ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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第二百三十話:援軍

 

 けたたましい音が海軍本部に鳴り響く。

 通常時は鳴ることのないサイレン──ゴールデン電伝虫より発令を受けたシルバー電伝虫の声である。

 常に有事に備えて訓練を怠らない海軍本部の将官は、常より訓練してきたように……今回は事前にセンゴクから知らされていた中将5名が集まり、すぐにでも船を出せるよう準備を整えていた。

 とは言え、現在時刻は既に夜中を回っている。

 就寝中であったセンゴクも〝バスターコール〟が発令されたとなれば悠長に寝ているわけにもいかず、起きて執務室に到着する頃には既に軍艦10隻が出航したと報告を受けるだけであった。

 

「……このタイミングでサカズキがバスターコール? 奴らしくないな」

「事前に五老星からバスターコール発令の指示が下りてきていました。その件では?」

 

 五老星がニコ・ロビンに関する案件としてバスターコールの発令権を求め、サカズキを派遣したのはセンゴクだ。当然ながら知っているが、部下の言葉にセンゴクは首を横に振った。

 対象が違う、と。

 

「少なくとも、五老星がバスターコールを使う予定だった場所は〝エニエス・ロビー〟ではない」

 

 加えて予定地だった〝ウォーターセブン〟は現在嵐の只中にあると報告を受けている。

 時間帯を考えれば嵐は過ぎている可能性は高いが、それでも〝エニエス・ロビー〟へバスターコールを発令する理由が無い。

 やるからには徹底的に。

 〝徹底的な正義〟を信条とする赤犬(サカズキ)のやり口にしては、少々杜撰な印象を受ける。

 そう考えていると、慌てた様子の部下が執務室の部屋をノックして報告をしにきた。

 

「失礼します! 夜分遅くに申し訳ありません! 緊急の報告です!!」

「聞こう。何があった?」

「〝黄昏の海賊団〟の船団が〝エニエス・ロビー〟を強襲!! 既に〝司法の塔〟まで攻め込まれており、現在後詰の船団が〝エニエス・ロビー〟周辺に展開しているとのこと!!」

「奴らが動いたのか!? 予想よりも随分早い……!」

 

 最低限、ニコ・ロビンを助けるかどうか意見が割れれば数日は時間が稼げると考えていたセンゴクの予想を遥かに上回る。

 先手を取ったのは海軍のハズだが、待ち構えられていたと見るべきか。

 

「……奴ならやりかねんな」

 

 〝革命軍〟のドラゴンとの仲。

 内側へ入ろうとするスパイの徹底的な排除。

 20年前に〝オハラ〟へ肩入れした事実。

 カナタを頂点に置くトップダウン型の組織でも、四皇同盟と敵対している現状では七武海の座を捨てることは容易ではないと考えていたが──少々甘かったらしい。

 

「敵勢力の数をすぐに報告するよう伝えろ。必要なら追加で戦力を送る」

「わかりました!」

 

 カナタ本人がいないのはわかっているが、それでも〝黄昏〟には海軍も政府も把握していない戦力がいる。

 先の四皇同盟との戦いで露見した戦力が隠し玉の全てとは思わないし、懸念事項は他にもある。

 四皇〝赤髪〟の船がアラバスタに来ていることだ。

 

「〝赤髪〟は率先して事を起こすような男ではないが……あの男はカナタと交流がある。秘密裏に手を組んでいても不思議はないのが怖いところだな」

 

 商業的な取引だけで同盟を結んでいるわけではないハズだが、カナタもシャンクスも警戒心の高い海賊だ。政府や海軍にバレないよう、用意周到に繋がっている可能性までは否定出来ない。

 ラジオの影響で電伝虫の盗聴はほぼ不可能となって以降、白電伝虫での防諜に気を遣わず連絡を取り合えるようになっているのだ。

 最悪のケースを考えるならば、決して楽観視出来ることではない。

 そもそもシャンクスがアラバスタに現れる理由が不明なのだ。〝黄昏〟が先の戦いでの影響を考えて慰問ライブを行うらしいが、まさかそんなものに参加するために訪れるとは到底思えない。

 

「とにかく、失敗は許されん。何としてでもニコ・ロビンを押さえろ!!」

 

 

        ☆

 

 

「いったん引くぞ、ルフィ!」

 

 赤犬の言葉を受け、ペドロが言った。

 その言葉を聞き、ルフィは目を見開いて驚き、反発する。

 

「何でだよ!? ロビンは目の前にいるんだぞ!?」

「諦めろと言っているわけじゃない! 分が悪いのもあるが……あガラは今、確かにゴールデン電伝虫のボタンを押した! バスターコールはおれ達では対処出来ない!! 仲間たちを死なせないために、伝えに行くんだ!!」

 

 それに、どのみち赤犬がいたのでは手出しが出来ない。

 多少覇気が使える程度で海軍大将が倒せるなら苦労は無いし、特に赤犬は自然(ロギア)系の能力者だ。触れただけで致命傷になりかねない以上、ルフィを残せば自分の命さえ顧みずに突撃する危険性があった。

 作戦を練らねばならない。

 

「トビ、子電伝虫は持っているか?」

「生憎持っておりませぬ。カテリーナ殿が持っておられるはずですが……」

「なら急ぎ戻ってカテリーナに伝えてくれ。援軍が近くまで来ているなら、軍艦を待ち受けられる」

「待ってくれ! 伝言ならおれの方が良いんじゃねェか!?」

「カイエとCP0の2人の戦いを潜り抜けてカテリーナのところへ行けるのか?」

 

