ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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第二百六十二話:負け犬たちにアンコールはいらない

 

 カイドウとリンリンに乱入する気がなくとも、ともに乗ってきたインペルダウンの囚人たちは違う。

 彼らは既に一度敗北した落伍者たちであり、プライドよりもニューゲートあるいはカナタを倒すという目先の栄誉をこそ欲した。

 過去に大きな事件を起こして収監されるインペルダウンの囚人たちは、そこらの海賊よりもよほど厄介極まりない者たちだった。

 カナタもニューゲートも、見知った顔がいくつもあることに嫌な顔をしてしまうほどに。

 

「久しいなァ、〝白ひげ〟……!!」

「元気してたようじゃねェか、ワニ野郎……おれァ今、忙しいんだ。テメェの相手なんざしてる暇はねェ」

「うるせェ!! 放っておけば死にそうな状況で、このまま見逃せるか……! テメェだけはおれが首を獲ってやる!!」

「おい抜け駆けすんじゃねェぞクロコダイル!!」

「そうだそうだ!! おれが先だァ!!」

 

 心臓を槍で穿たれ、カナタに多くの傷を付けられた今のニューゲートならば倒すことは容易いと……ニューゲートに恨みを持つ、または単純にその首を狙う者たちが殺到する。

 同様にカナタも狙われているが、ネームバリューのせいかニューゲートより明らかに数は少ない。

 それでも、少なくない数の海賊たちが群がっていた。

 

「ムルンフッフッフ! カナタは私の獲物よ!!」

「あいつの首獲って、明日のニュースは一面大スクープ取ってやるニャー!!」

「抜け駆けかァ!? そんならこっちも──〝酒豪炉火(シュゴーロップ)〟!!」

 

 〝若月(みかづき)狩り〟カタリーナ・デボン。

 〝悪政王〟アバロ・ピサロ。

 〝大酒〟のバスコ・ショット。

 かつて聞くものが震えあがるような大事件を起こし、インペルダウンの最下層に収監されていた囚人たち。その中でも飛びぬけて強い三人がカナタへと向かった。

 先を走るデボンを追うように、バスコ・ショットが口に含んだ酒に火をつけて噴き出す。

 火球はデボンよりも早くカナタへ到達し──カナタは左手に持っていた槍で容易く火球を弾き返した。

 先行していたデボンはまっすぐ弾き返された火球に驚いて急ブレーキをかけ、少し遅れて並走していたアバロ・ピサロとバスコ・ショットは高速で戻ってくる火球に目玉が飛び出るほど驚く。

 

「ちょっ──!」

「ギャーッ!!」

「ニャーッ!?」

 

 3人まとめて爆発、炎上し、その間に我先にとカナタへ囚人たちが殺到していく。

 カナタは鬱陶しそうに舌打ちをすると、部下の名前を呼んだ。

 

「オーガー!」

「ここに」

 

 厳密にはティーチの部下だが、ワプワプの実を食べたことで自分や他人を瞬間移動させることが可能となったため、カナタの指示でも動くようにティーチと取り決めている。

 そのため、こういった状況では必要な場所に必要な人物を移動させるのに非常に重宝していた。

 視線をオーガーへやることなく、指示をし始めるカナタ。

 

「ハンコックが最適だ。あの子に囚人たちの相手をさせろ」

「承知」

 

 指示を聞くなりすぐに消えるオーガー。

 それほど時間もかからず、囚人たちとカナタとの間にハンコックを伴って現れた。

 ニューゲートを狙っていた囚人たちも同様に、立ちふさがるようにして現れた2人に警戒感をあらわにしつつも、2人だけなら数で押せるとそのまま突っ込んでくる。

 ハンコックは雄叫びを挙げながら走ってくる囚人たちを睥睨する。

 表情はわずかに怯えを含ませ、()()を作り、相手の欲情を煽るように告げた。

 

