ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

301 / 323
第二百六十五話:姉弟

 

「おい、オーガー。今のうちにニューゲートの遺体を船に運んでおけ」

「承知した」

 

 カイドウがカナタとティーチの2人を同時に相手取ることを警戒している間に、カナタはオーガーに指示を出していた。

 このままでは戦闘に巻き込んで破損の可能性がある。

 カナタはニューゲートのことが嫌いだったが、死してなお辱めを受けさせようとは考えていない。それに下手な扱いをして〝白ひげ海賊団〟の残党にへそを曲げられても面倒だった。

 ついでのように、うしろでひっくり返っている面々を指さす。

 

「ティーチの仲間の3人と、報道してるバカ2人もついでに運んでおけ。ひっくり返ったままでは巻き込むからな。それと隙を見て電伝虫を持ってこい」

「……承知した」

 

 気絶まではしていないようだが、先のカイドウの一撃の余波だけで吹き飛ばされているのだ。この場にこのままいさせてもロクなことにはなるまい。

 ワプワプの能力で空にある船まで輸送を始めたオーガーを尻目に、仲間を便利に扱われてティーチがため息をついた。

 

「オイオイ姉貴よォ。おれの仲間だぜ、便利に使いすぎじゃねェか?」

「そういう約束だったハズだ。元々あれは私が信用する部下に与えるつもりだった実だぞ」

「そりゃそうかもしれねェけどよ──」

「文句でもあるのか?」

「……ねェ」

 

 あからさまに不満げな顔だが、カナタに睨まれては敵わないのか、ティーチは腕組みをしたまま視線をそらす。

 その様子を見ていたカイドウは、ティーチの顔と言動にまさかと口を開く。

 

「テメェ……カナタァ! そいつは本当にテメェの弟か!?」

()()な」

「半分……? ロックスの方か? 言われてみりゃあ確かに面影がある……しかし驚きだぜ。テメェに兄弟がいたとはな!!」

「昔から船には乗っていた。言う必要がなかっただけだ」

 

 もっとも、カナタとてロックスの顔を知らないのでティーチに面影を感じることもなく、オクタヴィアと殺しあった後までその事実を知らなかったのだが。

 知った前後で何かしら対応が変わったわけでもないのだが、ティーチの方は露骨に協力的になった。

 野心をなくしたわけではない。野望を諦めたわけでもない。

 ティーチにとって、カナタは利用するだけの相手から隣を歩く相手に変わっただけのこと。

 ……カナタに対して面と向かっては言わないが。

 

「おれの力がありゃあ、テメェだって無事じゃ済まねェぜ! どうする? 尻尾巻いて逃げるか!?」

「ウォロロロロ!! 笑わせんじゃねェよクソガキが!! テメェら姉弟があいつのガキだったとしても、おれが退く理由にゃならねェだろうが!!!」

 

 カイドウの体が一回り巨大化した。

 青い鱗、パンプアップした筋肉、海の皇帝と呼ばれるに相応しい強烈な覇気──ウオウオの実モデル〝青龍〟の人獣形態である。

 多種ある悪魔の実の中でも、〝動物(ゾオン)系〟は特に身体能力を直接的に向上させる力がある。

 ただでさえ強靭な肉体のカイドウを更に強くする上、〝動物(ゾオン)系〟の能力はヤミヤミの能力で一時的に能力を封じても実質的にやれることは変わらないため意味がない。

 グラグラの能力を手に入れたとはいえ、決して油断や慢心が出来る相手ではないのだ。

 

「ティーチ、隙があれば攻撃を叩き込め。私が前で防御に回る」

「あァ! 任せろ姉貴!!」

 

