ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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毎回そうですが、原作と同じ対戦カードは基本結果も同じなのですっ飛ばしていきます


第二百二十六話:道はある

 

 ぺちぺちと頬を叩いていると、僅かに身動ぎして倒れていた巨人が目を覚ました。

 体のあちこちが痛むのか、僅かに動くたびに呻き声が漏れ出ている。

 カテリーナはそれを気にせず、にこりと笑って話しかけた。

 

「やあ、こんにちは。私はカテリーナ。〝黄昏の海賊団〟の一員さ──君はカーシーでいいのかな?」

「……なんで、おれの名前を知ってる?」

「〝エニエスロビー〟で門番をやってる巨人のことは良く知ってるよ。私たちは耳が良いからね」

 

 〝黄昏〟は〝革命軍〟と裏で繋がっていることも含め、いずれ政府に楯突くことはほぼ確定していた。事前の戦力や内情の調査は既にあらかた終わっている。

 その中でもここで門番をやっている2人の巨人については、〝黄昏〟に所属する巨人たちもその理由が分からず首を傾げていた。

 海軍に所属する巨人は少なからず存在するが、この2人は元々世界中を踏み荒らしていた〝巨兵海賊団〟の一員である。今更海兵になるとは考えられなかったし、そもそも海兵なら支給されるはずの制服も着ていない。

 何か諸事情があるとカテリーナは考えていた。

 

「君、元〝巨兵海賊団〟だろう? どうして政府に従っているんだい?」

「なんで知って……いや、いい。これはお前なんかに話しても仕方がねェんだが……」

 

 痛みに顔をしかめながら、カーシーは起き上がってあぐらをかく。

 座りなおした後で、気落ちしたように話し始めた。

 元々〝巨兵海賊団〟に属していたが、2人のお頭がとある島で喧嘩を始めて海賊団は解散になったこと。

 どちらかが勝てば戻ってくるはずが、50年経っても戻らずこれはおかしいと探しに島を出たこと。

 その道中で海軍に捕まり、洗いざらい吐かされた後で2人のお頭が捕まって〝インペルダウン〟にいると知らされたこと。

 最後に、〝エニエスロビー〟で100年門を守ればお頭2人と共に解放し、故郷である〝エルバフ〟へ帰してくれると約束したこと。

 そして、50年経った今日になって、門を破られてしまったこと。

 

「なるほどね……」

 

 オイモとカーシーは2人のお頭の事をそれだけ慕っていたのだろう。巨人族の寿命が300年あるからといって、100年働くことを普通は了承出来ない。

 それだけに言いづらいのだが、カテリーナははっきり言ってしまうことにした。

 

「うん。君ら、騙されてるね」

「……なんだとォ!?」

「私が君らの事を知ってるのはディルスっていう巨人に君らの事を聞いたからなんだ。元仲間でしょ?」

「あ、ああ。あいつもおれたちと同じ〝巨兵海賊団〟の一員だった」

 

 〝黄昏〟に所属する巨人であるディルスは元々カーシーたちとは知り合いだった。

 だからこそ政府に組した2人に首を傾げていたし、もしかすると寝返るかもしれないとカテリーナが話しかけたのだが。

 

「君らが探してるお頭っていうのは〝赤鬼〟のブロギーと〝青鬼〟のドリーだろう?」

「そうだ。お頭たちの事を知ってるのか?」

「もちろん。だってあの2人、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「は?」

 

 カテリーナの言葉にカーシーはあんぐりと口を開け、目玉が飛び出しそうな程驚く。

 2人がどんな事情で決闘を始め、どんな理由があって決着がつかぬまま帰って来たのか、カテリーナは聞かされていない。

 〝エルバフ〟もとい巨人族との取引は知り合いが多いフェイユンを通すことが多いし、彼女は口数が少ないので情報の共有はカナタを通して行われることが大半だからだ。

 ドリーとブロギー、即ち過去に海を荒らし回った〝巨兵海賊団〟の2人の船長が戻ったことはカナタから知らされていても、その内情までは伝えられていない。

 

「お頭たちが……帰ってる?」

「うん。詳しい事情は〝エルバフ〟に帰ってから聞いて欲しいところだけど、2人が帰っているのは本当だよ。信じられないなら──」

「いや、信じよう」

 

 カーシーはあっさりとそう言った。

 あまりにも早い返答に今度はカテリーナが目を丸くしたが、カーシーとしては当然の事だったのだろう。

 オイモとカーシーは〝エニエスロビー〟の門番として長く働いているが、政府の玄関口である〝エニエスロビー〟に攻め込む者などこれまでいなかった。退屈な日々の手慰みと言えば、巨人族でも読めるようなサイズの新聞くらいのものである。

 フェイユンが表舞台に現れて約30年。ディルスのことは新聞に載らなかったが、〝エルバフ〟の村で育った子であるフェイユンの事はオイモとカーシーにもわかる。

 あの子と同じ海賊団に属するなら信じる。

 カーシーとしては、それだけの判断だった。

 

