ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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第二百二十八話:〝司法の塔〟

 

 〝司法の塔〟へと続く跳ね橋が降りる。

 ペドロとゼポの手によって、裁判所の両脇にある塔のレバーが動かされて跳ね橋が稼働したのだ。

 CP0とルフィたち麦わらの一味の視線がそちらに向くと同時に、フランキーは()()()()()を取り出してこれ見よがしに見せつけた。

 

「忙しいトコ悪ィがよ、ルッチにカク。お前ら、これわかるよな?」

「……!」

「おぬし、まさかとは思うたが……体内に!?」

 

 フランキーは過去、造った船の試験中に海王類に襲われたことから瀕死の重傷を負い、治療のついでに自らの体を頑丈に改造したという異色の経歴を持つ〝改造人間(サイボーグ)〟だ。

 様々な武器を仕込み、あちらこちらを補強しているため通常の人間とは少々()()()()()()

 冷蔵庫のようになっている腹部は開閉可能になっているため、いざとなれば()()()()()()()ことすら可能である。

 手に持った紙束をペラペラとめくって見せれば、ウォーターセブンで一時的に船大工として勤めたルッチとカクの顔色が変わった。

 

「そう、こいつは本物の〝プルトン〟の設計図だ」

 

 フランキーはひとつの賭けに出た。

 ニコ・ロビンはアイスバーグやトムが危惧するような〝悪魔〟ではなかった。

 世界政府は想像以上に兵器に執着し、悪用しかねないバカがいるところだった。

 これだけで決断をしたのは、あるいは短慮だと責める者もいるだろう。それでもなお、フランキーはこの設計図を誰にも渡すべきではないと思ったのだ。

 

「ほ、本物か!? 寄越せ! おれの、おれの念願の設計図だ!!!」

「おれ達船大工がこの設計図を守ってきたのは、古代兵器がもしも!! お前みてェなバカの手に渡った時……その〝独走を阻止してくれ〟という設計者の願いだ!!!」

 

 設計図がなくとも、実物が呼び起こされれば意味はない。

 この場でロビンが世界政府の手に落ちることがあれば、フランキーがやることは無駄になるだろう。

 だけど、それでも。

 ()()()()()()()

 

「待て、何を──ぐっ!」

「どォりゃああああ!!!」

 

 そちらを注視していたゲルニカが動こうとした瞬間、横合いから現れたトムが力の限りにゲルニカを殴りつけた。

 意識がフランキーに集中していたうえ、これからやる行動を想像して焦ったせいで周りへの警戒が薄れていたのだ。

 完全に意識の外だったトムから殴られたことで初動が鈍り、そちらに気を取られた他のCP0もフランキーの行動には間に合わない。

 

「おれが今、この状況で設計者の想いを汲んでやれるとするなら、方法は一つしかねェ!!」

「ぐだぐだ言ってねェで渡せ!! それはおれのモンだ!!!」

 

 ボウ!! と──フランキーが口から火を噴き、手に持っていた〝プルトン〟の設計図を一息の内に焼け焦げた灰へと変えてしまった。

 かつて、暴走する〝古代兵器〟を止めるための抵抗勢力を作るために残された設計図だ。それが失われたということは、つまりロビンが政府の手に渡れば止めることが出来なくなるという事。

 それでもフランキーが設計図を焼失させたのは、抵抗勢力として残された設計図は人知れずあるもので、明るみに出た時点で消さなければならないと考えたからだ。

 そして、トムもアイスバーグも、フランキーの判断を間違ったものだとは考えない。

 

「あああああああ!!? お、おれの設計図が!!? テメェ何をするーーっ!!? チクショウ……殺してやる!!」

「ンマー、お前らしい選択だ」

「無事だったか、バカバーグ」

「危うく死ぬところだ!! もう少し周りに気を配らねェか!!」

「それはやる前に謝っただろ!」

「ああなるとは思わねェだろ!!」

 

