ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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第二百六十話:ただ2人の頂上戦争(前編)

 四皇〝白ひげ〟エドワード・ニューゲート──懸賞金額50億4600万ベリー。

 元七武海〝黄昏の魔女〟カナタ──懸賞金額28億9000万ベリー。

 カナタの懸賞金は復活しているものの、いまだ更新されていないため純粋な比較にはならないが……多くの場合、懸賞金の額と危険度はおおよそ比例する。

 〝海賊王〟のライバルとして名高く今現在〝海賊王〟に最も近いとされる男と、海運と貿易で多額の資金を稼いで〝海賊王〟と友誼を結んでいた女では受ける印象も違う。

 ありていに言って、世間の多くはカナタのことを舐めていた。

 

 それゆえに、ニューゲートとカナタの天を割る衝突は世間にその強さを知らしめることとなった。

 

 

        ☆

 

 

 槍と薙刀が触れずに衝突し、その余波で天が割れる。

 話に聞くだけなら頭の心配をするか笑い飛ばすだけでいいが、実際に映像として流されたものを自分の目で見てしまえば否が応でも信じるしかない。

 この世には、そういうことが出来る者がいるということを。

 鋭く奔る刃が大地を割き、ニューゲートが振り抜いた拳が大気にヒビを入れて山を崩す衝撃波を生み出す。

 悪魔の実の能力者が少ない東西南北の海の市民たちも、いまだ偉大なる航路(グランドライン)前半の海で燻っている海賊も、その現象を目にしては瞠目する他になかった。

 

「なんだこりゃ……これが本当に、人間の戦いか……?」

「〝魔女〟ってのは戦いを部下に任せてるだけの臆病者じゃなかったのか!?」

「〝白ひげ〟の強さは健在か……!」

 

 映像電伝虫を通して配信される戦いには息を呑むばかりだ。

 二人の武器が衝突するたびに大気が震えている。能力が発動すれば氷の刃が迫り、大気にヒビが入ってそのすべてを蹴散らしていく。

 

『ハッハァ!! 流石にこの海の頂点に近い奴らの戦いはスゲェな!! ン~~、世界中の奴らにこの熱狂が伝染してる!! 最高だぜ!!』

『いやこれ見て熱狂出来るか? ライブ感はおれも好きだがドン引きしてるやつのほうが多いんじゃねェか?』

『うるせェ!! 冷めるようなこと言うんじゃねェよバカ鳥が!!!』

 

 楽しそうなブエナ・フェスタの声と、冷静にツッコミを入れる誰かの声が配信に交じる。

 〝祭り屋〟としての面目躍如と言わんばかりにここまでお膳立てして映像を配信しているフェスタの仕事には感心するが、この戦いを見て高ぶる、あるいは楽しんでいると感じる感性だけは常人には理解出来ないものだった。

 映像は上空から撮られているものだが、ともすれば距離が離れていても余波で巻き込まれかねない恐ろしさがある。

 フェスタ達も下手に近づけないのだろう。恐る恐る距離を詰めようとして、島を砕く衝撃波と轟音に急いで距離を取るのを繰り返していた。

 

『あ、あれはヤバいな』

『言ってる場合かよ!?』

 

 ニューゲートが振りかぶって殴りつけた直後、大気にヒビが入ると同時にカナタが片手でその衝撃を弾いた。

 たまたま弾かれた方向が海だったので大波を起こす程度で済んだが、グラグラと島が何度も揺れているので先ほどからデルタ島に津波が襲ってきている。

 こんな状況の島に近付くなど自殺行為に等しい。

 

『クソ、口惜しいな……ここからじゃ流石に会話までは拾えねェ』

『あの二人の関係はおれも気になるぜ! お互いに嫌ってると思ってたが、実際はどうだったんだ!?』

『〝白ひげ〟のほうは知らねェが、カナタのほうは嫌ってたと思うぜ。あいつはそもそも元ロックス海賊団のほとんどを嫌ってたしな』

『ロックス海賊団?』

『知らねェか? 昔、カイドウや〝ビッグマム〟、〝金獅子〟や〝白ひげ〟が所属してた海賊団さ』

『四皇が過去に所属してた海賊団!? なんで知られてねェんだよ!!』

『そりゃ政府が情報規制したからだろ。当人たちが話したがらねェってのもあるだろうが……カナタはロックス海賊団の残党を殺して回ってるから、まァ〝白ひげ〟もその一環なんだろう』

