ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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第二百四十二話:別れる仲間、新しい仲間

 

 ──ガープが襲来してから2日。

 来た当初はどうなることかと肝を冷やした突然の襲来も、蓋を開けて見れば孫に会いに来た祖父の奇行だと受け入れられた。

 友人のコビー、ヘルメッポとの話も弾み、軍内部の情報をナミが盗聴したりしたことはご愛敬だろう。

 2人とさわやかに別れたその後、ウォーターセブンのプールで街の住民を巻き込んだ大規模な宴を開いて大騒ぎし、盛大に船の資金をつぎ込んだルフィはナミにボコボコにされていた。

 改めて新しい船をフランキーが造っていることを知らされ、各々船が出来るまでの間は好きなように余暇を過ごすことになった。

 ペドロとゼポの件についてもルフィに伝えられたが、2人の怪我が治るまでいることが危険なことと、怪我が治り次第すぐにでも追いつかせるという二点を確認したうえで渋々了承した。

 事情がどうあれ、仲間を置いていくことに抵抗があるルフィだったが……それで他の仲間まで危険に晒すのは船長として正しい選択ではないと判断したらしい。

 そして、現在。

 目覚めたペドロとゼポの下にルフィとチョッパー、ウソップとロビンが訪れていた。

 

「心配かけたようだな。すまん」

「水くせェこと言うなよペドロ! 謝るならおれの方だぞ! あの時油断しなきゃ……」

「それを言うなら、私が原因ってことになるけれど……」

「そういうのはいいんだよ! 見舞いならフルーツのひとつでも持ってきてくれたんだろ?」

「すまん、来る途中で食べちまった」

「見舞いの品を食ったのか!?」

「冗談だ」

 

 ロビンが持ってきた林檎を器用に剥いている間、チョッパーが改めて2人の診察を行う。

 カテリーナによる治療はチョッパーから何か言うことなど何もないほど完璧に行われているらしく、経過も良好だと笑顔を見せた。

 ただ、2人とも酷いダメージを受けているので起き上がることさえ難しい有様である。

 特にペドロは脇腹を抉られている。治るにはまだしばらくかかるだろうとチョッパーは言う。

 

「そうか……まァ医者の言う事には従うさ。生きてるだけ幸運ってなモンだ。なァ相棒」

「まったくだ。おれはあの時死ぬ覚悟さえしていた」

「お前、軽々しく死ぬとか言うなよ! おれは仲間全員で帰るつもりだったんだぞ!!」

「……そうだな。悪かった、ルフィ」

 

 一拍置いて謝罪の言葉を口にするペドロに、ルフィは「許す」と言って腕組みをする。

 何はともあれ、しばしの別れだ。

 話せることは話しておくべきだと、6人は面会時間ギリギリまで長く話をすることにした。

 特にガープがルフィの祖父でいきなり襲来してきた話をすると、ペドロとゼポは唖然とした表情でルフィの顔を凝視していた。

 ガープは海賊にとっての死神のような存在だ。多くの海賊が彼に敗れ、〝インペルダウン〟に叩き込まれている。恨みも相当に買っているハズで、それ故に家族の存在は弱点足り得るのでむやみに言うべきではないと真剣な表情でペドロが言う。

 

「ドラゴンが父ちゃんって言うのもそうだけど、お前の家族色んなところで恨み買ってんじゃねェのか」

「まァおれには関係ねェことだ」

「いや関係ねェってことはねェだろ。他で言うなよ。絶対だぞ? 余計なトラブルが出るからな?」

 

 ウソップに釘を刺されるも、ルフィは聞いているのかいないのか、軽く笑うばかりであった。

 もっとも、その情報を聞いたペドロたちはまたも卒倒しそうな表情であったが。

 

