ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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メリクリ特別更新です(内容は特にクリスマス回とかではない)


第二百四十一話:ガープ

 

 誰かが言葉を発するよりも早く、雷が(はし)る。

 〝閻魔〟を両手に構えて振るわれる斬撃は一切の躊躇なくガープの脳天に振り下ろされ、ガープはそれを焦ることなく両腕を交差させて防いだ。

 硬質な衝突音が響き、次いで両者の覇気がバリバリと大気を裂くようにまき散らされる。

 先程吹き飛ばされたお返しと言わんばかりに、一挙手一投足には一切の躊躇がない。

 ガープとしてもこれを無防備に受けてはいられない。反撃に出ようと拳を構え──。

 

『止まれ、小紫』

 

 未だ繋がったままの電伝虫から、カナタの制止がかかる。

 小紫は視線をガープに固定したまま、言葉だけを投げかけた。

 

「しかし、()()()!!」

『止まれ、と私は言った。二度言わせるな』

「──くっ」

 

 警戒を解かぬまま、小紫は僅かに後退した。

 肌を刺すような敵対心にはガープも顔をしかめるが、それよりも彼にとって聞き逃せない言葉が出た。

 

「お母様ァ!? なんじゃいお前、子供がおったのか!?」

『いないと言った覚えもないが……まぁ血は繋がっていない。引き取って育てた子だ』

「ああ……驚かすな。心臓に悪いわ」

『私の血の繋がった子供がいては、お前たちにとっては都合が悪いだろうしな。今からでも義父と呼んでやってもいいぞ?』

「お断りじゃい!!」

 

 心底嫌そうな顔で言うガープに、カナタはからからと笑う。

 海兵と海賊という、絶対的に敵対している2人の会話としては随分と気安い。この中で一番長い付き合いのカイエも、ガープとの気安さに少々目を白黒させていた。

 先程派手なゲンコツでタンコブが出来たルフィはと言えば、そもそもガープがここにいることに驚いているので話など聞いてもいない。

 

「それより、なんでここにいるんだよじいちゃん!!」

「そりゃあお前、ルフィが〝エニエスロビー〟に攻め込んだ後ここに逃げ込んだと掴んだからじゃ」

「捕まえに来たのか!?」

「いや、お前に用事があるのはもっと別の……というか、じいちゃんに向かってその言葉遣いはなんじゃ!!」

「ギャーッ!!」

 

 ゴツーン!! と拳骨を落とされ、ルフィの戦意はあっさりくじかれる。

 首根っこを掴まれたルフィは弱弱しく抵抗するも、ガープは一切気にせず掴み上げた。

 

「そもそもルフィ、お前わしに謝らにゃならんことがあるんじゃないか? 海賊にするために育ててやったわけじゃないぞ!!」

「おれは海賊になりてェって言ってたじゃねェか!!」

「わしがお前を千尋の谷に突き落としたのも、風船にくくりつけてどこかの空に飛ばしたのも、夜の密林(ジャングル)に放り込んだのも、全てはお前を強い海兵にするためじゃ!! それを〝赤髪〟なんぞに毒されおって……!!」

『お前、子育ての才能がないから関わらん方が良いぞ』

「やかましい!! お前にどうこう言われる筋合いはないわい!!!」

 

 ガープの反論にカナタは肩をすくめるのが電伝虫越しにわかった。

 それよりも気になることがあったのか、カナタは近くにいた小紫へと言葉を掛ける。

 

『小紫。お前、ガープにどれだけ手傷を負わせた?』

「手傷ですか? 斬撃が三度、それに落雷による火傷が少し……と言ったところですね。ピンピンしてるのでどうにも効いてない気がしてなりませんが……」

『切り傷三つに火傷?』

 

 小紫の言葉に、カナタの眉根が寄るのがわかった。

 未だルフィに鉄拳制裁を食らわせているガープだが、小紫に受けた傷から血が滴っているのは確かである。

 カイエも小紫の言葉に嘘が無いことを証言し、余計にカナタの眉間の皺が深くなった。

 端的に言って、カナタの知るガープならこんな小競り合いで傷を負うはずが無いのだ。

 

『老いたか、ガープ』

「フン。人間誰しも年は取るもんじゃ」

『昔のお前ならこの短時間で傷など負わなかっただろうにな』

「ムチャ言うな。わしとて雷の能力者相手に無傷とはいかんわい」

 