 共に鎖に繋がれていたトムとアイスバーグは、フランキーの放った〝風来噴射(クー・ド・ブー)〟の風圧で壁に叩きつけられていた。

 ただでさえアイスバーグは重傷なのだ。下手なことをして傷が開けば今度こそ危ない。

 

「ここでニコ・ロビンがお前らに渡れば絶望だ。麦わらたちが勝てばお前らに得られるモンは何もねェ! おれは麦わらの勝利に賭けた!!」

「……浅慮なことだ。ウォーターセブンで嫌と言うほど力の差は見せつけてやっただろうに、まだ勝てると思っているのか?」

「勝てるさ」

 

 にやりと笑うフランキー。

 これは負けが確定した賭けではない。

 ルフィたちだけならば、CP0を含む世界政府の戦力を相手取るのに不安もあっただろう。

 だがこれは〝黄昏〟を巻き込んだ戦争だ。

 フランキーの知る限り最強の海賊団が味方してくれているというのなら、世界政府が敵に回ろうとも恐怖はない。

 跳ね橋が降り切る。

 道は繋がった。

 

「よし──行くぞ、お前ら!!」

「「「え!!?」」」

 

 屋上から降りる手間を省こうとでも考えたのか、ルフィは仲間たち全員に腕を伸ばして真っ直ぐに跳ね橋へ落下する。

 ナミやウソップ、チョッパーは半泣きだが、サンジとゾロは驚くだけだった。

 

「チッ、面倒な。急ぐぞ、これ以上手間取らされるのは御免だ」

「クソ、おれの設計図が……! ルッチ、フランキーとアイスバーグを下に落とせ!!」

「「は?」」

 

 無表情な顔でスパンダムの言うとおりにフランキーとアイスバーグを〝司法の塔〟から突き落とすルッチ。

 ゲルニカに殴りかかったトムも手長族のヨセフによって同じように投げ飛ばされ、3人纏めて落下していく。

 

「ザマァ見やがれ!! おい、ニコ・ロビンを連れて行く!! CP9は〝司法の塔〟で海賊どもを迎え撃て! 皆殺しを許可する!!!」

 

 溜息を吐いているゲルニカに代わり、スパンダムが当然のように指示を出してルフィたちを迎え撃つように言う。

 即座にロビンの腕を掴んで歩き出すスパンダムは、ルッチを傍に置いて〝象剣ファンクフリード〟を手に、部屋の中へ一度戻った。

 そこには一連の行動を全て見ていた赤犬の姿もあり、スパンダムにやや遅れてCP0の面々も戻って来た。

 

「設計図は焼失か。失態じゃのう」

「全くだ。だが、〝バスターコール〟を発令するのに支障はなくなった。ひとまずニコ・ロビンの護衛が必要だ。共に来てもらうぞ」

「分かっちょるわい。ここまで来て取り返されるのも問題じゃけェのう」

 

 〝黄昏〟側はまだ知らない、海軍大将という特級戦力。

 赤犬は帽子を深く被り直し、ニコ・ロビンを一度見て、裁判所の方へと視線をずらす。

 

「……厄介なことになったのう。じゃけェわしは〝黄昏〟の七武海追放は反対だったんじゃァ」

 

 

        ☆

 

 

「このおバカ!! いきなり飛び降りるなんて何考えてるのよ!!」

「歯ァ折るぞテメェ!!!」

「こ、怖かった……」

 

 跳ね橋の上に着地したルフィは自身の体を風船のように膨らませることで仲間たちも着地させたが、その後にナミとウソップにボコボコにされていた。

 これから戦闘だと言うのに、この調子で大丈夫かとカイエの心配そうな視線が向けられる。

 裁判所両側の塔から降りて合流したゼポとペドロを含め、全員がこの跳ね橋の上に集まっていた。

 

「後ろから敵が来てるんじゃねェのか?」

「裁判所前なら、巨人の2人が寝返って相手してくれてますよ」

 

