ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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第二百五十五話:〝黄猿〟VS〝黄昏の魔女〟

 

「〝七武海〟から追い出されてどう動くかと思っていれば、こんなところでヒヨッ子達の肩を持つなんて……あんた、いったい何考えてんだい?」

「もう政府と関係のなくなった私に、その質問に答える義理があるとは思えないが」

「そりゃァそうだ……けど、邪魔するのは止めてほしいんだよねェ~……()()()()()()()()()()()()()って分かってるハズだよォ?」

 

 自然体なカナタと違い、黄猿は溜息を零してぼやきつつも臨戦態勢だ。

 彼我の距離は僅か2メートルほど。この距離では何をやっても先手を取られると距離を取り、黄猿はしかめ面を隠さない。

 危うく目の前でゾロを殺されるところだったウソップとブルックは、突如として現れたカナタが救ってくれたことに安堵の息を漏らした。

 

「よ、良かった、ゾロ……やっぱあのおばちゃんスゲェんだ……!」

「突いても突いてもすり抜ける体を、今……止めましたね……どうやって!?」

 

 黄猿のレーザーに貫かれ、数度の爆発を受けてゾロは瀕死だ。ちらりとそちらを見ると、カナタは黄猿の方へと視線を戻す。

 彼らを見逃すようカナタが言ったところで、黄猿は聞かないだろう。天竜人を傷つけられ、要請された以上はその責任を果たさねば世界政府から何を言われるか分かったものではない。

 逆に言えば、主犯のルフィがいる以上()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 カナタとしては都合がいいと言っても良かった。

 

「出てきたのがお前だったのは運が良かったな」

「わっしなら容易く倒せると思われてんなら、心外だよォ」

「そうではない。大将の誰が出てこようと、ひとりならどのみち()()()()()だ」

「……だったら、どういう意味だってんだい?」

()()()()()()()()()()()()

 

 わざとらしく挑発するような言葉を選んで発するカナタ。

 黄猿はそれに努めて反応をするまいと無表情を貫く。

 状況が膠着した一瞬の間に、ルフィが判断を下した。

 

「ウソップ、ブルック!!! ゾロを連れて逃げろ!!! 全員!!! 逃げることだけ考えろ!!! 今のおれ達じゃあ、こいつらには勝てねェ!!!」

「潔し……!! 腹が立つねェ~」

 

 ルフィの言葉に合わせ、パシフィスタをフランキーが〝風来砲(クー・ド・ヴァン)〟で吹き飛ばし、ロビンたちが戦桃丸を置き去りに走りだした。

 逃げ切れるかどうかは運次第だが、カナタが黄猿を足止めしている今ならと即断したルフィ。

 その判断に、カナタは僅かに笑みを漏らす。

 勝てない相手から逃げるのは決して悪いことではない。命あっての物種だ。

 

「おばちゃん、ありがとう!!」

「ああ、元気でな!!」

 

 逃げながらも律義に礼を言っていくルフィに返事をしつつ、ひらひらと手を振るカナタ。

 だが、当然ながら黄猿としてもそれを見逃すわけにはいかない。

 

「〝八咫鏡(やたのかがみ)〟」

 

 ヤルキマン・マングローブに向けて光が照射され、木に反射して逃げたゾロたちに向かう。

 それは、黄猿の作り出す光の道だ。そのルートを通って瞬く間に辿り着くという宣言にも等しく、今のウソップたちでは対処などまず不可能である。

 目の前のカナタを無視して光の道を辿ろうとして──

 

 その瞬間、光の道がカナタの手に持った氷の槍によって切断された。

 カナタの刃は光の道を閉ざしただけに留まらず、体勢を崩した黄猿の心臓を抉るように、もう片方の手に生み出された氷の槍が血飛沫を上げる。

 一切容赦のない、明確な殺意の乗った刃である。

 即死こそしなかったものの、心臓を穿たれた衝撃と激痛で体が硬直する。黄猿はなす術もなく、次なる刃が首元に迫るのを見ているしかなかった。

 