 嫌な思い出でもあるのか、苦々しい顔で鼻を鳴らすガープ。

 カナタも理解出来るのか、それ以上追求しようとはしなかった。

 この段階になってようやくガープの部下たちが追い付いて来たのか、建物の周囲が慌ただしくなっていることに気付く。

 ガレーラカンパニーの職人たちはそれぞれのドックで忙しく仕事をしているが、警備をしている門番たちは海兵に抑えられているらしく、武装した海兵たちがぞろぞろと近付いて来ていた。

 

「おお、そうじゃ。ルフィ、お前に会わせたい者たちがおる」

「会わせたい奴?」

「おう……ん? 何の騒ぎじゃい」

「〝海賊狩り〟ですね。我々がここにいることに気付いて、捕まえに来たと思ったようです」

「ぶわっはっはっは! 威勢がいいのう!! よし、お前ら──止めてみせい」

「「はっ!」」

 

 ゾロの方にはククリ刀を持った男が、ルフィには六式を使う男が。それぞれ戦いを挑むが──怪我がまだ残っているとはいえ、この程度の実力で負ける2人ではない。

 あっという間に叩き伏せると、海兵の2人はそれぞれ名乗った。

 コビー、ヘルメッポ。

 かつて、ルフィとゾロが初めて出会った島で知り合った友人である。ヘルメッポは友人とは言い難いが何食わぬ顔でそこにいた。

 驚きに目を見開くルフィとゾロ。久々の再会にコビーと話が弾むが、やはりヘルメッポの事はほとんど覚えていないらしく、「七光りのバカ息子」と自称してようやく思い出していた。

 

「手も足も出んかったか! まだまだじゃのう、コビー、ヘルメッポ!」

「はい! もっと精進あるのみです!」

「フン! 今度こそ叩きのめせるようになりますよ!」

「やる気があって良いことじゃ。ルフィも海兵になっていれば、こいつらと一緒に鍛えてやれたんじゃがのう」

「まだ言ってんのかじいちゃん。おれは海賊王になるんだよ!!」

「〝赤髪〟に毒されおって……!!」

「シャンクスを悪く言うな!!」

「『言うな』ァ!? 貴様じいちゃんに向かってまたそんな言葉づかいを……!!」

「そのくだりもういいよ!!」

 

 ウソップとフランキーが思わずと言った様子で突っ込む。

 少しばかり落ち着いたのか、ガープは振り上げた拳を下ろして腕組みをしたまま鼻を鳴らした。

 

「全く。大体お前、〝赤髪〟って男がどれほどの男かわかっとるのか!?」

「どれほどって言われても……知らねェ」

「あの男はな、今や星の数ほどおる海賊の中でも一握り……〝偉大なる航路(グランドライン)〟後半の海に、まるで皇帝のように君臨する。世に〝四皇〟と呼ばれる海賊の一角じゃ」

 

 並の海賊とは格が違う。

 数多の傘下を持ち、〝海軍本部〟、〝王下七武海〟に並ぶ三大勢力の一角でもあるのだ。

 実態は四皇一人の勢力が他二つの三大勢力と拮抗しているため、二つが手を組めばおよそ手が付けられない。

 四皇の一角を占める〝ビッグマム海賊団〟と〝百獣海賊団〟が手を組む中でもパワーバランスが保っていられたのは、ひとえに一人の七武海による影響である。

 

「で、そこの女が〝四皇〟に並ぶ〝七武海〟のひとりじゃ。業腹ではあるがのう」

『ああ、よろしくな。私はそこの老いぼれの倍は強いぞ』

「一言多いんじゃこのアホ! 第一、まだお前にゃ負けんわい!!」

『小紫にそれだけボロボロにされておいて良く吼える。もう少し鍛えなおしたらどうだ?』

 

 ガープを煽るカナタに海兵たちは息を呑む。

 間違いなく、今のガープは海軍の中でも一、二を争う実力者だ。〝英雄〟の名は伊達では無いし、その強さも実績も他の追随を許さないほどにかけ離れている。

 海軍大将であっても、本気の戦いならガープを相手取っての勝率は決して高くない。

 それを相手に「倍は強い」など、普通は言えるものではないのだ。

 

