ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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第二百五十二話:一件落着

 

 色々あった夜が明け、更に一日。

 夜通し戦った疲労やらなにやらで全員爆睡し、片付け諸々を含めて動き始めたのは事件の終わった朝の次の朝だった。

 死者こそいなかったものの怪我人多数、疲労困憊と酷い目にあったものの、おおむね良好と言える結果である。

 だが。

 

「一件! 落着! じゃ! な~~い!!」

 

 大声でわめいているのはモリアの部下、〝三怪人〟のひとりこと〝ゴースト・プリンセス〟のペローナである。

 それもそのハズ。

 主人であるモリアは死亡。同僚であるホグバックの遺体は酷いことになっていたし、アブサロムに至ってはアイリスが遺体を発見されないよう海に捨てているので残ってすらいない。

 幼い時分にモリアに拾われ、ここまで遊び半分でついて来たとはいえ、尊敬もしていたし同僚との仲も良好だった。

 それがいきなり独りぼっちである。しかも周りにはゾンビに入れる影を奪おうとしていた海賊と命を狙って来ていた海賊ばかり。喚きたくもなる。

 

「…………」

「いやァおいおい、無言で弓構えんなよ」

 

 泣いて喚くだけのペローナにイラっとしたのか、無言で弓を構えるアイリスに思わずウソップがツッコミを入れる。

 「そんなに寂しいならモリアと同じところに送ってあげますよ」と言わんばかりの嫌そうな顔に、ああこの女はこの手のタイプが苦手なんだなと察する一同。

 流石に目の前でそんなことをされては見過ごせない。敵ではあったが、今はお互い敵意も何もないのである。

 

「どうせ行く当てなど無いでしょう。こちらで預かります」

「オメーに任せるとまずいことになりそうなんだが……」

 

 アイリスは強行にペローナの身柄を確保したがったが、どう考えてもロクなことにならないのは目に見えている。

 モリアに影を奪われ、長いこと森の中で彷徨う羽目になったローリング海賊団にしても、ペローナに対する悪感情は相当なものだ。

 今はやる気がないだけで、当人が強力な能力者であることは変わりない。手を出すに出せないから放置されているだけなので、こちらに任せるのも難しい。

 となると、白羽の矢が立つのはやはり麦わらの一味であった。

 

「ルフィ、あの子連れてかねェか?」

「いいぞ」

 

 女性の安全のためならばと奮起したサンジの問いに対し、ルフィはと言えばこの一言である。

 スリラーバーク内を探索していた時にネガティブ状態にされたのは怒っていたものの、それはその時だけのものだ。終わったことである以上、ルフィはこれ以上問い詰めるつもりも怒る理由もなかった。

 細かいことはどうでもいい男なのである。

 

「チッ」

 

 アイリスはこれに舌打ちした。

 食べたカゲカゲの実を含めれば、この島で手に入るはずだった悪魔の実は3つ。

 売れば最低でも1億を超える悪魔の実は、回収してきた者の評価に繋がる。後々能力者が〝黄昏〟相手に恨みを持って牙をむく可能性を考えても、ここで回収しておきたかったのが本音であった。

 カナタはもちろんそうするつもりであったし、ロビンたちが出発次第回収に動く手筈だった。だが、こうなってはホロホロの実の回収は難しいだろう。

 カナタの友人の娘であると言うだけで優遇されるロビンとその仲間に対し、アイリスは極めて不愉快な気持ちであったが……言っても詮無きことである。

 

 

        ☆

 

 

 お金と食料を取り戻したルフィたちは中庭でどんちゃん騒ぎの宴をしていた。

 宝物庫にあるお宝まで全て持って行こうとしていたので、流石にそれはアイリスの手で止めていた。いくら優遇されていると言っても限度がある。

 いくらお宝が大好きなナミでも、見えている地雷を踏みに行くほど勇猛ではない。そそくさと退散したのち、食糧庫から拝借した食料でBBQを始めた。

 

「あなたはあっちに交ざらなくていいんですか?」

「不要だ。おれも一応は七武海。海賊と仲良くする理由はない」

 

