〝模倣〟とは分野を問わず歴史を繋ぐ手段だ。
先人の生み出した技術、技法を後の世に残すために、後進に教えたり書物に書き記すことなどで模倣させる。
もちろん学ぶ当人の器用さや技術に対する理解度などが足りていない場合、どれだけ努力を重ねようと模倣すら出来ないことも多々ある。
──そういう意味で、カナタはまさしく常識の枠の外にいた。
あらゆる技術を見ただけで模倣し、そのうちにある原理を理解して己がものとする。
ただ模倣するだけに飽き足らず、カナタは戦う相手が手札を見せるほどに戦い方を学習し、対応するために最適化されていく。
〝四皇〟の一角である〝白ひげ〟を圧倒するほどに。
「──老いたな、ニューゲート。昔のお前ならもう少し戦えたはずだが」
左手に槍、右手に刀という変則的な二刀流。
黒を基調とした軍服、その背中には〝黄昏〟の
潮風になびく黒髪は黒曜の如く。膝をつくニューゲートを睥睨する瞳は血よりも赤い。
この場において誰よりも絶対王者として君臨するカナタは、正しく最強に相応しい姿を世界に見せつけていた。
「無茶言ってくれるぜ……!」
最上大業物12工の一振り、〝むら雲切〟を杖のように突いてなお、貫かれた心臓と流れるおびただしい出血のために膝立ちするしかない。
グラグラの実の能力はもとより、それを支える頑強な肉体と強靭な覇気は広い海を探しても2人といないだろう。
〝海賊王〟亡き海において、玉座の前に立ちふさがり続けた伝説の海賊という評価は伊達ではないのだ。
しかし、それでも。
ひとりの人間であるがゆえに老いには勝てず、こうして膝をついている。
とはいえ、カナタとて無傷ではない。
ニューゲートの攻撃は一撃が重い。まともに受ければ死に至る。
だが、カナタは卓越した覇気のコントロールとヒエヒエの実の能力で逸らし、防ぎ、最低限のレベルまでダメージを抑えていた。それでも完全に防ぎきれないあたりがニューゲートが〝世界を滅ぼす力を持つ〟と言われる由縁だろう。
「言い残す言葉はあるか?」
「もう勝った気か……!」
「ここから巻き返せるというなら頑張ってくれても構わんがな。〝
攻撃を受けた瞬間、確実に当たるとわかっているカナタに対してのクロスカウンターでしか、ニューゲートは攻撃を与えられなかった。
もちろんカナタとてそれを無防備に受ける訳ではないため、身を切らせている分だけニューゲートが不利になっていた。
おびただしい血で汚れたニューゲートに最早勝ち目はない。
それでも、ニューゲートは再び立ち上がった。
「おれァ〝白ひげ〟だ!!! 簡単に倒れると思うなァ!!!」
「──上等」
〝むら雲切〟と〝村正〟が正面から衝突する。
互いの覇気を纏ってぶつかる刃はおよそ常識では考えられないほどの規模の余波を生み、隙を窺っていたクロコダイルたち囚人を弾き飛ばす。
「お前じゃねェんだ……ロジャーが待っているのは、お前じゃねェ!!」
「……!!」
「ロジャーの遺志を……
「──そうして、あの宝を見つけた時、世界はひっくり返る、か?」
「……! テメェ!」
「知っているとも。私とてロジャーと友誼を交わした身だ」
そこから先の言葉を言えば、必ず世界はロジャーの処刑の時と同じように混乱が満ちるだろう。
秩序を良しとするカナタとしては、許容出来ることではない。
カナタは鍔迫り合いする中でより覇気を強く放出し、ニューゲートの薙刀を弾く。
「誰が誰の遺志を継ごうが、私の知ったことではない。今を変える権利を持つのは今生きている人間だけだ。私は私の意志でこの世界をひっくり返す──私が〝世界の王〟となる」
カナタの言葉に、ニューゲートはかつて一時的にでも頭を垂れた男を幻視した。
黒い雷を纏った刃はニューゲートの迎撃も間に合わず振り抜かれ、ニューゲートの肉体を大きく袈裟切りにして見せる。
「──なんだ、テメェ」
見た目はオクタヴィアにそっくりだというのに、何のことはない。
「オクタヴィアよりもよほど、ロックスに似てやがる……」
──決闘はこれにて閉幕。
死してなお屈することなく、仁王立ちのまま世を去った。
この決闘において大小さまざまな傷を負うも、その背に──あるいはその海賊人生に、一切の〝逃げ傷〟無し。
☆
〝白ひげ〟エドワード・ニューゲートの訃報は全世界に駆け巡った。
