ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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第二百三十七話:怪物の戦い方

 

 土煙の中を迷うことなく突っ切り、ヨセフはカイエへと接近する。

 覇気も六式も、CP0の練度は相当なものだ。四皇の幹部であっても油断すれば食い破られる実力を持つ以上、カイエでも隙を見せれば食い破られる。

 それを、一時であっても2人を同時に相手取った代償は──この局面に来てカイエを蝕んでいた。

 

「ハァ……ハァ……!!」

「息が上がっているな。無理もない」

 

 この島に到着してからこっち、カイエはぶっ続けで戦い通しだ。

 入口の門を開き、巨人族2人と戦って正門を開き、麦わらの一味を背に乗せて裁判所前まで。

 裁判所前の広場でも雑兵相手とはいえ相当数の兵士と戦い続け、その後はCP0の2人を相手取って戦っていた。

 いくらカイエが動物系の能力者であっても、これだけ長時間戦い続ければ疲労と無縁ではいられない。

 

「まだまだ……!」

「しつこいことだ」

 

 カイエの攻撃を〝剃〟で回避し、そのまま全身を〝鉄塊〟で硬質化させて衝突する。

 人獣形態の頑丈さを考えれば〝指銃〟ではそれほどダメージにはならない。巨体を沈めるには相応に弾丸も大きくなければならないのだ。

 体を弾丸に見立てて高速でぶつかってくるヨセフを受け止めるも、反撃に出ようとした腕を〝嵐脚〟で切り裂かれる。

 

「覇気も鈍ってきているな。随分粘られたが……それも終わりと見える」

 

 普段のカイエならばこの程度の威力の〝嵐脚〟では切り裂けなかった。疲労と消耗で覇気が弱まっているのだ。

 ヨセフはここぞとばかりに攻撃を苛烈にし、高速移動を繰り返しながら体の内側に響くような打撃と外側を削り取るような斬撃を繰り返していく。

 

「──終わらせよう」

 

 動きが鈍り、防御もおろそかになって来た今ならば、致死のダメージを与えられる。

 空を蹴って土埃を抜け、カイエの背後から心臓を狙って〝指銃〟を打つ。それだけで、あとは死を待つだけの肉塊に成り果てるだろう。

 鮮血が舞う。

 ヨセフの指は違うことなくカイエの背を貫き穿つ──()()()()()()()

 

「何!?」

 

 だが、実際に貫いたのは僅か上着一枚。

 完全には回避しきれなかったのか、血痕こそついているが……およそ致命傷とは程遠い。

 ステューシーの得意技である紙絵〝残身〟に酷似しているが、あれは一瞬前まで存在した残像を囮にして攻撃を回避する技だ。上着の一枚も残らない。

 

「紙絵〝空蝉(ウツセミ)〟──やはり、カナタさんほど上手くはいきませんね」

 

 元来、カイエは高速機動を主体として戦う。動物系の頑強さと巨体を生かし、今回の戦いでは回避よりも防御を優先して戦っていたが、裁判所内の広さならば元の機動力を生かした戦い方も可能である。

 何より、背後から致命傷を狙って攻撃したヨセフは、舞い上がっていた土煙から出ている。ここならば視界を遮るものもない。

 ヨセフの背後に回り込んだカイエは両目の〝魔眼〟で動きを止め、即座に獣形態へと変化した。

 頭部より生える蛇が集まり、一点に収束する巨大なレーザーとなって放たれる。

 

「全て呑み込み、融け落ちなさい──〝収束極光・万魔融解(ガルガンチュア・ケトゥス)〟!!!」

 

 ヨセフを容易く飲み込んだ極光は余波で裁判所を半壊させ、僅かな静寂をもたらした。

 滴る血と汗はカイエに強い疲労を意識させるには十分なものだったが、それでもバレットと数時間戦い抜いた時と比べれば断然余裕がある。

 ……しかし、流石に息を整えねばかなりきついのも確かだった。

 荒い息が落ち着いてきた頃、派手な音と共に半壊していた裁判所が更に倒壊していくことに気付き、慌てて外へと出る。

 裁判所前の広場に出たカイエが見たのは、全身に傷を負いながらもどっしりと立って疲労を感じさせないユイシーズの姿だった。

 

「カイエ、無事だったか!」

「……そちらもかなり痛手を負ったようですね。怪我は大丈夫ですか?」

「動けないほどではない。見た目は派手だが深い傷はないからな」

 

