ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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第二百五十八話:殺意の矛先

 

『だからよ!! なんでおれが留守番なんだ!!? 必要だろ!! 戦力!!! 連れて行けよ!!!』

 

 ドデカい声で叫ぶ電伝虫を前に、カナタは思わず顔をしかめる。

 これでも相手側からの声量は大分落ちているハズだが、向こう側でどれだけ大きな声を出しているのか何となく想像がついた。

 何しろ相手は巨人族──それも通常の巨人族の倍はあろうかという古代巨人族の血を引く男である。声量も相応だ。

 納得いかないとばかりに問い質そうとする相手に「落ち着け」と声をかけるカナタ。

 

「別にお前をのけ者にしようというワケじゃない」

『だったらなんだよ!! おれが巨兵海賊団より弱ェってのか!!?』

「そうは言っていない。お前とて12年前のハラルドの件が未だ完全に解決していないことは理解しているだろう、()()

『……っ!!』

 

 カナタの言葉に黙り込むロキ。

 かつて、巨人たちの国であるエルバフ島〝ウォーランド王国〟には偉大な王がいた。

 〝略奪より交易を〟と言い続け、戦いと争いをこそ伝統とするエルバフの戦士たちを変えようとしていた名君である。

 しかし、12年前に息子である王子ロキに殺害されている。ロキはその時の事件が原因で海に出ることになり、カナタが抑え込むまで暴れに暴れて世界政府特別懸賞金という名目で実に26億ベリーもの懸賞金を懸けられることになった。

 

「あの日、お前がいなければエルバフは陥落していた。敵があれで諦めたとは思えない。何があってもお前がいれば何とかなる。そうだろう?」

『そうかもしれねェが……!!』

「エルバフは私にとっても大事な土地だ。後方のかく乱をされると困るからな。お前がそこで守りを固めてくれるなら、私は安心して前だけを見ていられる。任せられるのはお前くらいのものだが……嫌だというのなら、別の誰かに頼むしかない」

『……仕方ねェな!! 何かあったらおれが何とかしてやるよ!!』

「いい子だ。エルバフの事は頼んだぞ」

 

 がちゃん、と通話を切るカナタ。

 微妙な表情で会話を聞いていたジョルジュを始めとする幹部たちの中で、小紫は空気を読まずに尋ねる。

 

「今の、本心なんです?」

「半分はな。もう半分は……もし誰かが決闘の邪魔に現れた時、あいつに暴れられると敵味方関係なく被害が拡大しかねんからだが」

 

 ロキはとにかく大きく、強く、加減が利かない。

 フェイユンのように巨大であることを理解した上で連携を取る訓練をしているならばまだしも、その手の訓練もしていないただ無秩序に暴れるだけのロキが味方として参戦したところでいたずらに被害を増やすだけになりかねないのだ。

 もっとも、もう半分の理由はロキに語った通りのものなのだが。

 

「12年前の事件は私にも想定外だった。事件のあらましはロキやヤルル、ギャバンからある程度聞いたが……事実なら守りは必要だ」

 

 エルバフは巨兵海賊団のアキレス腱だ。誰しも愛着のある祖国を──子供たちを人質に取られるようなことがあれば、非道な行為や残虐な行為すら可能になる。

 ましてやそれを行うのが巨人であれば、起きうる被害の桁は増えることになるだろう。

 多くの目がカナタとニューゲートの決闘に向いている今、隙をついて狙ってくる可能性は高い。

 どうせ守りが必要なら、ロキが適任だ。

 エルバフには〝海賊王の左腕〟と名高いスコッパー・ギャバンがいるが、あの男は自身の子供あるいは妻が人質に取られれば身動きが取れなくなる。その点、ロキは()()()()()()()()()()()()()()

 そういう意味で最も都合がいい男だった。

 

「何もないのが一番ではあるが、巨人族の兵隊を欲しがる奴らはごまんといるからな」

「まァ敵に回すとあれほど厄介な奴らもいねェしな……」

「百獣海賊団の〝ナンバーズ〟も厄介ですからね。大きいのは純粋に脅威です」

 