「だが、そうか……おれ達は利用されていたわけか」

 

 沸々と腹の底から苛立ち紛れの声が出た。

 オイモを揺すって起こし、カテリーナの説明を聞いて仰天し、カーシーと同じように怒りを抱く。

 騙され、利用されてきたのだ。怒る権利はあるだろうとカテリーナも考え。

 

「ならさ、2人とも──世界政府に一泡吹かせてみないかい?」

 

 策がある、と自信満々に胸を張り。

 パチンと綺麗なウインクをするカテリーナに、オイモとカーシーは揃って顔を見合わせた。

 

 

        ☆

 

 

 〝裁判所〟の中には、それなりの数の海兵と裁判長と呼ばれる三つ首の男がいた。

 正確には3人で一つの服を着ている、という珍妙な3人組なのだが。

 チョッパーとウソップが「ケ、ケルベロスか!?」と叫ぶのを傍らにペドロとゼポが走り出した。

 

「ゆガラたちは上へ! おれ達はすぐに両方の塔へ急ぐ!」

「手伝いは?」

「要らん!」

 

 高速で走る2人は地面を滑るように海兵たちを薙ぎ倒していき、裁判長バスカビルと衝突した。

 

「ぐぬ! 貴様ら、ここを神聖なる裁判所と知っての狼藉か!?」

「犯罪だぞ、これは!」

「大犯罪だン!!」

「間を取って、死刑!!」

「「異議なし」」

 

 両手でそれぞれ振り回される剣を素早く避け、ペドロとゼポは互いに意思の確認もせず切り込む。

 連続して振るわれる斬撃と電撃に、バスカビルは苦悶の声を上げる。

 〝エニエスロビー〟は常に日の差す〝不夜島〟だ。たとえ満月であっても、この島ではミンク族の最終手段である〝月の獅子(スーロン)〟には成れない。出来る限り体力を残し、来たるCP0との戦いに備えねばならない。

 故に、一切の加減無く、ペドロはバスカビルを斬り捨てた。

 だが。

 

「!?」

「ふん!!」

 

 3つの首のうち、真ん中と左の間を縦に切り裂いた。何らかの能力者であれば正体を現すだろうと考えての事である。

 しかし、実際に出てきたのは真ん中の男の足の上に乗っている別の男だった。

 驚きに目を丸くするペドロ目掛け、右の首の男が剣を振り回す。

 

「なるほど、妙な〝声〟だと思っていたが……元々3人だった訳か」

 

 電撃はそれなりに効いたらしく、バスカビルの肉の焼ける臭いと刃筋を立てることさえままならないほど痙攣する腕を見る。

 剣を取り落としはしないところを見るに、根性は据わっているらしい。

 力もロクに入らないだろうに、剣を振り回してペドロと鍔迫り合いに持ち込もうとするバスカビル。

 

「ぐぬぬ……貴様ら、ミンク族か!」

「覚えがあるぞ……ニコ・ロビンと共に海を渡る2人のミンク族!」

「貴様らがそうかン!!」

「電伝虫が繋がらぬのも貴様らの仕業だな!? 一体何をした!!」

 

 力が入っていないのにも関わらず、随分饒舌に喋るものだと変なところでペドロは感心していた。

 背丈はあるし筋力もある。当たればそれなり以上にダメージになるが、この程度ならペドロの敵ではない。

 そう判断すると同時に、鍔迫り合いをしたまま背後に回ったゼポと交差するように電撃を放った。

 

「「「あがががががが!!!」」」

 

 バリバリと前後から電撃を食らったバスカビルはそのまま気絶し、後ろに倒れる。

 少々時間を無駄にした。急いで塔を上らねばと、ペドロはゼポと視線を交わす。

 

「おれは右手の塔に行くぜ」

「ではおれは左側に行こう。急ぐぞ、ゼポ!」

 

 2人はすれ違うように対の塔へ走り出す。互いの健闘を祈るように手を叩き、それを合図に一気に加速した。

 ミンク族は体内で電気を生み出し、それを放出することのできる種族だ。生まれながらの戦闘民族とまで言われるほどにその戦闘能力は高く、赤子や老人でさえ並の兵士よりも強い。

 ペドロとゼポはミンク族の中でもとりわけ強い。

 塔の中で待ち構える兵士を薙ぎ倒し、鉄球を振り回して襲い来る陪審員を切り倒し、息せき切って塔の最上階まで登り切った。

 ガコン、という音と共に引かれたレバーを守るように追ってくる兵士に向き直り、ゆっくりと跳ね橋が動くのを見て互いに互いの仕事が上手くいったことを悟る。

 

「ロビンが待っているんだ。無理にでも押し通らせてもらうぞ!」

 

 

        ☆

 

 

