ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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なんかおかしなことになってたので修正しました。
ご迷惑をおかけしました。


第二百六十一話:ただ2人の頂上戦争(後編)

 

 カナタが〝村正〟を振るうところを見たことがある者はほぼいない。〝黄昏〟の古参でさえ数えるほどしかなく、ましてや他の海賊団で見たことのある者などいないだろう。

 たとえ見たことがあったとしても、その者が生きているかどうかは定かではない。

 それは、〝村正〟という刀を知る者にとってはとある男を想起させるからであり、何よりカナタがその男のことを忌避していたからである。

 その男の名を、ロックス・D・ジーベック。

 カナタとティーチの実の父親にして、名立たる大物海賊を従えて世界の王を目指した、歴史上でも稀に見る最悪クラスの海賊であった。

 ニューゲートもまたロックスの旗下にいたひとりであり、その強さをよく知る者のひとりである。

 ゆえに、わかる。

 どれほど本人が否定しようと、覇者としての在り方が父親によく似ているのだ。

 

「……思い出したくもねェが、思い出しちまうな」

 

 肌を刺すような殺意。

 大気を震わせる覇気。

 ロックスもオクタヴィアも、確かにあの時代で1,2を争う実力者だった。その血を引くカナタもまた、この時代における頂点のひとりに数えられる。

 右手にロックスの刀を持ち、左手にはオクタヴィアと同じように槍を持つ。その姿を見て、想起するなというのは無理があるだろう。

 しかし、カナタが見せたのはニューゲートをして全く新しい技であった。

 

「加減は無しだ──〝見通す玉座(フリズスキャルブ)〟」

 

 その言葉が発されると同時に、ニューゲートは違和感を強く覚えた。

 見聞色は機能している。〝声〟は聞こえるし、集中すれば未来も見える。

 普通であれば気付かないような、小さな違和感──長く戦い続けてきたニューゲートだからこそ気付いたそれに引っ掛かりを覚えたが、それを確認する暇はなかった。

 

 高速で踏み込んできたカナタが上段から刀を振るう。

 ニューゲートはそれを薙刀で防ぎ、振動の力を纏わせた拳を叩きつけた。

 

 高速で踏み込んできたカナタに合わせるように薙刀を振り上げ──カナタは刀を振り上げることなく、白い靄のようなものを刀に纏わせた。

 見た未来と違う動きにニューゲートは舌打ちをしつつ、そのまま振り下ろしてカナタと刃を合わせる。

 だが、刃をぶつけ合ったその瞬間に体を貫く雷が落ちた。

 

「っ!?」

 

 正確に言えば、空からカナタの刀目掛けて落ちた雷がニューゲートの体を貫いたのだ。

 意識の外からの攻撃に決闘への乱入を疑い、カナタが鼻で笑う。

 

「フン、今のが決闘に水を差すバカの仕業だとでも思ったのか? そんな奴がいれば私が先に殺している」

 

 落雷を受け、ともに感電したはずのカナタは何ともない顔をしている。

 

 わずか一瞬、雷を受けたことによる痙攣で動きが止まった。カナタは左手に持った槍をニューゲートの心臓目掛けて投擲する。

 しかしニューゲートも感電には慣れた様子で、痙攣する体を無理やり捻って投擲された槍を躱そうとした。

 完全には避けきれず、左腕に突き刺さり……それに対応する暇もなく、カナタは〝村正〟を振るう。

 

 カナタが槍を投擲する構えを取った瞬間にニューゲートは回避すべく無理やり体を動かし、未来視で視たものより大きく回避行動をとる。

 だが投擲された槍はニューゲートの予測と全く違う軌道を取り、回避した先を狙いすましたかのように槍が飛来した。

 

「グッ!?」

 

 回避は間に合わないと踏み、武装硬化した右腕で防ごうとするもそれすら貫通してニューゲートの心臓を突き穿つ。

 図らずも右腕を縫い留めた形になったため、自由の利かないニューゲートの右側から横薙ぎに〝村正〟を振るった。

 