『殺して回ってるって、恨みでもあんのか……? しかし、情報が規制された海賊団か。理由がありそうだな……調べてみるか』

『下手に調べると政府に消されるかもな。あと、カナタ相手にそこら辺のことを深堀すると機嫌が悪くなるから気ィつけろ』

 

 近付けない上にカナタとニューゲートの会話も聞こえないので、音声はほとんど雑談を垂れ流すだけの状態になってしまっていた。

 だが、その会話のひとつひとつも世間的にはあまり知られていないことばかりだ。軍艦の上で映像を見ていたガープやセンゴクは余計なことを言うのではないかとハラハラしていた。

 そうやって話している間にも、戦いは進んでいく。

 ニューゲートの薙刀がカナタの体をまっすぐに貫いたのだ。

 

『覇気を纏った刃で貫かれた! 自然系(ロギア)でもあれは死ぬぞ!?』

『バカ言うんじゃねェ。あんなのでカナタがやられるかよ』

 

 心臓を貫かれたように見えても、カナタは何事もなかったかのように槍を振るってニューゲートの首を狙う。

 ニューゲートはそれを間一髪で回避し、上下に分かたれたカナタの肉体は瞬きひとつほどの間に元に戻っていた。

 

『み、見てるこっちの心臓に悪ィな……』

『〝白ひげ〟も強いが、やっぱり衰えてんなァ。昔のあいつなら今ので多少ケガくらいはさせられたハズだ』

『〝海賊王〟と渡り合ってた時の〝白ひげ〟の強さはこんなもんじゃなかったってことか?』

『当たり前だ。あいつは周りに味方がいたから本気じゃなかっただろうが、そりゃロジャーも同じだったからな』

『じゃあ、全盛期の〝白ひげ〟相手だったらカナタさんは分が悪いのか?』

『……どうだろうな。あのレベルになるとおれじゃわからねェ。だが』

 

 島を丸ごと飲み込もうとする津波を一息に凍らせ、ニューゲートと衝突した余波でそれが粉々に砕かれるのを見ながら、フェスタは笑った。

 

『勝者になるにゃあ時の運がいるのさ。今回運があったのは、果たしてどっちだかな』

 

 

        ☆

 

 

 凍った津波が崩れ、ガラガラと轟音を立てて海に沈む。

 決闘が始まってそれほど経たないが、ニューゲートの体には細かい傷があり、カナタには目立った傷が見られない。

 

「家族ごっこをやるだけで漫然と過ごす日々は随分楽しかったようだな。かつてはロジャーと張り合った男がこの始末とは、ほとほと呆れ果てる」

 

 昔──一度だけ戦ったことのある頃のニューゲートはもっと強かったし、〝村正〟に焼き付いたロックスの記憶を見ても今よりは強かった。

 時の流れの残酷さはカナタ自身もよく知っていることだが、ひとつの時代の象徴と言っても過言ではない男がこのありさまでは、ため息がこぼれるのを止められなかった。

 ロジャー亡き後、最も〝海賊王〟に近いとされた男とて人間だった、ということだろう。

 

「好き勝手言いやがる……テメェがおれの何を知ってるってんだ!」

「少なくとも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことだけは知っている」

 

 振動の能力を薙刀に纏わせて振り下ろす。ただそれだけの攻撃が島を割るほどの威力を誇り、カナタは覇気を纏わせた槍でそれを受け止めた。

 バリバリと武装色の覇気が衝突する音が響く。

 〝白ひげ海賊団〟に対する調略を始めたのはここ最近の話ではない。長い時間をかけ、それこそ真綿で首を締めるようにじわじわと弱らせてきた結果が今だ。

 ニューゲートとて経験豊富な海賊だ。気付かなかったはずがない。それでも危機的状況に陥らなかったから大丈夫だと思い、最悪自分が出て決着をつければいいと考えたからである。

 カナタが誰の娘なのか察していたにも関わらず、この程度の対応で済ませたことがニューゲート最大の過ちであったといえよう。

 

「ふざけやがって……!」

 

 人間誰しも海の子だ、とニューゲートは言う。

 それでも、こうまで親の血を意識したのはカナタ相手くらいのものだった。

 見目はオクタヴィアに瓜二つだが、徹底的なまでに策謀を張り巡らせるその性格はロックスを強く意識させる。

 

