ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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第二百五十六話:シャボンディ諸島の後始末

 

 カナタとくまはまず、大きくて運ぶのが大変なパシフィスタを船へと運んでしまおうとくまの能力で移動していた。

 くまの肉球に弾かれたものは空を飛んで移動するため、間に障害物がない限り目的の場所まで一直線に高速で移動出来る便利なものだ。

 カナタが船の方向を指示してくまの肩に乗り、パシフィスタを抱えたくまと共に船へと戻ると、ジョルジュたちに目を丸くされる。

 

「……なんでバーソロミュー・くまと一緒にいるんだ、お前」

「島内で会った。色々と話すこともあるが、先に用事を済ませて来るから待っていろ」

「待ってろって……ていうかお前、諸島で暴れただろ? 騒ぎを起こすなって言ったよな?」

「騒ぎを起こしたのは私ではない。心外だぞ、ジョルジュ」

 

 ほんとかよ、と言わんばかりの疑いの目を向けて来るので、パシフィスタを適当な場所に降ろしていたくまに援護を求める。

 

「騒ぎを起こしたのは〝麦わら〟のルフィ率いる一味だ。天竜人を殴って海軍大将と軍艦を呼び寄せた」

「そいつ、確かロビンと一緒にいる奴だよな。つーか天竜人を殴ったって……カナタやタイガーみたいな命知らずってのは、案外世の中にいるもんなんだな……」

 

 ジョルジュが遠い目をしながらシャボンディ諸島の方を見る。カナタが暴れたのは大将と一戦やり合ったからだと勘付いたからである。

 ルーキーがやらかした事件の始末に来て、カナタと衝突するという事故にあった大将に思わず同情してしまうジョルジュ。

 くまがくまの死体を持ってきたこともそれに関連することだと気付いた。

 

「んで、こっちは?」

「政府の新兵器だ。海軍の技術部門……ベガパンクが作った、くまのクローンを素体に改造を施した人造兵器〝パシフィスタ〟だ」

 

 解剖するなりリバースエンジニアリングするなりで中身を徹底的に調べ上げ、詳細を把握しておきたいとカナタは言う。

 黄猿のレーザーを主兵装に、くまの頑丈な肉体を合金で(よろ)うことで耐久性も上げている。現時点ではさしたる脅威にはならないが、それはカナタが相手をするからであって、現にルフィたちは一体倒すだけでも随分疲弊していた。

 〝黄昏〟の戦闘部隊でもそれなりに苦戦を強いられると考えるなら、今のうちに対抗策を考えておかねばならない。

 今のところ自然系(ロギア)に対する有効策を持たないので、自然系(ロギア)の能力者ならカモに出来るが……そもそも数が少ない能力者を当てにするべきではないだろう。

 

「素体は多ければ多いほどいいが、手に入ったのは2体だけだ」

 

 カナタが黄猿の相手をするときついでに倒した1体と、ルフィたちが倒した1体である。

 シャボンディ諸島には複数体派遣していたようなので、探せば他にもまだいるかもしれないが。まぁそれは遭遇出来るかどうか運次第だ。

 

「カテリーナの奴が喜びそうだな……あいつはどっちかというとクローンを戦闘兵器にする倫理観に怒るのが先か」

 

 何はともあれ、事情は分かった。

 数人がかりでパシフィスタの死体を船内に運び込むよう指示を出す傍ら、もう一度シャボンディ諸島に戻ろうとするカナタへ声をかける。

 

「また行くのか?」

「用事が残っている。それほど時間はかからんさ」

 

 出発準備だけ整えておくようにとカナタは言う。

 天竜人が害された影響で軍艦が来ているため、しばらく周辺海域は警戒が厳しくなるだろう。当人たちは既に島にはいないが、巻き込まれたキッドとローはまだ島にいる。

 海軍も諦めはしないだろう。

 キッドはともかく、ローの方はカナタも多少気にかけている相手だ。海軍を引っ掻き回して逃げやすいようにしてやってもいいが……それは状況を見てからになるだろう。

 くまの肩に再び腰かけ、カナタはレイリーのいる方向を指差す。

 くまはその指示通りに真っ直ぐ移動し始めた。

 

 

        ☆

 

 

「ロロノアを助けてやればいいのか?」

 

 ルフィたちの船である〝サウザンドサニー号〟にはペローナがいた。

 ゴスロリの服を着たツインテールの少女だが、元はモリアのところにいたれっきとした海賊である。医療は専門ではないが応急手当くらいなら出来るというので、船内にあった医薬品と食料品を持たせて準備を整えさせる。

 カナタの正体には気付いていないようで、くまがこれまでの事情を話している間に船内を漁って準備をするカナタを不思議そうな目で見ていた。

 準備を整えると、カナタはくまに訊ねる。

 

