ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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修羅皇帝会戦白ひげ/Ultimate C.C.C
第二百五十七話:嵐の前触れ


 ──〝楽園〟、〝水の都〟ウォーターセブン。

 ニコ・ロビンにまつわる一連の事件の影響で世界政府加盟国から外され、危うく〝バスターコール〟のせいで更地となりかかったところで〝黄昏〟のナワバリとなった島である。

 造船業に明るい船大工が数多く住んでおり、今日も今日とて島のあちこちから船を造る音が聞こえてくる。

 その島に今、〝黄昏〟の大部隊が集結していた。

 〝赤い土の大陸(レッドライン)〟に近く、それなりの人数を収容出来る島で、かつ〝黄昏〟の影響力が強い島ということでここが選ばれていた。

 

「直接この島に来るのは久々だなァ……」

「おれは年がら年中飛び回ってるが、お前は最近〝楽園〟には来てねェもんな」

 

 スコッチとジョルジュがウォーターセブンを遠目に見ながら雑談をしていた。

 フワフワの実を利用して〝赤い土の大陸(レッドライン)〟を越えられるジョルジュは今でもあちらこちらに出掛けているが、スコッチはそれなりに歳も取ったので後進の育成を兼ねてハチノスにいることが多い。こんな感想が出るのも仕方のないことだった。

 

「しかし、今回の戦争のためとはいえ幹部全員集合とは珍しい事態になったもんだ」

「仕方あるまい。普段は分散して配置しているが、万が一を考えると分散は基本的に愚策もいいところだからな」

 

 〝白ひげ〟だけならばまだしも、この機に乗じて動くであろう政府と海軍、カイドウとリンリンの事を考えれば戦力の分散など出来る訳がない。

 〝黄昏〟のナワバリに手を出す愚か者は少ないと思いたいところだが、場合によっては少なからず被害が出ることは覚悟せねばならないだろう。

 巨大な勢力になったのは喜ぶべきだが、それ故に強者を分散配置して各個撃破されていたのでは笑い話にもならない。

 その時は海の果てまで追い詰めてケジメを付けさせるしかないわけだが。

 

「集合にはどれくらいかかる予定なんだ?」

「既に大部分は集まっているハズだ。電伝虫で集合するように指示を出していたし、迎えが必要なハンコック達にも高速艇を出している」

「じゃあ大丈夫か」

「グロリオーサから連絡もあった。リコリスがハンコックと少し問題を起こしたらしいが、まぁあの子はまだ若いからな」

「あのクソガキ、お前の指示で迎えに行って問題起こすって度胸あるな……」

 

 カナタとしては少々のやんちゃは目溢ししても良いと思っているが、グロリオーサはそう思わなかったらしく、結構な剣幕で怒っていた。小さなところからトップの権威が崩れていくのだから気を付けろ、と。

 先人の言葉だ。ありがたく胸に刻むことにして、叱るのは任せておくことにした。

 どのみち今は余計なことに思考を割くべきではないのでグロリオーサも否とは言えないのである。

 そうこう言っているうちにウォーターセブンに辿り着く。

 カナタも数年ぶりに訪れるこの島に懐かしいものを感じるが、それはそれとしてずらりと並ぶ〝黄昏〟の艦隊はやはり異様に目立つ。

 船が多ければ人もそれだけ多い。スコッチは思わずといった様子で言葉を漏らした。

 

「これ本当に島の中だけで食料とか水を供給出来てんのか……?」

「農地も水源もまともにないのに出来ている訳が無かろう。船と海列車で輸送させているし、基本的には船に備蓄もさせている」

 

 実際、毎年来る高波の影響で島の地盤が下がっていることもあり、食料と水の供給はウォーターセブンで最も頭を悩ませていることのひとつだ。

 建物の上に建物を継ぎ足すように作り上げられた街であるため、この島で出来るのは観光と加工業のみ。市長であるアイスバーグも頭が痛いことだろう。

 資源に乏しければ他の物で代替出来るようにするのが出来る為政者というものだ。

 無能だったらとうに引きずり降ろしている。

 

