ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

276 / 323
明けましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いします。


幕間 ドンキホーテファミリー/アラバスタ

 

 ──新世界、〝白ひげ〟のナワバリにある、とある島。

 重要な話があるため、〝白ひげ〟が傘下及び影響下にある海賊全員を呼び出し、一番隊隊長であるマルコから話があった。

 それを聞いたディアマンテは、難しい顔をしながら停泊している〝ヌマンシア・フラミンゴ号〟へと戻ってきていた。

 

「今戻った。変わりはねェか?」

「こんな短い期間でなんかある訳ねェだろ、べへへへへ!」

「……また酒飲んでんのか、トレーボル。いい加減しっかりしやがれ」

「うるせェな! おれの勝手だろ!!」

 

 ディアマンテは溜息をこぼし、酒瓶の並ぶテーブルに揃った幹部たちを見る。

 トレーボルはここ最近ずっと酒を飲みながら愚痴をこぼしているし、ピーカは静かにディアマンテが聞いて来た話を聞く姿勢があるが、それ以外の幹部の顔は暗い。

 「それも仕方のねェことか」という思いもある。

 積み上げて来た地位を一瞬で失い、旗頭にしている船長は()()()()。参謀を自称するトレーボルはヤケ酒が増え、止めに身内から出た裏切り。

 この海賊団も落ち目かと、部下たちの求心力も随分と落ちている。

 かつて保険の意味合いで〝白ひげ〟に食料や薬を流して恩を売っておいたことが功を奏する形にはなっているが、このままではどのみち盛り返すことなど出来ないだろう。

 

「ディアマンテ、トレーボルの事はいい。何の話があって呼び出されたんだ?」

 

 一度悪い方へ傾いた思考を戻すように、ピーカの言葉にひとつ頷く。

 

「あァ。〝白ひげ〟と〝黄昏〟の戦争だ──厳密に言えば、〝白ひげ〟と〝魔女〟の一騎打ちになるらしい」

「なんだと!?」

 

 四皇と七武海の一角が衝突する事そのものが異常事態と言えるが、率いる海賊団同士の戦争ではなく船長同士の一騎打ちなど聞いたことがない。

 〝デービーバックファイト〟のように人数制限のゲームを行い、結果として船長同士の一騎打ちになることはあるが、それとは事情が違う。

 傘下ではないが、ナワバリに船を置くドンキホーテファミリーとて聞き流していい話ではない。

 幹部たちも目を見開き、ディアマンテに続きを促す。

 

「それで、〝白ひげ〟はなんと言っているんじゃ?」

「『負ける気はねェが、万が一がある。身の振り方を考えておけ』──だとよ」

 

 敗者の側の海賊団は傘下を含め勝者の海賊団に吸収されるのだと言われれば、傘下の海賊団は反発した。

 彼らはニューゲートだから傘下に下ったのだ。それ以外の誰かの傘下になる気はないし、そんなことになるくらいなら全員で戦争した方がマシだ、と声高に叫ぶ者もいた。

 カナタはニューゲートと仲が悪い。まともな扱いをして貰える保証もなく、何より杯を交わした親父だけに戦わせられないと言われれば、ニューゲートとて無下にすることも出来ない。

 しかし、どちらが勝率が高いかと言われれば、一騎打ちの方だろうとディアマンテは口にする。

 

「〝白ひげ〟の戦力は傘下を含めても2万程度……〝黄昏〟の影響下にある人数は優に10倍を超えてる。大半が各地に散ってる商船の乗組員だが、本隊の戦闘員は各地に散っても問題ねェだけの数を揃えてる。おまけにカイドウや〝ビッグマム〟の傘下と小競り合い起こしても揺るがねェような化け物を何人も従えてんだ」

 

 〝白ひげ〟の戦力にしても、非戦闘員まで含めて2万程度だ。情報統制が厳しく、ディアマンテたちも〝黄昏〟の正確な人数までは把握できていないが、世界各地に影響力を持つ〝黄昏〟の戦闘員がまさか2万以下ということもあるまいと予想している。

 ディアマンテたちも散々煮え湯を飲まされてきた相手なので情報を集めてはいるが、そう簡単に内部の情報は得られない。

 厳密に言えば正確な人数を把握しているものがおらず、所属しているハズの商人たちに問い質してもバラバラな答えが返ってくるばかりだ。恐らく意図的に間違った情報を流しているのだろうし、それを見破るだけの根拠を得られないので情報集めは非常に難航していた。

 