「ロロノア・ゾロだったか。その子はどこに飛ばしたんだ?」

「〝クライガナ島〟の〝シッケアール王国〟だ」

「聞いたことねェな……」

「今は誰もいない島だ。彼女は知らないようだが、あんたは知ってるだろう?」

「ああ」

 

 シッケアール王国は内乱で数年前に滅んでおり、既に国民はひとりもいない。

 陰気でジメジメした気候に加え、墓場と古戦場しか残っていないので誰も寄り付かない島だ。

 もっとも、今はひとりだけ住んでいる男がいるが。

 

「あそこは今、ミホークが拠点にしている島だ。直接見たことはないが、島の内部に畑を作って暮らしているらしい」

「〝鷹の目〟が住んでるのか!?」

「まぁ奴とて時々海に出ているから、いつでもいるわけではないようだが」

 

 加えて現在は七武海の招集がかかっているので島にはいない可能性が高い。ゾロは重傷だったので、そのまま放置していれば衰弱して死んでしまうだろう。

 ペローナは「大丈夫か、そんなところに乗り込んで」とくまに問い質している。

 モリアと同じ七武海とは言え、ペローナと交流があったわけではない。無断で侵入して帰って来たミホークに斬られるなど、ペローナとしても嫌なのだ。

 カナタは「杞憂だ」と答えた。

 

「あの男は戦士でもない女子供に手を出す恥知らずではない。それに、連絡は入れておくし後で応援も寄越す。必要なものがあればその時言うように」

「そ、そうなのか……? わかった」

 

 医薬品と食料品の入ったバッグと、多少の着替えも含めて荷造りを終えたペローナは頬を叩いて気合を入れる。

 

「さァ、やるならやれ!」

「緊張することはない。移動に少々時間はかかるが、危険はない」

 

 手袋を外したくまがペローナを肉球で弾く。

 ポン、と軽快な音と共に姿の消えたペローナを見送り、カナタは引っ張って来た電伝虫を横に置いて椅子に座った。

 今のうちにくまからルフィたちの行先を聞き出して連絡を入れておこうというのだ。

 飛ばした島に〝黄昏〟の支所があればそこへ。なければ一番近い支所から船を向かわせる。

 もっとも、保護出来てもすぐにシャボンディ諸島へ戻すことは出来ない。カナタ達〝黄昏〟も戦争の準備でてんやわんやしているため、その余裕がないのだ。少々待たせることになるだろう。

 くまとの用事が終わると、丁度甲板に〝トビウオライダーズ〟の頭領であるデュバルとコーティングの機材を持ったレイリーが上がって来た。

 

「話は終わったか?」

「ああ、今終わったところだ」

 

 各地に連絡を入れて受け入れの準備をさせたり、迎えに行かせたりと指示を出した。少々タイムラグはあるだろうが、数日程度なら自前で生き残るだろう。

 くまもレイリーに挨拶をしてから「政府に呼び出しを受けている」と言ってどこかへ消えた。恐らくマリージョアへ向かったのだろう、とカナタはあたりを付ける。

 忙しないが、くまを呼び出すのは恐らく弁明のためではない。

 今回の件を機に、くまの改造を終わらせるつもりなのだろうと思われる。

 

「レイリー、コーティングは少し待っておけ」

「そうだな。彼らが戻って来る保証もない。それまで船はどこかに隠しておきたいが……」

「船は私が預かろう。ここに置いておくよりは守りやすい。彼らが戻ってくる頃に合わせて戻しておく」

「いやいや、おれらが守りますよ!!」

「お前、海軍本部が襲ってきても撃退出来るのか?」

「いやァ、それはちょっと……」

 

 デュバルはカナタに啖呵を切った割に弱気な発言をする。サンジの手配書(手書き)に似ていたせいで海軍本部に追われたことがあるため、その強さを知っているのだ。

 あと単純に海軍本部がトラウマになっているらしい。

 レイリーはカナタの提案に頷く。

 

「ではそうしよう」

「電伝虫は持っているか? 番号を教えてくれ。後でまた連絡を入れる」

 

 レイリーは電伝虫の番号を書いた紙をカナタに手渡し、懐に仕舞うカナタをジッと見る。

 デュバルは既に船を降りて部下に指示を出し始めており、船の上にいるのはカナタとレイリーのふたりだけだ。

 

「少し気になっていたが、随分とルフィ君たちに対して協力的だな? 何か縁でもあるのか?」

「ルフィはうちの元船員の息子だ。それ以外にも見知った顔がいる」

 