「カナタさん、随分ガープと仲良いんだね?」

『もう30年以上の付き合いだ。気安くもなる』

「お前が七武海に入ってなければ、気軽に話す間柄にもならんかったんじゃがのう」

『殺し合ううちにロジャーとさえ仲良くなっていたお前が良く言う』

「ありゃあいつが悪い」

『フフ……ドラゴンの件もあったからな。話す機会は多かった方だろう』

「あァ……そういえばルフィ、お前親父に会ったそうじゃな?」

 

 カナタとの会話の途中で思い出したのか、ガープの視線が電伝虫からルフィの方へ向く。

 今の話のどこから思い出したんだ、と周囲の者たちは思ったが、それを気にするガープではない。

 

「父ちゃん? おれに父ちゃんなんかいるのか?」

「なんじゃ、名乗り出やせんかったのか……〝ローグタウン〟で見送ったと言うとったぞ」

 

 かつて〝偉大なる航路(グランドライン)〟に入る直前に訪れた島の名前だ。

 バギーや海軍が入り乱れる出来事のあった島だが、ルフィ自身には特にそれらしき誰かと会ったような覚えはない。

 ガープは相手の都合を考えぬまま、その名を口にした。

 

「お前の父の名はモンキー・D・ドラゴン。革命家じゃ」

 

 その名に、誰もが度肝を抜かれた。

 それを知る者は、この場にはガープとカナタの2人しかいなかったが故に。

 

 

        ☆

 

 

『お前、それ言っても良かったのか?』

「やっぱマズかったかのう? ぶっはっはっは! じゃ、今のナシ」

「ええ~~~~!!!?」

 

 ひとしきり騒ぎになった後、ガープがまたそんなことを言うものだから騒ぎが再燃していた。

 カナタは呆れた様子を見せており、ひとり冷静なことにカテリーナが疑問を抱く。

 

「知ってたの?」

『先も言ったが、私はルフィの父親も祖父も知っている』

「どんな経緯で知り合ったのか、すごく気になるな~~!」

『いずれ聞かせてやるさ。だが、ドラゴンのこと自体はカイエも知っているだろう』

「そうなの?」

「ええ。私がカナタさんのところに身を寄せた時には、既にドラゴンさんもいましたからね」

 

 その昔──〝黄昏の海賊団〟がまだ〝魔女の一味〟と呼ばれていた頃のことだ。

 ドラゴンはとある事情から一時的にカナタと肩を並べて海賊をやっており、また一身上の理由で船を降りた。その後は直接会う機会こそ少ないものの、カナタは時折連絡を取っていた。

 まさか海兵であるガープと革命家のドラゴンが通じているとはカナタも思っていなかったが。ドラゴンは必要なこと以外はあまり情報を漏らさないのだ。

 

「ド、ドラゴンが元海賊!? 本当ですかガープ中将!?」

「おう。少しの間カナタと一緒に海賊やっておったわ」

 

 ドラゴンは元海兵で海軍に属していたこともあったハズだが、元海兵が今や革命家になっているなど醜聞も良いところなので情報統制がおこなわれているのだろう。海賊だったことが知られていないのは単に過去の情報に埋もれているだけだろう。更新前の手配書は破棄されるのが基本である。

 年代的にはサカズキと同じくらいなので、その辺りの海兵なら知っている可能性はあるが……海兵というのはそれなりに死亡率が高い。

 ガープの歳まで生きて海兵をやっている者などそうはいない。

 強くなければ、生き残ることさえ出来ないのがこの海だ。

 

「今も繋がっているかどうかは知らんがのう」

『さて、どうだかな』

「女狐め……まァいいわい。じゃあわしは帰る。お前らここ直しておけ」

「え~~っ!? じゃあなんで壊したんですか!?」

「戦いの余波じゃ。仕方あるまい」

「心配しなくても、これくらい私たちが直しておくよ」

「お、そうか? 悪いのう嬢ちゃん」

「私、もう嬢ちゃんって歳じゃないけどね……」

 

 主に吹き飛ばされた小紫と吹き飛ばしたガープのせいで建物には派手に大穴が開いていたが、カテリーナからすれば少し時間があれば直せる範囲だった。

 それよりも、あまり長くここに海軍を留まらせたくないというのが本音である。

 なるべくなら早めに帰って欲しい気持ちもあったため、修理はこちらで請け負うと言って帰らせることにした。

 もっとも、コビーとヘルメッポはまだルフィと話し足りない様子だったので、建物の外で話すことにしたようだが。

 

