ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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第二百六十三話:地獄の釜の蓋もあく

 

 ──数日前、大監獄インペルダウン。

 あらゆる階層に入口がありながら、極めて侵入しにくい場所ゆえに看守たちも入れない。

 〝鬼の袖引き〟やら〝魔界〟やら、好き勝手なことを言われる地獄の中の特殊地帯。

 名を、level5.5番地ニューカマーランド。

 そこに今、インペルダウンの看守長であるシリュウが乗り込んできていた。

 

「……事情はわかったわ。〝四皇〟の2人がここに乗り込んできているなんて、とんだ大事件っチャブルね!」

「それもありますが、私はあのシリュウが味方だったというのが信じがたい……!」

 

 ニューカマーランドのトップとして君臨する革命軍の幹部、エンポリオ・イワンコフ。並びにその副官であるイナズマ。

 2人は色々と驚愕の事実を知らされ、冷や汗を浮かべながら対応に苦慮していた。

 

「ここにも監視用電伝虫があるようだが……細かい動きまでは追えてねェようだな。マゼランは今、カイドウと〝ビッグマム〟の相手をするためにlevel4で待ち構えてるはずだ」

「level4で待ち構える意味はあっティブルの?」

「マゼランの毒は奴の体液から発生する。汗が出やすいうえ、蒸発して気化しやすい焦熱地獄なら毒の回りも早い」

 

 本来ならシリュウも戦うべきだが、本気になったマゼランは誰かと肩を並べて戦うことは不可能に近い。毒という特性上、敵味方関係なく影響を及ぼすからだ。

 加えて、本気のマゼランはインペルダウンそのものを崩壊させかねない。相手が誰であっても、戦うならlevel5にマゼラン以外の戦力を集中させるべきと判断したのだ。

 それに、level5は極寒の地獄であるため、監視用電伝虫の目も届かない。マゼランとカイドウたちの戦いが外から見えないので対応も難しい。

 

「インペルダウンは陥落するだろう。カイドウと〝ビッグマム〟の目的は囚人の解放だ」

 

 百獣・ビッグマム海賊同盟の構成員によって、既にlevel3まで踏破されている。

 囚人たちの檻はことごとく開けられ、看守のブルーゴリラや猛獣たちも軒並み倒されている。元より〝新世界〟で今なお戦い続けているような海賊相手に敵うものではないが、目を見張るような快進撃だ。

 挟み撃ちにするように獄卒獣を従えた獄卒長サディちゃんがlevel1で戦っているが、四皇の層は厚い。同道していない幹部が入口付近にいたようで、かなり苦戦している。

 政府も海軍も動きは鈍い。

 おそらく、どちらも〝黄昏〟と〝白ひげ〟の戦争に掛かり切りでこちらに送る戦力の余裕がないのだろう。

 そう踏んでカイドウとリンリンが襲ってきた、ということなのだろうが。

 

「ふーむ……でも、ヴァターシ達はここを出る予定はないわよ。ヴァナタは知っているでしょうけど、ヴァターシ達は革命軍の一員。ドラゴンがまだ大きく動くつもりがない以上、下手にシャバに出ても大きく手配されるだっけゃブル」

「そのことだが──カナタは今のうちに脱獄することを推奨している」

「カナタが?」

「そうだ。〝白ひげ〟の一件が終わり次第、次に標的にするのは百獣・ビッグマムの海賊同盟だと言っていた。その次は世界政府だ。ここで遊ばせておく余裕はない、と」

「そういうこっティブルね……」

 

 百獣・ビッグマムの海賊同盟は強大だ。たとえ〝白ひげ海賊団〟をまるごと傘下に加えたとしても、その全てがカナタに忠誠を誓うわけではない。

 これに加えてインペルダウンの囚人たちを味方にするのであれば、いくら〝黄昏〟が強くとも苦戦は免れないし、数で押されれば敗北もありうる。その次に見据える世界政府の打倒など不可能だ。

 ドラゴン率いる革命軍の協力も必要になってくる、ということだろう。

 革命軍にしても、世界政府を打倒した後の秩序の維持にはカナタの手を借りねばならない。

 

「脱獄するにしても、あてはあるのですか?」

「カイドウたちの船に密航すればいい。おれも協力する」

 

 インペルダウンにこのままいたところで未来はない。シリュウとしてはどこに付くか迷いどころではあるが、やはり最もシリュウの要望に応えられるのは〝黄昏〟だろうと考えていた。

