ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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第二百二十九話:行け!

 

 〝司法の塔〟の構造は既にわかっている。

 カテリーナを先頭に道案内させ、カイエとトビが奇襲に備えてその後ろを走り、〝麦わら〟の一味はそれに続く。

 〝正義の門〟へ向かう地下通路へは一本道ではなく、いくらか入り組んだ通路になっている。まっすぐに壁をぶち破っていけば早いが、それをやってしまえば逆にどこが繋がっていてどこが繋がっていなかったのか分かりにくくなってしまうため、道順に沿って移動していた。

 だが、足止めを任されたCP9とて、素通りさせてくれるわけではない。

 

「ッ!! ナミ、伏せろ!!」

「え!?」

 

 ナミと並走していたゾロが咄嗟にナミの頭を押さえつけ、直後に通り過ぎた斬撃が先程まで頭があった場所を通り過ぎる。

 即座に刀を抜いたゾロは襲撃者の攻撃を受け止め、それがガレーラで見た四角い鼻の男──カクであることを認識した。

 

「まさか防がれるとは思わなんだ」

「それだけ殺気駄々洩れなら、分からねェ方がおかしいだろ」

 

 ゾロと同じように剣を抜いて迎撃に当たろうとしたペドロを制し、ゾロは「先に行け!」と促した。

 

「ここから先、ロビンを連れ戻すのは時間との勝負でもある。いちいち立ち止まって相手してちゃ間に合うもんも間に合わねェ!」

 

 最優先なのはロビンの奪還だ。鍵はまだ持っていればついでに回収するが、時間がかかるなら放置してもいい。

 現在最も厄介だと思われるのはCP0の4人。カイエとトビは対抗出来るだろうが、ペドロとゼポは厳しい。それでも麦わらの一味の中で相手が出来そうなのがその2人しかいない以上、それ以外の面々はそのサポートに当たらねばならない。

 そして、恐らくCP9で最も強いルッチはルフィでなければ相手が出来ないとゾロは見ていた。

 

「確実にロビンのところまで辿り着いて、連れ戻せ! おれもこいつを倒してすぐに追いつく!」

「そう簡単に倒せると思われては心外じゃのう!」

 

 二本の刀と両足による斬撃の嵐を弾き、ゾロは立ち止まっているナミたちに視線を向ける。

 

「行け!!」

「……わかった!!」

 

 ルフィは即座に頷き、やや先で立ち止まっているカテリーナの下へ走り出した。

 2人は良くても何か言いたそうなナミの腕を引いて、サンジが前へと走り出す。

 

「サンジ君、ちょっと!」

「ナミさん、あの野郎の言うことは正しい。ここでおれ達全員が立ち止まってちゃ、ロビンちゃんは取り戻せねェんだ」

 

 誰かが現れるたびに全員で倒していけば確実に前には進めるだろう。だが、それではロビンが〝正義の門〟に辿り着く前に取り戻すことは不可能だ。

 切り捨てるわけではない。前に進む者たちがきっとロビン奪還をやり遂げてくれると信じて託しているのだ。

 だから、託された以上は前に進まなければ。

 

「次! 泡の大波です!」

「〝羊雲大津波(タイダル・ウェイブ)〟!!!」

 

 攻撃に先んじてカイエの声が響き、その通りの攻撃が発生した。

 津波のように押し寄せる泡が行く手を阻み、即座に前に出たカイエが獣型になって翼で吹き飛ばそうとする。

 しかし、形態変化の途中で床が軋みだしたことに気付いて咄嗟に変身を解除した。このまま獣型になっていれば床が抜ける可能性があったからだ。

 せめてカテリーナだけでも守らんと拳を握るが、それより先にカテリーナが声を上げる。

 

「泡……フランキー! 風だ!!」

「風!? 任せろ!! 1.0コーラ砲──〝風来砲(クー・ド・ヴァン)〟!!」

 

 連結した腕が一瞬だけ膨らみ、風の砲弾が打ち出される。

 爆風は泡の津波に大穴を開け、全員が固まることでなんとかやり過ごす。

 受けてもどうにか出来たかもしれないが、能力者の攻撃は基本的に性質が分かるまで受けないのが基本だ。溶解液を出すリコリスのように、受ければそのまま手酷いダメージを負う可能性もある。