「船は正面の港ではなく裏手の方へ回せ」

「? おう、わかった」

 

 ジョルジュは急にそんなことを言い出したカナタに疑問を覚えつつ、船を島の裏手へと回す。

 街から少し離れた岬で船を停めるよう指示したかと思えば、カナタは船を飛び降りた。

 

「なんだ、あいつ?」

「待て、あそこに誰かいる……カイエたちか?」

 

 岬に居たのは、小紫を筆頭にカイエとユイシーズ。

 既に〝閻魔〟と〝村正〟を抜いている小紫に対し、カナタは口元に笑みを浮かべる。

 

「赤犬との戦いは良い糧になったようだな。ガープは……まぁあれはいい。ともかく、苦難を越えてお前たちの覇気もまた一つ強くなった」

 

 カナタの手には既に氷の槍が握られており、ユイシーズとカイエも言葉を発することなく構えた。

 3人の覇気がビリビリと肌を打つ。

 カナタは笑みを浮かべ、呼応するように覇気が漏れる。

 

「ニューゲートとの決闘の前に肩慣らしをしたかったところだ──勇士たちよ、力を見せるがいい」

「怪我をしても知りませんよ」

「小紫、あの人の心配は不要ですよ。大抵の怪我などすぐに治るので」

「むしろ3人がかりでどこまで食らいつけるかだな。倒すくらいの勢いで行きたいものだが」

 

 カナタの挑発にも気圧されず、3人は覇気を漲らせ、倒すつもりで襲い掛かる。

 各々が四皇の最高幹部や海軍大将にも引けを取らない実力者たちだ。さしものカナタも苦戦するだろうとジョルジュたちは予想し。

 

「──〝見通す玉座(フリズスキャルブ)〟」

 

 その予想は、いとも容易く裏切られた。

 

 

        ☆

 

 

「カイエ姉様! 久しぶりで──何ゆえそのようにボロボロに!?」

「いえ……気にしないでください、ハンコック」

 

 九蛇海賊団が迎えの船を使ってウォーターセブンに着いたのは、カナタが到着した日の夕刻だった。

 日が沈もうかという時間帯に、真っ先に降りて来たハンコックはボロボロのカイエを見て目を丸くしている。

 小紫とユイシーズもボロボロだが、ハンコックの目にそちらは入っていないらしい。

 

「思ったよりも早かったな。数日はここで待つことになるだろうと思っていたが」

 

 カナタはと言えば特に疲労した様子も怪我をした様子もなく、降りて来た九蛇海賊団の面々を見渡して感心した顔をしていた。

 高速艇は風だけに頼らず動力を使って動かす船だ。これまでのように帆を使って風を受けるよりも余程早く移動出来る。

 空島で採取できる(ダイアル)を利用したものが多いため、養殖が難しいので船を増やすことが難しいのが欠点だ。

 

「この船は実験作でね。ほら、()()()()()に可燃性のガスを風貝(ブレスダイアル)に大量に入れて貰ったのがあったから、それを燃料にタービンを回して水を汲み上げて……」

「……なるほど」

 

 ウォータージェットで海を飛ぶ船を造ったのだと誇らしげな顔をするカテリーナ。それなら単に風を放出させるよりよっぽど速いだろう。加えて今回は〝凪の帯(カームベルト)〟用に船底に海楼石を使っているため、リコリスの溶解液を使って船の周囲の水流を操って抵抗を少なくしたらしい。早いわけである。

 流体を操作ないし生み出す能力者であれば、ある程度機構を流用して新しい船を造れそうだ。

 カテリーナも考えたものだと感心し、降りて来た九蛇海賊団がカナタの前に整列するのを待つ。

 ハンコックを筆頭に九蛇海賊団が綺麗に整列し、一斉に片膝をついて頭を垂れた。

 

「九蛇海賊団、まかりこしてございます」

「よく来てくれた、ハンコック。お前の献身を嬉しく思う」

「アマゾン・リリーの皇帝はカナタ様です。貴女が必要だと言うのなら、妾たちはどこへなりとも赴きます」

 