「そのように獰猛な声で怒鳴られては……わらわ、こわい……」

「ブヒャー!! たまんねェ!!」

「おいおいイイ女じゃねェか!! 相手してくれるってんなら存分にしてもらうぜ!!」

 

 ただでさえ監獄の中にいて女に縁のなかった囚人たちである。女の囚人たちもいるが、彼女たちでさえハンコックの色気に惑わされてそちらに集中していた。

 ──その邪な心は、ハンコックにとって絶好のカモである。

 

「妾に見惚れるやましい心が、その体を硬くする──〝メロメロ甘風(メロウ)〟」

 

 数百人に及ぶ囚人たちの第一陣が一斉に石化した。

 炎上したせいで運良く難を逃れたデボン達を除いてほぼ全滅である。

 たった一度の能力行使でこれだけの被害を出したためか、流石の囚人たちもこれ以上踏み込むことに二の足を踏んでいた。

 そして、邪魔をしないのであればハンコック側から能動的に襲う理由はない。とにかくカナタとニューゲートの決闘の邪魔さえさせなければいいのだ。

 ──石像の合間を縫って接近したクロコダイルのフックが、死角からハンコックを襲う。

 

「愚か者め、視えておるわ!」

 

 硬質な音と共にハンコックの蹴りがクロコダイルのフックと衝突する。

 どうやってハンコックの能力から逃れたかはわからないが、石化せずに済んだらしい。

 

「チッ。厄介な能力持ってやがる!」

「能力だけと思うな。妾は〝九蛇海賊団〟の船長! 実力無くして選ばれる立場ではない!!」

 

 クロコダイルの放つ砂の刃を避け、ハンコックが強烈な蹴りを見舞う。

 クロコダイルは砂の能力者──すなわち自然(ロギア)系である。並の攻撃は通じない。

 武装色の覇気を纏う蹴りを叩き込んで後退させるも、ほかの囚人たちが隙を見てカナタとニューゲートのほうへ向かおうと虎視眈々と狙っていた。

 ……だが、それもカナタとニューゲートが再び衝突し始めるまでのことである。

 2人の衝突は凄まじく、余波だけで島が大きく揺れて衝撃波が飛ぶ。生半な実力であれに割って入ろうとしても、待っているのはミンチになる未来だけだ。

 自然と巻き込まれることを恐れて遠巻きにし始め、ハンコックが抑えずとも近寄ることさえ出来なくなっていく。

 

「相変わらずムチャクチャな奴だぜ……!」

 

 クロコダイルも手を出しあぐねるほど激しいぶつかり合いに舌打ちし、振動の力によって引き起こされる津波を強く警戒し始めた。

 オーガーも巻き込まれるのは勘弁なのか、ハンコックのすぐ近くに寄ってくる。

 

「一旦船へ避難すべきだ。ここにいては巻き込まれる」

「だが、妾が退けば奴らは決闘を汚すだろう」

「微妙なところだ。確かにかつては名を馳せた賞金首も交ざっているとはいえ、あの2人の戦いに割って入れるほど度胸があるとは思えない」

 

 オーガーの意見にハンコックも渋々ながら頷き、一番近い空中の船へと移動する。

 どちらにしてもオーガーが監視していればすぐに瞬間移動で戻ってこられる。見張りやすい上空のほうが何かと都合がいいのだ。

 ……石化された元囚人たちは、おそらく助からないだろうが。

 

 

        ☆

 

 

 カイドウが〝焔雲〟で持ってきた船は5隻。それ以外にも多くの船が集いつつあるが、少なくともインペルダウンまで行って戻ってきた船はこれだけである。

 うち4隻が〝百獣海賊団〟のもので、2隻は〝百獣海賊団〟の面々が、残りの2隻を埋め尽くすほど元囚人たちが乗っている。残りの1隻が〝ビッグマム海賊団〟の船で、この船にはリンリンの子供たちのほとんどが乗っていた。