 ──自らその道を破壊し、前方へと傾いていた体重を無理矢理後ろへと戻して踏みとどまった。

 黄猿の額にはびっしりと冷や汗をかいており、対してカナタは動きも見せずに小さく笑みを浮かべているだけ。

 突如として眩しい光が消え、何かしてくると身構えていた黄猿が追って来ないことに疑問を浮かべるウソップとブルックだが、ボケっとしていては追いつかれると足を再び動かし始める。

 カナタはそれを見送り、睨みつけるようにして見て来る黄猿の視線を何でもないかのように受け止めていた。

 

「どうした、ボルサリーノ。()()()()()()()()()()()()()

「……やっぱり、あんたの相手なんざするもんじゃないよねェ~……軽い気持ちでこの島に来たのに、とんだ貧乏くじだよォ」

 

 手に己が能力で作った光の剣──〝天叢雲剣(あまのむらくも)〟を生み出し、カナタ目掛けて切りかかる。

 カナタはそれを同じように能力で作り出した氷の槍で受け止め、互いの覇気を纏った刃がじりじりと鍔迫り合いをする。

 遠目にそれを見ていた戦桃丸はあと一歩でゾロを仕留められそうなところで止められて思わず舌打ちをした。

 

「オジキが止められるとこなんざ初めて見たぜ……〝魔女〟の強さは聞いちゃいたが、聞いてた以上にデタラメだな」

 

 だが、如何にカナタが強くとも黄猿を無視することは難しい。負傷した今のゾロならば自分かパシフィスタでも十分に仕留められると戦桃丸は判断した。

 

「PX-1、ロロノアが虫の息だ!! そっちから先に狙え!!」

「まずい……フランキー、ナミさんのことは任せた!」

 

 戦桃丸の指示に従い、サンジ達を襲っていたパシフィスタがゾロ達へと狙いを変える。

 今のゾロ達では迎撃すらままならぬと判断したサンジがパシフィスタを追って走り出した。

 バーソロミュー・くまの肉体に黄猿のレーザーを備え付けたパシフィスタの強さは常軌を逸している。今のゾロ、ウソップ、ブルックの3人にどうにか出来る相手ではない。

 とはいえ、それはサンジがいても同じこと。

 背後から不意を打って攻撃し、転ばせることは出来たものの……その頑強な体に攻撃するだけでも、自らの肉体を痛めつけているに等しい。

 既に一度パシフィスタと戦っていることもあり、サンジの脚は限界に近かった。

 

「サンジ!」

「余所見してる暇があんのか、〝麦わらァ〟!」

 

 戦桃丸の張り手で弾き飛ばされたルフィがマングローブの根にぶつかって止まる。

 覇気を纏った張り手だ。ゴム人間のルフィにもダメージがあり、その特性を理解しつつも覇気を感知することも纏うことも出来ないルフィは後手に回っていた。

 

「わっしの部下達も十分強力でしょォが。あんたが頑張ったってどうにもならねェよォ」

「戦桃丸にパシフィスタか。あれくらいは自分でなんとかしてほしいものだが……」

 

 カナタは片手に持った氷の槍で黄猿の剣を捌きつつ、ちらりとパシフィスタの方を見る。

 アイリスから報告は上がっている。くまのクローンにベガパンクの改造を施した人間兵器で、その頑強さは相当なものだと。

 実物を見るのは初めてだが、くま本人も改造されていることもあって、肉体の頑丈さという一点では本物もクローンも同じようなものだ。

 黄猿のレーザーを科学の領域で再現しているため、攻撃力も十分。

 襲われているウソップとブルックも、なんとか迎撃しようと躍起になっているサンジも、既に瀕死だ。

 

「仕方のない子らだ」

 

 カナタは一言呟き、黄猿を弾き飛ばしてパシフィスタ目掛けて槍を投擲する。

 覇気を纏った槍の一撃は凄まじく、黒い雷の飛来と共にパシフィスタの体を貫通して縫い留めてみせた。

 同時に、視線は戦桃丸の方へと向く。

 

()()()

 