「そういや、小紫が〝黄昏の魔女〟を母ちゃんって言ってたけど、どういうことなんだ? 血は繋がってねェって言ってたけど」

「姫様の両親は20年近く前に亡くなっている。カナタさんが引き取って面倒を見ているんだ。姫様の父……おでん様とカナタさんは大層仲が悪くてな」

「仲が悪いのに引き取ったのか……」

「仲が悪くてもお互い認めていたという事だろう……多分な」

「まァそれはさておき。姫様は国にいられなくなって、数人の家臣と共に国を出てカナタさんの下に身を寄せた。国を取り戻すために修行したり、あれこれ勉強したりしているうちに、姫様はカナタさんを母と呼ぶことを許された……と聞いた」

 

 ペドロたちは実際にその現場に居合わせたわけではない。時折ふらっと現れてはペドロたちの国──〝モコモ公国〟の王と話しているので、たまに聞こえてくるのだ。

 ふーん、とあまり興味の無さそうなルフィとウソップ、チョッパー。ロビンはその辺りの事情を知っているので特に何か言うこともなく、自然と話はフランキーが造ってくれる船の話になっていた。

 

「やっぱり銅像付けよう! でっかい奴」

「いやそんなモン載せてどうすんだよ! ここはやっぱり大砲をいっぱいつけてだな……」

「でもウソップ以外大砲使わねェじゃん。乗り込んでブッ飛ばした方が早いぞ」

「海戦なら普通大砲使うだろ!? さっさと乗り込んで戦ってるおめーがおかしいんだよ!!」

「おれはやっぱり医務室をもっと良いものにして欲しいなー」

「うふふ、それはちゃんと要望を出してるわ。怪我したら船医さんが治療するんだもの。医務室は大事よね」

 

 最終的にカテリーナに追い出されるまで居座り、ロクに動けないのに笑ったり驚いたりと忙しかったペドロとゼポは面会を数日お断りになった。

 

 

        ☆

 

 

 ガープ襲来から3日目。

 ココロからこの先の島──指針(ログ)が差し示す島が〝魚人島〟であると聞き、その直前に存在する〝魔の三角地帯(フロリアン・トライアングル)〟について注意を受けていた。

 船造りを始めたのも同日だったが、その日の午前中には既に船が出来上がっていた。

 呼びに来たキウイとモズに続き、ザンバイ達フランキー一家の面々がルフィたちの借りている宿の前に集まっている。

 今日の新聞を見て、慌ててやって来たらしい。

 

「きょ、今日の新聞は見たか!? まだならすぐにこれを見てくれ! あんたら、とんでもない額が付いてるぞ!!」

 

 〝麦わら〟のルフィ、3億ベリー。

 〝海賊狩り〟のゾロ、1億2000万ベリー。

 〝黒足〟のサンジ、7700万ベリー。(写真入手失敗のため人相書き)

 3人を筆頭に全員が賞金を懸けられており、少なからず衝撃を受けていた。特に手書きの手配書だったサンジと頑張ったのに50ベリーのチョッパーの落ち込みようといったら酷いものである。

 各々言いたいことはあるのだが、ザンバイは「本題はこっちなんだ」ともう一枚の手配書を見せた。

 〝鉄人(サイボーグ)〟フランキー、4400万ベリー。

 

「フランキーも賞金首になってたのか!」

「アニキだけじゃねェ。額はすくねェが、アイスバーグさんもトムさんも賞金が懸けられてる。暴れた訳じゃねェにしても、〝エニエスロビー〟で相当政府を怒らせるようなことをしたんだろ?」

「あの2人も賞金がついたの!? 大丈夫なのかしら……」

「少なくとも、この島にいる間は平気なハズだ。こうなった以上、もう対外的に〝黄昏〟のナワバリにしてもらう他ねェだろうからな」

 

 だが、当の〝黄昏〟については新聞には一切載っていない。

 どういうことなのか誰もが訝しむが、ロビンは政府とカナタの間で何かしら政治的な働きがあったのだろうと推測していた。

 船長ではなく幹部でさえ海軍大将を跳ね返すほどの戦力があるとわかった今、対外的に手を切ると発表するには時期尚早であると判断したのかもしれない。

 実際のところがどうであれ、世界の流れは確実に動いている。

 