「〝神避(かむさり)〟!」

 

 薙刀を何とか合わせるように振るい、同時に黒い閃光が弾ける。

 無理な体勢と片手で振るった刃ではカナタが両手で振るった斬撃を受け止めきれず、押し負けたニューゲートの肩口を大きく切り裂いた。

 追撃をかけようとするカナタの目の前でニューゲートは薙刀を手放し、右腕から胸に突き刺さった槍を引き抜いて捨てる。

 傷の痛みなど何するものぞと言わんばかりに、右腕に纏った振動の力がブゥンと大気を揺らす。

 カナタは構わず懐に入り込むも、ニューゲートは待ち構えていた右腕を振り抜いて島を揺らすほどの衝撃を引き起こした。

 

「ハァ、ハァ……!」

「息が切れているな。心臓を貫いてその程度、というのは驚愕するべきだが」

「おれをナメんじゃねェよ、小娘が……!! おれァ〝白ひげ〟だ!! 息子たちが見てる前で、みっともねェ戦いが出来るかァ!!!」

 

 地震を引き起こすほどの振動の力を纏った拳を、カナタは刀一本で受け止める。

 当然、島は大きく揺れて山は崩れ無残な形になったが、そんなものに意識など割く意味もない。

 

「テメェの()()、単におれの見聞色を上回っているだけかと思ったが……そうじゃねェな」

「ほう? お前には気付かれないと思ったが」

「甘く見てんじゃねェぞ! 気付かねェワケがねェだろ!!」

 

 見聞色の覇気で視る未来と違うことは多々ある。相手の見聞色が優れていれば、自分よりも精度の高い未来を見ることもあるだろう。

 だが、ニューゲートとカナタの見聞色にはそこまで大きな差は存在しない。乱戦ならばまだしも、一対一の決闘で数秒先の未来を完全に書き換えるほど未来視に差が出来ることはない。

 つまるところ。

 

()()()()()()()()()()()()()()()……!?」

 

 カナタはその問の是非を答えることなく、小さく笑みを浮かべて〝村正〟を振るった。

 

 黒い雷を纏った刃は横薙ぎに。

 ニューゲートの首を狩らんと奔る刃を拾い上げた薙刀で受け止め、続く斬撃に備える。

 

 黒い雷を纏った刃は曲線を描き、ニューゲートが拾い上げた薙刀の防御をすり抜けるように左の太ももを切り裂いた。

 

「見聞色への干渉、か。まぁ結果としては間違っていないが……」

 

 刀を振って刃についた血を払い、先ほどニューゲートが投げ捨てた槍を拾い上げる。

 心臓を貫き、何度か切り裂いたが、この程度ではまだ倒れる素振りすら見せないのは流石に〝四皇〟の一角というべきか。

 いっそ首を落としてしまえれば話は早いのだが、そこまで容易くはいかない。

 

「少しずつ削り取るしかないか」

 

 リスクを取ればもっと威力のある技もあるが、わざわざ順当に倒せる相手にリスクを背負う必要はない。

 画面映えはしないだろうが、ここからは少しずつニューゲートを削って死に至らしめれば十分だろうと判断した。

 どれほど強くとも寄る年波には勝てない。

 血まみれでなお膝をつかず、並の人間ならばその威圧だけで気絶させられるほどの覇気を放つニューゲートの威容は、死にかけの老人とは思えないほどだった。

 両手に武器を構え、次なる行動に移ろうとして──カナタの見聞色の範囲内に誰かが入ってきたことを知覚する。

 

「チッ。思ったよりも早かったな」

「何?」

 

 カナタはニューゲートから視線を逸らし、空を見る。

 ニューゲートもつられてそちらに視線を送ると、米粒のような小ささの何かが段々とこの島に近付いてくるのがわかった。

 近づいてくる()()が何かわかると、ニューゲートは嫌そうな顔を隠すこともしない。

 

