ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

302 / 323
第二百六十六話:〝私に続け〟

 

 ティーチが本気の一撃をカイドウに打ち込むたびに、島が大きく揺れて大波が発生する。

 カナタの能力で足場を凍らせれば海に落ちることはないが、それにしたって無茶苦茶に過ぎるやり方だった。

 

「ティーチ! もう少し能力をコントロールしろ! 味方の船まで沈めたいのか!?」

「これでもコントロールしようとしてんだよ! 本気で叩き込むだけならともかく、細かいコントロールなんざ出来ねェ!!」

 

 グラグラの実の能力は強力だが、その分繊細なコントロールが出来なければ味方の船まで大波で沈めてしまう。

 能力を手に入れたばかりでまだ感覚が掴めていないのだろう。

 百獣海賊団やビッグマム海賊団の船を沈めるだけなら別に構わないが、インペルダウンの脱獄囚の中にはバギーやイワンコフなどの味方もいるし、今はまだ空中で待機している〝黄昏〟の船も沈められては困るのだ。

 

「ウォロロロロ!! 難儀してるみてェじゃねェか!! さっきの勢いはどうした!?」

「出来の悪い弟だからな、これくらいは想定の範囲内だ!」

 

 カナタの槍とカイドウの金棒が衝突する。

 ティーチの能力で海が荒れても、カナタがいればひとまず足場がなくなることはない。少々面倒ではあるが、グラグラの攻撃能力は非常に魅力的だ。

 悪魔の実の能力というのは、大抵手に入れたばかりではコントロールが甘くなる。ましてやグラグラの実の能力は前任者のニューゲートが〝世界を滅ぼせる〟とまで呼ばれていたほどだ。感覚をつかむまでは苦労するだろうと踏んでいた。

 それでもティーチに食べさせたのは、悪魔の実を2つ食べても死なないという事実と、能力を扱う適任者がほかにいないからだった。

 

「ティーチ! 海軍がもうすぐ来る、加減など考えず全力で大波を起こせ!!」

「ゼハハハハ!! それなら得意だ!!」

 

 ドンッ!!! と拳を振るって大気にヒビを入れ、何メートルもの巨大な津波を引き起こす。

 津波という自然の猛威の前には、ただの人間では出来ることなどたかが知れている。普通なら艦隊などこの津波で壊滅するが……能力者はもとより、常識では測れないような者たちもいる。楽観すべきではない。

 

「海軍だァ? インペルダウンには来なかったくせに、こっちには艦隊を回したってのか?」

「貴様らなど眼中にない、ということだろうよ。私とニューゲートの決闘の邪魔をするために、随分と大量の船を用意したようだからな」

 

 カイドウと打ち合う最中、カナタは軽く答える。

 実際のところ、インペルダウンの囚人を引き連れた百獣・ビッグマムの海賊同盟というのは事前の想定を外れた存在ではあるが……世界政府と海軍の権威を落とすという意味では、これ以上ないほど効果的なものもない。

 それも目の前にいるのに優先して狙うのがこれまで〝七武海〟として各国の経済活動に尽力していた〝黄昏〟なのだ。

 理由はわからずとも、政府と海軍は治安維持よりもメンツを守ることを優先したと取られてもおかしくはないだろう。

 まぁ、邪魔しようにもカナタとニューゲートの決闘は既に終わったのだが。

 

「おれとの勝負を預けて海軍の相手をしようってのか!?」

「お前の首を獲りたい者はうちに何人もいるのでな」

 

 正直なところ、単一戦力としてはカイドウをカナタが抑えるのが一番いいのだが……そうした場合、海軍を抑える戦力が足りなくなる恐れがある。

 カイドウを幹部複数人で抑えてカナタに暴れまわってもらった方がいい、という判断だ。

 

「姉貴!! 海軍が来たぜ!!」

 

 ティーチの言葉に視線を動かしてみれば、地震で発生した津波をあろうことか拳ひとつで吹き飛ばすのが見えた。

 ガープの仕業だろう。それ以外にも大波を斬撃で切り払ったり、マグマで蒸発させたりと派手にやっている。

 見える距離まで来たのなら、仕切り直しが必要だ。

 カイドウと鍔迫り合いしながら、船へと一時戻った小紫へ声をかける。距離が離れていようと、ゴロゴロの能力と見聞色を併用することで会話まで拾えるため合図を送るのに適しているのだ。