「それで、なんだが……頼みがある。フランキーのアニキを一緒に連れて行ってやってくれねェか?」

「フランキーを?」

「お前らの棟梁だろ。連れて行っていいのか?」

「そりゃもちろん、おれ達はアニキに言われるままに仕事してきただけだ。アニキがいなけりゃそこらでゴロツキやってるだけの連中の集まりだがよ……あの人は元々海賊の子供なんだ。その昔、親に捨てられたって聞いたことがある」

「でも、ウォーターセブンが〝黄昏〟のナワバリになる以上、ここにいたほうがフランキーにとっては安全じゃない?」

 

 ロビンの言葉は至極もっともであったが、ザンバイは首を横に振った。

 何も自分たちが足を引っ張ってフランキーが捕まることを危惧しているわけではない。いや、もちろんその心配もしてはいるのだが……それよりも、酒の席でぽろっと零した本音を覚えていた。

 

「あの人の夢は、自分で作った船に乗って世界を一周することなんだ。だからよ……無理矢理でもいいんだ。連れて行ってやってくれ!! このままここに居たって、あの人の夢は叶わねェんだ!!」

 

 

        ☆

 

 

 そして。

 荷物をまとめたルフィたちはペドロとゼポへ再会の約束を交わし、船が造られた場所へと赴く。

 お披露目のために布を被せられた船の近くでは〝ガレーラカンパニー〟の職長たちがいびきをかいて寝ており、それに交じってカテリーナとフランキーの姿もあった。

 アイスバーグは包帯でグルグル巻きにされているが、軽く動く分には支障はないらしく、船造りを手伝っていたらしい。トムは腰をやってしまったので自宅で安静にさせている。

 

「アウ! 来たなオメェら!」

「新聞を見たよ。少数ながら全員が賞金首になるとは、いよいよ大物だね!」

「照れる」

「照れるな照れるな。アンタね、こんだけ賞金が高くなると狙われることも増えるって分かってるの?」

「ンマー、まさかおれやトムさんまで賞金がかかるとは思わなかったがな」

「問題はそこだよねえ。今はいいけど、今後はこの島の防備も増やさなきゃ」

 

 好き勝手話し始めたとこで、フランキーは全員を一度制する。

 船のお披露目だ。盛大に行きたいらしく、わざとらしい咳をして「こっち見ろ」と声を張り上げる。

 〝ガレーラカンパニー〟の職長たち──パウリー、ルル、タイルストンの3人も騒がしさに目を覚まし、フランキーの方を見た。

 

「オメェらには感謝してる。この〝宝樹アダム〟の材木を使った船を造らせてくれたこともそうだが、トムさんとアイスバーグを助けてくれたことも、設計図を奴らに渡さずに済んだこともな」

 

 フランキーはルフィたちの事を気に入っている。

 だからこそ、この船に乗り、千の海を越えて行けと発破をかけた。

 

「お前はいつか〝海賊王〟に──お前らは〝海賊王〟の一団になるんなら!! この〝百獣の王〟の船に乗っていけ!!! それがおれに出来る、最大限の応援だ!!!」

 

 バサリとはぎとられた布の奥には、メリー号と比べて随分大きな船があった。

 〝スループ〟と呼ばれる船である。

 メインマストに張る帆を基本として、縦帆で風を受けることで操縦者の思いのままに船を動かすことが出来る。

 生かすも殺すも航海士の腕次第と言われ、ナミは顔に笑みを浮かべて「腕が鳴るわね」と気合を入れなおしていた。

 その他、鍵付き冷蔵庫や生け簀なども付けられており、船員たちの要望にも応えている。フランキーの造った船の中で、これ以上のものはないと自負できる船であった。

 