 アイリスはこっそり手に入れた串焼きを手に、くまへと話しかけていた。

 くまは本来ならすぐにでも島を出るつもりだったが、娘の居場所を教えてもらうために滞在していた。

 2人の間に置かれた電伝虫から声が聞こえる。

 

『ボニーはシャボンディ諸島に向かっているようだ。会いたいなら会えばいいものを。お前も大概強情だな』

「直接会わないのが五老星との約束だ……」

『フン。奴らが海賊との約束を律義に守るものか』

 

 電伝虫越しのカナタの声は、嫌悪感を隠しもしていなかった。

 世の権力者の頂点に立つのが〝天竜人〟であり、そのトップにいるのが〝五老星〟である。同じ天竜人でもランク分けされているが、感性はそれほど大きくは変わらない。

 人を虫けら扱いし、価値あるものと認めておらず、潰しても勝手に増えるものだという認識だ。

 五老星の中でも多少は話の分かる者とそうでない者がいるが──くまが取引をした〝科学防衛武神〟ジェイガルシア・サターン聖は典型的な天竜人の価値観を持つ。正直なところ、ボニーの病気とて本当に治す気があるのか疑問だったほどである。

 流石にそこはベガパンクの意地か、きちんと病気は完治していたが。

 

「だが、あちらが守らぬからとこちらが守らない理由にはならない」

『お前の場合、弱点は他にもあるからそう思うのだろうな』

 

 ボニーの母親であるジニーの墓があるソルベ王国は、くまにとって大事な地だ。ここを滅ぼす可能性があるというだけで、くまは頭を垂れているのだろう。

 難儀なものだ、とカナタはぼやく。

 

『ドラゴンも心配していた。お前のことだから、ひとりで背負って無茶をしているのだろうとな』

「……おれの心配は不要だと伝えてくれ」

『自分で伝えろ、馬鹿者が。重要なことを誰にも伝えず、ひとりで何とかしようと空回りするそういうところが愚か者なのだ、お前は』

「的を射ている……返す言葉もないな」

 

 ともあれ、ボニーの居場所はわかった。これ以上ここにいる理由はない。

 くまは宴の真ん中で陽気に歌うルフィの方を一度見た後、姿を消した。

 移動に船を必要としない、便利な能力である。

 

『……いなくなったか。あの男は愚か者だが、敵に付くと厄介だ。お前はどう思う、アイリス』

「実力は高いと思いますが、私なら勝てます」

『そうだな。だが、奴の厄介なところは奇襲をかけてもすぐに逃げられる能力の利便性だ』

 

 そういう意味でも、釘を刺してくまの動きを制限出来たのは大きい。〝黄昏〟にボニーがいる以上、くまは〝黄昏〟を敵に回すような動きは避けるだろう。

 

「ところで、ボニーというのはくまの娘なのですか?」

『ああ。だが血は繋がっていない。母親のジニーは天竜人のおもちゃにされ、子供を孕んでマリージョアから降りて来たらしいからな』

「……つまり、天竜人の血が?」

『どうだかな。奴らなら奴隷同士で、という可能性もゼロではないが……』

 

 ジニーは革命軍の勇士としても有名だったが、とりわけその美しさが取り沙汰される女だった。

 見た目を気に入って天竜人が妻として遇したか、奴隷として飼われたで扱いは変わる。どちらにしても女側の望みでマリージョアに登ったわけではない以上、地獄には変わりないが。

 監視として付けたドレークの報告を聞く限り、ボニーの才能はかなりのものだ。ジニーは強かったが、天竜人の血が入っているならそれ以上になる可能性は高い。

 天竜人とは、ただ神として崇められる尊いだけの存在ではない。

 〝神の騎士団〟の強さを知れば知るほど、天竜人がただの愚物の集団ではないとわかる。彼らは自身を神と呼び、他の民を見下すが──それに足る強さを持つのだ。

 鍛えていないゴミのような天竜人が多いのは事実だが。

 

「天竜人の内輪だけで血を繋ぐの、無理じゃないですか?」

『そうだな。今でもかなりの数の天竜人がいることを考えると、閉塞的に血を繋いでいるわけではないのだろう』

 