 

「その後はどう考えティブルの?」

「カイドウ達の目的次第だな。いずれにせよ、どこかで補給が必要になるはずだ。降りるにせよ乗ったままにせよ、ここから出ねェことには始まらねェ」

「そうね。イナズマ、キャンディたちに脱獄の準備を急がせなさい」

「すぐに」

「シリュウ、どのタイミングで出るかは決めてあるの?」

「カイドウ達がlevel6まで進撃するのは確実だ。おれはひとまず奴らの軍門に下る。level6の囚人たちを解放した後、上に行く囚人たちの中に紛れ込め」

 

 イワンコフの顔を知っている者はそれなりにいるはずなので、そこは何か対処が必要になるが……無策で密航するよりは他の囚人たちに紛れる方がバレる確率は低い。

 問題はむしろその後にある。

 シリュウは難しい顔をして、カナタからの伝言を伝える。

 

「『インペルダウンの囚人たちも一枚岩ではないだろうから、内部で分裂させろ』と言っていた……出来るか?」

「確かに、囚人たちが全員〝白ひげ〟やカナタに恨みがあるわけじゃナッシブル」

 

 すでに海賊をやる気力がない者もいれば、海賊をやる気があってもカイドウ達に睨まれないところでひっそりと動きたい者もいる。

 見極めるのが難しいが、そういう意味では一枚岩とは言えないだろう。

 ()()()()()()()が誰かしらいれば、バラバラの囚人たちを纏めることが出来るだろうが……イワンコフには心当たりがない。

 考え込むイワンコフに対し、シリュウは葉巻をくわえたまま最後の伝言を告げる。

 

「カナタは『バギーならちょうどいい』と言っていたが……あれだろう? 最近ここに来た赤い鼻の男」

「…………あの男に旗頭が務まっティブルの?」

「少なくともカナタはそう考えているようだ。元ロジャー海賊団の一員で〝赤髪〟の兄弟分というネームバリューは大きい、と」

 

 イワンコフが目を丸くする。

 ドラゴンを船に乗せていた、という一件からバギーがカナタと知り合いであることは知っていたが、元ロジャー海賊団だったとは知らなかった。

 それも、四皇の一角である〝赤髪〟の兄弟分。

 それが本当であれば、確かにネームバリューとしては十分過ぎる。

 ただ本人の実力が非常にアレなのが惜しいところではあるのだが。

 

「ともかく、方針はそれでいいな? おれもそろそろ上に戻らなきゃならん」

「任せっティブル! ヴァターシ達も上手くやるわ!!」

 

 シリュウとイワンコフの密談はこれにて終わり、結果的に密航は上手くいき、囚人たちを焚き付けたイワンコフとシリュウの策も上手くいった。

 バギー本人は何も知らないまま、作戦は決行されたのだ。

 

 

        ☆

 

 

 そして現在。

 

「あんた男だぜ、キャプテン・バギー! まさか兄弟分の〝赤髪〟に見合う勢力を作るために敢えてインペルダウンに飛び込んでくるなんて……!!」

「〝海賊王〟を目指してるんだろ!? おれたちは一度は夢を諦めたが、あんたにもう一度夢を見せてもらえるとは!!」

「キャプテン・バギー万歳!!!」

 

 よくわからないまま持ち上げられ、よくわからないまま先導することになったバギーは目を白黒させながらビッグマム海賊団と戦っていた。

 もちろんバギーの頭の中はクエスチョンマークでいっぱいになっており、状況が掴めていない。

 それでもこの流れに乗ればもしや勢い余って〝海賊王〟にもなれるのでは? と思い始め、遠目に戦うカナタとニューゲートを見て即座にその考えを捨て去った。

 あれと正面から戦うのはちょっと無理だと思ったのだ。

 

「よくわからんが、おれに続け!! やったらァ!!!」

「「「ウオオオオオ!!!」」」

 

 ヤケクソ気味に囚人たちを率いて手当たり次第に襲い掛かるバギー。

 囚人たちは元々バギーより懸賞金額の高い者たちばかりで、リンリンの子供とさえまともにやりあえるような猛者が交じっていることもある。

 これを放置は出来ないとペロスペロー率いるビッグマム海賊団も本格的に戦いを始める。

 その中で、バレットと戦っていたリンリンもそちらに意識が向いた。

 

