ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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絶海怪奇地帯スリラーバーク/霧に映る影
第二百四十三話:魔の霧の海


 

 ──〝ウォーターセブン〟を出航して数日。

 順調に航海を続ける麦わらの一味は、現在霧に包まれる海域を通過していた。

 

「うう……こんな薄暗くて気味悪ィトコ、さっさと抜けようぜ」

「さっさと抜けられればいいんだけどね」

 

 ウォーターセブンでココロに聞いた話だと、この辺りの海域は〝魔の三角地帯(フロリアン・トライアングル)〟と呼ばれる場所だ。

 年に何隻もの船がこの海域を通って消息を絶つ、魔の海域である。

 既にウソップは全身に除霊グッズを身につけており、怯えたチョッパーも同じように除霊グッズで身を固めている。ナミは意味があるのかわからないと肩をすくめるが、2人にとって心の平穏のためには必要なものだった。

 なにしろこの海域に入る直前に〝海神御宝前〟と書かれた樽を拾い、酒と保存食を目当てに開けたら発光弾が打ち上げられたばかりである。何かの合図か何かかもしれず、辺りが霧に覆われていることもあって警戒するに越したことはない状況だ。

 オカルトであっても縋りたい気持ちになるだろう。

 そんな時だった。

 

「ヨホホホ~……」

 

 どこからか、不気味な歌が聞こえてくる。

 霧は深く、辺りは昼間にもかかわらず薄暗い。その中で、誰かが歌う声が聞こえて来たのだ。

 誰だ、と辺りを注意深く見回せば、霧の中を海流によって流される一隻の船が見えて来た。

 帆は破け、船体には多数の穴が空き、見るからに幽霊でもいそうな船である。

 

「ゴ、ゴースト(シップ)~~~~!!!」

 

 麦わらの一味が驚愕に襲われる中、目を凝らす。

 そこに居たのは──ボロボロのスーツを身に纏った、アフロの骸骨であった。

 

 

        ☆

 

 

「ハイ! どうもごきげんよう!! わたくし、この度この船で厄介になることになりました〝死んで骨だけ〟ブルックと申します!!!」

「「「ふざけんな!!! なんだこいつは!!?」」」

 

 じゃんけんで負けたナミとサンジを引き連れ、ルフィがボロボロの推定ゴースト船に乗り込んで連れて来た骸骨の第一声に思わず皆が声を上げた。

 陽気に笑う骸骨──ブルックとは裏腹に、ウソップとチョッパーは胸元に下げた十字架を持って「悪霊退散!」と唱えており、ゾロはルフィの暴走を止められなかったナミとサンジに説教をしていた。

 ルフィが珍しい存在に対して暴走することは分かり切っていたのに、止められなかったのが不甲斐ない、と。

 ナミとサンジの2人は今回ばかりは不甲斐ないと平謝りするばかりである。

 

「おや、こちらにも美しいお嬢さん。パンツ見せて貰ってもよろしいですか?」

「やめんかセクハラガイコツ!!」

「こいつ連れてきて本当に大丈夫なのか?」

「ヨホホホホ!! そう熱くならずに!! どうぞ船内へ、夕食(ディナー)にしましょう!!」

「テメェが決めんな!!」

 

 マイペースなブルックに振り回されつつ、麦わらの一味は船内に入って夕食を取ることにする。

 食事をしつつブルックの身の上話を聞き、何故骸骨でアフロなのか、この海を漂っているのか、あらましを聞くことになった。

 元々は海賊で恐ろしく強い同業者にやられ、過去に食べた〝ヨミヨミの実〟の能力で黄泉の世界から戻ってきたはいいものの、霧の海を彷徨う事一年。ついに自分の体を発見した時には既に白骨化していたのだとブルックは言う。

 その状態でも蘇られる悪魔の実が恐ろしい、とフランキーは身震いした。ある種の呪いのようなものだ。常識で測れるようなものではない。

 オバケではないんだな、と執拗に確認するウソップに、ブルックは「オバケ苦手なんです」と言うとナミに呆れられた。骸骨になった自分の姿すら見れるとは思えないからだ。

 思わず手鏡を向けると、ブルックが嫌がった。

 ナミはその尋常ではない嫌がり方に首を傾げたが、鏡を見たウソップが顔色を変える。

 

「え!? ちょっと待て、お前……なんで鏡に映らねェんだ!?」

「バ、吸血鬼(バンパイア)か!?」

 

 ゾロとロビン以外の面々が思わず立ち上がって臨戦態勢を取る。

 よくよく見れば足元にあるハズの影もまたなく、その不可解さは増すばかり。

 ゾロとロビンはその正体を見極めようと目を細め、その場では静観に徹する。一方で騒がれているハズのブルックは落ち着き払った態度で、その態度がサンジ達を逆撫でした。

 