 

「あ?」

 

 急に自身を覆った巨大な影に、カイドウが眉をひそめて顔を上げた。

 そこには、自身よりもはるかに大きな巨人が横薙ぎに拳を振るう姿があった。

 

「えーいっ!!!」

「ホブッ──!!?」

 

 全身を強かに殴りつけられ、船まで吹き飛ばされるカイドウ。巨大化したフェイユンの拳はカイドウの体躯ほどの大きさだ。野球でいうアンダースローのような体勢で殴りつけることになるが、地面を意識的に擦ろうとしない限りカナタくらいの大きさならば当たることはない。

 風圧は受けるが、それはそれである。

 〝白ひげ海賊団〟のモビー・ディック号、〝黄昏の海賊団〟のソンブレロ号が空から降りてきて着水し、それぞれ船員たちが氷の大地の上に立つ。

 カナタ、ティーチと共に肩を並べるのは、数々の修羅場を共に潜ってきた仲間たち──そして、カナタが手ずから鍛え上げた弟子たちだ。

 

「やっと出番か。呵々、血が滾って仕方ないな!」

「元気な爺さんだよ、ホントに……」

「ゼハハハハ!! 硬ェこと言うなよジョルジュ! おれも暴れたくて仕方がねェ!!」

「あなたはもう少し加減を覚えなさい、ティーチ。コントロールが難しいのはわかりますが、いつまでもその調子では困ります」

「その辺のフォローはジョルジュがやるさ。そういうの得意だろ。おれ達は目の前の敵をキッチリ仕留めて行きゃあいい。なあユイシーズ」

「そうだな、レイン。戦略は千代がやってくれるならおれ達は目の前の戦場に集中するだけだ」

「うっはっはっは!! 責任重大じゃのう!!」

「カイエ姉様の忠告を無下にするなど…許せぬ!」

「私は閣下の命令通り、フェイユン、小紫と共にカイドウの抑えに回る。いけるな、小紫」

「もちろんです。十分に休息は取れました。フェイユンもいいですか?」

「大丈夫!」

「タイガー、お前こっちで良かったのか? 向こうでジンベエと肩並べた方が良かったんじゃ?」

「そう言うな、スコッチ。おれだってここの一員だぜ」

 

 各々が武器を構え、近付いてくる大小様々な100隻を超える海軍の軍隊を見据える。

 海軍元帥、三人の大将、〝バスターコール〟など目ではないほどの数をそろえた中将たち。

 どれほど彼らが〝黄昏の海賊団〟を恐れ、脅威だと感じているかが肌で感じられるようだった。

 しかしカナタは臆することなく、手に槍を持ったまま高らかに声を上げる。

 

「恐れることはない、勇士たちよ。敵がどれほど多かろうと、強かろうと、最後に勝つのは我々だ──行くぞ!! 私に続け、〝黄昏の海賊団〟!!!」

 

 先陣を切るカナタに続き、戦士たちの雄叫びが海原に木霊した。

 

 

        ☆

 

 

 派手に吹き飛ばされたカイドウは、頭から船の甲板に突き刺さっていた。

 クイーンの手で引っ張りだされた後、頭を何度か振ったかと思えば何事もなかったかのように立ち上がる。すでに姿は人獣形態から人型へと戻っていた。

 

「ア~~……効いたな、あれは」

「滅茶苦茶平気そうに見えるんスけど」

「いや、パンチの方じゃねェ」

 

 ティーチのグラグラの攻撃もそれなりに効いたが、やはり。

 カイドウはカナタにつけられた斬撃の痕をなぞりながら、消化不良だと言いたげに不満げな顔をした。

 ニューゲートとの決闘では随分と余裕そうな勝利に見えたが、あくまで表面だけだ。疲労も消耗もそれなりにあるのは、刃を交えていればすぐにわかった。

 いかに老いたとはいえ伝説の海賊。カナタがどれだけ強かろうと、まったく消耗無しに勝てる相手ではなかったのだろう。

 当然と言えば当然の話だが。

 

「おい、酒持って来いよ!」

「ええ……今呑むんスか?」

 

