 しかし裁判所まで程なくという頃になり、真正面と横合いから計5発の鉄球が投げかけられた。

 

「ぐ──!」

 

 純粋な質量の攻撃だ。防ぐことは容易いが、乗っている麦わらの一味の事を考えれば受け方も考えねば危ない。

 頭部、背中、胴、それに下半身に2発。

 上手く受け止めはしたものの、大質量の鉄球を受け止めるとなればカイエの動きは当然鈍る。

 当然のように追撃の迫撃砲が迫るも、カイエはそれを翼のひと振りで薙ぎ払った。

 

「有罪」

「有罪」

「……陪審員。なるほど、彼らが……」

「何なの、あいつら!? いきなり攻撃して来るし、かと思えば隠れちゃうし!」

「彼らは〝エニエスロビー〟に所属する元海賊の陪審員たちです。邪魔ですが、今は先を急ぎましょう」

 

 〝エニエスロビー〟に存在する〝裁判所〟は見かけだけのものではない。

 どのような罪人であれ、公平に法の下で裁かれる。

 それでも〝エニエスロビー〟で裁かれて帰って来たものがいないのは、11人の陪審員が全員死刑囚の元海賊で、誰もが道連れを望んでいるから──などと言うロクでもない理由があるからだ。

 政府に捕まって良いように使われているとはいえ、彼らは元海賊としてそれなりに実力があった。

 きちんとした統制の下で使われるのであれば、相応に厄介となり得る存在である。

 

「でも、あんな攻撃何回も受けて大丈夫なの?」

「平気です。バレットやカナタさんの攻撃に比べれば、あの程度は涼しいものですよ」

「後ろからの攻撃はおれ達が対応するか?」

「不要です。〝裁判所〟まであなた達を届けた後で纏めて始末します」

 

 素手であってもまともに受ければ死を覚悟するような攻撃を知っていれば、先の鉄球がどれだけ生温いか分かろうというものである。

 死角から移動を阻害することを目的に振り回される鉄球を都度弾き返し、蛇の尾を振り回して建物を崩すことで死角に潜む陪審員たちの邪魔をする。

 建物の上に迫撃砲を置かれていることもあるため、それを潰す狙いもあった。

 

「──!!」

 

 追ってくる兵士や立ち塞がろうとする兵士たちを薙ぎ倒しながら進んでいると、ゾロが何かに気付いたように目を細める。

 〝裁判所〟の屋上で何かが崩れ、CP9の1人が立っているのが見えたのだ。

 

「おい」

「ああ──ルフィは既にCP9と戦ってる」

「もう!? あいつらあっちの塔から出てこないで待ち構えてるんじゃなかったの!?」

「誰も確信は持てちゃいなかったさ。あのアホは1人突出してるから、先んじて潰すならルフィだと思ったんじゃねェか?」

「そんな……!」

「心配しなくても平気さ、ナミさん。CP0ならちとキツイが、CP9ならルフィは負けやしねェ」

 

 確信を持ったように言うサンジにナミも口を噤む。

 信じたいから、という理由ではあるが……ルフィの強さは今まで一緒に旅をして来たナミとて良く知っている。

 それに──もう既に、彼女たちも〝裁判所〟まで辿り着いている。

 大通りから一本外れた道であるため途中で曲がらねばならないが、カイエはそれを無視して建物を破壊しショートカットすることにした。

 〝裁判所〟前の広場に辿り着いたカイエはゾロたち麦わらの一味の面々を降ろし、追ってくる兵士たちを蛇の尾をひと振りして薙ぎ払う。

 

「ここは私が塞いでおきます。当初の予定通り、左右の塔にあるレバーを引いて跳ね橋を降ろしてください」

「よっしゃ、ここからおれ達の出番だぜ、相棒!」

「わかっている! ルフィは屋上だ、頼んだぞ、ゆガラたち!」

 

 〝裁判所〟の入口は巨大な石扉で塞がれているが、ゾロがこれを容易く切り崩して中への道を切り拓いていた。

 ペドロとゼポは予定通り左右に分かれて跳ね橋のレバーを引きに行き、それ以外の面々はひとまずルフィのいる屋上を目指す。

 カイエはそれを見送ると、追ってくる兵士を遮るように広場に陣取る。

 肩に乗せた麦わらの一味の面々を庇うあまり、実に窮屈な動きしか出来なかったカイエは、ようやく動きやすくなったと首を鳴らした。

 

「さて──誰からかかってきますか?」

 

 海軍、世界政府軍、法番隊、陪審員。

 〝エニエスロビー〟のほぼ全勢力が目の前に集まっていく。

 近付いて来る兵士は尾のひと振りで薙ぎ払い、それを避けて近付いて来る法番隊はハエでも叩くように弾き飛ばす。

 鉄球を叩きつけてくる陪審員だけは鬱陶しいので、視線を集中させて()()()()()

 

「な、なんだこれは……!?」

「私が何故〝魔眼〟と呼ばれているか、聞かされていないようですね」

 

 カイエは動物系幻獣種、ヘビヘビの実モデル〝ゴルゴーン〟の能力者だ。

 その視線に当てられたものは石になり、砕かれればそのまま死に至る。

 覇気を使えぬ者には防ぐことさえ叶わぬ、多くの敵を屠って来た圧倒的な()()()()()()()である。

 

「ば、化物……!!」

「今更気付いたのですか? あなた達の目の前にいるのは、敵対する者を滅ぼし続けて来た〝黄昏〟の一員なのですよ?」

 

 拡散するレーザーが石畳を焼き、その視線に晒されたものは瞬く間に石になっていく。

 その理不尽さに世界政府軍も海軍も恐慌状態に陥り、我先にと逃げ出していく。

 戦意をくじくことの重要さは叩き込まれている。これを押さえない限り、兵士とは死を恐れぬ死兵となって襲ってくるものだと思え、と──そう教わったのだ。

 追い込まれたネズミが時に猫を噛むこともある。ハッタリを利かせてでも脅し、逃げ出す兵士には散発的に追撃をかけ、それでもまだくじけぬ者は容赦なく踏み潰す。

 疲労を見せず、強さだけを見せつければおのずと軍隊としての形は瓦解する。

 〝裁判所〟前の広場が静かになるのも時間の問題だった。

 

 

 

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