 覇王色による威圧と殺気が戦桃丸へと向かう。

 威圧された戦桃丸は本能的な恐怖と威圧感に脂汗を浮かべ、緊張に息さえ止まる。戦桃丸に襲われていたルフィも余波で肌に感じる程の威圧感だったが、自分に向けられたものではないと察知して即座に逃げの一手を打った。

 ──だが、当然ながらその隙を見逃す黄猿ではない。

 

「おばちゃん!!」

 

 カナタの首に黄猿の〝天叢雲剣〟が突き刺さる。

 戦桃丸に視線を向けたまま、その首の横合いから黄猿が剣を突き刺しているのが見える。思わず叫び声をあげたルフィだが、ロビンがその手を引いて離れるよう促す。

 黄猿はそちらを気にすることなく、カナタの首に刃を刺したまま追撃するように指先から連続してレーザーを射出した。

 脳天、心臓、鳩尾、肺と、どこか一つでも実体を貫いていれば致命傷になり得るような場所を狙って。

 

「んん~?」

 

 攻撃が貫通しても血が流れていない。手ごたえがない。にも拘わらず、どれだけ見聞色の覇気で探っても〝声〟が聞こえない。

 これは変だと感じ、一度引こうとする黄猿の腕をカナタの手が掴む。

 サングラスの向こうで赤い瞳が黄猿を捉えている。

 体に隠れて見えないカナタの左手が、黒い雷を帯びた。

 

「──〝神避(かむさり)〟」

 

 大気が爆ぜる。

 黒い閃光が瞬く。

 剣でなく手刀のまま放たれた〝神避(かむさり)〟は黄猿の体を吹き飛ばし、ヤルキマン・マングローブの幹に直撃して停止した。

 カナタは貫通して穴の開いた首や胸部を何事もなかったかのように修復し、吹き飛ばされた黄猿の下へと近付く。

 

「さっさと立て。この程度の牽制で倒れる程やわではなかろう?」

「……本当に、あんたは……滅茶苦茶なことやるよねェ~……!!」

 

 不意打ちではないが、正面からくらったのだ。如何に黄猿でも傷一つなくやり過ごすなど不可能だった。

 軋む体を無理矢理動かして立ち上がり、再び剣を構えた。

 氷の槍を手の中に生み出し、黄猿の剣を受け止めるカナタ。

 

「あれを牽制って呼ぶあんたの感性を疑うよねェ、本当に……!」

「カイドウやリンリンが相手ならあれくらいは牽制だ。お前がそれだけのダメージを負っているのはお前が弱いからだろう」

「これでも大将だよォ。あんたの基準がおかしいだけだと思うけどねェ!」

「ガープにでも鍛えなおしてもらえ」

 

 軽口を叩きながらも2人の剣戟は止まらず、激しい応酬が繰り広げられる。

 しかし先のダメージが祟ってか、黄猿の剣は精彩を欠く。今はなんとかしのげているが、時折見聞色の覇気を使ってもカナタの動きを掴めなくなっていた。

 単にカナタの覇気の方が上、という事実もあるのだろうが……それだけでは説明しきれない気持ち悪さのようなものを感じ取り、黄猿は顔をしかめる。

 カナタの強さは昔から知っている。七武海の一角でありながら四皇に匹敵する実力者だ。

 だが、海軍大将は相手が四皇でもある程度拮抗できる程度の実力だ。今のカナタは黄猿を相手に遊んでいると言っていい。

 このままでは仕事も果たせないし、そもそもカナタに殺されそうだ。どうにかしなければ──と、考えていたところで。

 戦桃丸の怒声が響き渡った。

 

「テメェ、何してやがるくま公!!」

 

 その声にカナタと黄猿の視線が向く。

 パシフィスタではない、本物のバーソロミュー・くまがいた。

 既に手袋は外され、ゾロが消されている。

 

「バーソロミュー・くまァ……! 〝七武海〟は本部に招集を受けているハズ……これだから海賊は信用ならねェよォ~~!!」

「何のマネだ、あの男……!!」

 