 移動の合間にリンリンと囚人たちで面通しをしており、リンリンが気に入った者、あるいは自分の海賊団に勧誘している者たちが乗っていた。

 それ以外の我の強い者たちはカナタとニューゲートを狙って島に降りて行ったが、ある程度は船に残っている。

 とはいえ、現在船は大騒ぎだった。

 

「おい、ママとバレットを船の外に押し出せ! このまま暴れられたら船がぶっ壊れるぞ!!」

「押し出せったって、どうやるんだよ!? あの2人の戦いに割って入るなんて無理に決まって──うわァ!!」

 

 バレットの拳とリンリンの剣がぶつかり、ひと際大きな衝撃が走る。

 ただでさえニューゲートの能力で波が高く、船が揺れているのだ。ともすれば船が横転しかねない。

 船に必死にしがみついて落とされないようにするのに精いっぱいの面々ばかりのなか、カタクリが声を上げた。

 

「おれが行く! ペロス兄は船を守ってくれ!」

「任せろ!」

 

 派手に戦う2人に急激に接近し、バレットの背後から襲い掛かる。

 当然、バレットはそれに気付いて武装硬化した腕でカタクリの槍を受け止めた。

 

「カタクリィ~~! おれが戦ってんだろ!! 邪魔する気かい!?」

「ここで戦うと船が壊れる!! やるならせめて船から降りてやってくれ!!」

「仕方ねェな……場所を変えるよ、〝鬼の跡目〟!!!」

 

 リンリンは剣を振り回し、受け止めたバレットの体を吹き飛ばすようにして島のほうへと無理やり移動させる。

 ゼウスに乗ってバレットを追いかけるリンリンと、それを確認してホッと安心するリンリンの子供たち。

 リンリンは癇癪持ちだし、下手に諫めると己の子供であっても容赦のない決定を下す。意見するのにも一苦労なのだ。

 

「大変だな、〝四皇〟の部下ってのも」

 

 カナタとニューゲートの決闘に茶々を入れるようなマネは仁義にもとるとして、リンリンに止められている。カイドウも部下は諫めているが、聞く気のない囚人たちはそれらを無視している。

 船に残っているのは、比較的理性的な者たちばかりであった。

 その中でも代表的な存在が“雨〟のシリュウ──インペルダウンの元看守長である。

 彼はカイドウとリンリンがインペルダウンに攻め込んでくるなり裏切って海軍本部への情報伝達を遅らせ、2人の傘下へと入った。

 もちろん監獄署長のマゼランは烈火の如く怒ったが、カイドウとリンリンという〝四皇〟の一角を相手に敢え無く敗北。死んではいないものの、瀕死の重傷を負った。

 そして現在、リンリンに部下に勧誘されつつ、部下になったら娘と結婚しろよと恫喝されていた。

 

「……シリュウか。お前はこの戦い、どう見る?」

「〝黄昏の魔女〟が勝つだろうな。十中八九」

「その心は」

「今の2人の状況を見りゃあ、大体想像つくと思うがね」

 

 ニューゲートは心臓を穿たれ、血を多く流してノックアウト寸前。

 対するカナタは大きな怪我をしているようには見えず、戦いは優勢に見える。

 確かにこの状況だけを見るなら、カナタの方が明らかに勝っているように見えるだろう。

 ……〝白ひげ〟という男の恐ろしさを、カタクリはよく知っている。それゆえに、リンリンが長年倒せずにいるとはいえ、まともに表舞台に出てこないカナタがあれほど余裕を持って倒せるものか、と疑問を抱いていた。

 

「……〝白ひげ〟がそれほど老いた、ということなのか」

 

 これは他人事ではない。

 リンリンもすでに齢66を超えている。ニューゲートほどではないが、老化で衰えが見えてもおかしくない頃合いだ。

 対するカナタは47歳。長女コンポートと同い年であるが、このくらいの年齢なら全盛期と言ってもおかしくない。

 ここから先、カナタとリンリンの力は乖離する一方であろうとカタクリは予想しており、今回の決闘で〝黄昏〟を多少なりとも弱体化させねば今後勝ち目はないと考えていた。

 リンリンが死ねば〝ビッグマム海賊団〟は終わりである。

 どうにかして勝てる状況までもっていかねばならない。

 