 カイエの言葉にスコッチとユイシーズが頷く。

 能力者や一部の強者を除けば、純粋な大きさはそのまま彼我の戦力差になる。巨人族の兵隊を欲しがるのは野心あるものならば誰もが考えることだ。

 

「ロキなら何とかするだろう。ロクデナシだが強いのは確かだからな」

 

 カナタの言葉にカイエがこそこそとジョルジュに訊ねる。

 

「なんだかロキに対して当たりが強くありませんか? あの人にしては珍しいというか。いえ、ロキは確かにロクでもない男だと思いますけど、それにしたって……」

「ほら、ロキの奴、よりにもよってカナタ相手に『ロックスに憧れてた』なんて口走ったからよ……」

「ああ……」

 

 納得した顔をするカイエ。

 これまで基本的に父母どちらもカナタに不利益しかもたらして来なかったので嫌っているのだ。そもそも世間的に最悪級の犯罪者でもある。

 知らなかったとはいえ、憧れていたなんて口走れば印象が悪くなるのも仕方ないだろう。

 

 

        ☆

 

 

 〝赤い土の大陸(レッドライン)〟を越え、〝新世界〟へと渡る。

 流石に〝マリージョア〟上空は警戒が強いので通れないが、そこを避ければ特に何もない大地が続くだけだ。邪魔をされることもない。

 〝黄昏〟の艦隊は数日かけて海を渡り、〝ハチノス〟に辿り着いた。

 港には帰りを待っていた面々が集まっている。

 

「おう、おかえり姉貴!」

「今帰った。変わりはなかったか、ティーチ」

「おれがいるんだ。問題なんざ起こさせねェよ! ゼハハハハ!!」

 

 大口を開けて笑うティーチを横目に、カナタはその隣に立つジュンシーに視線を向けた。

 その意味を理解したジュンシーは簡単な報告を始める。

 

「問題と言える問題はなかった。が、こやつは少々バレットとそりが合わんな。顔を合わせればケンカ腰になる」

「……まぁバレットも喧嘩っ早い奴だからな。今は仕方ないが、普段は顔を合わせないようにしておけ」

「おれよりあの合体野郎に言ってほしいモンだが」

「あいつにも言っておく。だが、今は入院中じゃなかったのか?」

「スクラの野郎は、もう腕もくっついたし無茶な鍛錬をしなけりゃ問題ねェって言ってたぜ」

 

 カナタにボロボロにされた割に回復は早かったものだ。

 まぁバレットもそれなり以上に鍛えている身だし、軍隊にいた経験もある。医者の指示に従って治療を受けて、しっかり食べて寝れば回復することは理解しているのだろう。

 今後の事を考えればいつまでもベッドの上で寝せているわけにもいかないので都合がいいと言えば都合がいい。

 ティーチが久々に会う小紫と喋ったりハンコックにセクハラしようとしてカイエにケツを蹴られたりしている間に、カナタは幹部たちへ招集をかける。

 ニューゲートとの決闘まで、もう日がない。

 〝黄昏〟の戦力として呼び出した艦隊は既に揃っているため、出航の準備が出来次第出航することになる。

 

「いやァ、久々にラグネルと会います! 彼女も強くなってるんでしょう?」

「ああ。あやつも腕を上げた。もう儂では厳しいな」

「よく言ったものだ……アンタの槍捌きは年々鋭さを増してると噂を聞くが」

「呵々、儂とて寄る年波には勝てぬ。若い時より技術の冴えはあっても、筋力や体力はどうしてもな」

 

 ジュンシーと小紫、ユイシーズが話している一方で、ティーチは蹴られた尻をさすりながらカイエに苦言を呈していた。

 

「痛ェな、クソ……姉御、もう少し加減しろよ!」

「ハンコックは男嫌いなのですから、あなたも少しは配慮しなさい。石にされたくはないでしょう?」

「ゼハハハハ、そりゃ御免だな! だがしかし……見れば見る程イイ女だ。この見た目にメロメロの実は、確かに驚異的な強さだろうな。敵に回したくはねェ」

「あまりジロジロ見るでない、無礼者!」

 