「こんなスゲー船、本当にいいのか!?」

「当たり前よ!! 最高の素材を提供され、金まで貰ったんだ! これで最高の船が出来なきゃおれは船大工なんぞ名乗れねェ!!」

「そうか、ありがとう!!」

 

 早速船に乗り込んで色々と見て回っていると、カテリーナとアイスバーグがルフィを呼び出した。

 早々に乗り込んでいたが、引き渡しのサインは重要だ。契約は何よりも重視されるため、これをしなければルフィのものとは言えない。

 ルフィがさっさと契約書にサインすると、今度はフランキーの背中をバシッと二人が叩く。

 過去に海王類に挑んだ際、派手に負けて廃船で自分を改造し、その後カテリーナの手を借りて改造しなおした改造人間であるフランキー。背中も当然鉄で改造してあるので、叩いた方の手が痛くなるほど頑丈である。

 が、それはそれとして2人の言いたいことはわかったのだろう。

 フランキーは覚悟を決めたようにルフィの前に出た。

 

「フランキー、船ありがとう! 最高の船だ! おれはこれに乗って〝海賊王〟になる!!」

「おう! このおれ様が造ったんだ!! それくらいなってもらわにゃあ困るぜ!!」

「でも、おれ達の船には船大工がいねェんだ! ウソップがこれまでは修理を担当してたけど、ヘタクソでよ!」

「オイ」

 

 流れ弾で罵倒されたウソップが思わず後ろからツッコミを入れる。

 だがそれも2人の中ではある種当然の思いであった。きちんとした腕の船大工がいたのなら、メリー号は今も走れていたのかもしれないと──そう思わずにはいられないのだから。

 だからこそ、ルフィは言う。

 

「おれの船には船大工が必要だ!! だから、おれの仲間になれよ、フランキー!!!」

 

 断られることなど一ミリも考えていない、堂々とした勧誘である。

 フランキーはサングラスの下で瞳を揺らし、その堂々とした勧誘に応と答えそうになる。

 だが、己には仲間たちの生活がかかっている。モズやキウイやザンバイたちが日々の糧を得るには、フランキーの力が必要なのだ。

 この島は内々に〝黄昏〟のナワバリになることが決まっている。安全面でも問題はない。

 彼らに己の夢を託すだけで、十分だ──そう考え、口を開こうとして。

 カテリーナとアイスバーグに、再び背中を叩かれた。

 

「君の弟分たちのことなら、この万能の天才に任せたまえよ。仕事も与えるし技術も教える。心配する必要はないよ」

「お前の夢は〝造った船に乗り込んで、いくつもの海を越え、海の果てに至る日を見届ける〟──だろう? こっちのことは心配するな。おれとトムさんとカテリーナで何とかする」

「お前ら……」

 

 憂いは無くなった。

 ここから先は夢と希望を抱いて行けばいい。

 遅れて到着したモズとキウイ、ザンバイたちフランキー一家全員がフランキーの船出を後押しする。

 フランキーは鼻をすすって上を向く。下を向いては、目から汗が零れてしまいそうだった。

 

「麦わら!」

「おう」

「お前の船はおれが造った最高の船だ! だが、まともな船大工がいねェってのは船があんまりにも可哀想だ!! だから──おれが、船大工として乗ってやる!! 文句ねェな!!?」

「おう!!」

 

 フランキーは、ルフィの手を取った。

 

 

        ☆

 

 

 その後、出航は速やかに行われた。

 集まったカイエや小紫、ユイシーズに別れの挨拶をし、いずれどこかで会うことがあればと握手をした。

 肩を並べて戦った友人だ。随分と仲良くなっただけに別れが惜しいが、こればかりは仕方がない。

 そうやって挨拶を交わしていた最中、サンジはカテリーナにあるものを渡していた。

 