 19人の始祖と呼ばれる王たちは伴侶を持っていただろうし、今でも妻として女を下から上へ連れて行く天竜人もいる。

 多大な功績を残すことで、天竜人の伴侶ではなく本人が天竜人としてマリージョアへ上がることを許可される事例も、少ないながら存在する。

 少なくとも、血が濃くなりすぎて自滅するようなことはないのだろう。

 攻め込む側としては厄介な話である。

 

『マリージョアは堅牢だ。天竜人が自滅してくれるなら楽だがそうもいかん。ガーリングもシャムロックも強い……恐らく私以外に対処しきれまい』

「〝神の騎士団〟ですか……世界政府との戦いになったら出てくるんですか?」

『いいや、奴らは天竜人の危機にならない限り出てこない。有象無象の動きに興味などない。()()()()()()()()()()()()()()()()、下に降りてくるのは〝人間狩り〟の時くらいだ』

「……ロクでもない連中ですね」

『まったくだ』

 

 アイリスの呟きに同意するカナタ。

 世界政府非加盟国の国一つ使った〝人間狩り〟のゲームなど、聞くだけで反吐がでる。人権もクソもない話だ。

 今のままでは、革命軍は厳しい戦いを強いられる。搦め手でも何でも使って、とにかくマリージョアを弱らせなければ勝機は無い。

 そのための兵器を、カナタは今用意している。

 

『ではアイリス、麦わらの一味以外は先に言った通りの対処をしておくように』

「はぁい。これが終わったら今度こそ休暇をくださいね」

『悪いが〝白ひげ〟の一件が終わるまでは長期休暇は無理だ。数日単位なら調整してやるからそれで我慢してくれ』

「仕方ないですねえ……今回は欲しいもの手に入ったので、それでいいですよ」

『ああ、それと……くまの改造された体についても、詳細な報告をしておいてくれ。出来れば文書でな』

「えー……」

 

 それを最後に、カナタとの連絡は切れた。

 

 

        ☆

 

 

 麦わらの一味にブルックとペローナが加わった。

 ブルックは正式に一味の仲間となったようだが、ペローナは取り敢えず連れて行くだけ、という判断になったようだ。本人が決めあぐねているようだし、それしか方法がないのだろう。

 ローリング海賊団はブルックが元々乗っていた廃船をフランキーが修理したのでそれを使うらしく、帆が綺麗になっているのがわかる。

 アイリスはこのスリラーバークを〝ウォーターセブン〟まで持っていくため、今は増援待ちであった。アイスバーグが島を船に改造するための参考にするらしい。

 

「別れが惜しいわね」

「オイオイ、もっと宴やってこうぜ!! 食料は一杯あんだろ!?」

「おれたち、次は魚人島なんだ! 楽しみだから早く行きてェんだよ!!」

 

 深海にある神秘の島、〝魚人島〟こそ、麦わらの一味の次の目的地である。

 〝新世界〟の生まれであるローリング海賊団の面々は3年前にそこを通ってこちら側の海に来たらしく、当時を思い出して「良いトコだったぞ」としたり顔で頷いていた。

 もっとも、〝魚人島〟は〝白ひげ〟のナワバリでなおかつ〝黄昏〟の出資する巨大な工場がある。下手な真似をすると危険なので、海賊が暴れることもなく基本的には安全な島だ。

 楽しみすぎて肩を組んで踊るサンジたちを尻目に、記録指針(ログポース)の針が若干下を向いていることを気にして、通って来たというローラたちに詳しく話を聞くナミ。

 

「魚人島って海底にあるんでしょ? どうやって行くの?」

「どうやって、って……そりゃ船をコーティングするのよ」

「コーティング?」

「特殊な溶液でね。それを使って船をコーティングすると、船の浮力がなくなって海の中を潜れるようになるのよ。それで潜って潜って1万メートル。でも私たち、こっち側でコーティング出来るところは知らないのよね」

 