「正直なところ、テメェがおれに対してそこまで敵意を見せる理由もわからねェ。カイドウのバカやリンリン相手にドンパチやってたのは知ってるが、おれァテメェとそこまで関わりがなかったからな」

「お前もまたロックスの船にいた。理由はそれだけで十分だろう」

 

 グロリオーサのようにカナタの軍門に下るわけでもない。あらゆる意味でカナタの人生に関わってきた父母の負の遺産を清算するために、カナタは刃を振るうのだ。

 たとえ海賊としては穏健派で、仲間に手を出さなければ滅多なことでは動かない男が相手であっても。

 

「ロクでもない男だし、正直なところ認めるのも癪な話だが、血が繋がっているのは事実だ。奴の負の遺産は私の手でケリをつけるまで」

 

 薙刀に振動の能力を纏わせ、今度は下からすくい上げるように刃を振るう。

 カナタはそれを踏み潰すように足で抑え込み、無防備になった胸元へと槍を振るった。

 ニューゲートはそれを覇気を纏った腕で防御し、そのまま薙刀を手放して両腕で大気をつかみ、地面に叩きつけるような動作をした。

 何をしたのかと思えば、ニューゲートの動作に合わせて()()()()()

 グラグラと大きく島が揺れ、カナタも空中でバランスを崩す。

 その一瞬を見切り、ニューゲートは振りかぶった腕を叩きつけた。

 

「チッ!」

「オラァ!!」

 

 凄まじい轟音とともにカナタの体が地面に叩きつけられる。

 逃げ場のない衝撃をまともに受け、大地が砕けていく。

 並の相手ならばこれ一撃でノックアウト出来る威力だ。カイドウとて、これをまともに食らえばただでは済むまい。

 ──あくまで、並の相手ならば。

 

「──ッ!!」

 

 土埃が巻き起こる中でカナタの槍が真一文字に振るわれ、ニューゲートの胸元に傷を付ける。

 ニューゲートは浅いとはいえまともに攻撃を食らったことに眉を顰め、いったん距離を取った。

 姿が見えずとも、見聞色の覇気によってカナタの動きも意思も見えている。それでも、ニューゲートの見聞色をすり抜けて斬撃を届かせたことは強く警戒するべきだと判断したのだ。

 

「さすがにグラグラの能力で攻撃されればキツイな」

 

 立ち上がったカナタの口の端から血が出ている。防御はしたが、そもそもの威力が高すぎて完全には相殺出来なかったのだ。

 それでも顔色を変えずにニューゲートを睨みつけている。

 

「なんでもねェような顔しやがって……頑丈な女だぜ」

「カイドウやリンリン程ではない」

 

 口元に垂れた血を指で拭うカナタ。

 島の環境は既に滅茶苦茶で、ニューゲートが本気で行使した能力によって大波が迫っている。

 この程度なら一息で凍らせることが可能だし、ニューゲートも波そのものを衝撃波で弾き返せるので余計な手間がかかるだけだ。

 気になるのはニューゲートの病のことだった。

 決闘の直前まで投薬や点滴で体調を整えていたことは想像に難くない。マルコを始めとした船医達が最大限努力して、ニューゲートを万全の状態で送り出したのだろう。

 カナタとしても、後々のことを考えれば病を敗北の理由にされるのも困る。

 

「……わずかに息が乱れているな。やはり早期決着が最適か」

 

 ニューゲートの息の乱れ方から、体調が崩れかかっていることを察した。

 ゆえに、本気でやるならばと携えていた刀に手を伸ばす。

 

「なんだ。見せつけるだけかと思っていたが、使うのか、それ」

「道具に罪はないからな。お前を屠るならば、一度はお前を上回った男の得物を使うのも悪くはなかろう」

 

 刀身は反りが少なく、肉つきが薄く、鎬が高く、細かい波が乱雑に乱れた〝ぐの目乱れ〟。

 何より特徴的なのは〝黒刀〟であること。

 かつてとある男が使い、巨人たちの王とさえ渡り合った刀──名を〝村正〟。

 左手に槍を。右手に刀を持つ変則的な構えで以て、カナタはニューゲートの首を取りにかかる。

 

「加減は無しだ──〝見通す玉座(フリズスキャルブ)〟」

 

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