ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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第二百四十五話:特別ゾンビ

 

 ペローナがモリアの屋敷へ戻ってくると、ホグバックが難しい顔をして何か悩んでいた。

 辺りを見回しても他にいるのはゾンビばかりで、集められているハズのアブサロムの姿が見えない。

 

「ホグバック、アブサロムはまだ来てないのか?」

「ペローナか。アブサロムのやつはまだだ。連絡を回すためにヒルドンに探させているが、戻ってこないところを見るにまだ見つからないらしい」

 

 アブサロムは透明人間だ。空を飛べるゾンビであるヒルドンでも、夜霧に紛れる透明人間など見つけるのは至難であろう。

 子電伝虫でも持たせていればよかったのだが、広いと言っても知れている船の上。加えて透明人間として奇襲をかけることを考えると、音などでバレる可能性は低い方が好ましいので持たせていなかった。

 ペローナの能力であちこち探してみれば早いのだろうが、どちらにせよ透明化されていては目視で発見出来ると思えない。

 2人でそれなりに待った後、ホグバックはため息をこぼして仕方がないと首を振る。

 

「これ以上モリア様を待たせるわけにもいかねェ。おれたちだけで行こう」

「いいのか?」

「アイツのことだ、どうせ花嫁探しに忙しいんだろう」

 

 風呂場を覗いていたアブサロムの事を思い出すペローナ。

 この島にやって来た海賊のひとりに随分惚れ込んでいたようだから、花嫁にするためにあれこれやっている可能性は十分にある。

 そう考えると心配するのが馬鹿らしくなり、ペローナもまた肩をすくめてホグバックと共にモリアの下へ足を運ぶことにする。

 ゾンビのシンドリー、クマシーを引き連れて部屋の奥へと足を踏み入れた。

 そこに鎮座するのは、ホグバックやペローナよりも遥かに背の高い大男。

 元懸賞金3億2000万ベリー。かつては〝百獣〟のカイドウと渡り合った、王下七武海の一角──ゲッコー・モリアである。

 

「おう、来たか! 揃って……は、いねェようだが」

「連絡しようと探したのですが、見つからず……花嫁を手に入れようと必死になっているのかと」

「そうか、好きにやりゃあいい。手懐けるのにどうせ時間がかかるんだ。祝杯は後でも構わねェ」

 

 ここ数日寝ていた分の食事を終え、億を超える賞金首であるルフィを捕らえたことでモリアは上機嫌だった。

 部下であるアブサロムの実力は分かっているし、多少のことでどうにかなるような男ではないこともわかっている。放置しておいたとしても問題はない。

 部屋の中には鋼鉄の檻があり、中には鎧を着たルフィが蜘蛛の糸でグルグル巻きにされて捕らえられていた。

 

「こいつの影さえありゃあ、おれが〝海賊王〟になる日も近い! キシシシシ!! 楽しみだぜ!!」

「なんだとデカらっきょ!! 〝海賊王〟になるのはおれだ!!」

 

 鋼鉄の檻もなんのその。捕まっているというのに怯えた様子など全く見せず、ルフィがガシャンガシャンと檻の中で暴れている。

 

「ゾロ、サンジ、ナミ、ウソップ、チョッパー、全員返せ!! どこへやった!!!」

「なんとも威勢のいい男だな……これが〝麦わら〟のルフィか」

「……今、随分と名を連ねたが、捕まえたのはお前でまだ3人目だぞ。〝海賊狩り〟のゾロと手配書にはいなかった金髪の男だ」

「んん? 金髪ってサンジしかいねェけどなァ……」

 

 サンジの手配書は写真の入手に失敗しているため、手書きの人相書きである。ある程度特徴を捉えてはいるが、モリアは同一人物だとは思わなかったらしい。

 2人して首を傾げているが、そこはどちらでもいいのか、ルフィは再び威勢よく啖呵を切り始めた。

 それを無視し、ホグバックは今のモリアの言葉で出来た疑問をこぼす。

 

「……リスキー兄弟に3人預けたはずだがな。あの3人はどうしたんだ、ペローナ?」

「それがクマシーに届いてなかったんだよ」

「届いてない? どこかで逃げられたか……?」

「あ、あの……」

「黙ってろクマシー! 喋ると可愛くねェんだから口を開くな!!」

「やめろやめろ、ごちゃごちゃと面倒クセェ!! 海賊が逃げたんなら()()()()あとで何とかしやがれ!!!」

 

 他力本願極まりないことを言い、モリアは「そんなことよりも」と続ける。

 彼にとってはペローナたちの話は重要ではないからだ。

 

「今、オメェらを集めたのは、貴重な大戦力が誕生することを共に祝おうってんじゃねェか」

 

 アブサロムがいないのが残念ではあるが、あれはあれでやりたいことをやりたいようにやっているだけだ。祝杯を挙げるのはあとでもいいし、花嫁を迎えるならそれを祝うためにいい酒でも振舞ってやろうと考えていた。

