ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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第二百四十六話:Unknown

 

 船に載せてあった食料をほとんど奪われたことに腹を立てたルフィと、ナミが風呂に入っている時に覗きをしたアブサロムに怒り心頭のサンジが暴れ回ってゾンビを薙ぎ倒していく。

 取り敢えず用意した塩がいらないなと思う程度には、2人の快進撃はすさまじかった。

 とは言え、単純に殴る蹴るだけではゾンビは倒せない。

 手も足も出ない、と感じるだけで痛みも何もないゾンビは再び立ち上がる。

 ペローナのゴーストによって心を折られれば、〝兵士(ソルジャー)ゾンビ〟と呼ばれる最弱のゾンビたちでもルフィたちを捕らえることは難しくない。

 現にゴーストによって心を圧し折られたルフィとサンジが捕まりかけ、急いで援護して先へ進むウソップ、チョッパー、ナミ、ロビン。

 しかし、階段を抜けてその先の部屋へ──というところで、マストから飛び降りて来たオーズによって階段が壊されウソップ、ナミ、サンジの三人が階下へと落下する。

 驚きに止まるルフィたちだが、ここでそうしていても仕方がないと先へ進み、ホグバックと接触する。

 チョッパーとロビンがホグバックとシンドリーの相手をしている間にルフィは先に進み、モリアがいるハズの冷凍庫へと辿り着き──大量の血痕と粉砕された冷凍庫を目の当たりにした。

 

「ハァ、ハァ……どこだ、デカらっきょ!!」

 

 キョロキョロと辺りを見回しつつ息を整えるルフィだが、どこを探してもモリアが見つからない。

 手すりから下を見下ろしてみると、血痕は下に繋がっているのが見えた。モリアのものである確証もないが、むやみに探すよりはと思い、ルフィは血痕を辿って飛び降りた。

 血痕は一定の間隔で屋敷の裏手にある森へと続いている。

 朝方近いとはいえ、まだ夜霧のせいで視界が悪い。このまま森の奥まで続いているのかと思いきや、モリアは森の入口付近にいた。

 ルフィが先程見た時より随分血で汚れているものの、どっしりと仁王立ちするモリアからは疲弊した様子も見えない。

 

「いたな、デカらっきょ!!」

「あァ……? なんだテメェ。なんか用か」

「何か用か、じゃねェ!! おれたちの影を返せ!!!」

「……ああ、さっきの。ふむ……」

 

 モリアは自分の調子を確かめるかのように軽く体を動かし、次いでルフィに視線を送る。

 影を返せと言われて悩んでいるのではなく、()()()()()()()()()()()と考えている視線だ。

 

「……全滅、か?」

 

 口を封じるにはそれが最も早い。

 モリアはそう決めるや否や、即座にルフィの顔面を殴り飛ばした。

 体格差もあってしゃがみ込むような体勢からのパンチではあったが、ルフィはそれをまともに受けて吹き飛ぶ。しかしルフィはゴム人間であるため、驚きはしてもダメージはなかった。

 

「くそ、びっくりした! おれに打撃は効かねェよ!!」

「打撃が効かない? 能力者か?」

 

 ルフィが飛び出して放つ〝ゴムゴムの銃乱打(ガトリング)〟を腕を掴むことで止め、そのまま振り回して森の木に頭から激突させる。

 もちろんルフィにダメージはないが、モリアは両手を何度か握って調子を確かめると、次の瞬間にはその両手が黒く染まっていた。

 武装色の覇気によるものだ。

 無策で再び突っ込んで来たルフィの顔面にカウンターの要領で拳を叩き込むと、まさかダメージを受けると思っていなかったルフィが痛みに悶える。

 

「い、いてェ~~~~!! クソ、お前も覇気ってのを使うのか!?」

「ほォ、覇気の存在くらいは知ってたか。だが使えないのなら同じこと」

 