 同じカナタの部下という立場上、石には出来ないが……正直なところ、ティーチの不躾な視線はあまり好ましいものではない。

 ハンコックはカイエの背に隠れるように威嚇しており、カイエは未だジロジロと見るのを止めないティーチに呆れるように腰に手を当てている。

 

「船への補給が済み次第出航する。なるべく急ぐようにしろ。決闘まで日がない」

「居残り組は全員使って荷物を運ばせる。まァ流石にこの数の船に補給するのには時間がかかるが、二日はかからねェだろ」

「では余裕を見て三日後だな」

 

 スコッチに補給の手配をするよう指示をだし、カナタは次にブエナ・フェスタを呼び出した。

 〝バナロ島〟の統治を任せていた男だが、今回の一件を連絡するにあたり、フェスタは「やりたいことがある」と色々準備をしていたのだ。

 

「おうカナタ、帰ったか!! こっちはもう準備万端だぜ!!」

「お前、本気で私とニューゲートの決闘を見世物にしようと言うのか?」

「当たり前だろ!! おれはいつだって本気だぜ!!」

 

 葉巻を片手に凶悪な笑みを浮かべるフェスタ。

 この男は迎えを待つことなく海を渡り、あちらこちらに伝手を使って連絡を入れて入念に準備をしていた。

 〝祭り屋〟としての血が騒ぐのだろう。この戦いを使って世界に熱狂を伝播させるのだと、ギラギラとした目でカナタの前に立っている。

 

「モルガンズにも話はつけた!! 事前の告知も済ませた!! 後はお前らが全力でぶつかるだけだ!!!」

 

 狂気さえ感じる笑みを浮かべるフェスタに対し、カナタは非常に嫌そうな顔をする。

 だが「邪魔をしなければ好きにしろ」と言った手前、止めるに止められないのだ。

 

「全世界にお前らの決闘を見せつけろ! この世の頂点がどんなモンなのか、世界に知らしめてやりゃあいい!!」

 

 フェスタはそれを世界に流してやりたいだけだ。

 この世の頂点に最も近い2人の衝突を。

 多くのモノを背負った覇者同士が戦うという、極めて分かりやすい〝熱狂〟があるのだ。これを知らしめない手はない。

 

「世界の王を目指すなら、まずはテメェを舐めてる世界中のカス共に知らしめてやれよ! 世界政府の首狙ってるのは、〝白ひげ〟さえ斃す怪物だってなァ!!!」

 

 

        ☆

 

 

 〝新世界〟海軍支部G-1。

 常ならば海軍本部に詰めているセンゴクも、〝黄昏〟と〝白ひげ〟の戦争ともなれば座して待つという選択肢は取れない。

 ガープやおつると共にG-1支部へと移動し、3人の大将や多くの中将と共に軍艦をいつでも出せるよう準備をしていた。

 そこへ入った連絡が〝海底監獄〟インペルダウンへの襲撃であった。

 海軍本部とて完全に空になったわけではない。名うての中将が控えているし、十分な戦力も残っているが……流石に四皇の海賊同盟を相手取れるほどの戦力は残っていない。

 今からでもとんぼ返りしてインペルダウンへの救援に向かうべきだと考え、マリージョアを通っての軍の移動を申請したところ、五老星から直に連絡が入った。

 曰く、「対処は不要である」と。

 

「本気ですか!? インペルダウンには多くの賞金首がいます! 彼らを野放しにしては、市民たちの安全が脅かされます!!!」

『たとえそうだとしても、君は〝黄昏〟と〝白ひげ〟の一件に集中するべきだ』

「こちらには大将がいます。私とガープだけでも追撃に出れば──」

『くどいな、センゴク。対処は不要だと言っている。それに、今から戻ったところで間に合わないだろう』

「しかし!」

 

 それ以上の言葉を聞く気はないらしく、五老星は言うべき事だけ言ってさっさと電伝虫を切った。

 センゴクは思わず振り上げた拳を机に叩きつけて机を壊し、怒りを抑えるように歯を食いしばって荒い息を吐く。

 