 広範囲を攻撃出来る能力者ならなおの事。能力の性質次第では全滅もあり得る。

 奇襲をかけて来たカリファはやや驚いた様子で、離れたところに立っていた。

 

「まさかあの状況で対処出来るなんて。ちょっとナメてたわね」

「こちとら山のように色んな能力者を見て来たからね。とっさの判断が出来るように訓練してるんだよ」

 

 護衛を連れているとはいえ、カテリーナは〝黄昏〟の誇る優秀な技術者だ。狙ってくる相手には事欠かない。

 本人にはほとんど戦闘能力がないとはいえ、とっさの判断が生死を分けることもある。訓練が無駄になることはない。

 

「CP9か。厄介な能力みたいだし、カイエがやるかい?」

「私がやるわ!」

 

 名乗りを上げたのはナミだった。

 サンジは強いが女性のカリファが相手では役に立たない。チョッパーやウソップでもやれるかもしれないが、能力を見るに直接殴ることが基本のチョッパーや泡で視界を遮られるウソップでは相性が悪い。

 であれば、適任はナミだろう。

 天候棒(クリマ・タクト)を手に、ナミが行く手を遮るカリファを睨みつけた。

 

「お相手してもらうわよ、秘書さん」

「……私たちの仕事は足止め。別に正面から戦う事ではなくてよ」

 

 離れて辺りに散らばった泡を集め、再び泡の津波を作る。

 それをまたフランキーが吹き飛ばそうと準備をすると、それより先にナミが天候棒(クリマ・タクト)を振り回して爆風を起こした。

 

「くっ……!?」

「これでもまだ──」

「危ねェ、ナミさん!!」

「え!?」

 

 派手な音がしたかと思えば、ナミの背後でサンジと誰かが衝突している。

 イヌイヌの実、モデル〝(ウルフ)〟を食べた狼人間──ジャブラが泡で視界を遮られた瞬間を狙ったのだ。

 それに気付いたサンジがジャブラの攻撃を防ぎ、ナミと背中合わせになるように立つ。

 

「レディの背中を狙うとは、男の風上にも置けねェな」

「ぎゃはははは! おれァ暗殺を生業にしている暗殺者だ! 男だろうが女だろうが、背中を狙える隙がありゃあ狙うに決まってんだろうが!!」

「お前ら、先いけ! こいつはおれがやる!!」

 

 サンジの言葉に後押しされ、カテリーナを先頭にルフィたちは再び走り出す。

 それを食い止めようとカリファが泡を集めようとすると、走りながら振り返ったカイエの縦に割れた蛇のような瞳にぞくりと背筋に悪寒が走った。

 次やれば確実に息の根を止めに来る。当たればどうなるか分からない泡で何度も奇襲されるくらいなら、多少時間をかけてでもここで消しておくべきだと、カイエはそう判断していたのだ。

 動きの止まったカリファを尻目にカイエたちは通路を曲がって行き、後にはナミとサンジが残される。

 

「ナミさん、おれがあの狼男を何とかする。そっちは頼む」

「ええ、任せて。さっさと倒して、ロビンを助けに行かなきゃ──それより先に、ゾロが迷子にならないように案内するのが先かもしれないけどね」

「違いない」

 

 小さく笑い、2人は同時に駆け出した。

 

 

        ☆

 

 

「よよいっ! ここはァ~~通さねェ!!!」

「邪魔です」

 

 髪がタコのようにうねうねと動きながら立ち塞がったのは、CP9の1人であるクマドリである。

 堂々と道のど真ん中に立って立ち塞がっているので、カテリーナは先頭をカイエに譲って殴り飛ばしてもらう。

 しかし髪がクッションになったためか思ったよりダメージは入っていないらしく、それでも口の端から血を流しながら立ち上がった。

 後ろから追われるのも面倒だが、どうするかと全員が目配せする。

 すると、今度はフランキーが名乗りを挙げた。

 

「ここはおれがやろうじゃねェか。オメェら、先行け」

「ンマー、大丈夫なのか、フランキー」

「コーラ補給が出来てねェのは痛ェが、そんなこと言ってる場合じゃねェしな。なんとかすらァ」

「だ、だったらおれも残るぞ!」

「あァ?」

 