 一度は天竜人に捕まり、他者に支配されることを病的に拒むハンコックだが……支配にも種類があるのだと、カナタの下で学んだ。

 出来る事なら今の環境がずっと続くことを願い、そのためならば誰を敵に回そうと構わないと覚悟を決めている。

 

「今回戦うのは私だけの予定だが……上手くはいかないだろう。リンリンもカイドウも、座してこれを見ているだけ、とは思えん。政府も確実に何かしらのアクションを起こすだろうからな」

「政府も急に方針を転換したみたいだからなァ。切ったのはこっちが先だったが、エニエスロビーの件が無くても七武海じゃなくなってたんじゃねェか?」

「何か許容できない情報でも手に入れたのだろう。政府のトップに私の出自が知られたのかもな」

「五老星か? しかしお前の出自ったって……」

「いや、五老星よりも上だ」

 

 カナタの言葉にジョルジュが首を傾げる。

 世界政府のトップは天竜人で、天竜人のトップは対外的には五老星のハズだ。それより上など存在するはずがない。

 だが、カナタは確信を持っているようだった。

 

「ジョルジュ、人間が作る組織や集団において、トップが複数人いることはあり得ない」

 

 たとえ民主的な手段を使って政治をしようと、最高責任者ないし最高権力者は常にひとりだ。

 王が複数人いる集団がどうなるか、というのはかつてのロックス海賊団を見れば明らかである。

 船頭多くして船山に上る、という言葉もある。組織、集団においてトップは常にひとりしか存在しえない。もし2人以上いるのなら、それは何かしらの欺瞞が混じっていると考えるべきだ。

 リンリンとカイドウだって、長いこと同盟を結んでいるが海賊団を一つにしようとはしない。ロックス海賊団の頃の経験から上手くいかないとわかっているからだろう。

 

「確実に、五老星より上に誰かがいる」

「……そいつが最終的に政府を動かしてるってことか」

「そうだ」

 

 そして、その誰かは確実にカナタを敵視している。ここ最近の政府の動きを見ていればある程度その予測はつく。

 またオクタヴィア絡みか、あるいはロックスに絡んだ因縁か。どちらにしてもカナタの利益になることはない。

 

「ハンコック、明日には全ての部隊が集結する予定だ。集まり次第この島を出ることになる。〝ソンブレロ号〟にはまだ空きがあるから、荷物はそちらに移しておけ」

「御意に」

 

 ハンコックたち九蛇海賊団が乗って来た船はカテリーナの試作品だ。あれをそのまま持っていくわけにはいかない。

 荷物といってもそれほど多くはない。多少の着替えと武器だけだ。食料品や医薬品は〝ソンブレロ号〟にある分で十分に賄えるので必要ない。

 九蛇海賊団の面々が荷物を取りに船に戻っていくのを見た後、カナタは急遽スコッチに呼び出された。

 この後はトムとアイスバーグを交えてウォーターセブンの今後について会食を行う予定だったのだが、スコッチはそれよりも優先するべきと判断したらしい。

 

「いきなりどうした。何か緊急の連絡があったのか?」

「ああ、緊急もいいところだ。他の奴らにも話せねェレベルの事態が起きてる」

 

 連れて来たジョルジュを含め、カナタたちは自然と厳しい顔をする。

 この状況で厄介事など御免被るところだが、早いうちに対処出来るのならそれに越したことはない。

 スコッチは繋いだままの電伝虫に「こっちの準備は出来たぜ」と声をかけた。

 相手は了承の返事をし、一拍空けて報告を始める。

 

『こちら〝海底監獄〟インペルダウン。悪いが、緊急につき手続きをすっ飛ばして直接報告する』

「構わん。何が起きた?」

『──現在、百獣・ビッグマムの海賊同盟がインペルダウンを襲撃している。監獄内は大混乱、海軍本部へ応援を呼んでいるため、恐らく奴らは海軍と衝突することになる』

 

 ──それは、これから来る巨大な嵐の前触れだった。

 

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