「こっちはお前のことで騒いでんだぞ!! 落ち着いてる場合か!?」

「全てを一気に語るには、私が過ごした時間はあまりに長い……私が骸骨になったことと、影が無いことは全く別のお話なのです」

「それでもだ」

「……影は数年前、とある男に奪われました」

「影を、奪われた?」

 

 白骨化しても蘇る事例だってあるのだ。何らかの悪魔の実の能力で影を奪われることだってあるだろう。

 ロビンは少し考え込みつつ、ブルックの話を聞いていた。

 

「〝影〟がないということは、光ある世界で生きられないという事。〝直射日光〟を浴びれば影の無い私の体は消失します。かつて、同じ目にあった人がそうなったところを目撃したのです。それはもう身の毛がよだつ光景でした。ガイコツなのに」

 

 光を浴びれば地面に映るはずの影がないためか、ブルックの体は鏡や写真に写ることもないのだと言う。

 それ故に、ブルックはルフィたちと共に冒険することは出来ない。太陽の下へ出られないブルックはこの魔の海の霧に守られているため、下手に外の海域に出れば太陽に焼かれるからだ。

 ルフィの誘いを嬉しく思いつつも、仲間にはなれない。

 再び影を奪った男と相見える確証もないのだ。

 

「ヨホホホ、楽しいひと時を過ごさせていただいたお礼に一曲弾きましょう! 実は私、元々音楽家なのです!!」

「え~~!? やっぱ仲間になれよお前!!!」

 

 どうしても音楽家が欲しいルフィはブルックを誘うことを止めない。嬉しく思いつつも、この曲を披露してから元の船へ戻ろうとして──壁をすり抜けて現れる半透明の存在に腰を抜かした。

 

「ゴ、ゴースト……!!?」

 

 ブルックには覚えのある存在だ。

 直後に船が大きく揺れ、それが意味するところに気付いたブルックは即座に船の外へと出る。

 

「何と言うことだ……この船は既に監視下にあったのか!!」

 

 船の前方には締め切られた口のような門がある。

 見える部分は門の裏側である。背後を見れば巨大な島があった。

 流し樽によってマーキングされた船を狙い、この島は回遊を続ける。魔の霧の海を漂い続けるこの島の名は〝スリラーバーク〟──遠く〝西の海〟から来た、ひとつの島を有する巨大な船である。

 

 

        ☆

 

 

 「念願が叶う」とブルックは言い、礼を述べるなり飛び降りて島へと海の上を走っていった。

 骸骨の体であるが故か、体が軽いため沈むことなく走れるらしい。

 ウソップとチョッパー、ナミは執拗に門を破壊して島を出ることを提案したが、ルフィは準備万端で島に上陸する気満々だったので船員の誰もが諦めた。

 ウソップ達がフランキーの造った4人乗り蒸気機関「外輪船(パドルシップ)」ミニメリー号の試乗をしている間にサンジが弁当の準備を始め、ルフィはうきうきしながら3人が戻ってくるのを待っていた。

 しかしいつまでも戻らず、大きい音と叫び声が聞こえたきり反応がなくなった。

 心配して船を近付けようとしたら錨が勝手に降りたり、猛獣の声が聞こえたり、不可思議なことが起こり始める。

 そのうちに不自然に起きた波に揺られ、船の錨を上げて流されるままになっていると、船は桟橋と島への入口らしき場所で蜘蛛の糸のようなものにからめとられてしまった。

 ミニメリー号もあるが、ウソップ達の姿はない。

 

「……不自然に流された先で船は巨大な蜘蛛の巣に捕まって、挙句目の前に島の入口か。……誘われてる、と見るべきか」

 

 明らかに罠にしか見えなかったが、このままここで立ち往生していても何も解決はしない。

 それに、気になることが一つあった。

 

「ミニメリー号とサニー号の他に船があるな。小さい船だ」

 

 〝偉大なる航路(グランドライン)〟を行き来するには少々心許ない大きさの、少人数で使うような船だ。

 中を改めても特に珍しい物は無い。残された衣類などから、乗っていたのは女性だろうということくらいしかわからない。

 この船の持ち主もこの島に無理矢理連れて来られたのだろうと判断し、ひとまずそのままにして島の中へと入ることにした。

 入口から続く階段を降りると、全身ツギハギだらけの3つの頭のある犬──頭のひとつは狐だったが──が倒れており、頭部を潰された状態で放置されていた。

 

「何だこりゃ。誰かがやったのか?」

「さっきの船の持ち主だろ。結構強ェんじゃねェか?」

 

 ロビンが死体を検分してみたが、全身にツギハギがあって不自然な生き物であることくらいしかわからなかった。この怪我の程度ではそもそも生きていけるとは思えないし、頭部を潰されている割に出血量がかなり少ない。

 まるで死体をそのまま損壊させたかのような状態だ。

 

「……先に行ってみましょう」

 

 ウソップ達も探さねばならない。ここで考え込むより、情報を得るべきだとロビンは判断した。

 堀の上で先に進むルフィたちを見る影に気付かないまま、彼らは先へと歩を進めていく。

 

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