 稲妻の如く巨体が疾走する。

 互いに覇王色を纏った攻撃は触れることなく衝突し、共にこの海における絶対強者としての力を見せつけた。

 ニューゲートとの戦いでそれなりに消耗しているが、防戦のみに集中すれば疲労は最小限に抑えられる。あとはティーチがどれだけやれるかだ。

 リンリンはバレットが抑えている。なるべく早くカイドウを倒したいが……この男のタフさは尋常ではない。

 小紫も一度引いているようだし、出来ることならカイドウとリンリンを抑えつけている間に百獣・ビッグマムの海賊同盟の戦力を削っておきたいところだ。

 

 

        ☆

 

 

 数度の輸送を経て、オーガーはバージェス、ドクQ、ラフィットとブエナ・フェスタ、モルガンズ、そしてニューゲートの遺体を上空の船まで運んでいた。

 オーガーはまだ能力者になって日が浅い。跳べる距離も人数も、まだ練度の関係で少ないのだ。

 

「ご苦労さん。船をあっちに近付ける。遺体に用はねェしな」

「構わない。どうするかまでは指示を受けていないからな……ところで、隙を見て電伝虫を持ってこいと言われたのだが」

「あー、用意させる。少し待て」

 

 ジョルジュが適当に指示を出して持ってこさせている間、眼下で戦うカナタとカイドウの様子を見る。

 ティーチは時折動いて攻撃を仕掛けているが、カイドウは流石の反射神経で対応している。引き寄せられても、それが出来るとわかっていれば反応出来る。四皇と呼ばれる実力は伊達ではない。

 カナタも槍一本でカイドウの攻撃をすべて捌いているが、攻勢に転じる暇がないように見える。

 

「……あれの隙を見て持ってこい、というのも難易度の高い話だ」

「そうだなァ。多分、ここで百獣・ビッグマムの海賊同盟を叩くつもりで指示出す予定なんだろうが……小紫! お前代わりに行ってカイドウ抑えられるか?」

「……少々覇気を使いすぎました。短時間でも押し留めるなら、もう少し覇気を回復させたいところですが……」

 

 小紫は息を整えながらジョルジュの問いに答えた。

 カイドウやリンリンといった〝四皇〟と呼ばれる者たちは例外なく隔絶した強者だ。生半可な実力では時間稼ぎすら満足に出来ないほどに。

 

「どうすっかな……海軍ももうすぐ到着するんだろ?」

「前回の連絡の時点でだいぶ近付いて来とったからのう。もう見えるんじゃないかの?」

 

 千代が双眼鏡をのぞき込む。ここは遮るもののない上空だし、天気もそれなりに良い。

 おおまかな方向しかわからないが、海軍の船はすぐに見つかった。

 大小様々な船が船団を組んで近付いてきているのだ。見つからない方がおかしい。

 

「おーおー、随分来とるのう。面倒くさいことになりそうじゃ」

「もう見える距離まで来てるのか。じゃあ急がねェとな……」

 

 ティーチと小紫で時間を稼ぎ、カナタが数秒話す時間を作る。やることはただそれだけだ。

 その間にオーガーはニューゲートの遺体を近付いてきた〝モビー・ディック号〟へと移送する。

 傷だらけではあるものの、遺体が無事に戻ってきたことに〝白ひげ海賊団〟の面々は安堵したようだった。

 もっとも、ニューゲートの死をある程度予想している者もそれなりにいたようではあった。

 一番隊隊長のマルコはその筆頭である。

 

「……正直なところ、オヤジの遺体をきちんと返してもらえるとは思っていなかった。感謝するよい」

「感謝は不要だ。こちらも仕事をやっただけだからな……それより、もうすぐここに海軍も到着する」

「海軍が? 奴らも決闘に水を差しに来たのかよい」

「おそらくは。想定以上に早く決闘が終わったことを含め、あちらの予定通りには行っていないハズだ。だがそれでも、百獣・ビッグマムの海賊同盟と同時に相手取るにはこちらも戦力が足りない」

「……わかったよい。決闘の結果についても、決闘に賭けられていたものについても全員に伝えてある。今更反故にしたりはしねェよい」

「それは重畳。追って連絡を入れると言っていた」

 