 ペドロの言葉にウソップは口を噤む。あの3人の戦いなど、余波だけで酷い怪我を負いかねない。

 〝黄昏〟の艦隊と渡りを付けられるのはカテリーナかカイエだけだ。戦闘中のカイエに細かな指示を出すことは求められない以上、カテリーナに任せるのがいいだろう。

 トビは一度頷くと即座に移動を開始し、それこそ忍者のように高速で来た道を戻っていく。

 ルフィ、ペドロ、ゼポ、ウソップの4人は額を突きつけ合い、持っている情報を共有する。

 

「いいか、ルフィ! 赤犬はマグマグの実の溶岩人間……触れたが最後、高熱のマグマに攻撃したこっちが融かされる!」

「マグマ!? そんなのどうやって倒すんだ!?」

()()()()() おれ達が逆立ちしたって勝てる相手じゃない!!」

「じゃあどうすんだよ!!!」

 

 ルフィは自分の頭が良くないことを理解している。

 出来ないことなど山のようにあっても、ルフィに出来ないことが出来る仲間がいることも理解している。

 だが、それでも仲間を諦めろと諭されることだけは絶対に許容できなかった。

 ルフィの睨みつけるような視線に対し、ペドロは覚悟を決めた顔で静かに告げる。

 

「おれとゼポが囮になる」

「ま、それしかねェだろうな。だが奥にいるCP0とCP9はどうする?」

「問題はそこだ」

 

 苦々しい顔をするペドロ。

 トビが来ても、彼女ではCP0ひとりを相手取るのが精一杯。それも限界まで粘ったところで勝ちの目はない。

 CP9のルッチはルフィがなんとか倒せるだろうが、それでもあとひとりCP0がいる。

 麦わらの一味の誰が追い付いて来ても、CP0の相手は務まらない。〝ウォーターセブン〟で一度刃を交えたペドロはそれをはっきりわかっていた。

 

「この先にある〝ためらいの橋〟の支柱から上に出られる。チャンスはそこしかない」

 

 周りに〝黄昏〟の援軍が来ていれば、ユイシーズが到着していればCP0を押さえられる。

 戦力も人数も足りていない今、どうしたって援軍に期待するしかないのだ。

 

 

        ☆

 

 

 〝ためらいの橋〟上部。

 この橋は海底の通路を通り、支柱から海上にある橋に出て、普段は畳んである橋を通ることで護送船まで繋がっている。

 追いかけてきていたルフィたちが一旦退いたことで、邪魔も入らず悠々と橋の上まで出られたのでスパンダムも上機嫌だった。

 ──海上に出て、その光景を見るまでは。

 

「……な、なァ。おれァ夢でも見てるのか?」

「いいや、現実だな」

「驚きね。ここまで行動が早いなんて」

 

 〝正義の門〟を通って海底監獄インペルダウンへ連れて行くための護送船は既に制圧されていた。

 エニエスロビーの外周を通り、防御柵を破壊して入り込んで来た一隻の軍艦。

 〝正義の門〟との間には本来渦潮が発生しているハズだが、バスターコールを受け入れるために門が全開になっている影響で渦潮は消えていた。

 

「ふむ。CP0は4人と聞いていたが……」

「カイエがいたはずだ。あの子が2人押さえているのだろう」

「それほど強い〝声〟も感じないし、カイエと思われる〝声〟が2つの〝声〟と戦っている。間違いはなさそうだな」

「だが……赤犬がいるとは聞いていなかった。どうする?」

「どうもこうもない。おれ達でニコ・ロビンを奪い返す」

 

 白銀に赤いメッシュの入った髪。マントをたなびかせる美丈夫──〝冒険男〟ユイシーズ。

 ツノのような飾りを付けた兜を被り、筋骨隆々とした肢体を見せるように腕組みをする巨人族──ディルス。

 〝ためらいの橋〟の上で行先を遮るように立つ2人を前に、海軍大将である赤犬が出た。

 

「〝黄昏〟の兵隊か。随分行動が早いのォ」

「〝ウォーターセブン〟でそちらが動いた時点で既にこちらも行動を起こしていた。少々距離があったので遅れてしまったがな」

 

 ボコボコと沸き立つマグマが赤犬の体から噴き出していく。

 赤熱するそれは触れるだけで人の命を奪う、極めて厄介で強力な能力だ。

 しかし、それでもユイシーズは臆することなく視線を赤犬に固定する。そのまま後ろに控えるディルスへと声をかけた。

 

「おれが相手をしよう。ディルスはニコ・ロビンの奪還を優先してくれ」

「いいだろう。おれでは赤犬を押さえられんからな。だが、CP0が2人となると少し厄介だぞ?」

「心配はいらん。向こうからも追いついてきたようだ」

 

 支柱を登って現れた3人を見て、ユイシーズは小さく笑う。だがディルスはあまり当てには出来ないと思ったのか、眉をひそめて苦言を呈する。

 

「おい、大丈夫なのかあれは」

「サイファーポールの方はあちらでどうにかしてもらうしかないだろう。おれも赤犬が相手では援護に向かう余裕はない」

 

 ユイシーズ単独で赤犬を止められはするだろうが、それでも橋の真ん中に居座られてはディルスも突破出来ない。

 突破するために隙を作るにしても、サイファーポール3人とおまけの1人はしばらくあちらで何とかして貰わねばならないだろう。

 油断なく、加減なく、漲る覇気を纏って、ユイシーズは拳を握る。

 そうして──ルフィへと声を投げかけた。

 

「〝麦わら〟!! 事情は聞いている!! 今回は味方だ、お前がやれるだけの事をやるがいい!! フォローはこちらでしてやる!!!」

「ああ、ありがとう!!」

 

 赤熱するマグマと覇気の鎧を纏った拳が衝突する一方で、CP0の2人がペドロとゼポの2人とぶつかり、ルッチとルフィが拳を衝突させた。

 

「「「ロビンを返せェ!!!」」」

 

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