 カテリーナが連れて来た2人の巨人、オイモとカーシーは色々事情はあれどもひとまず世界政府相手に暴れてやることに決めたらしく、裁判所前の広場で盛大に暴れていた。

 もっとも、カイエが散々暴れた後である。骨のありそうな兵士などそれほど残ってはいない。

 ゾロはカイエの返答に頷き、全員の視線は先程落下していたトムとアイスバーグ、フランキーの3人へと向けられた。

 落下の途中でトビの手によって回収され、無事に着地した3人は落下の影響でまだ心臓がドキドキしているらしく、膝をついて荒い息を吐いていた。

 

「ああ、クソ……流石に死ぬかと思った!」

「たっはっは……生きてたがな」

「ンマー、心臓に悪い……」

 

 トムは高齢だし、アイスバーグは重症の怪我人だ。戦わせるわけにもいかないし、かと言って置いていくことも出来ない。

 兵士が抜けてこないとも限らないし、どうしたものかと頭を悩ませる一行。

 

「連れて行こう。どうせおいていけないし、ここにいれば否が応でも巻き込まれるからね」

「私は構いませんが……援軍はまだ到着しないのですか? そろそろ時間のハズですが」

「ウォーターセブンに〝アクア・ラグナ〟が来てたし、やっぱりそっちの嵐の影響はゼロじゃないからね。もう少しくらいはかかるんじゃないかな……」

 

 距離的にウォーターセブンとエニエスロビーはそれほど離れていない。〝アクア・ラグナ〟と呼ばれる嵐の影響は決して軽くなく、波は高い上に風も強いので時間がかかっているのだろう。

 もっとも、それだけが理由ではない者もいるのだが。

 ともあれ、ロビンを取り戻さねばならないことに変わりはない。

 跳ね橋を歩いて渡ると、まず建物の側面にある階段を使って上階へ登っていく。その間にカテリーナは地図を取り出し、〝司法の塔〟の見取り図を全員に見せていた。

 一応機密のハズなのだが、当たり前のように出してくるあたりがこの女の怖いところだな……とアイスバーグとフランキーはこっそり冷や汗を流す。

 

「ロビンが向かうとしたらここ。〝正義の門〟へ向かうための通路だ」

「海を渡るんじゃねェのか?」

「〝正義の門〟が閉まっている間、〝司法の塔〟との間には複雑な海流が発生してて船じゃ渡れないよ。挑戦したいならやってもいいけど、あっという間に転覆して沈むのがオチさ」

「じゃあどうするんだ?」

「だから通路があるんだよ。上は海流が酷くてダメだけど、海中トンネルの中なら海流なんて関係ないからね」

 

 そこまでの道のりはカテリーナが把握している。奇襲に気を付けて進もうとすると、どこかから声が聞こえて来た。

 建物の中に入った途端のことである。姿こそ見えないが、声だけが聞こえてくる。

 CP9の1人、フクロウである。

 

「チャパパパパ。全部バレているなー。機密のハズなのに全部バレているとは」

「……隠れているだけのようです。先んじて潰しますか?」

「待って。聞けることは先に聞いておこう──ちょっといいかい?」

「なんだー? チャパパー」

「君ら、CP9だろう? 私たちの抹殺指令が下ってるんだよね?」

「そうだなー」

「で、多分だけどロビンの海楼石の手錠の鍵も君らのうち誰かが持ってるよね?」

「持ってるなー」

「この〝司法の塔〟に分散してる君らを見つけて倒して鍵を奪えないと、ロビンだけ助け出せても手錠は外れない……そういう理解でいいかい?」

「そうだー。おれの説明が全く必要なかったー。頭いいな、お前」

「そりゃあそうでしょ。()()()()()()()()()()()

 