「なんだァあのガキ……! ロジャーのところの見習いじゃねェか!! テメェの差し金か、〝鬼の跡目〟ェ!!」

「カハハハ!! おれがそんなつまらねェ真似すると思ってんのか、ババア!! あの野郎のことなんざ知らねェな!!!」

 

 バレットはリンリンの疑問に対して笑いながら否定し、強烈な拳を見舞う。

 リンリンはそれを(ナポレオン)で受け止め、返す刃で切りかかる。

 戦いは膠着しており、このまま戦っても決着はつきそうにない。

 その一方で、小紫とカイドウの戦いは今にも決着がつきそうだった。

 

「ハァ、ハァ……!!」

「ウォロロロロ……!! 中々やるようだが、まだ弱ェな!!」

 

 傷の量では圧倒的にカイドウのほうが多い。血にも塗れている。

 しかし、押されているのは明らかに小紫だった。

 そもそもの生命力が違う。桁違いのタフさは少々傷が多い程度では上回れず、数発攻撃を受けただけで小紫は倒れかけている。人型のカイドウでさえ、追い込むことは容易ではない。

 カイドウをひとりで抑え込むなど、同格の四皇でもなければ難しい。小紫はよくやっている方だと言える──当人がどう思うかはまた別の話として、だが。

 

「その刀にその太刀筋、覚えがあるぜ……お前、おでんの娘か!? 太刀筋まで似るとは、カナタの奴はそこまで見て教えてたようだなァ!!」

 

 小紫の持つ〝閻魔〟は見覚えがある。その太刀筋にも覚えがある。

 カナタは一度見れば大抵のものをコピーできるから、おでんの剣技もおそらくそこから受け継がれたのだろうと考えられた。

 そこまでわかっていれば、父の仇と言われてここまでやれる人物などおでんの娘くらいしかいない。息子もいた筈だが、そちらは依然行方不明のままだ。

 

「お前を斬って、ワノ国を返してもらう。それだけの因縁で十分です」

「ウォロロロ、そりゃあそうだ! それが出来りゃあな!!」

「やって見せますとも!!」

 

 小紫は〝閻魔〟を鞘に納める。

 左手は鞘を持ち、右手で刀の柄を持つ。抜刀術の構えである。

 雷の力を凝縮し、覇気を研ぎ澄まし、最速で敵を斬り捨てる──ただ一人の強大な敵を打ち倒すためだけの剣技だ。

 小紫自身の速度を乗せて、〝閻魔〟は鞘から引き抜かれた。

 

「──〝神解(かむとけ)〟!!!」

「〝雷鳴八卦〟!!」

 

 互いの覇気が衝突し、刃がぶつかり、凄まじい衝撃があたりに撒き散らされる。

 小紫の斬撃は極めて鋭く、速いが……単純なフィジカルの強さと見聞色の先読みはカイドウに軍配が上がった。

 受けて返すのがカイドウの戦い方だが、それではマズイと思わせただけ、今の一撃は完成度が高かった。

 ゆえに、カイドウのテンションは底なしに上がっていく。

 

「これだけの力を失うには惜しいな!! おれの部下に欲しいくらいだ!!」

「誰が貴様の部下になど……!!」

「だろうな。おでんも人の話なんざ聞きもしねェ獣みてェな男だった!」

 

 それでも、カイドウはおでんの強さを認めていた。それゆえに、不本意な決着に不満を覚えていたのだ。

 おでんの娘がこれほどまでに実力をつけ、カイドウの首を獲りに来たのならば是非もない。あの時、おでんを相手に生じた不完全燃焼を解消するいい機会だと思うことにした。

 本人と決着をつける機会が永久に失われた以上、こうでもしなければ過去の清算は出来ない。

 

「あの時! おでんは9人の部下がいた!! 今のテメェには何人の部下がいて、どこまでおれに食らいつける!?」

「貴様の相手など、私ひとりで十分だ!!」

 

 カイドウの喉元に食らいつこうと〝閻魔〟を握りしめた直後、あたりに響くような強大な覇気の衝突を感じた。

 小紫とカイドウは同時にそちらに視線を向け、発生元となった2人を見る。

 ほかでもない、カナタとニューゲートの衝突である。

 2人の最大の一撃が衝突し、カイドウはそれを見届けるように呟いた。

 

「──決着か。おれは邪魔が入ってばかりだからなァ……羨ましいぜ、〝白ひげ〟のジジイ」

 




試験終わるまでお休みします。次回投稿は10/13の予定(多分)
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