「……ここに逃げ込んでようやく追っ手を撒いたのに、今度はここが〝黄昏〟のナワバリになるってことざますか? 私たち、一体どこまで逃げれば安心出来るんでざましょ?」

「さァな……」

 

 疲れ果て、酷く老け込んだように見えるジョーラの言葉にディアマンテは答えを返すことが出来ない。

 七武海を追放されて海軍に追われ、国を捨てざるを得なくなって逃げ回り、今度は〝黄昏〟から追われることになることを考えると非常に頭が痛くなる。

 ドンキホーテファミリーは敵が多い。〝黄昏〟も初期は追っていたが、他に優先度が高いことが出来たためか海軍共々小康状態だ。

 今のうちになんとか立て直したいところだが、幹部は軒並み疲れた顔をしている。

 ここからどうやれば引っ繰り返せるのか、少なくともディアマンテには思いつかない。

 ヴェルゴもいない今、海軍に裏工作をすることも出来ないのだ。

 

「フッフッフッフッフ。面白れェことになって来たじゃねェか」

「っ!」

 

 ディアマンテたちが話していた船室から続く扉が開き、シュガーとサングラスをかけたピエロの人形が出て来る。

 ()()()()()()が──ディアマンテは()()()()()。彼こそが、ドンキホーテファミリーの本来の船長であると。

 

「ドフィ! 後でお前とも話そうと思ってた。話を聞いていたのか……どうするんだ? おれ達はこのまま追われるしかねェのか?」

「辛気臭い顔するんじゃねェよディアマンテ」

「だが、今回ばかりは──」

 

 人形はディアマンテの言葉を手で制し、居並ぶ幹部たちを見回す。

 裏切りにスパイ行為、はらわたが煮えくり返るようなことが多くあったが、その人形の口は動いても表情は読めない。

 どれほどの怒りか。

 いかほどの憎悪か。

 ディアマンテには推し量ることなど出来はしないが、その人形が笑う声を聴くと背筋が凍るような気持ちになる。

 

「海軍も〝黄昏〟も、腹の立つ連中だ……オイ、トレーボル。酒に逃げてんじゃねェぞ。連絡を取れ」

「んー? 連絡? 一体誰にだ?」

「決まってんだろ」

 

 〝白ひげ〟に恨みはないが、存分に利用させてもらう。

 〝黄昏〟も海軍も、全て人形にとっては破滅させたい対象である。利用出来るものはすべて利用する。

 武力で敵わぬ相手を潰したいときは、知略でどうにかするのが一番だ。

 

「教えてやれよ、カイドウと海軍に。海軍はしばらくそちらに目が行くハズだ。カイドウは随分動きやすくなるだろうぜ」

 

 七武海に居た頃ほど情勢の変化を感じ取れる立場ではないが、新聞でもある程度は情報が手に入る。

 〝エニエスロビー〟がぽっと出の海賊に壊滅させられ、海軍も世界政府もてんやわんやだ。〝赤髪〟が〝楽園〟にいる今、そちらの監視に人手を割かれることもあって〝新世界〟は手薄になっている。

 〝黄昏〟と〝白ひげ〟の決闘ともなれば、海軍も世界政府も無視出来ない。

 カイドウとリンリンたちへの監視は必然的に手薄になる。

 

「カイドウに教えて……決闘に乱入させるのか?」

「それもいいが……折角だ。もっと面白いことになるよう、誘導してやろうじゃねェか」

「面白いこと?」

「ああ。フッフッフッフッフ。しばらくは退屈しねェで済みそうだ」

 

 人形は不気味に笑いながら、この船の主が座るべき玉座へと腰を下ろした。

 

 

        ☆

 

 

 ──〝アラバスタ王国〟、東の港。

 〝黄昏の海賊団〟により設営された巨大ステージの脇にて、ウタは久しく会っていなかったシャンクスと再会を果たしていた。

 最初は互いに名を呼び、どちらからともなく駆け寄り──そして、シャンクスはウタにドロップキックをくらっていた。

 

「シャンクスコノヤロー!!!」

「「「ええええええええええ!!?」」」

 

 思ってもいなかった強襲に〝赤髪海賊団〟は揃って驚愕の声を上げていたが、ウタはそれで収まらずにシャンクスに馬乗りになり、胸倉を掴む。

 もちろん驚いただけでシャンクス本人は特にダメージもなく、今にも泣きそうなウタを見上げて目を丸くするばかりである。

 

「ウタ──」

「……なんで置いていったのよ」

「…………すまん」

「謝るなら、最初から説明してよ、バカ」

 