 その上機嫌なモリアのすぐそばで、ルフィが鉄の檻を噛み砕いて逃げ出し始めた。

 ゾンビたちが驚いて唖然とし、モリアも目を丸くしている。

 

「鉄の檻を……食い破った!?」

「おれが捕まってどうすんだァ!!!」

 

 ガシャンガシャンと鎧を着たまま打ち上げられた鯉のように跳ねて移動するルフィに対し、ゾンビたちが動くよりも先にペローナが動いた。

 こういう時、敵を鎮圧させるのはペローナが得意とするところだからだ。

 

「〝ネガティブホロウ〟!!」

「ウッ……!」

 

 ペローナの体から現れた半透明のゴーストがルフィの体を突き抜けると、ルフィはそれまでの勢いが嘘のように落ち込んで「ナマコになりたい」などと言いだす。

 ホロホロの実のゴースト人間──霊体を操るその力によって、極度のネガティブ状態になったルフィを取り押さえるのはそこらのゾンビにも容易い。

 鎧を脱がせて再度縛り直し、巨大なライトの前にルフィを立たせ、背後からルフィを照らす。

 足元からくっきりと伸びる影を確認すると、モリアはその()()()()()()()()()()()

 

「え!? おれの影が!!?」

 

 その現象の前にルフィは目を見開いて混乱し、引っ張り上げられた影に引きずられて倒れる。

 既にライトが当たっていないにも関わらず、ルフィの影は相変わらずルフィの足元から伸びていた。

 モリアは手に持った鋏でルフィの影を足元から切り離すと、ルフィはガクリと意識を失った。

 

「キシシシシ!! 手に入れたぞ……3億の戦闘力!!! これで史上最強の〝特別(スペシャル)ゾンビ〟が誕生する!!!」

 

 モリアは手の中でじたばたと暴れる影を見て高笑いし、これからの栄達を夢想するホグバックとペローナ同様に最高の気分に浸っていた。

 ──建物の外から、その様子を見ている者がいることに気付かずに。

 

 

        ☆

 

 

 その後、気絶したルフィを船に送り返すようゾンビたちへ指示をし、モリアたちは手に入れたルフィの影を入れるべく巨大な冷凍施設へと足を運んでいた。

 とある氷の国に放置されていた500年前の遺体をホグバックが復元させ、安置していたからだ。

 その威容、その姿は世に名だたる海賊をして驚愕に震えたほど。

 かつて討ち取った島を己が領土へと運んだとされる〝国引き伝説〟の怪物。500年前に暴れ回った〝魔人〟と呼ばれる狂戦士──オーズ。

 冷凍室へ行くまでに鼻唄と共に現れる剣士が暴れ回っていることや敵を捕らえる役目を任せるタラランがやられたと報告が入ったが、モリアにとっては些事である。またも「お前らが何とかしろ」と言い放ち、モリアは目的の場所へとやってきた。

 通常の巨人族の倍以上の体躯を誇る、〝古代巨人族〟の血を引くオーズが己の従順な部下となれば、今後さらに強い影を手に入れることも難しくなくなる。

 拡大していくゾンビたちの戦力はいつしか〝百獣〟のカイドウすら打ち倒すほどとなるだろうと夢想し、モリアは高揚した気分のまま手に持ったルフィの影と契約を結ぶ。

 

「今からお前がゾンビとして生きるための声と肉体を与える。過去の一切の人間関係を忘れ、おれに服従する兵士となれ!!」

 

 この契約をすることで、影たちはモリアに服従する兵士となる。

 影はオーズの肉体に押し付けられ、肉体に馴染むまで多少の時間がかかり──やがて氷漬けになっていた遺体は影が動かし始め、ゾンビとなる。

 ドクン、と脈動した。

 実際に心臓が動いているわけではない。斬りつけたところで傷口から血は出ないし、痛みも感じることはない。

 内側から影がその肉体を支配したために、体が動いただけだ。

 ギョロリと目玉が動く。

 

「「「ギャアアアアアアアア!!!」」」

 

 死体が動く、という事実に悲鳴が上がった。

 クマシーの体の中に隠れていたウソップ、ナミ、チョッパーの3人である。

 死体が動き始める異常事態──それも並の巨人族を遥かに超えるオーズの巨体が動くのだ。衝撃もまた大きい。

 だが、ナミたちを捕らえようとするよりも先に、オーズが身動ぎして体を拘束する鎖を壊した。

 

「肉~~~~~~!!!! ハ~~~~ラへった~~~~!!!!」

 

 ビリビリと振動が体全体に伝わる。これだけの巨体が大声を上げれば、モリア達とて無視出来ない。

 その隙に物凄い勢いで逃げ出したナミたちを追ってゾンビたちが飛び出し、腹減ったというオーズに島の食料を喰わせるべくモリアは指示を出す。

 もはや小物に興味はない。これほどの威容を持つ怪物を手中に収めたとなれば、そこらの影など数を増やすだけの雑用にしかならない。

 既にモリアの興味はオーズだけに向けられていた。

 バリボリと島の食料を凄まじい勢いで消費するオーズに対し、モリアは上下関係を突きつけるが──けんもほろろに答えが返される。

 