「……これは?」

「分からねェ。お袋が『何かあった時のために』って渡してきたが……正直なトコ、得体のしれねェ物を使う気にはなれなくてよ」

「なるほど。それで私に調べて欲しいと?」

「ああ。変な頼み事でワリィとは思うが……頼めそうなのはアンタくらいしかいなくてな」

「構わないとも。〝ジェルマ〟の技術には正直興味があってね! 何かわかったら……まぁ何もわからなくても、ペドロたちが君たちに合流する頃には何かしらの報告を持たせるようにするよ」

「助かる」

 

 カテリーナ相手ではいつものように口説くことなく、母親の思いを無下にしているような気分になりつつも、父親を一切信用出来ないという気持ちから〝腕輪〟を渡した。

 ソラが渡してきたのだから危ないものではない、と思いつつも、ジャッジのして来たことを思えば慎重にならざるを得ないのもまたサンジにとっては当然のことだった。

 カテリーナはそれを興味深そうに眺めたあと懐にしまい込む。

 後ほど、この島に滞在しているエネルと共に調べてみるつもりであった。

 船を海に着水させ、帆を張って島から離れていく。

 

「出航~~~~!!!」

 

 ルフィの掛け声に従い、船は段々と沖へ進んでいく。

 見送る人々に手を振り、感謝の言葉を述べて次の島へ。

 ──そこへ、ガープの乗る軍艦が近付いて来ていた。

 センゴクに報告した際、わざわざ「孫だから」と余計なことを言って怒らせ、戻ってルフィを捕まえることになったガープは大層不機嫌であった。ついでにさわやかに別れたコビーとヘルメッポも恥ずかしい思いをしていた。

 

「あ~~、ルフィ! こちら爺ちゃん、こちら爺ちゃん!」

「なんだよ爺ちゃん!! この島では捕まえねェって言ってたじゃねェか!!」

「そりゃスマンと思ってるが、事情が変わったんでな。悪いがここで海のモクズとなれ!!」

「え~~!?」

 

 祖父から孫にかける言葉にしてはあまりにもあんまりな言い草であったが、この自分勝手な言い分には随分な血のつながりを感じる麦わらの一味。

 とは言え、相手は〝海賊王〟を幾度となく追い詰めて来た〝英雄〟ガープ。

 まともにやり合っては勝ち目がないと、急いで船を引き剥がそうとする。

 しかし軍艦の足の速さはそれ相応にある。新たな船──〝サウザンド・サニー号〟の速度では逃げきれない。

 

砲弾(タマ)持って来い!!」

 

 ガープは上着を脱ぎ捨て、片手で大砲の砲弾を持ったかと思えば野球のボールのように力いっぱい投げつける。

 大砲で撃つよりも余程威力の高い砲弾だ。まともに何発もくらえば、新しい船であっても文字通り海の藻屑になってしまう。

 

「〝拳骨隕石(メテオ)〟……山ほど用意した砲弾を雨のように投げつけ続ける〝拳骨流星群〟。あんなの食らったら、船の一隻なんざひとたまりもないぜ」

「ルフィさん……」

 

 ガープに狙われたが最後、ほとんどの海賊は逃げ切ることなど出来はしない。

 このままでは新しい船ごと粉々にされてしまうし、生きては帰れない。

 それでも、フランキーは不敵に笑ってみせた。

 この船の力を見せてやる、と。

 

「コーラ樽3つを使って船を()()()!! 消費は多いが1キロは飛べる。いざという時、逃げるのには事欠かねェ!」

 

 手助けしようとした小紫をカイエが制し、フランキーに任せる。

 下手に手を出せばガープの矛先がウォーターセブンへ向きかねないからだ。そういう人物ではないとわかっていても、綱渡りをするには〝英雄〟の名は大きすぎた。

 

「さァ行くぞ──〝風来(クー・ド・)バースト〟!!!」

 

 放出される空気を撃ち出す反動で空を飛ぶ。

 あっという間に軍艦でも追いつけない距離へ、ガープの砲弾も届かない距離へと逃げた船を見送り、ガープは鼻息を鳴らす。

 