 プルプルプル、ガチャ。

 電伝虫の、ともすればやや間抜けな着信音に、スパンダムはややダルそうにしつつも受話器を取る。

 時刻は既に深夜を回っている。普段であればとっくに就寝している時間だが、先に報告があった侵入者の件もあって寝るわけにもいかない。それにロビンたちを護送する手筈が整えばすぐにでも移送するのだ。ゆっくり寝ている時間などありはしない。

 

「おれだ。侵入者の件で報告か?」

『──驚いた。まだ気付いてないんだね』

「あァ? なんだテメェ、おれに向かってその口の利き方は──」

『知っているよ、CP9の長官スパンダム。スパンダインの息子で、その影響力もあってCP9の長官の座を勝ち取ったんだろう?』

「分かってんなら、態度を改める気はねェのか!?」

『あるわけないだろう? それとも、これまでやって来たスパンダインの悪行ともどもつらつらと述べられたいのかい?』

 

 スパンダムはそこで視線を電伝虫の方へ向けた。

 スパンダインは世界政府内部でもそれなりに権力を持ち、悪事に手を染め、あらゆる手段で政治闘争を勝ち抜いて権力を手にして来た。それを手本にしたスパンダムも同様に、あれこれやって来たし色んなところに伝手もある。

 つまるところ心当たりなら山ほどあるのだ。

 

「おれがいつ悪行をやったってんだよテメエふざけんなよとっ捕まえてインペルダウンで拷問するぞ!!」

(めちゃくちゃ早口になってる……)

(心当たりあるんだろうなあ)

 

 早口で言い募るスパンダムに、近くに控えていた衛兵がそんなことを思っていると、電話をかけて来た相手は「〝裁判所〟の方を見るといい」と言った。

 何があるわけでもないだろうと視線を向ければ──〝裁判所〟の屋上で倒れるブルーノと、こちらを睨みつけるように見る〝麦わら〟のルフィの姿があった。

 

「な──」

 

 バタバタと立ち上がり、受話器を落としながら窓に張り付く。

 見間違えではない。あれは確かにCP9のブルーノが倒れていて、ルフィがこちらを見ている。

 

『ただいま〝本島前門〟にてオイモとカーシーが全力で戦っています! 全く問題ありません!』

 

 聞き覚えのある声が響く。

 ほんの十数分前に聞いた報告が、まさにこれだった。

 

『流石に跳ね橋をかけるとバレるだろうから、それならと思って連絡したんだよ』

「……テメェ、誰だ!? うちの衛兵に成りすましてやがったのか!?」

『ちょっと声真似しただけだよ。思ったよりすんなり騙されてくれて助かったけどね』

 

 マリンコードでも改められていればバレていたが、そもそも〝エニエスロビー〟は政府の玄関口として攻められたことなどないのだ。

 有事の際の対処など、この場の誰もが身についていない。

 冷や汗を流すスパンダムは、震える唇で再び誰何した。

 

「……テメェは、誰だ?」

 

 〝エニエスロビー〟の最奥一歩手前。〝裁判所〟まで攻め落とされた上に、CP9は既に一人やられている。

 愕然としながら問い質すその声に、相手の女は真剣な声色で名乗る。

 

『私の名はカテリーナ。〝黄昏の海賊団〟さ──今回は援助の部分が大きいけどね』

 

 〝正義の門〟の手前、即ち喉元である〝司法の塔〟にまで攻め込もうとしている。

 ブルーノを倒したルフィを放心したように見ていると、スパンダムはルフィと目が合った気がした。

 恐らく錯覚だろう。こちらからはガラス越しに見えても、向こうからは見えていない。スパンダムの事などルフィは知らないのだ。

 だが、それでも。

 喉元を食い破ってロビンを助けに来た男に、スパンダムは恐怖した。

 

『君に連絡した理由はもちろん一つ──ニコ・ロビンを返してもらう。君たちにその気があるのかを問いたかった』

 

 背後から聞こえる声に振り向いたスパンダムは、いつの間にか現れたCP0のゲルニカが受話器を取ったことに遅ればせながら気付いた。

 

「無理な相談だな。ここまでやったんだ、そちらも相応の覚悟をしているのだろう?」

『そりゃあね。でも君らだってここまでの事態は予想外のハズだ。大きすぎる損害を被る前に、返すのも一つの手だって言いたいだけさ』

「四皇に匹敵するとは言え、あまり図に乗ってもらっては困る。ここで全員死んでもらおう」

『……そう。じゃあ、残念だけど──』

 

 カテリーナが言葉を続けるよりも先に、〝裁判所〟の方から叫び声が上がる。

 

「ロ~~~~ビ~~~~ン~~~~~~!!!」

 

 仲間を返してもらおうと叫ぶルフィの声に、スパンダムが思わず仰け反って尻もちをついた。

 それに気付いたCP9とCP0の面々が続々と集まってくる。

 〝裁判所〟の屋上にも〝麦わらの一味〟が集合し始めた。

 それを知ってか知らずか、カテリーナは静かに告げる。

 

『彼らも到着したみたいだね──それじゃ、宣戦布告と行こうか』

 

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