 海の力を発するとされる海楼石は、触れているだけで能力者の能力発動を阻害する。ついでに力も抜けるので気力も抜けていくため、能力者にとっては天敵のような鉱物だ。

 ダイヤのように硬いことも相まって破壊は難しく、一度手錠を掛けられてしまえば鍵を無くして外すことは難しい。

 なので、能力者であるロビンも手錠を掛けられている限りは能力が使えず、やや落ちた身体能力でどうにかするしか無い訳だ。

 

「この塔にCP9は5人いる。そのうちの誰かが持つ鍵が本物だー」

「つまり、お前ら倒して手錠に入れてみるまで本物か分からねェってワケだ」

「くだらねェ時間稼ぎしやがって……」

「待って、それならまず最初にロビンを全力で取り返しましょう。鍵ならその後でもいいわ。事を急ぐのはロビンの方だもの!!」

「チャパパ、お前も頭いいなー──でも、そんな真似するなら、こんな鍵なんか海へ捨てちゃうぞー」

 

 ロビンの手錠を外したいならCP9に戦力を割かねばならず。

 ロビン自身を取り戻したいならCP0を追わねばならない。

 戦力を集中させることは非常に難しく、個別に撃破される危険もある。

 それでもフクロウの言葉に従ってCP9の撃破に動かねば、ロビンの手錠は永遠に外れることはなくなってしまう。

 こうなれば選択肢などないようなものだ──しかし、カテリーナはそうは考えなかった。

 

()()()()()()()()

「え!?」

「ちょっと、カテリーナ!?」

 

 フクロウとナミが慌てたような声を上げる。

 だがそれさえ気にかけず、カテリーナは静かに言った。

 

「君が今言っただろう? 事を急ぐのロビンの方だ。手錠は後回しでいいって」

「でも、それをやると手錠の鍵が……」

()()()()()()()()()()()()()

 

 一介の海賊ならばまだしも、カテリーナは〝黄昏の海賊団〟の技術部門の長だ。冶金技術にも明るく、なんなら手錠をピッキングして開けてもいい。

 それに、今は近くにいないが海楼石の手錠を開けることのできる能力者だって存在する。

 そういう意味でも、手錠の事を優先的に考える必要は無い。

 

「優先はロビンの確保! それ以外はすべて後回し! 海楼石の手錠を外したいなら後で私が開けてあげるさ!!」

「本当に開けられんのか!?」

「心配する気持ちは理解出来ますが、手錠を開けることに拘らないのなら方法は幾つかあります。どちらにせよここで手錠を開けることを優先する理由はありませんよ」

 

 最悪、手首を落として手錠を外してから繋ぎなおしてもいい。

 口にこそしないが、カイエはそういう方法があることを知っているし、世界一の名医の腕前を良く知っている。

 ……まぁ、あの男ならオペオペの実の能力を使うことでそもそもすんなり海楼石を外せるのだが。

 ともあれ、これに焦ったのはフクロウである。

 

「チャパ……!?」

「そう言うわけだから、悪いね。先を急ぐんだ」

 

 フクロウを無視して〝正義の門〟へ向かう通路を目指すカテリーナ。

 それを遮ろうと、フクロウは子電伝虫を繋いでCP9のメンバーへ連絡を飛ばす。

 分散失敗。応援求む。

 1人で押し留められる人数ではないと判断して連絡を入れたまでは良かったが──フクロウが時間を稼ごうと物陰から姿を現した瞬間、目の前に現れたのはカイエだった。

 どれだけ気配を消そうと見聞色で位置はバレており、襲おうと敵意を発した瞬間には迎撃に移っていたのだ。

 

「こちらも時間が無いのです。あなた達にかかずらっている暇はありません」

 

 いかに〝六式〟を使える超人と言えども、()()()()ならカイエにとって敵ではない。

 武装硬化した拳を真っ直ぐに振り下ろしたカイエは、有無を言わせずフクロウを強制的に黙らせた。

 

 ──4番の鍵、入手。

 




ノリで書いてたらフランキーの見せ場が無くなっていた。
ちなみに本作のフランキー、経緯的にカテリーナが改造に関わってるので背中も改造済みです
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