「ま、それは今考えることじゃねェ。それより、残ったあいつらの勧誘はどうする?」

 

 百獣海賊団のマークが入った船であるが、2隻は実質インペルダウンの囚人たちの船になっていた。うち一隻が近付いてきており、残っている比較的理性的な囚人たちがどうすべきかと相談しに来たらしい。

 仕切りたがりや元々海賊団の船長だった者たちも数多くいるが、〝四皇〟に匹敵するような海賊などそうそういない。

 もう一隻の船は王直が自身のシンパを生んでいるようで、カイドウとリンリンが手を組むと判断したとはいえ油断していい相手ではなかった。

 

「……ママは今戦闘中だ。カイドウも戦っているようだし、〝白ひげ〟と〝魔女〟の決闘が終わるまでは待機していろと伝えろ」

「しばらくは待機か。ならそうさせてもらおう」

 

 カタクリの視線は近付いてくる船からリンリンとバレット、そして上空で戦うカイドウと小紫、島で戦うニューゲートとカナタへと移動させつつ答えた。

 改めて考えると、〝四皇〟のうち3人を単独の勢力で抑え込める〝黄昏〟の兵力は少々まずいのでは、と思いながら。

 しかめ面で考えるカタクリから足音が遠ざかり──誰かが声を上げた。

 

「カタクリ! 危ない!!」

「ッ!?」

 

 ガキン、と背後からの急襲を槍で防ぐ。

 下手人のシリュウはと言えば、葉巻を口にくわえたままニヤリと笑った。

 

「やはりお前は難しかったか……〝ビッグマム〟の次に厄介なのがお前だと聞いていた。ここで刺せれば後々楽だったんだが」

「何の真似だ、シリュウ! お前はおれ達の傘下に入ったんだろう!?」

「傘下に? いいや、おれはあくまであそこを出るまで手を貸しただけだ……そのあとのことは、少々立ち回るために嘘もついたがな」

 

 槍と刀で鍔迫り合いをする2人だが、ここは〝ビッグマム海賊団〟の船の上だ。当然、こんなことをすれば周りの面々も黙ってはいられない。

 だからこそ、()()()()()()()()()()のだ。

 近付いてきた囚人たちの乗る船が内側から爆発する。

 

「ん~~~~、ヒーハー!!!」

 

 ──爆発したのではない。あまりにも巨大な顔面が、内側から船を破壊して現れたのだ。

 見覚えのある顔である。あれほど巨大とは知らなかったが。

 

「〝革命軍〟のイワンコフか! ということは貴様、〝革命軍〟の……!?」

「いいや、おれはあくまで協力者だ」

 

 二合、三合と互いの得物をぶつけ合いながら、シリュウとカタクリは話し続ける。船から現れた珍妙な格好の変態たちが船を飛び移ってきており、〝ビッグマム海賊団〟は現在大混乱に陥っていた。

 味方のハズの囚人たちが襲ってきており、あまつさえ珍妙な格好の変態である。これで混乱するなという方が難しい。

 ペロスペローを筆頭になんとか抑えようと声を張り上げているが、混乱を助長させようとイワンコフが()()()()()()()でペロスペローを吹き飛ばした。

 変態以外の普通の囚人たちも襲ってきており、イワンコフが懐柔したのであろうと思われた。

 

「ウオオオオオ!! キャプテン・バギー万歳!!」

「キャプテン・バギーに勝利を!!!」

「ほえ?」

 

 ……いわれている赤い鼻の男は、なぜこんなことになっているのかさっぱりわからず呆けた顔をしていたが。

 




またしても何も知らないキャプテンバギー

来週はお休みです
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