 むしろカイエの方が重傷だろうと心配そうな顔をするユイシーズ。

 上着は先程囮に使ってしまい、現在は肌着とシャツだけであるため余計に傷が目立っている。

 ユイシーズは自分の上着を渡そうかとも思ったが、どちらにしても血だらけで渡すには不適だと判断し、ひとつため息を吐いて諦めた。

 

「動けるか? なるべく早く〝麦わら〟たちと合流した方が良いだろう。赤犬の動向も気になる」

「赤犬は小紫が抑えています。しばらくは大丈夫でしょう」

 

 先程から感じられる強烈な覇気のぶつかり合いは2人の衝突によるものだろう。

 能力自体も互いに高い火力を誇るマグマと雷だ。下手をすればこの島を丸ごと火の海にしかねない。

 ルフィたちとの合流を急いだほうが良いのは同感なので、カイエはそこに文句を付ける気はない。

 だが、それでも疲労は誤魔化しきれるものではないのだ。

 

「……少しだけ、息をつく時間をください。少々覇気と体力を消耗し過ぎました」

「敵はもうほとんど残っていない。海兵たちの大部分は掃討したし、残ったサイファーポールたちも誰かが相手をしているようだ。焦ることはないさ」

 

 なるべく早く合流してこの島から脱出するのが最善だが、互いにそれはわかっている。

 カイエの息を整え次第、すぐにでも移動するべきだ──そう考えていた時、島が一際大きく揺れた。

 それと同時に、肌を打つ覇王色の覇気。

 僅かに気を抜いて休息をしていた2人の顔が引き締まり、ともに同じ方向を向いた。

 

「……どうやら、多少の猶予も無いようだな」

「そのようですね。仕方ない、急ぎましょうユイシーズ」

 

 2人はすぐさま海列車のある駅の方目掛け、走り出した。

 

 

        ☆

 

 

 息せき切って走り、本島前門を超える。

 誰もが疲弊しているが、その中で最初に体力の限界が来たのは暗殺されかけて重傷のままこの島に来ていたアイスバーグだった。

 疲労と傷が体を蝕んでいる。これ以上無理をすれば命に関わるほどに危険な状態である。

 

「海列車までもうすぐだ! ワシが担いでいく!」

「待てよトムさん! アンタだって怪我してんだろ!?」

「ワシのはかすり傷だ、大したことないわ! 長年職人としてやってきたんじゃ、まだまだ現役! アイスバーグ一人担ぐくらい訳は──」

 

 ゴキッ、と嫌な音がしてトムの動きが止まった。

 ピタリと動きを止めたトムは、額からぶわっと汗を流して横のフランキーに告げた。

 

「……こ、腰が……!」

「だから無理すんなって言ったじゃねェか!! こんな時に怪我人増やしてんじゃねェよアホ!!!」

「ロビン、あっちもお願い出来るかい?」

「構わないわ。けど、やっぱりこの人数を同時にとなると……」

 

 ひとりひとりに能力で足を生やして移動させているが、ただ生やせばいいというものでもない。

 足並みを揃えられなければバランスを崩して倒れるし、そもそもそれほど速くもないのだ。どれだけ急かしたところでこれ以上速度は上がらないだろう。

 正門まで行けば味方がいるかもしれないが……周辺で軍艦相手に戦っていることを考えると、いない可能性の方が高い。

 そもそもこの島から逃げ出そうとしている兵士たちが殺到している可能性もあるのだ。辿り着いても多くの兵士と戦う羽目になるかもしれない。

 ……それでも、逃げ道がこちらにしかない以上はここから逃げるしかないのだが。

 

「出来れば正門に辿り着く前に偵察しておきたいところだけど……」

 

 〝黄昏〟の部隊の詳しい動きまではカテリーナに共有されていない。橋頭保の確保のために敵兵を蹴散らしてくれていることを祈るばかりだ。

 と、そう考えていた時。

 

「お前ら、無事だったか!」

「心配したぞ!」

「オイモ、カーシー!」

 

 正門付近にいた2人の巨人族がひょっこり顔を出した。

 既にこちら側に寝返っていた2人がいるということは、つまり正門前の制圧は終わっているということ。

 逃げ切れる。

 希望が見えて来たことにカテリーナは笑みを浮かべ、2人に助けを求めた。

 

「2人とも、悪いんだけど怪我人が多い! 乗せて行ってくれないかい!?」

「何!? そりゃ大変だ、任せろ!」

「オイも手伝うぞ!」

 