 フランキーの垂れたリーゼントを見て心配するアイスバーグ。強がって笑いながら先に行けと言うも、ならばとチョッパーが並び立った。

 チョッパーは医者だ。本来なら最後の最後まで戦うべきではない立ち位置であるが、当人はロビンのためにも皆と一緒に戦うことを選んでいた。

 戦う事が怖くても、先に残ったゾロやサンジ、ナミを見習い、勇気を振り絞って。

 

「別に無理して付き合う必要はねェんだぞ。あいつらが先に行ってニコ・ロビンを取り返してくりゃあそれでいいんだからよ」

「そ、それでも! おれだって男だ!」

 

 強がってそういうチョッパーをきょとんとした顔で見た後、笑い始めるフランキー。

 

「なんで笑うんだよ!!」

「いや……くく、そうだな。男見せてェ時もあるよな。よーし、いっちょ2人でやってやろうじゃねェか!! 足引っ張ったら承知しねェぞ、シカ!!」

「トナカイだ!!」

 

 そんな掛け合いをする2人を置いて、カテリーナたちは走り出す。

 やがて見えて来た鉄の扉の前には、2人の男たちが待っていた。

 

「……まァ無理だろうとは思っていたが、予想より早かったな」

「それに数が残っている。こうなると面倒だぞ」

 

 仮面を被ったCP0──ヨセフとマハの2人である。

 CP9では足止めは難しかろうと、2人が残って足止めをすることにしていたらしい。

 流石にCP0が2人もいては戦力の温存などとは言っていられないが……地下で、それも階段と扉があるだけの狭い部屋である。

 元々戦うための場所では無いし、部屋の大きさを見てもカイエは人獣形態すら難しそうだ。

 

「先に行きたければ、我々を倒して行きたまえ。それが出来れば、だが」

 

 分厚い鉄の扉の隣には制御盤があるが、専用の鍵とパスワードが無ければ開けられない。

 力技で開けようにもCP0の2人が邪魔をする。かなり厄介な状況と言えるだろう。

 

「……ペドロ、ゼポ。私がなんとか抑えます。そのうちに扉を破壊して追いなさい」

「しかし……いや、わかった。健闘を祈る」

 

 ここから先、残る2人のCP0両名も強いが、ここを押さえられたままではどのみち追ってくる仲間たちもぶつかってしまう。

 部屋は狭いが、地下通路だって相応に狭い。恐らく敢えてこの狭い部屋で待ち構えていたのだろう。これは相手にとっても戦いにくい場所だが、それ以上に地下と言うこともあって無茶をすれば海水が流れ込むし、そうなれば地下通路は通れなくなる。

 何よりカイエの人獣形態を封じられるのだ。

 利はCP0の方にある。

 それでも、ロビンを取り返したらまた戻って来なければならない以上、ここを押さえられては困るのだ。

 

「逆境というのはあまり経験がありませんが……能力無しで戦う訓練くらいしています。あまり侮らないでいただきたいものですね」

「侮ってなどいるものか。それなら最初からこんな場所で迎え撃とうとは思わないからな」

 

 互いに覇気を纏った攻撃が衝突し、凄まじい音を立てる。

 ペドロとゼポは非戦闘員であるアイスバーグとトム、カテリーナの様子を気にしつつ鉄の扉を開けようとするが……思った以上に頑丈に出来ているらしく、ペドロでも即座に破壊とはいかないようだった。

 

「思った以上に硬い……ゼポ、ゆガラはどうにか出来ないか?」

「難しいな。覇気を纏わせた拳でも、人が通れるくらいまで壊すのは時間がかかる」

 

 壊せないわけではないが、やはり地下通路で何かあった場合に備えて水圧に耐えられるようになっているらしく、易々と壊れないようになっているらしい。

 それを見ていたルフィは、2人を押し退けてぺたぺたと扉を触り、硬さを確かめる。

 そして、行けると判断すると、少しだけ離れて指を咥えた。

 

「ちょっと離れててくれ。〝ギア〟──〝3(サード)〟!!!」

 

 どういう理屈か、大きく吸い込んだ息を指から腕へと送り込む。

 見る見るうちに巨大化した腕から空気が後ろへ伸ばしたもう片方の腕へと流れ込み、勢いを付けて鉄の扉を打ち抜いた。

 その威容は巨人族の腕と言っても過言ではなく、威力だけなら相当なものであることをうかがわせる。

 思わずカイエたちも目を見張る変化だったが、空気が抜けたあとは元よりも更に縮んでおり、「なんで?」とカテリーナが首を傾げていた。

 