 少なくとも、カナタの目の届く範囲で彼女の意に反することをしたいのなら相応の誠意か覚悟を見せてもらわねばならない。

 島を揺らすほどの覇王色がビリビリと肌を打つ。

 

「答えてみろ、バーソロミュー・くま! 何の真似だ!!?」

 

 怒気を滲ませたカナタの問いに、くまが慌てたようにカナタの横へと瞬間移動してきた。

 

「彼らをここから逃がしたい。アンタなら彼らが出航するまで守れるかもしれないが、アンタだって色々と忙しい身の上だろう」

「お前にそれを決める権利はない。侮るようならここで殺すぞ」

「……それはそうだ。だが、俺が思うに……彼らに〝新世界〟はまだ早い」

「…………」

 

 このまま追われるように〝新世界〟へ入ったとしても、彼らの実力はまだ〝新世界〟に巣食う怪物たちには遠く及ばない。

 加えて、天竜人を害された以上は海軍も世界政府も執拗に追いかけるだろう。ルートを推測出来る場所に送り出すべきではない。

 出来る限り場所を悟られず……それぞれが己の力を高められる場所へ。

 

「おれはきっと、彼らに恨まれることだろう。だがそれでも構わないと思っている」

 

 どのみち、二度と会うことはない。

 くまはそれだけ伝え、カナタの反応を待つ。

 

「くまァ、おめェいったいどういうつもりだィ?」

「政府の息のかからない事例で海軍と仲良くする義務はない。質問には答えない」

 

 黄猿の問いをにべもなく切り捨て、カナタは僅かに逡巡して決断した。

 

「いいだろう。あの子らはどうせ私の言うことなど聞かないだろうからな」

 

 強制的に鍛えなければならない環境に放り込むのは確かにひとつの手だ。

 だが、ひとつだけ答えてもらわねばならない。

 

「お前がそれほど〝麦わら〟のルフィに肩入れする理由があるのか? 数いる海賊のひとりでしか無かろう」

「……おれは〝革命軍〟だからな」

 

 その答えで察したカナタは、ひとつため息を零して「早く行け」と顎で指示する。

 まだ何か隠していることもあるようだが、それは後で問い質してやればいい。

 くまはあとで海軍か政府に問い詰められることになるだろうが、それは行動を起こしたくまの責任だ。カナタがどうにかしてやる義理もない。

 問い質そうとした黄猿を押し留め、カナタはルフィへ声をかけた。

 

「ルフィ! くまに飛ばされても死ぬことはない! 後はお前次第だ!!」

 

 くまを信じるか否か。

 〝スリラーバーク〟で一度共闘し、背中を預けた者同士ではある。しかし突発的に命を預けられるほどの信頼関係はない。

 たとえ信頼できずとも、くまは変わらずルフィ達をここではないどこかへ飛ばすだろう。だが、それでも何も知らずに飛ばされるより余程いい。

 

「悪いようにはさせん! ()()()()()!!」

「──分かった!!」

 

 何の説明もなく、何を察することも出来ず、くまにどこかへ飛ばされることには抵抗がある。

 けれど、これまで何度も助けてくれて、今回だって目の前で海軍大将から守ってくれたカナタの言葉なら信じてもいいとルフィは考えたのだろう。あるいは考えてもおらず本能的に察しただけかもしれないが。

 

「くま!」

「ああ」

 

 ルフィ達の後のフォローなどどうにでもなる。〝黄昏〟は文字通り世界中にいるのだ。どこへ飛ばされようと、手を伸ばすことは容易い。

 そして、ルフィがカナタの言葉を信じるのならば、どうあれ船長の判断に追従するしかない。

 ウソップが、ブルックが、サンジが、フランキーが、ナミが、チョッパーが、ロビンが、それぞれバラバラにどこかへ飛ばされていく。

 ひとりひとりいなくなる仲間を歯を食いしばって見送るルフィに、カナタは口元に笑みを浮かべる。

 そうしてルフィの番になり、ルフィは飛ばされる前にカナタへ声をかけた。

 