 聞けば、〝黄昏〟の援軍が来た時点で正門から裁判所前まで数人の巨人族が暴れ回って()()()をしていったらしい。

 法番隊も兵士たちも軒並み蹴散らし、逃げ道を確保するために奮闘していたのだと。

 現在はオイモとカーシーだけがルフィたちの戻りを待ち、他の巨人族たちは軍艦相手に大立ち回りをしているらしいが。

 

「懐かしい顔があれだけ見れるとは思わなかった」

「〝黄昏〟にいる巨人族とは知り合いなのか?」

「ああ。元〝巨兵海賊団〟の仲間たちだ」

 

 かつて、世界を股にかけて暴れ回った〝巨兵海賊団〟の一員が、まさかこんなところで門番として使われているとは思っていなかったのだろう。オイモとカーシーと顔を合わせた者たちは軒並み目を丸くしていた。

 だが、積もる話は後に回し、彼らは力の限りこの島を暴れ回っていた。

 ゾロはその話を聞き、「ルフィやウソップが好きそうな話だな……」とぼんやり思う。

 ともあれ、こうなった以上はあとは脱出の準備を整えるだけだ。

 オイモとカーシーの手で正門を抜けて海列車まで運ばれた怪我人は、すぐにカテリーナとチョッパーの手で治療を施され、絶対安静の状態にしておく。

 目が覚めたサンジやウソップは起き上がって島の方を見ており、ルフィたちが戻ってくるのを待っていた。

 

「海列車は使えそうか?」

「大丈夫だよ。壊れてはいない。石炭の積み込みは頼むよ」

「スーパー任せとけ!」

 

 治療を終えたカテリーナが海列車に搭載されている各種計器を確認し、その間にフランキーが石炭を炉に入れて蒸気を溜めている。

 本来今日の運転は〝エニエスロビー〟到着で終わりの予定だったので、既に火は落とされて蒸気も抜かれていたのだ。少しばかり動かすまで時間はかかるだろう。

 

「〝ロケットマン〟は使えねェのか?」

「流石に何度も横転させたから、どこか歪んでるかもしれないしね。普通の海列車を使えるなら、あっちを使わないに越したことはないよ」

 

 窓から横転している〝ロケットマン〟を見たフランキーはあちらを使った方が速度的に速いだろうと提案するが、カテリーナはそれを却下した。

 そもそも〝ロケットマン〟はブレーキの利かない失敗作だ。怪我をしたくないなら通常の海列車を使う方がいい。

 発車前の準備をあらかた終え、あとは蒸気が溜まるのを待つだけ、という状態になり……カテリーナは海列車の前でルフィが戻ってくるのを待つゾロたちのところへ移動した。

 

「……ルフィ、大丈夫かな」

「心配すんなチョッパー、あいつはやる男だ!」

「お前が一番心配そうじゃねェか」

 

 冷や汗をかいて不安そうな顔で精一杯チョッパーを鼓舞するウソップに思わずツッコミをいれるサンジ。

 助けられるのなら、すぐにでも助けに行きたいと誰もが思う。

 だが、ルフィとルッチの戦いに介入出来る程の余力など、この場の誰にも残っていないのだ。

 そもそも万全であったとしてもトビ以外にルッチの相手は務まらない。

 

「大丈夫。カイエもユイシーズも、河松もイゾウもいる。小紫が赤犬を抑えていてくれる限り、逃げ出すのに支障は無いよ」

 

 誰もが四皇幹部に引けを取らぬ実力者たちだ。CP0が相手でも負けはしない。

 そう、信じている。

 

 

        ☆

 

 

 建物が倒壊していく。

 六式を極限まで高めた者の最強の体技〝六王銃(ロクオウガン)〟を三度食らいながらも、倒れることなくギア2を維持し、ルッチが倒れるまでその拳を叩き込み続けたルフィ。

 最後の力を振り絞った攻撃はルッチを打ち倒して見せた。

 ──だが。

 その結果として、ルフィの体もまた、ピクリとも動かなくなっていた。

 

「ロブ・ルッチが負けるとは……驚きはしたが、〝麦わら〟も力尽きたようじゃのう」

「ルフィさん……!」

 

 今回の事件の〝主犯〟は、〝黄昏〟ではなくその援助の下行動した〝麦わら〟であると赤犬は認識していた。

 大々的に部隊を動かしてこそいるものの、その行動はルフィを助けるものが多かったことなどから、総合的に判断したのである。

 それ故に、ロビンを捕らえることを未だ諦めない赤犬は屋台骨であるルフィを殺そうと身を翻した。

 小紫を前にして、優先度はルフィが上だと考えたのだ。

 

「死ね、〝麦わら〟ァ!!」

「っ! いけない!!」

 