『相変わらず騒がしいやつだったな』

「本当にね……昔からあんな感じなの?」

『昔はもっとやんちゃな男だった。ロジャーと戦って捕まえるのが目標で、そのためなら軍艦の一隻二隻くらいなら乗り潰してもいいと考えるくらいにはな』

「軍艦って乗り捨てるものじゃなくない……?」

 

 昔のガープの尖りっぷりに思わず呆れた息を吐くカテリーナ。

 カナタも長々と話し込んでしまったが、次の仕事が控えていると言ってさっさと通話を切っていた。

 話すだけだったのに随分気疲れしたフランキーとカテリーナだったが、時間は待ってはくれない。

 今回図面を引くのはフランキーだ。どうしても、彼らに夢を託したいと言って聞かないのでカテリーナは任せることにしたらしい。

 もっとも、カテリーナだって怪我人の経過観察やら他の作業があって忙しい。自他ともに認める天才は仕事量も多いのだ。

 

 

        ☆

 

 

 ──〝新世界〟、とある海域。

 命が惜しいのならば近づくことなかれ。

 頭を垂れて恭順するならば迎えよう。

 世界を揺るがすほどの勢力の一角──四皇〝白ひげ〟エドワード・ニューゲート率いる〝白ひげ海賊団〟の船であるモビー・ディック号の甲板に、ひとりの男が乗り込んだ。

 掲げる旗は〝黄昏〟のそれであり、本来ならば敵対関係にある〝白ひげ〟の船になど乗れるハズがないのだが……今回ばかりは事情があった。

 

「ゼハハハハ!! 初めましてだな、〝白ひげ〟!! おれァティーチ──マーシャル・D・ティーチってんだ!! 以後よろしくな!!!」

 

 敵対する船に乗り込んだにも関わらず、ティーチは豪快に笑って緊張した様子を見せない。

 剣呑な様子を見せる隊長たちでさえ、その肝の据わりように感嘆するほどである。

 

「また生意気な野郎が来たじゃねェか……何の用だ、ハナタレ小僧」

 

 ニューゲートは酒の入った徳利を片手に、ティーチを座ったまま睨みつける。

 ティーチの身長は3メートルを超える大柄だが、ニューゲートは5メートルを優に超える体格だ。座っていてもなおニューゲートを見上げねばならない。

 なにより、目の前にいるだけで威圧感が段違いだ。

 海の皇帝の一角を冠する実力は決して伊達ではない。

 

「そう急くなよ、〝白ひげ〟」

「おい、通してくれ……ティーチ! お前、なんでここに!?」

「おうエース! 久しぶりだな、ゼハハハハ!!!」

 

 少し遅れて現れたエースは、乗り込んで来たティーチを見つけて目を丸くする。

 かつてとある事情から知り合った2人だが、互いに名前を覚えるくらいには印象に残っていたらしい。

 エースもティーチも、相手の印象が薄ければとっくに頭の中から消えていたはずだが、幸か不幸かそれはなかった。

 

「お前、一体何の用事で……」

「分かりきったこと聞くんじゃねェよ、エース。姉貴からの手紙は〝白ひげ〟に渡したんだろ? その返答を聞きに来ただけさ」

「手紙……」

「テメェこそ、分かり切ったこと聞くじゃねェかハナタレ小僧。あんな手紙一枚でおれに引退しろたァ、あの小娘も随分偉くなったじゃねェか。何様のつもりだ?」

「ゼハハハハ! 姉貴はアンタらのことを考えた上での提案だと言ってたがな!」

 

 勝てるかどうか、ではない。

 存続できるかどうかの話である。

 どうあれ、このままいけば〝白ひげ海賊団〟は立ち行かなくなる。食料も医薬品も、もう自分のナワバリではロクに手に入らなくなりつつあるからだ。

 カナタは手を出す必要もなく、〝白ひげ海賊団〟は規律を保ったまま自滅するか、規律を曲げてみすぼらしく長らえるかの二択しかなかった。

 そこに三択目が出されたのは、紛れもなくエースの存在があるが故である。

 

「分かってんだろ? このままじゃアンタらは勝手に自滅する。姉貴の望みはあくまで〝白ひげ〟の首ひとつ……と言っても、別に殺したいワケじゃねェ。引退して()()()()()()()()()()()()()()()って言ってんだ」

 

 ニューゲートは、ティーチの言い分に目を細めた。

 同時に、ティーチの肌を刺すような殺意と敵意が周囲から一斉に放たれる。隊長たちが一斉にティーチを敵と定めたのだ。

 ともすればそれだけで気を失ってもおかしくないような圧力のなかで、ティーチは大口を開けて笑って見せる。

 