「とにかく、これで道は開けた……もうすぐだ! みんな、気を引き締めていこう!!」

 

 〝司法の塔〟に来てからそれほど時間は立っていない。CP9やCP0が足止めをして来たが、それを差し引いてもロビンはそれほど遠くにはいないはずだ。

 それを考えると、カテリーナはルフィに向き直って告げた。

 

「ここからは私たちは足手纏いだ。あとは通路を真っ直ぐ行けばロビンがいる。戦える者以外が行っても、君たちの足を引っ張るだけ──だから、頼んだよ」

「ああ、任せてくれ! ここまで送ってくれてありがとう、おばちゃん!!」

「出来ればその呼び方はやめて欲しいかな……」

 

 苦笑しつつも、カテリーナはルフィ、ペドロ、ゼポ、トビの4人を見送る。

 アイスバーグとトムもここまで走って来たことで息が切れている。アイスバーグは怪我人だし、トムだってもう歳が歳だ。無理をさせるものではない。

 とは言え、このままここにいてはカイエの邪魔になる。CP0の目的を考えるに、上にあがれば追っては来ないだろう。

 上の広い場所ならカイエが遠慮なく人獣形態になれるため、2人がかりでも厳しい戦いを強いられるからだ。

 

「とにかく上へ。私たちは途中で残った子らを案内する役目をしよう」

 

 それに、巨人族の2人が残って裁判所前を押さえてくれているとはいえ、帰り道の確保もしておかねばならない。

 やるべきことは直接戦う事だけではないのだ。

 

 

        ☆

 

 

 ──そして。

 やがて通路の途中でロビンに追いついたルフィたちは、CP0が2人とCP9のルッチ、それにスパンダムとロビン以外にもう1人いることに気付いた。

 ルフィ以外はその顔を知っている。

 海で会えば第一に逃げることを考え、戦うことを考えるべきではない、海賊にとって最悪の敵。

 海軍大将〝赤犬〟。

 

「まさか、海軍大将がここにいるとは……!!」

「大将!!?」

「〝オハラ〟の一件はわしも関係あるけェのう。それより、貴様らが追い付いて来たことが驚きじゃわい」

「足止めに残っているハズだが……最低限効果はあったようだがな」

 

 一番厄介な敵であるカイエがいない。

 もっとも、カイエがいたところで赤犬相手では分が悪いと言わざるを得ないだろう。

 ましてやペドロやトビたちでは太刀打ち出来ない。

 

「ニコ・ロビンを取り戻しに来たか。仲間思いじゃが、見逃すわけにゃあいかんのう」

「赤犬、ここで能力は使うな。我々まで焼け死んでしまう」

「わかっちょるわい」

 

 覇気と体術だけでもルフィたち4人を圧倒して余りある。能力など使うまでもない。

 それでも万が一を考えてか、ゲルニカとステューシーは先を急ぐ。〝正義の門〟の一つ手前にある〝ためらいの橋〟と呼ばれる場所の支柱まで移動出来れば、相当広く海上にも出られる。

 背を向けて歩きだす赤犬たちに対し、隙があれば背中を刺す気でいたペドロだが──そんな隙さえ無かった。

 途中で立ち止まった赤犬は子電伝虫で何か報告を受け、ため息をついてルフィたちの方を向いた。

 

「お前さんらの仲間が近くまで来ているらしいが……本気で〝世界政府〟と事を構える気か?」

「仲間?」

「〝黄昏〟の援軍だろう。仲間と言うより、向こうからすればおれたちは傘下のような扱いかもしれないが……」

「誰かの傘下になる気はねェ。おれはロビンが仲間だから助けに来ただけだ!!」

「そうか……どちらにせよ、もうこの流れは止まらん」

 

 ここまで大規模に軍を動かせば、どうあれ〝黄昏〟と〝世界政府〟の関係性は決裂したと言っていい。

 赤犬は最後まで政府の判断には反対だったが、こうなってはもうどちらも止まらないだろう。

 であれば、ニコ・ロビンを手中に収めるために最善を尽くすのみ。

 

「〝バスターコール〟の発令じゃ」

 

 ゴールデン電伝虫のボタンを、押した。




番外編というか、こぼれ話とかを書き始めたので気になる方はどうぞ
不定期更新なのでそんなに頻度高いわけでは無いですが

https://syosetu.org/novel/351319/
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