映像電伝虫による全世界への配信により、カナタとニューゲートの決闘は余すことなく知れ渡る。
──その後のことまで、すべて。
砕けた大地の上に立つカナタのすぐそばへとブエナ・フェスタが降り立った。電伝虫を持っているのは別の人物──〝世界経済新聞社〟の社長モルガンズであり、どちらもこの決闘の結果に満足げな様子だった。
『おう、お疲れさん! で、この後はどうするんだ?』
『おめでとう、カナタさん! 今後は〝白ひげ〟に代わり、アンタが〝四皇〟だ!!』
カナタの肩書は多岐にわたるが、最も知られていたであろう〝七武海〟の称号は既に取り消されており、今後はニューゲートに代わって〝四皇〟の一角として扱われることになるだろう。
元より勢力としては〝四皇〟のそれと変わらないと目されていたが、明確にその資格を世界へと見せつけたわけだ。
カナタは〝村正〟を納刀し、槍を地面に突き刺して映像電伝虫の方へと向き直る。
『まずは私がこの決闘によって得たものを伝える』
カナタとニューゲートの間で取り決められていた約定は1つだけ。
〝勝者が敗者のすべての権利をそのまま得る〟というものだけだ。
船員、ナワバリ、物資に至るまで、その権利は今やカナタのものである。
これを宣言せねば、ニューゲートが倒れたことで〝白ひげ〟のマークに守られていたナワバリが荒らされる恐れがある。
ここから先は〝白ひげ〟に代わり、〝黄昏〟がナワバリを管理する。手を出したものは容赦なく対処すると、世間に向けてはっきりと宣言した。
『これ以降、〝白ひげ海賊団〟のナワバリはすべて〝黄昏の海賊団〟のナワバリとなる。これに手を出すものは私に刃を向けるも同然と知れ。そして、同時に残る〝白ひげ海賊団〟の面々は私の傘下の海賊として扱う』
彼らが父と仰いだニューゲートは既にいない。
以降のまとめ役は一番隊隊長のマルコに任せることになるだろうが、従わぬというのならばカナタの前ではっきりそう宣言すればいい。
約定を結んだ〝白ひげ〟の顔に泥を塗ることになるが、カナタはわざわざ自分の指示に従わぬ愚か者を抱える気はなかった。
そうした宣言を世間に向けて一通り発信し終わると、カナタのすぐ近くにティーチが自分の仲間を連れて瞬間移動で現れた。オーガーのワプワプの能力によるものだろう。
『やったな、姉貴! これで名実ともに姉貴は〝四皇〟だ!!』
『世間の称号ひとつにいちいち反応などする暇はない。やることは山積みだ。あそこで暴れているバカのことも含めてな』
『ゼハハハハ!! もうすこし喜んだっていいじゃねェか!! せっかくの勝利だぜ!!』
カナタがちらりと視線を向ける方向では、小紫と切り結ぶカイドウの姿があった。
ティーチはそれらのことよりも、狂暴な笑を浮かべて問うた。
『──約束通り、
『やってみろ』
ティーチの仲間たちはニューゲートの遺体と、そのすぐそばのティーチを巨大な黒い布で覆ってしまう。
映像電伝虫でも中で何をやっているのか見ることは出来ず、それどころか映像電伝虫の視線をカイドウ達の方へと強制的に向けさせられる。
『カナタさん、ありゃ何やってんだ?』
『機密事項だ。それよりも気を付けておけよ、そろそろ焦れたカイドウがこっちに突っ込んできそうだ』
『おっと、そりゃヤベェ! おれたちも退散しようぜ、フェスタ!!』
『バカ言え!! この至近距離でカイドウとカナタの戦闘を映せるんなら、それも世間に見せつけてやりゃあいいだろ!!』
『無茶言うなよ!? あの2人の戦いに巻き込まれたらただじゃ済まねェぞ!!?』
『世界に熱狂を伝播させるためなら、お前が死んだってかまわねェ』
『フザけんな!!!』
フェスタとモルガンズがギャーギャーと言い争っている間に、映像電伝虫の視界の端に黒い布がたなびくのが見えた。
モルガンズがそちらに向き直ると同時に映像はそちらを映し、先ほどと特に変わった様子のないニューゲートの遺体とティーチの姿があった。
カナタはティーチの様子をジッと見ており、ティーチはそれに答えるように頷いた。
『力が溢れて止まらねェ……! 使ってみてェが、どうだ、姉貴!!』
『……世界で一番頑丈な奴がそこにいるだろう。止めてやるからこちらに吸い寄せろ』
『ゼハハハハ!! 剛毅だな!! じゃあ行くぜ──〝