 ロビンとフランキーは元より顔見知りで、サンジもジャッジの息子だ。チョッパーはくれはの弟子だからスクラとカテリーナの弟弟子にあたる。ウソップもヤソップの息子なので、か細いとはいえ縁はある。

 こうしてみると、カナタと全く縁がない者の方が少ない。

 

「そうか……彼らも〝海賊王〟を目指すなら、君は最大の壁になるだろう。大変だな!」

 

 他人事のように笑うレイリーに肩をすくめるカナタ。

 カナタはその手の称号にさしたる興味がない。別に名乗りたければ名乗ればいいし、好きなようにやればいいというスタンスであった。

 レイリーは笑いながらも、カナタから視線を外さない。

 

「時に、少し聞きたいことがある」

「なんだ、急に。別に構わんが」

「君は天竜人を殺し、海軍を退けたことで海賊にならざるを得なくなった。目的もなく世界を見て回るだけの海賊団だった」

 

 かつて、カナタは天竜人を殺害し、センゴクと戦って死にかけた。その直後に海の上を漂流していたところをレイリーに助けられたことがあり、その縁でロジャー海賊団と協力関係を結んだ。

 消極的理由で海賊になり、逃げ回ることだけが目的だったカナタがいつしか根を張り、七武海となり、世界的に多大な影響を与えるようになった。

 だが──その目的は、未だ不明なままだ。

 

「〝海賊王〟を目指すつもりもない。地位も名誉も金も力もある──君はいったい、何を目的に動いている?」

 

 これまで七武海として動き、秩序の調停に身を裂いて来た。

 ロジャーの放った死に際の一言から始まった大海賊時代も、彼女の力で襲われる市民は随分と減ったことだろう。

 こう言ってはなんだが、カナタは博打をするタイプではないし、安定をこそ最大の目的としているように見える。

 だが、それでも七武海からの追放と〝白ひげ〟との戦争を能動的に行うことで、カナタの最大の目的ではないと考えられた。

 レイリーにはわからない。

 ロマンを求めるでもなく、現実的な地位や名誉、金を得ることだけを目的とするでもない。カナタの目的はいったい何をすることなのか。

 カナタはレイリーの問いを受け、目を細めた。

 

「目的、か」

 

 ()()()()()()()()()()は違う、と言われたことを思い出す。

 人一倍弱いくせに、口は達者で飄々としていた男の事を。あの時言われたこと、答えたことは今でも思い出せる。

 

「他人に依存した環境は他人によって壊される。ならば、手の届く範囲で仲間が笑える国でも作れれば良いと思った」

「……世界政府に反抗するのはそういう理由か?」

「そうだな。奴らが実質的に世界を牛耳り、気に入らなければ滅ぼしに来る。そうでなくとも天竜人の遊びで奴隷にされるものもいる」

 

 そういったものを、許せないと感じた。

 ドラゴン率いる革命軍に手を貸すのもその一端で、世界政府を直接倒すのは難しいからと文化的な侵略を思想としてラジオを開発したりもした。

 それでも、世界を変えることは難しい。

 短絡的でも、武力の行使による現状の打破こそが最も容易い。そのためにはより強い武力が必要で、〝白ひげ〟の持つ〝グラグラの実〟が欲しかった。

 

「世界政府に取って代わる……私がより良いと思える世界にするために、世界を動かす地位を手に入れる」

 

 より端的に言うならば。

 

「──私が〝世界の王〟になる」

 

 レイリーは、凶悪な笑みを浮かべる目の前の女に、かつて最大最悪の敵だった男を幻視した。

 




次章予告!
「時代は変わると人は言う。
 ロジャー、シキ、オクタヴィア、ロックス……あの頃の海を知る奴らも随分減り、世界はうねりを伴って再び変化の時を迎える。
 時代が変化を求めるのか?
 人が変化を求めるのか?
 新時代は今、ここから始まるんだ。

 次章、修羅皇帝会戦白ひげ/Ultimate C.C.C

 おれァ〝白ひげ〟だ!! 息子たちが見てる前で、みっともねェ戦いが出来るかァ!!!」


次章予告その2
「舞台は〝新世界〟デルタ島! かつて〝白ひげ〟が叩き割ったこの島で、ひとつの時代が区切りを迎える!
 海の皇帝の一角が崩れるか、あるいは伝説通りの強さを示すのか。
 絶対強者同士の決闘の裏で、どいつもこいつも好き勝手動きやがる!
 そんなに暴れてェなら相手してやるよ! もう隠す意味もねェからなァ!!

 次章、修羅皇帝会戦白ひげ/Ultimate C.C.C

 さァ、世界を震撼させるショーの開演と行こうじゃねェか!! ゼハハハハ!!!」
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