「ゼハハハハ!! だがまァ、アンタらがそういう態度に出ることも姉貴は予想してた。だから、もう一つの提案だ──姉貴と一対一(サシ)で決闘しろ、だとよ」

 

 ピクリとニューゲートの眉が動いた。

 何もせずとも〝白ひげ海賊団〟のナワバリは自滅し、後はそれを接収するだけでカナタは労せず一つの勢力を潰せる。だが、それをせずにあえて決闘で決着をつけると言う。

 それは、つまり。

 ニューゲートの首を欲していると取られても仕方のないことだ。

 

「おれとあの小娘が決闘で何を決めるって? 挑んでくるなら受けて立つが、挑戦者の態度じゃねェな」

「話は最後まで聞けよ、〝白ひげ〟──姉貴はこう言った。〝互いの持つ全てを賭けての決闘だ〟ってよ」

 

 即ち、〝白ひげ海賊団〟の持つ全てと〝黄昏の海賊団〟の全てを賭けた決闘である。

 勝者は総取り。敗者に残るものは手向けの言葉のみ。

 

勝者が総取り(オールオアナッシング)の決闘なら、アンタらにだって勝った時の利点はある。まさかここまで譲歩されて、決闘を受けねェってことはねェよなァ?」

「グララララ……ナメてんのかハナタレ小僧。全てってことは何か、おれに息子たちの命まで賭けろって言ってんのか?」

「当たり前だろ。姉貴が勝てばアンタの仲間は全員〝黄昏の海賊団〟で、アンタが勝てばおれらは全員〝白ひげ海賊団〟だ。ああ、仕事に関しちゃ心配はいらねェ。アンタはハンコさえ押してくれりゃあこっちでそれ以外は全部処理出来るようにしてあるからよ」

 

 困窮して明日食べるものさえ困っている〝白ひげ海賊団〟と、莫大な資産と海運業を営む〝黄昏の海賊団〟では、言っては何だが価値が違う。

 勝った時の利点は明らかにニューゲートの方が大きく、それだけにカナタの己が強さへの自信が窺えた。

 負ける気はない。

 だが、それにしたって言うことを聞くとも限らない〝白ひげ海賊団〟の面々を引き取ろうという意図は掴みかねた。

 自分から傘下に加わるわけではないのだ。海賊である以上仁義に従って勝者の言う事には従うかもしれないが、反発をする者は必ず出る。

 そこまでする理由は──と、そこまで考えて、ニューゲートはエースに視線を移した。

 

「……目的はエースか?」

「さてな。だが少なくとも、エースが懇願しなきゃアンタら全員餓死一直線だったと思うぜ」

 

 エースとカナタの間にどんな関係があって、どんな約束があるのかはニューゲートも知らない。

 決闘という事態を招いたのもエースのせいではあるが、エースがいなければこのチャンスすらなく海賊団は空中分解していた可能性を考えるとあながち悪いものでもない。

 それに──仮に〝黄昏の海賊団〟と全面戦争になった場合、多くの息子と娘が死ぬことになるだろう。

 海運を営む関係上、船員の数は相当なものになる。大半が非戦闘員であったとしても、なお〝白ひげ海賊団〟の総数を超えるほどに。

 食うものに困って最終的に襲撃を画策しても、万全な補給が出来る〝黄昏〟が相手では最初から勝ち目がない。

 

「……いいだろう。決闘を受けてやる」

「オヤジ!?」

 

 決闘はニューゲートに全ての負担が行く。

 マルコを始めとする隊長たちは、それに納得出来ないと食い下がるが……ニューゲートの叱責ひとつで黙らせられた。

 エースはこんなつもりじゃなかったと自分を責めるが、それもまたニューゲートは許した。

 

「バカやるんじゃねェぞ、エース。テメェはおれを信じてりゃいいんだ」

「オヤジ……だけど」

「けどもカカシもねェ。あの小娘に、誰に喧嘩売ったのか分からせてやらにゃァならんだろうがよ」

 

 敵は〝白ひげ〟だ。

 かつて〝海賊王〟ロジャーとしのぎを削り、戦ってきた伝説の海賊。

 たとえ老いてもその強さは隔絶しており、生半可な強さで挑んだところで返り討ちは必至。

 その強さに偽りはなく、その自信には──いまだ陰りなし。

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