「船にひとり、仲間がいるんだ! そいつも守ってやってくれ!」

「任せておけ! ──それと、餞別だ」

 

 カナタの生み出した氷の槍が黒く染まる。

 これまではバラバラに逃げたルフィたちを巻き込むかもしれないと力をセーブしていたが、もうそれも必要ない。

 ルフィが〝海賊王〟を目指すというのなら、どうあれカナタたちの前に再び現れるだろう。カナタがその称号に興味がなくとも、世は再び〝海賊王〟を求める。

 時代のうねりはここに至り、音を立てて聞こえてくるようだ。

 

「よく見ておけ。お前がいずれ〝海賊王〟になるというのなら、(いただき)を知っておいても損はない」

 

 バチバチと黒い稲妻が奔る。

 かつてロジャーがそうであってように、強者こそがこの海を踏破出来る。弱者に何かできる程、この海は甘くない。

 黒い雷はカナタの体から放出され、うねり、槍へと纏まり、大気が震える程の威圧感を見せる。

 それは、神にも匹敵する威光だった。

 

「──〝随神(かむながら)〟」

 

 目で見よ。

 体で感じよ。

 振るわれた槍から放たれた斬撃はヤルキマン・マングローブの大樹を縦に切り裂き、諸島を横断して海をも割った。

 たとえ海軍大将でも、こんなものを正面からくらえばひとたまりもない。

 ルフィはそれを瞬きすら忘れて見入り──くまにどこかへと弾き飛ばされた。

 

 

        ☆

 

 

 シャボンディ諸島の地図に変更が必要なほどの斬撃を放ったカナタは、ルフィがいなくなったことを確認して氷の槍を手の内で砕いた。

 既に黄猿と戦桃丸の姿はない。

 先の一撃を放つにあたり、狙いはしたが当たらなかった。

 ……当てようと思えば当てられたが、諸島を横断するほどの威力の斬撃だ。方向を間違えば諸島に住む人間まで簡単に断ち切ってしまう。これでも人のいない方向を選んで振るったつもりである。

 

「相変わらずの逃げ足の速さだな。これだからあいつは厄介なんだ」

 

 胸元にかけていたサングラスをかけなおし、カナタが小さくぼやく。

 ボルサリーノはピカピカの実の光人間。その移動速度もそうだが、黄猿自身の強さも侮れない。カナタが対処出来るなら有無を言わせず叩き潰せるが、実際に戦場で誰が相手をすることになるかわからないのだ。

 余波だけでもノーダメージとはいかないだろうが、数日もあれば怪我など治る。再起不能に出来れば後々楽だったがそううまくはいかないらしい。

 

「それで、どこに飛ばしたのか説明してもらおうか」

「ああ。この場で説明するか?」

「いや、沖合にうちの船が来ている。一度そこへ移動してからにしよう」

 

 レイリーとシャクヤクに挨拶もしておきたい。軽く回り道をすることになるが、くま自身は能力のおかげで長距離移動を苦にしないので便利なものだ。

 ルフィ達の船に残っている仲間──ペローナの事も何とかしておかねばならない。やることは多かったが、くまがいるならあちらこちらを回るのも楽だ。

 そうだ、と忘れないように倒したパシフィスタのところへ向かう。

 

「移動するならこいつを持っていく。運べ」

「……おれが運ぶのか?」

「お前以外に誰がいる。私に箸より重い物を持たせるな」

「いや……まァ、そうか」

 

 何か言いたそうにもごもごとさせた後、くまは観念したようにパシフィスタを抱え上げる。

 自分のクローンの死体を運ぶというのも妙な経験だ。くまは何とも言えない気持ちになりつつ、カナタの後に続く。

 

「彼らの事を頼みたいが、戦争の準備で忙しいんじゃないのか?」

「私が指示を出す段階は既に過ぎている。あとは集まるのを待つだけだから、私自身はしばらく暇だ」

 

 まずはレイリーのところだな、とカナタは気軽に歩を進める。

 諸島全域に影響を及ぼすような覇気を放出しておきながら、彼女は疲れた様子を見せずにいた。

 

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