 ちらりとアイリスの方を見れば、それに気付いたアイリスが答えた。

 教える義理は特にないが、こんなことでカナタに直接連絡を入れられる方が迷惑だ。

 

「シャボンディ諸島でコーティング出来ますよ」

「〝黄昏〟の船もそこでコーティングしてるの?」

「してますが、数は少ないですね」

「どうして? 七武海の船でも、マリージョアを通って移動するのは難しいんじゃない?」

「うちには物を浮かせる能力者がいますから。魚人島に用事のある船でない限り、多少時間がかかってもそれで行き来した方が安全だし簡単なんですよ」

「はー……凄いのね、〝黄昏〟」

 

 感心したように息を吐くローラ。

 ナミはそれを聞き、「じゃあ私たちも連れて行ってほしいって言えば船ごと連れて行ってもらえるの?」と首を傾げる。

 安全ならそれに越したことはない、という判断なのだろう。

 ただし、その場合麦わらの一味は魚人島を経由せず〝新世界〟に入ることになる。

 

「……あなたたちなら可能でしょうけど、魚人島を通らず〝新世界〟ですよ」

「えーっ!!? おいナミ、それは駄目だぞ!!」

「そうだぜナミさん!! 魚人島には行かなきゃ損だって!!!」

 

 強硬に魚人島へ行きたがるルフィとサンジ。ウソップとチョッパーは魚人島に行きたい気持ちと危険を避けたい気持ちで揺れていた。

 なるべく安全な航路を取りたいナミだが、この2人の鬱陶しさに面倒くさそうな顔をして「ともかく、一度シャボンディ諸島で情報を集めてからね」と結論を先送りすることにした。

 

「信用出来るコーティング屋を探さないと、腕の悪いコーティング屋に当たったら海中で潰れますから気を付けてくださいね」

 

 心配する言葉に見せかけた恐怖を煽る言葉に、ナミはしかめっ面をする。

 ウソップとチョッパーはその言葉でナミ側に付くことにしたらしく、ルフィとサンジを宥めていた。

 何はともあれ、行って確認しなければその先はわからない。

 新しい仲間と居候を連れ、麦わらの一味を乗せたサニー号は大きく帆を張る。

 

「よーし!! それじゃ、魚人島に向けて出発!!!」

 

 スリラーバークから出て小さくなっていく船を見送り、ローラたちは満足げに息を吐いた。

 

「さーて、それじゃ私たちも出航準備をしましょうか」

「了解です、ローラ船長!」

「あの子らに負けないようないい男探して、今度こそ結婚よ!!」

 

 〝求婚〟の二つ名に恥じぬ気迫で燃えるローラ──その胸に、一本の矢が刺さった。

 

「……え?」

 

 ローラが呆けた声を出す。周りにいた船員たちは瞬く間に倒れていく。

 何が起きているのか分からない。理解が及ぶより先に、ローラは仰向けに倒れていた。

 影を取り返し、船を手に入れ、これからもう一度海賊として旅が出来ると……そう思っていた矢先のことである。

 夜霧は晴れ、太陽は中天に座している。しかし光が強くなれば影が濃くなるのは道理であり──彼女は自分の母親と〝黄昏〟の関係がどんなものであるか、理解していたハズなのに。

 ルフィとロビンがいたから、あの場で殺されていなかっただけの存在だと理解していなかった。

 それは、どうしようもなく致命的な過ちだったと。今更ながらに気が付いた。

 

「アン、タ……!」

「おや、存外しぶといですね。流石に〝四皇〟の血筋です」

「私に、こんなこと、して……ママが知れば、どう、なるか──!」

「どうもなりませんよ」

 

 ローラは勘違いをしている。

 リンリンにとって、巨人族との融和はこれ以上ないほどに求めるものだった。

 それを棒に振ったローラの事をどう思っているか。

 それが再び起こり得るかもしれないのなら、カナタがどう思うのか。

 つまるところ、彼女には想像力が足りなかった。

 

「さようなら、ローラさん。他人の気持ちがわからないのは、貴女の母親譲りですね」

 




備考
ローラが持つリンリンのビブルカードはナミに渡らずアイリスが回収しました
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