 クイーンは呆れた顔をしながら部下に指示して酒を持ってこさせ、カイドウは部下の持ってきた瓢箪(ひょうたん)からグビグビと酒を飲み始める。

 楽しい時もイラついた時も、やはり酒を飲むに限る。

 カイドウは喉を焼くように度数の高い酒を流し込み、やがて満足したのか瓢箪から口を離す。

 

「キングはどうした?」

「あの野郎ならインペルダウンの脱獄囚どもを纏めてますよ。使うんでしょ?」

「あァ。王直のバカのケツも叩いてこい。全員出てあいつら叩きのめしてやる」

 

 リンリンの方に視線を向けると、先ほどと変わらずバレットと派手に戦っている。あちらも楽しそうではあるが、今回の狙いはバレットではない。

 海軍も邪魔だ、脱獄囚たちに戦う気がないならここで殺すと脅してでも攻め込ませ、派手に戦争することを考えていた。

 遠征に出ていてタイミングが悪く〝ナンバーズ〟は連れてきていないし、〝飛び六胞〟もササキ、うるティ、ページワンの3人しかいない。

 とにかく派手に戦って殺しあうことしか考えてない上、だんだんと酔いが回って一度は下がったカイドウのテンションが上がっていく。

 

「ウォォ……〝白ひげ〟のジジイとはあれだけ真正面から殺し合いをやってたってのに、おれとはやらねェってのかよ……!! そんなのあんまりだろうがよォ……!!」

「やべ、泣き上戸が始まった……オイ!! お前らさっさと動け!!」

 

 クイーンは酔っ払ったカイドウの面倒くささを心底わかっているため、部下たちに指示して戦いに動くようにする。

 自分が絡まれても嫌であるため、代理にジャックを置いていくという徹底ぶりであった。

 

「ジャック、おれは王直のところに行く。キングのバカはそのうち戻ってくるだろう。もう決闘は終わったんだ。おれ達も暴れていいからよ、カイドウさんのことはお前が何とかしろ」

「ええ!? あ、兄貴ちょっと待ってくれよ!?」

「待たねェ。これ以上ここにいると泣き上戸に巻き込まれ──」

「チクショウ!! こうしちゃ居られねェ!! 今度こそおれがあいつをぶっ殺してやる!!!」

「……遅かったか」

 

 すっかり酔いが回ったカイドウは、今度は何かに当たり散らしながら獣形態になって船より先に空を移動していく。

 大波やら地震やらで船が転覆しないようにするので忙しいのもあるが、このあたりまで海は氷で覆われている。追うのは難しくない。

 どのみちカイドウはやる気なのだ。〝黄昏〟とやりあおうと考えていると、海軍と百獣・ビッグマムの海賊同盟の二正面作戦のために分けたのであろう部隊がこちらに向かってきているのが見えた。

 〝白ひげ海賊団〟の残党。それに見覚えのない海賊旗──だが正体は明らかだ。

 巨人だけで構成された海賊、〝巨兵海賊団〟である。

 

「厄介な連中が傘下に加わりやがったモンだぜ……」

 

 クイーンは葉巻をくわえたままぼやく。

 16の部隊はそれぞれ100人ずつ構成されており、隊長は多少ブレはあるものの安定して強い。傘下も含めれば総数は2万ほどもいる。

 数だけなら百獣・ビッグマムの海賊同盟の方が明らかに上回っているが、〝巨兵海賊団〟は数の強みをひっくり返すカードだ。

 まぁあちらは一目散にビッグマム海賊団の船を狙っているので放っておいていいだろう。脱獄囚の反乱もビッグマム海賊団の船を狙っているのでクイーン的にはノータッチでよかった。

 それらを素通りしてカナタのところへ向かうカイドウだが、明らかに他の巨人の10倍くらいあるであろうフェイユンが立ち塞がる。

 獣形態のカイドウは普通の巨人とは比べ物にならないくらい巨大だが、今のフェイユンはそれに負けないくらいの体躯だ。正直クイーンの手に余るので見なかったことにしたい。

 

「うお」

 

 黒い稲光が瞬いたと思えば、カイドウがざっくり斬られた。

 次いでフェイユンの武装色を纏ったパンチを受け、派手に吹き飛ばされる。

 クイーンはやっぱり見なかったことにして、王直のケツを叩きに囚人たちがいる船へと急いで移動し始めた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。