 追撃に走るモリアの拳をギリギリで回避し、ルフィはなんとか追撃から逃れ、ギア2を発動する。

 体から上がる蒸気を訝しがるモリアだが、それを問うよりも先にルフィの攻撃で吹き飛ばされた。

 

「強ェとわかってんだ。出し惜しみはしねェ!!」

 

 元より王下七武海が相手だとわかっている。クロコダイルの時を思えば、出し惜しみなどしていられるような相手ではない。

 現に殴り飛ばされたはずのモリアはピンピンしており、何事もなかったかのように立ち上がってルフィを睨みつけている。

 ルフィは(ソル)による高速移動でモリアの側面へ移動し、攻撃を仕掛ける。しかしモリアは視線も寄越さずそれを僅かに屈んで回避し、ルフィに掴みかかった。

 が、モリアの腕はルフィが回避するまでもなく外れ、それを隙と見たルフィの攻撃で弾かれる。

 

「何がしてェんだ!?」

「チッ。こうも体格が違うと難しいものです……!」

 

 小声でぼやくモリアの言葉はルフィに聞こえておらず、追撃に走るルフィを迎え撃とうと覇気を集中させる。

 弾丸のような速度で迫るルフィの拳をギリギリのところで回避し、モリアはルフィの横っ面を殴りつけて地面に叩きつける。

 続けてもう片方の腕で殴りつけるも、ルフィは地面を転がってそれを避けた。

 そのまま〝JETスタンプ〟でモリアの腹を蹴りつけて距離を取りつつ体勢を整える。

 

()()()には丁度良さそうですが……今優先してやるべきことではありませんね」

「何言って──うわっ!?」

 

 ルフィの死角から爆撃のように降り注いだ数本の矢が木々を薙ぎ倒し、そちらに気を取られた一瞬でモリアが距離を詰めた。

 逃げ出そうとしたルフィの足元に矢が刺さり、動くことを躊躇した時には既にモリアの拳が振り抜かれていた。

 凄まじい轟音と共に殴り飛ばされたルフィは森の奥へと吹き飛ばされ、島の中に造られていた水路に落ちる。

 ルフィは能力者だ。水に落ちて、それを助けてくれる仲間がいなければ命はない。

 モリアは用は済んだとばかりに背を向け、元居た冷凍庫へ移動を始める。

 

「良い能力を得たものです。ふふふ……おっと、キシシシシ! でしたか」

 

 肉体は間違いなくモリアである()()は、そう呟いて姿を消した。

 

 

        ☆

 

 

 ばらけた麦わらの一味はそれぞれ奮闘し、ペローナをウソップが倒し、ブルックの影が入った侍リューマをゾロが倒していた。ホグバックはシンドリーを始めとした数人のゾンビを従えていたため、未だ戦闘中。

 そしてブルックの救助をしていたフランキーを除き、残るサンジとナミは──現在、〝将軍(ジェネラル)ゾンビ〟たちに追い回されていた。

 元々が海で名を馳せていた賞金首たちのゾンビ。

 入れられている影もまた同様に実力のある者たちであるため、痛みを感じないゾンビの性質と合わせて非常に厄介な存在になっていた。

 

「ちょっとサンジ君!! あれ何とかしてよ!!」

「ナミさんの言う事なら何でも聞きてェところだが、こればっかりは厳しいぜ!!」

 

 ただでさえ多勢に無勢。その上目的である透明人間も見つからない。

 ナミの裸を見た罪を償わせようと奮闘したサンジだが、下手をすると再び捕まってしまうことになる。それだけは避けたいし、何よりナミがすぐ近くにいては彼女を守るために意識を割く必要もある。

 他の仲間と合流してからどうにかしなければ──と、そう考えていた時。

 ゾンビたちがぴたりと動きを止めていた。

 

「……? どうしたのかしら?」

「なんだか分からんが、チャンスだぜナミさん! 今のうちにマリモやウソップたちと合流しよう!!」

 