「カナタァァァ!!!」

「白ひげェェェ!!!」

 

 〝焔雲〟によって空に浮かび、巨大な龍に引かれて飛ぶ船。

 遠めに見ても巨大な姿は、遠近感が狂っているようにさえ感じてしまうほどだ。

 四皇〝百獣〟のカイドウ。

 四皇〝ビッグマム〟シャーロット・リンリン。

 この海で最も狂暴と言っても差し支えない、最悪の二人が決闘に乱入しようとしていた。

 

 

        ☆

 

 

「小紫!!!」

「はい!!」

 

 カナタの呼び声に応じ、小紫が即座に天から雷を降らせる。

 カイドウごと船を沈めんとする雷の柱は、しかしギリギリのところで回避された。

 近付いてきていた時点で既に迎撃の準備は整っており、空に船を浮かせるジョルジュは艦隊を並べて一斉に砲撃を開始させる。

 ひとまず止め、落とせるならば海に落としてしまえと言わんばかりの怒涛の砲火である。

 

「カハハハハ!! 来たなカイドウ!!」

 

 弾幕もお構いなしにまっすぐ突っ込んでいったバレット。

 だが、速度だけならバレットを上回るのが雷の能力者である小紫だ。彼女はバレットより遅く出たものの、バレットよりも先にカイドウへと肉薄して斬撃を見舞った。

 

「グオオオオ!!? いい斬撃じゃねェか……!! 誰だテメェは!?」

「小紫と申します──我が父の仇、即刻その首を刎ねてやります」

「ウォロロロロロ……!! テメェみてェな女は知らねェが、雷の能力者か! カナタの部下でその能力ってことは、期待していいんだよなァ!!?」

 

 焔雲を使ってやや乱暴に船を着水させ、カイドウは金棒〝八斎戒〟を手に持ち、空中で小紫と切り結ぶ。

 一方、やや乱暴に降ろされた船に乗っていたリンリンは、さっそく目的を忘れて戦い始めたカイドウにキレていた。

 

「おいカイドウ!! 目的はそっちじゃねェだろうが!!! 年とっても優先順位もわからねェのかいクソガキが!!!」

 

 海賊にとって決闘は神聖なものだ。

 それが名誉と旗を賭けたものならばなおのこと。

 ゆえに、リンリンとカイドウは決闘そのものに介入する気はなかったが……終わった瞬間に暴れる気満々ではあった。

 もちろん、そんなことを知る由もない〝黄昏〟と〝白ひげ〟にとってはいい迷惑である。

 リンリンの乗っていた船に弾丸のように乗り込んだバレットは、先にカイドウの相手を取られたことに舌打ちしつつもリンリンを見上げた。

 

「〝ビッグマム〟か。この際テメェでも構わねェ。あの二人の決闘見て血が滾ってんだ、相手しろよババア!!」

「口の利き方も知らねェようだね、〝鬼の跡目〟ェ!! お前ほどの男が、今じゃカナタの使い走りかァ!? 随分落ちたもんじゃねェか!!!」

「利害の一致で乗ってるだけだ!!!」

 

 カイドウと小紫。

 リンリンとバレット。

 4人の覇王色の持ち主は、周りのことなど考えずに衝突し──全く同時に天を割った。

 

「ゼハハハハ!! 面白れェことになってきたな!!」

「笑ってる場合かよ! テメェも出ろ!」

「おれの出番は姉貴が〝白ひげ〟を討ち取ってからさ! 焦んなよジョルジュ……まァ暴れてェってんなら相手してやるさ。もう隠す意味もねェからな!」

 

 この混沌とした状況に笑い声をあげ、ティーチは実に楽しそうに決闘を続けるカナタとニューゲートを見る。

 インペルダウンの囚人を何千人連れてこようが、ティーチとしてはどうでもよかった。

 この場で最も優先するべきはニューゲートの首で、同時に彼の持つグラグラの実である。

 それさえ手に入るのなら、と。ティーチはカナタの背中を見つめていた。

 

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