 シャンクスたちがウタを置き去りにした一件は、既にウタも知っている。

 確かに当時の自分が抱えるには大きすぎることだったし、シャンクスが罪を被ってくれたことで懸賞金を懸けられることもなかった。

 だがそれでも、ウタはシャンクスたちの事を恨みたくなどなかったのだ。

 事情があって仕方なかったのだとしても、あんな別れ方はあんまりではないか。

 シャンクスもそれが分かっているだけに、胸倉を掴むウタに強く出られない。

 

「ウタ、お頭をあんまり怒らねェでやってくれ」

「そうだぜ、ウタ。あの時は全員で決めたんだ。誰が悪いかって言ったらおれら全員だ」

「……わかってるよ。でも、カナタさんが言ってた。一発くらいは殴る権利があるって」

「あの人はまた……」

「ベックマンは特にシャンクスを甘やかすから叱ってやれって」

「おれもか……」

 

 ベックマンにも流れ弾が行き、微妙な表情で肩を落とす。

 ベックマンはカナタと数度しか会ったことがないが、あの赤い目で見られると全てを見通される気分になるので、正直なところ苦手と言ってよかった。

 美人だし、女好きのベックマンとしてはお近づきになりたい気持ちも無いではなかったが、〝赤髪海賊団〟の副船長を任される男としてはカナタの底知れない不気味さに苦手意識がある。

 シャンクスが姉、あるいは母親のような扱いをするので〝赤髪海賊団〟のほとんどは警戒心もないが、ベックマンは変わらず警戒心を持っている。

 その辺りの態度から「シャンクスに甘い」と思われているのだろう。

 

「お酒飲みすぎてない? 傘下の海賊に迷惑かけてない? 風邪ひいたりしてない?」

「お前はおれの母ちゃんかよ」

「全部カナタさんが言ってた。シャンクスは弱いくせに酒を飲みすぎてしょっちゅう頭が痛いってぼやいてるし、部下や傘下にはしょっちゅう迷惑かけてるし、この間は冬島で酔っぱらって薄着で寝て風邪ひいてたって」

「あの人なんでおれのことそんなに知ってんだ!?」

 

 流石のシャンクスもちょっとドン引きだった。多分部下か傘下の誰かが漏らしているのだろう。

 前回の取引の際にカナタのところへ行ったロックスターへ視線をやれば、ロックスターは明後日の方を向いてヘタクソな口笛を吹いていた。犯人はコイツだ、とシャンクスは確信した。

 あとで叱らねェとな、と思っていると、ウタは胸倉を掴んでいた手を放してシャンクスの左腕を撫でていた。

 感覚はない。

 当然だ。シャンクスの左腕は既に無く、今あるのは普段の生活で不自由しない程度に扱える義手である。

 

「……ルフィに会ったよ。左腕のことも聞いた」

「……そうか」

「ルフィ、立派になってたよ」

「……そうか。ルフィにも会いてえなァ」

「会えるでしょ。そのうち」

「そうだと良いんだが」

 

 いつかまた会えると思ったから、シャンクスはルフィに麦わら帽子を託した。

 最近の新聞ではまた派手にやらかして、懸賞金は1億ベリーを超えている。祝いで酒を飲んでまた二日酔いでダウンしていたことは記憶に新しい。

 ウタは立ち上がってシャンクスが起き上がるのを待ち、涙を見せないように顔を上げてニッと笑った。

 

「私、今じゃ〝黄昏〟の新しい歌姫って扱いなんだよ」

「ああ、聞いた。誰にでも出来ることじゃない。頑張ったんだな」

「うん……うん。私、頑張ったんだよ」

 

 シャンクスたちに置き去りにされ、ゴードンに世話をして貰い、教育を受けて曲も作った。

 恨み言を言いたい気持ちもあったけれど、会ってみればそんな気持ちは消えてなくなった。

 結局のところ、ウタはシャンクスたちに置き去りにされて悲しかったし、苦しかったけど、またこうして会えたことが嬉しくてたまらないのだ。

 

「今日は私の初ステージなんだ。特別席を用意したから、ちゃんと聞いて行ってよね」

「もちろんだ。お前は……おれの娘だからな」

 

 エレジアの一件を乗り越え、ウタは成長した。シャンクスはウタがこれほどしっかりと育ってくれたことに驚いたし、ゴードンに感謝もした。

 カナタと知り合ったことだけがどういう経緯なのか不明だった。今になってウタの事を教えたのは恐らく、ウタに心の準備が出来たからなのだろうと推測は出来たが……シャンクスはカナタの情報を出し渋る癖に苦笑する。