 〝黄昏〟の船と電伝虫を繋ぐように伝え、オーガーは戻って小紫と共に地上に降りる。

 ド派手に衝突するカナタとカイドウを前に、オーガーは冷や汗を流す。

 二の足を踏む横で小紫がカイドウの懐へと飛び込み、〝閻魔〟による斬撃を見舞う。入れ替わるようにカナタが下がり、ティーチが前へと出た。

 

「オーガー」

「こちらに。すでに繋げています」

「ご苦労──こちらカナタ。聞こえているな?」

『おう、聞こえてるぜ。海軍ならここから見える距離にもう来てる。どう対処する?』

「〝白ひげ海賊団〟をこちらに回せ。バギーがインペルダウンの脱獄囚を扇動して〝ビッグマム海賊団〟はある程度抑えてある。〝巨兵海賊団〟と共に抑えさせろ」

 

 巨人族だけで構成されている〝巨兵海賊団〟は強大な戦力だ。なるべく海軍に知られたくはなかったので最初から船を空に浮かべて映さないようにしていた。

 彼ら巨人はリンリンに恨みがある。それを晴らす意味でも、百獣・ビッグマムの海賊同盟にぶつけるのがいいだろう。

 〝黄昏の海賊団〟は傘下含め、全軍で海軍の相手にあたることになる。

 数だけなら海軍が有利だが、ひっくり返す手立てがないわけではない。

 今はまだ百獣海賊団が本腰を入れて戦いに参加していないが、残りの脱獄囚たちと共に参戦すれば面倒極まりない相手だ。

 

『〝白ひげ海賊団〟を使って大丈夫なのか? あいつら、傘下に下ったばっかりで言うこと聞くかわからねェぞ?』

「ここで〝黄昏〟が崩れれば困るのはやつらとて同じだ。私はやつらの面倒を見ることをニューゲートに約束したが、肥え太るだけの豚を飼う気はない」

 

 何もしなくても食料や薬が手に入ると思ってもらっては困る。

 あくまで仕事を与え、働きに対して正当な対価を与えるだけだ。

 

「指揮権はすべて千代に預ける。〝戦乙女(ワルキューレ)〟も〝戦士(エインヘリヤル)〟も、傘下の海賊たち含めて好きに使え」

『太っ腹じゃなあ! 任せい、ことごとく打ち砕いてくれるわ!!』

『お前はカイドウを抑えるのか?』

「そうしたいところだが……そうさせてくれないやつがいそうでな」

 

 脳裏に浮かぶのはロジャーの宿敵──〝英雄〟ガープだ。

 正直なところ、老いぼれたガープがどれだけやれるかは未知数なところもある。だが、ニューゲートとの決闘に加えてカイドウとやりあって消耗した状態で、万全のガープを相手取るのは相応にリスクも高い。海軍を長年支え続けてきた〝英雄伝説〟は伊達ではない。

 だが、ガープを倒せれば海軍の士気は一気に落ちる。

 海軍を潰しに行くなら真っ先に落としておきたい男でもあるのだ。

 

「ラグネル、フェイユン。小紫と共にカイドウを抑えられるか?」

『閣下のご要望とあらば』

『任せてください!』

「では2人に小紫の援護を命じる。事前の予定通り、前線にセンゴクがいた場合はティーチに抑えさせる」

 

 センゴクをフリーにすると何をしでかすかわからない。〝智将〟はなるべく働かせないように立ち回るべきだと考えていた。

 大まかな方針だけを伝え、カナタは通信を切る。

 あとは千代の指揮に任せ、カナタ自身は強大な敵を抑える、あるいは倒すことに集中する。

 海軍が到着するまで、もう時間がない。

 

「何事も予定通りにはいかないものだが、一番最悪の状況になってきたな。シャンクスも間に合えばいいが」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。