「文句はあるか。今度は本当に逃げられたぞ」

「……いえ、これではセンゴク元帥も文句は言わないと思います」

 

 彼らが次に向かうのは〝魚人島〟だ。その前に全ての海賊が立ち寄る場所もわかっている。

 だが、それも長く監視を続けることは難しいだろう。

 今は他に打つべき手がある。ガープにはセンゴクが何を見てどう考えているかは分からないが、それでもハッキリしていることがある。

 

「大きな嵐が来る。〝黄昏〟が引き起こす嵐は、恐らく世界規模で影響をもたらすじゃろう……お前らもうかうかしてはおれんぞ」

「「はい!!」」

 

 コビーとヘルメッポは強く返答し、ガープはニィと笑う。

 どうあれ、若い世代を次に繋いでいくのが己が役割だと考えているがゆえに。

 

 

        ☆

 

 

 ──ウォーターセブン近海、〝氷海道〟ラブリーランド。

 多くの氷山や氷海が回遊するこの海域は障害物が多く、賞金首などが身を隠しやすい場所である。

 根城にしているのは賞金首──ではなく、賞金首を狙う賞金稼ぎの一家、〝アッチーノファミリー〟。

 ドン・アッチーノをトップに置く賞金稼ぎで、同時に海賊たちの掲げる旗を狙う〝旗狂い〟としても有名なファミリーであった。

 実力は高く、この一家に狙われた海賊たちの多くは海軍へと売り渡されており、ドン・アッチーノの部屋には数えきれないほどの海賊旗が並んでいる。

 ──その〝アッチーノファミリー〟は現在、壊滅状態にあった。

 

「まったく、手間取らせてくれますね」

 

 次女リル、戦闘能力皆無のため捕縛。

 長女アルベル及びその夫サルコー、心臓を撃ち抜かれ両者死亡。

 三男ホッケラ、全身打撲により内臓を損傷し死亡。

 次男及び長男、双子のカンパチーノとブリンド、四肢欠損による出血多量により死亡。

 そして一家の主、ドン・アッチーノ──片足、片腕欠損により衰弱しているものの捕縛。

 

「怪我人は?」

「ドン・アッチーノとやり合った者が火傷を負いましたが、それ以外は特には」

「治療を終え次第帰投する。アイリス、お前もそれでいいな?」

「はーい」

 

 発端はドン・アッチーノによる〝黄昏〟の海賊旗の強奪であった。

 海賊旗を奪う、あるいは傷つけるというのは海賊にとって宣戦布告にも等しい。誇りを傷つけられることと同義だからだ。

 それでも〝黄昏〟は当初穏便に返すようにと要求したものの、ドン・アッチーノはこれを拒否。

 〝戦乙女(ワルキューレ)〟の分隊二つによる襲撃がおこなわれ、かくも無残な状況となったのである。

 

「相変わらずの強さですねえ」

「お前は成長したな。私の分隊でアッチーノを仕留めるつもりだったが、お前単独で倒しきるとは」

「悪魔の実の回収のためには生かしておかないといけませんしね。殺して良いなら怪我人も出なかったんですけど」

「仕方あるまい。熱を生み出す能力なら使い道はいくらでもある。おい、海楼石の手錠をかけるのを忘れるな。悪魔の実を回収するまで生かしておけばいいが、死なない程度に治療もしておけ」

 

 リーダー格の女が指示を出している間、アイリスと呼ばれた少女は肩をすくめて溜息を吐いた。

 あれこれと仕事を回され、騙し討ちや暗殺の仕事が増えたかと思えば今度は捕縛任務。やれることが増えるほうが上も使い勝手がいいのだろうが、使われる側は堪ったものではない。

 たまには休みが欲しいとぼやきたくなる気持ちを抑え、カナタへ報告するために電伝虫を手に取った。

 数度のやり取りを経てカナタと繋がると、今回の顛末を簡単に報告する。

 