ティーチの体から立ち上る〝闇〟が手に集中し、カイドウの体を吸い寄せる。
目を白黒させつつもティーチの仕業だと見抜いたカイドウは咄嗟に体勢を立て直し、金棒を振りかぶって吸い寄せられる勢いに合わせて加速した。
『〝雷鳴八卦〟!!』
爆発でも起きたかのような轟音と共に、カイドウの金棒がカナタの槍によって止められる。
直後、入れ替わるように前へ出たティーチが右腕を体の内側へと引き絞るように畳み込む。
その構えは、つい先ほどまで戦っていたニューゲートのそれによく似ていた。ニューゲートのことを良く知る〝白ひげ海賊団〟がそれに驚いていると、ティーチは引き絞った腕を大気に叩きつけた。
叩きつけられた大気に大きくヒビが入り、世界を震わせるように衝撃波が生まれてカイドウの体を突き抜ける。
『グオオォォ……!!?』
グラグラと大地が揺れる。
カイドウもたまらず後退し、ティーチはその強大な力に高笑いをする。
『こりゃあ、死んだ〝白ひげ〟の……!?』
『どういうことだ!? おいカナタ!!』
『詳しく説明してやる義理があるのか? 見たまま、視たものが全てだ』
『ゼハハハハハ!! あァ堪らねェな!! すべてを無に帰す〝闇の引力〟!! すべてを破壊する〝地震の力〟!!! 手に入れたぞ。これでおれに敵はねェ……! おれこそが──』
『図に乗るな愚か者』
『痛ってェ!!』
ゴン、と強かにティーチの頭を槍で叩くカナタ。
確かに、ヤミヤミの実による能力無効化とグラグラの実の絶大な破壊力は強力だ。ティーチ自身の実力も相まって、その力は限りなく最強に近いだろう。
だがそれだけだ。
能力を封じられようと、当たればすべてを壊す力を得ようと、それだけで〝最強〟は名乗れない。
叩かれた場所を手でさすりながら、ティーチはカナタに嚙みついた。
『何すんだよ姉貴!!』
『悪魔の実の能力を複数使えるだけで〝最強〟が名乗れるのか? お前、私相手に同じことを言えるのか?』
『ウ……』
最初こそ勢いがよかったが、カナタに睨みつけられるなり、ティーチの勢いは落ちた。
ティーチは決して頭の悪い猪突猛進の馬鹿ではない。野心を隠す狡猾さもあれば、目的のために様々な計画を立てる頭脳もある。
とは言えども、
『仕方ねェな。じゃあおれたちが──』
『来るぞ、構えろ』
『〝降三世〟──〝
金棒を上空で振り回し、その勢いを保ったまま振り下ろす。黒い雷を纏うその一撃は隕石さえ彷彿とさせ、カナタが受け止めた瞬間には島が傾いたかと錯覚するほどの衝撃が走った。
受け止めたカナタも膝をつくほどの一撃で、このまま押し切って叩き潰すと力を入れるカイドウ。
だが、その横合いからティーチが拳を振るった。
大気にヒビが入り、地震の力を遺憾無く発揮した一撃がカイドウを襲う。
それでも今度は意識の内にあったためか、カイドウはティーチをギロリと睨みつけるばかりで倒れなかった。
しかし、カナタの目の前で意識を逸らすという愚行を犯したのは確かだった。
『〝
カイドウの金棒を受け流し、そのまま槍を回転させて真横に斬撃を振るう。
血飛沫を上げるカイドウは痛みに叫び声をあげ、一度距離を取ろうとした。
しかし、今度はティーチが左手をかざす。
『〝
『!?』
『〝
吸い寄せられたせいで回避しようにも回避出来ず、カイドウは覇王色の覇気を纏った斬撃を不格好な体勢で受け止める羽目になった。
カナタの斬撃はカイドウであっても無視しえない。下手に意識から外せば致命の一撃が飛んできかねないためだ。
だが、次はティーチがグラグラの能力で強烈な衝撃をカイドウに叩きつける。
片方だけであれば対処も可能だっただろう。だが、この2人を同時に相手取るのはカイドウであっても難しい。
並び立つカナタとティーチを前に距離を取ったカイドウは、口の端から流れる血を手で拭って睨みつけた。
追う素振りも見せず、ティーチは内から溢れる力に愉快だとゲラゲラ笑う。
『ゼハハハハハハ!! こいつは痛快だ!! おれと姉貴が手を組めば、カイドウだって敵じゃねェ!!!』
『図に乗るなと言ったばかりだというのに……お前のそういうところは変わらんな』
『いいじゃねェか! 平和を愛する庶民、海軍、世界政府!! そいつらに教えてやろうぜ──ここからは、