 如何に速度の勝る雷の能力者とはいえ、赤犬ほどの実力者が六式を使えば相応の速度で移動出来る。

 溶解するマグマの腕を弾くように斬撃を飛ばすことで僅かに得た猶予を使い、小紫はルフィを小脇に抱えて赤犬の攻撃から回避した。

 

「わりぃ、助かった!」

「いえ、大丈夫です。それより動けますか?」

「さっきから体動かそうとはしてんだよ。でもだめだ、全然動かねェ」

「かなり体を酷使していたようですからね。さっきの技、あんまり使わない方がいいですよ」

「使わなきゃ勝てなかった」

「……それはそうなんですが」

 

 あくまで善意で言ったことではあったが、無茶をせねば通せないこともあるのは小紫とて理解している。

 まぁここであれこれ言ったところで仕方がない。動けないのであれば小紫が抱えて移動するしかないし、赤犬への対処もなんとかして見せるしかない。

 即座に追撃にかかった赤犬の拳を右手に持った〝閻魔〟で受け止め、受け止めた反動を利用して距離を取る。

 ルフィを抱えたまま雷の能力を発動すれば感電してしまうと考えた小紫は、とにかく彼を別の誰かに預けて赤犬の相手に注力しなければと考え距離を取ろうとする。

 だが、それを容易く許してくれるほど、赤犬は甘い相手ではなかった。

 

「くっ……!」

「難儀しとるようじゃのォ、その荷物を降ろしたらどうじゃァ!!」

「そういう訳にもいかないでしょう!」

 

 赤犬の拳を二度、三度と弾き、ルフィを狙う攻撃を何とか逸らす。

 最小限の動きで一時的にでも距離を取りたいと、小紫は片手で〝閻魔〟を振り抜いた。

 

「〝神避(かむさり)〟!!」

「ぐぬ……!!」

 

 しかし、片手で振り抜いた〝神避〟では威力が足りなかったのか、赤犬は両腕でそれを弾いて距離を詰めて来る。

 ボコボコと沸き立つマグマを前に、小紫は咄嗟に雷を放出して相殺した。

 攻撃をしのいだと安堵すると同時に、小脇に抱えたルフィを心配してそちらに話しかける。

 

「ごめんなさい、大丈夫ですか!?」

「平気だ」

「なんで平気なんですか!?」

 

 赤犬のマグマを凌ぐために放った雷はそれなりの威力だった。抱えたまま放った以上感電していてしかるべきだが、ルフィは特に何か感じているようにも見えなかった。

 強がりでもなんでもなく、何の痛痒も感じていない。

 小紫は頭の中でクエスチョンマークが躍っていたが、ルフィが何の能力者なのか詳しく聞いていないことを思い出す。

 

「そういえば、あなた何の能力者なんですか?」

「ゴム人間だ」

「ゴム……ゴムだから雷が……? いやまさか、そんなはず……」

 

 否定したい気持ちが前に出ているが、今はそんな場合ではない。

 何はともあれ、ルフィに雷が効かないというのならそれはそれで好都合。小紫は一度納刀してルフィを背に抱え直し、胸の前でルフィの腕を解けないように結ぶ。

 正直人間の体でやることではないので見ていて気持ち悪いのだが、ゴム人間のルフィは雷も効かなければこんな腕を結ぶなどという行為をやっても特に痛みもない上、本人が力尽きていて小紫に摑まっている力も残っていないので仕方がない。

 この状態なら両腕も空くし、ひとまず落ちる心配は無いので何とか戦える。流動して回避するとルフィに当たるので防御を余儀なくされるが。

 

「おめーも結構無茶すんな……」

「仕方ないでしょう。あなたを抱えたまま戦うのも中々難しいんです」

 

 再び〝閻魔〟を抜刀する小紫。

 少しだけ意識を逃げたカテリーナたちの方へ向けてみれば、無事に海列車のところに辿り着いてこちらを待っているような会話をしているのが聞こえる。

 これなら少々派手に戦っても影響は少ない。後は逃げるだけだからだ。

 

「さて──もうひと踏ん張りと言ったところですか」

 

 小紫は覇王色の覇気を放出し、〝閻魔〟に纏わせて上段から叩きつけるように振り抜く。

 赤犬はそれを回避することなく受け止め、その衝撃で島全体が一際大きく揺れた。

 この島に残るカイエ、ユイシーズ、イゾウ、河松に対する、急いで逃走するための合図として。

 




CP0のマハとユイシーズの戦闘を書かなかったのはマハが無口キャラで何もわからなかったからです
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