 ゾンビたちの行動に疑問を覚えるナミだったが、今はそれをチャンスに逃げるの優先だった。

 サンジの言うとおりに合流しようと走り、ゾンビたちの不自然な行動はすぐに頭から抜け落ちた。

 

 

        ☆

 

 

「フォ~~スフォスフォスフォス!!! 無様だなァ、Dr.チョッパー!!」

 

 ホグバックは数体のゾンビを従え、チョッパーとロビンを押さえつけて高笑いをしていた。

 彼自身はビクトリア・シンドリーの死体を傍に侍らせ、自分を振った女を強制的に従わせることでモリアに忠誠を誓った男だ。チョッパーが何を言おうと、自分を振って幸せになるはずだった女が事故で死んだという事実に耐え切れなかった男には、決して届かない。

 これまでそうだったように、これからも彼は死体を改造してモリアに差し出す一生を過ごすだろう。

 ──そのハズだった。

 

「な、なんだ!?」

 

 地鳴りのような音と共に屋敷が揺れた。

 恐らくはオーズが大きく移動したのだろう。巨人族の倍以上の体躯だ。重さも相応にあり、ジャンプをするなどして近くに着地すれば屋敷が揺れることも十分に考えられる。

 

「オーズの制御にまだ時間がかかってるのか……? モリア様なら大丈夫だと思うが……」

 

 あれだけ巨大な怪物を影で使役するのは初めてのことだ。想定外のことが起こっていても決して不思議は無い。

 モリアに万が一のことがあればホグバックとて困る。

 早々にここを片付けてモリアの手助けに回るべきだと判断し、視線をチョッパーとロビンへ向けた。

 

「残念だが、お前らとはここでお別れだ。〝没人形(マリオ)〟にして、この天才の助手として使ってやる!! やれ、ジゴロウ!!」

 

 ゾロの影を入れられたゾンビであるジゴロウに2人を殺すよう命じる。

 だが、ジゴロウは上の空で命令を施行する様子を見せない。訝しげな表情をするホグバックは、他のゾンビにも命令を下すが、全員が上の空だ。

 無論、ホグバックの隣にいるシンドリーもまた例外ではない。

 突然の事態にホグバックは焦り、チョッパーとロビンは望外の事態にホグバックを取り押さえようと動く。

 

「なんだか良く分からないけど、チャンスだ!」

「ええ、今のうちに彼の身柄を押さえましょう」

「クソッ! どうなってる!! この役立たずが、言うことを聞かねェか!!」

 

 勢いのままにシンドリーを殴り倒したホグバック。シンドリーは抵抗せず、それどころか虚ろな目でぶつぶつと何かを呟いていた。

 

「……命令を、受諾しました」

「あァ!? 言うことを聞くようになったのか!? だったら、さっさとこいつらを始末しやがれ!!」

 

 ゆらりと立ち上がったシンドリーは手に皿を持ち、それを武器として──()()()()()()()()()()()

 皿の割れる硬質な音が部屋の中に響き、次いでもう片方の腕に持った皿を再びホグバックに叩きつける。

 急転直下の出来事にチョッパーとロビンが目を白黒させていると、2人の背後からゾンビたちが襲い掛かって来た。

 先程までの、捕えようとする動きではない。明らかに2人を殺しにかかっている動きだ。

 ホグバックはと言えば、シンドリーによる頭部への攻撃で気絶したのか、倒れたっきりピクリとも動かない。

 

「どうなってるんだ!? このゾンビたちはあいつらの言うことを聞くんじゃ!?」

「……何か、想定外のことが起こったと考えるべきね」

「何かって、何?」

「わからない。けれど、決して良いことではないと思うわ」

 

 ロビンが指差す先で、ゾンビたちがぶつぶつと呟く。

 

「モリア様より命令を受諾……〝この島にいる生者全てを皆殺しに〟」

 

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