 そろそろ時間だ、とウタは離れていき、シャンクスたちは静かにそれを見送った。

 

「じゃあ、おれ達も行くか?」

「そうだな。カタギの奴らにあんまり迷惑もかけられねェし」

 

 シャンクスは〝四皇〟の一角だ。本来ならこのようなところに姿を現す海賊ではないし、当然ながら海軍も野放しにするような存在ではない。

 軍艦数隻が港にドンと停泊しているが、あくまで監視に留めているのはカナタの影響もあるのだろうと思っている。

 海賊被害にあったアラバスタを応援するという意味合いもあるコンサートにシャンクスを呼ぶということは、つまりシャンクスのナワバリとして守れと言っているようなものなのだが、それとなく聞いたところカナタにその意思はないらしかった。

 単にウタが望んだから呼んだだけで、それ以上の意味はないとはっきりと言われている。

 シャンクスたちはぞろぞろと連れ立って会場の特別席とやらに案内され、しばし開演まで待つこととなった。

 

 

        ☆

 

 

『レッディ~~ス、ア~~~~ンド、ジェントルメン!!!』

 

 そんな言葉から始まった公演は、薄暗くなり始めた頃に開演された。

 派手なライトや花火が挙げられて開演となり、会場のど真ん中に設置されたステージには数人の歌姫と呼ばれる歌手が立ち、それぞれが持ち歌を披露していく。

 歌姫アンやカリーナ、テゾーロといった面々がステージを盛り上げる中、シャンクスはウタの登場を待つ。

 誰もが一級のエンターテイナーだ。そんな中にウタが入って本当に大丈夫か、と心配する気持ちもあったが──テゾーロの紹介で堂々と現れたウタを見て、あの子なら大丈夫だと確信した。

 

『さァ、宴もたけなわ……ここで、我々の新しい歌姫を紹介しようと思う!! 新時代を切り開く超新星、ウタだ!!』

『みんな、ウタだよ!! よろしくね!!!』

 

 ワアアア、と会場が盛り上がる中、ウタは楽しそうに周囲に手を振っている。

 

『本当ならもう少し機を見て、と思っていたが、このように大規模なコンサートが行われるとあれば、それなりのサプライズも必要だろうと私は考えた』

 

 一流のエンターテイナーを自称するテゾーロからすれば、これだけの規模のコンサートをやるならサプライズのひとつくらいは用意したかったらしい。

 ウタの自己紹介を経て、彼女がアンとカリーナとステージを共にする前に、彼女自身の曲を聞いて欲しいとテゾーロは言う。

 アンもカリーナもそれなりに名の知れた歌姫である。彼女たちに並ぶウタの実力を、まずは知ってもらおうと考えたらしい。

 

『緊張するね! でも、皆に私の歌を聞いてもらえるって考えたら、ワクワクの方が勝っちゃう!!』

『頼もしいことだ!! 君の歌を聞けば、きっと皆驚くだろう!』

『そうかな? ガッカリされちゃわないように頑張るね!!』

『ああ、頼むよウタ』

 

 それじゃあ、とテゾーロたちは一度ステージを降りて、ウタがひとり残される。

 薄暗い中、ライトは一時的に消え、ウタの姿が消える。

 シャンクスたちが静かに見ていると、音楽が流れ始めると同時にウタへとスポットライトが当てられた。

 

『それじゃあ、聞いてね。私の〝神曲〟──〝新時代〟!!!』

 




黄昏の総数はエース視点の話の時にも書きましたが、それからちょっと増えて本隊10万弱に傘下25(減った分は海賊稼業を辞めて本隊に吸収され商船ルート)
戦闘員は本隊からおおよそ2万ほど、傘下は経歴的にほぼ全員が戦闘員ですがそれほど強くはなく(九蛇以外)数は4万ほど。
戦乙女と戦士はそれぞれ100人ですが全員覇気及び六式使い。時々入れ替わりがあるので総計すると上位150人ほどが覇気と六式を扱えて、そこから下500人くらいは片方だけ覇気が使えたり六式のうち歯抜けでいくつか使えるだけの人員です。それ以下だと平均的に海軍大佐くらいの強さ。
あとは能力者が200人前後(実の状態で保存されているものも多数)です。

なおリンリンが相手になる場合はここに巨人族の軍隊が特殊召喚されます。


END 白夜司法機関エニエスロビー/悪魔の子

NEXT 絶海怪奇地帯スリラーバーク/霧に映る影
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。