「──以上です。ドン・アッチーノは捕縛に成功したので、悪魔の実の回収を行います」

『ご苦労だった、アイリス。連続で悪いが、お前に仕事だ』

「…………またですか?」

『そう嫌そうな顔をするな。今度はお前向きだぞ』

「仕事をしたくないんですけど……」

 

 カナタはアイリスの言葉を流すと、次の仕事を告げる。

 アイリスは訝し気に眉をひそめると、「それ、大丈夫なんですか?」と端的に聞く。

 

『問題ない。政府とはすでに袂を別った。我々の間に躊躇するべき理由などひとつもない』

「なら良いんですケド……その仕事、私に言ったってことは、私が()()()()()()()()()()()ってことですか?」

『そのつもりで告げた。お前ならあの能力を使いこなせるだろう。殺す前に使っているところを観察してもいい』

「ふーん……」

 

 すました顔をしている風に装っているが、アイリスの顔は笑みを浮かべていた。

 欲しかったものが手に入る。それならば仕事続きであってもやる気を出すには十分だ。

 最後にカナタは注意事項を告げる。

 

『現時点では知られたくない。目撃者は出来る限り消せ』

「はーい。わかりました」

『……浮かれ過ぎて失敗などするなよ』

 

 若干カナタは心配になったが、まぁアイリスならば大丈夫だろうと考えて頼んだのだ。何か言うのも野暮だろうと考え。

 今回の件の報告はまた後程上げるようにと言われた後で通話を切る。

 

「また仕事か?」

「ええ、ですが、前から欲しかった悪魔の実が手に入るので……今回の仕事はアリですね」

「そうか、手助けはいるか?」

「いいえ。暗殺なので、私一人で行ってきます。分隊は貴女に預けていいですか?」

「構わない。こちらで動かしておこう」

 

 ウォーターセブンの一件で防備を固めることになったので数名の援軍が欲しいと言われたが、〝戦乙女(ワルキューレ)〟はカナタの直轄だ。事前に指示がない限りはカテリーナであっても動かせない。

 それゆえに、エニエスロビー襲撃の際には参戦しなかったが……彼女らの手助けがあれば、襲撃はもっと簡単に済んだだろう。

 〝戦乙女(ワルキューレ)〟は例外なく精鋭だ。

 六式、覇気を高いレベルで習得し、中には能力者もいる。

 その中でも隊長を任せられるのは抜きんでて強い者だけだ。

 古参の女性と肩を並べるアイリスは若いながらもそれ相応に強く、分隊の隊長を任せられることもあった。

 

 ──その彼女の次なる目的地は〝魔の三角地帯(フロリアン・トライアングル)〟に潜む島、〝スリラーバーク〟。

 




次章予告!
「霧に煙る海、主人のいない船、動く屍、見えぬ影。
 あらゆるものが騙そうとし、あらゆるものが襲い掛かり、あらゆるものが生者の影を狙う。
 全ては主人のためにと彼らは痛みを知らずに動き続ける。
 巨人族を遥かに超える巨人族。 
 透明人間、ゴースト人間、死体を刻む闇医者。
 も~~怖すぎて私、この島イヤです!! 帰りたい!!!

 次章、絶海怪奇地帯スリラーバーク/霧に映る影

 ──すみません。パンツ、見せて貰ってもよろしいですか?」
「見せるかァ!!!」

次章予告その2
「踊る屍、制御出来ないハンプティダンプティ。誰も彼もが自分の目的のために霧に迷い、霧に呑まれ、そして何も得られず静かに消える。
 影を得ようとする者。
 影を取り返そうとする者。
 命を奪う者。
 命を与えられた者。
 全ては霧のゆりかごの中で目覚める悪夢のように、静かにまどろみ揺蕩う幻。

 次章、絶海怪奇地帯スリラーバーク/霧に映る影

 さあ──名状しがたきホラーショーへようこそ」
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