「悪ィなー、チビらっきょ。おれ誰だか知らねェのに、メシ食わせてもらって! マズいし、全然食い足りねェけどな。しししし!!」

「キシシシシ!! オーズよ、お前は500年前に死に、今おれの部下として現代によみがえった!! おれに従い、敵を打ち倒せ!!」

「部下? 嫌だね。おれには夢があるんだ」

「そんなゾンビ見た事ねー!!!」

 

 周りのゾンビたちが驚愕するのを尻目に、オーズはあらかた食料を食べ終わると周りの壁をガンガンと叩き始めた。

 ここは狭くてつまらねェ、と言い出し、「ちょっと外に出て来る。海へ出て世界一周するか」と言い始めて鋼鉄の壁を破壊し、外に出た。

 オーズを安置するための特別な冷凍室だったため、それなり以上の強度だったはずだが──オーズにとっては特に問題なかったらしい。

 

「海賊王に、おれはなる~~~~!!!」

 

 叫びながらどこかへ行くオーズを見送り、モリアは楽しそうに笑った。

 

「キシシシシ!! あれがおれの忠実な部下になった時、敵はなくなる……! その時が楽しみでならねェな!!」

 

 

        ☆

 

 

「オーズは今……どこにいる?」

「マストのトップに登っています」

 

 ペローナのゴーストによる監視でオーズの行動を把握すると、モリアは穴の開いた冷凍庫に腰かける。

 あれだけ肉体と影に差があると、馴染むのに時間がかかるらしい。それが終わり次第遊べると思い、モリアはここで待つと言う。

 

「た、大変ですモリア様!!」

「なんだ、うるせェな」

「〝麦わら〟のルフィたちが目を覚ましたようで……!!」

 

 バタバタと走って来た伝令のゾンビが慌てて報告を上げる。

 通常、影を抜かれた者たちはしばらく目を覚まさないが、仲間たちに叩き起こされたのなら話は別だ。

 彼らは怒り狂って真っ直ぐここを目指してきており、〝鼻唄〟と繋がっているが故にゾンビの浄化方法まで知っていて〝兵士(ソルジャー)ゾンビ〟や〝びっくりゾンビ〟では手も足も出ないと逃げ回っていることを報告する。

 ホグバックは頭が痛そうにし、ハッとした様子で声を荒げる。

 

「アブサロムはどうした!? あいつが花嫁にしたがっていた女はクマシーの中にいた! 見当違いの場所を探しているならすぐに呼び戻せ!!」

「そ、それが……アブサロム様は行方知れずになっておりまして……」

「なんだと!? 〝将軍(ジェネラル)ゾンビ〟たちはどうしている!?」

「彼らはアブサロム様の指示があるまで待機しています」

「〝麦わら〟達を止めるには〝将軍(ジェネラル)ゾンビ〟が必要だ!! アブサロムがいない今、おれが指示を出す! 構いませんか、モリア様!」

「許可する。お前が何とかしろ」

 

 即座に許可を出したモリアの言葉に従い、ホグバックはゾンビに指示を出す。

 バタバタ走って〝将軍(ジェネラル)ゾンビ〟を呼びに行くのを見送ると、ペローナが部屋に戻ると言い出した。

 

「ここに居ても仕方がない。私はアブサロムを捜索しつつ、海賊たちを無力化する。私の能力があれば〝将軍(ジェネラル)ゾンビ〟がいなくとも制圧は容易いからな。ホロホロホロ!!」

「……それもそうだ。頼りになるな、ゴーストプリンセス」

「大丈夫そうだな。つまらねェが」

「そんな……何もする気がねェからって」

「あの調子なら新しい影を手に入れるのも難しくなさそうだ。〝没人形(マリオ)〟の準備をして来い」

 

 影を入れるための肉体を用意しなければゾンビは作れない。天才外科医であるホグバックの手で改造された死体は強靭で、元の影の持ち主より強くなることも珍しくは無いのだ。

 影があっても肉体が無ければ意味がないので、ホグバックに肉体である〝没人形(マリオ)〟を用意するよう指示を出す。

 ホグバックはその指示を聞いて頷き、自分の屋敷へと戻っていった。

 食料を持ってきていたゾンビたちは既にルフィたちを捕らえるために動かしたため、モリアはひとりこの場に残された。

 オーズが出て行った壁の穴を見つめ、さて馴染むにはどれほどの時間がかかるか──などと考えつつあくびをする。

 

 そして──ルフィがこの部屋に辿り着いた時には、真新しい大量の血痕と壁にいくつもの穴が空いた部屋が残るばかりで誰もいなかった。

 

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