「落ち着きな、センゴク。ガープだって抑えてるんだ。あんたまで暴走されちゃ、あたしの手が足りないよ」

「……済まない、おつるちゃん」

 

 おつるは額に青筋を浮かべたガープの腕を掴んで止めながらセンゴクに声をかけていた。

 センゴクは深く深呼吸をして落ち着き、入って来た報告をまとめる。

 インペルダウンへの襲撃があって程なく、海軍本部へと緊急連絡が入った。

 真正面から襲ってきたカイドウとリンリンが次々に階層を踏破し、その部下たちが檻の鍵を開けていると。

 

「マゼランはカイドウと〝ビッグマム〟をlevel4で迎え撃ったらしいが、あえなく敗北……シリュウは寝返ったらしい」

「マゼランは死んだのかい?」

「息はあるらしいが、予断を許さない状況だと……責任感の強い男だ。変な真似を考えなければいいが」

「カイドウ達はその後どうしたんじゃ」

「……level6の囚人たちの檻を開けていると連絡が入ったのを最後に、連絡が途絶えた」

 

 恐らく職員たちもやられていることだろう。詳しい者がいれば電伝虫の機械を壊されて連絡が入らないようにしたと考えることも出来る。

 インペルダウン内部の事にも詳しいシリュウが裏切ったのなら、そういう行動に出ることも十分考えられる。

 

「〝悪政王〟アバロ・ピサロ。〝若月(みかづき)狩り〟カタリーナ・デボン。〝大酒〟のバスコ・ショット……名を聞くだけで頭が痛くなるような海賊がいる中、最悪なのは元ロックス海賊団の〝王直〟が合流したことだな」

「カナタに負けてインペルダウンに入れられてたんだ。カイドウ達との仲がどうだったのか分からんが、カナタに復讐する気なら手を取る可能性はあるぞ」

「ここに来て元ロックスの連中が勢いづいて来たね……」

「カナタと〝白ひげ〟もそうだが、奴らは本当に……!」

 

 対処しようにも海軍本部にはそれほど多くの戦力が残っていない。

 五老星に止められた以上、センゴク達が勝手に動くことも出来ない。

 一体何を考えているのか問い詰めてやりたいところだが、海軍はあくまで世界政府の下部組織でしかない。中間管理職のセンゴクに出来ることなどなかった。

 インペルダウン内部は惨劇が起きていることだろう。

 何はともあれ、騒動の後始末を付けるために軍艦を派遣せざるを得ないのは確かだ。

 

「……元帥だというのに、おれはまだ無力なままだな」

「バカなこと考えるんじゃないよ、センゴク」

「分かってる。仕事はちゃんとやるとも」

 

 センゴクはそう言って、海軍本部へと連絡を入れ始めた。

 

 

        ☆

 

 

「……よろしかったのですか?」

「インペルダウンの囚人たちは下手に逃がせば影響が大きくなりかねませんが」

「構わん。ムーが許す」

「カイドウも〝ビッグマム〟も、上手く動いてくれれば良いのですが」

「〝白ひげ〟と〝黄昏〟の戦争に下手に介入すると、海軍も手酷い反撃を受けかねません。時期を見るべきでは?」

「ダメだ。あの女だけは絶対に生かしておけん。必ずその首級を挙げよ」

「……〝魔女〟に何か恨みでも?」

「奴自身にはない。だが奴の祖先は──ムーを裏切った暗月ミオは許さん。()()()の娘ならばなおの事」

 

 〝虚の玉座〟に座る王の手元には、ナイフでズタズタに引き裂かれた手配書があった。

 手配書に書かれた名前は〝ロックス・D・ジーベック〟──かつて、世界の王を狙った男である。

 




ここ最近のワンピースでエルバフ関連の情報が津波のように押し寄せているので、ある程度情報が落ち着いたらこっちも少し修正が入るかもしれません。
現段階で分かることを前提に書いてるので、変更が入る可能性があることはご了承ください。
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