上空から着水した船──〝グレート・エイリーク号〟から次々に巨人の戦士たちが氷の大地に降り立っていく。
100年前に原因不明の理由で活動を止めた〝巨兵海賊団〟が、今再びこの海に姿を現したことにマルコも驚いていた。
「まさか、あの女が〝巨兵海賊団〟まで味方につけているとは思わなかったよい」
「ガババババ!! おれ達はあくまでおれ達の理由で動く! カナタとはその理由が重なっただけだ!!」
「ゲギャギャギャギャ!! そうだ、海賊としてまた暴れようってわけじゃねェ!!」
実際のところ、船長であるドリーとブロギーには海賊としてまた海に出ようという気持ちはなかった。
元より決闘の最中で武器が使い物にならなくなったが故に一度〝エルバフ〟へ戻っただけであり、亡き友人であるエルバフの王ハラルドの遺志を汲んで大人しくしているつもりであった。
それでもここに現れたのは、ひとえに彼らの尊敬する戦士たる〝滝ひげ〟のヨルルの死に様を許せなかったからだ。
原因であるリンリン、ひいてはリンリン率いるビッグマム海賊団と、同盟相手である百獣海賊団。
これらを標的とすることのみを条件に、カナタは〝巨兵海賊団〟の協力を取り付けた。
まぁ〝エルバフ〟が交易をするにあたって〝黄昏〟が幾度となく助力してきたことも、彼らが協力をしてくれる理由のひとつではあっただろう。
「おれ達は〝ビッグマム海賊団〟を叩く! お前らはどうする、チビ人間ども!!」
「ならおれ達は〝百獣海賊団〟の方を相手にするよい!」
〝白ひげ海賊団〟一番隊隊長のマルコは、ブロギーと簡単に標的を定めて二手に分かれることにした。
元々別の海賊団であるし、〝巨兵海賊団〟は数が少ないが相手どる〝ビッグマム海賊団〟は現在インペルダウンの脱獄囚と内ゲバ状態だ。
マルコは能力で飛び回り、情報を伝達しながら〝モビー・ディック号〟へと戻ってくる。
船には、横たわるニューゲートの遺体と悲しみに暮れる船員たちがいた。
特にひどい顔をしているのは、やはりというべきかエースだった。
「すまねェ……! すまねェ、オヤジ……!!」
決闘が起きた原因は、間違いなくエースだ。それを誰もが理解しているから、声をかけようにもかけられない。
ニューゲートは病に侵されており、船医であるマルコとコックである四番隊隊長のサッチは先が長くないことに気付いていたが、他の隊長たちはそうでもなかった。
ニューゲートが自身の病について隊長たちにも詳しく言わなかったことが原因か。
マルコもサッチもニューゲートの意思を尊重して誰にも言わなかったことが原因か。
エースが誰にも相談せず、少人数で勝手にカナタのもとに押しかけて頼み込んだのが原因か。
どの選択をしようとも、カナタは真綿で締めるように〝白ひげ海賊団〟の壊滅を目論んでいたことに変わりはない。こうして形だけでも残っただけ、エースの選択はマシだったと思うしかないのだ。
過去は変えられないのだから。
「エース、おれ達は〝百獣海賊団〟と戦う。お前も隊長として戦え」
「……おれに、隊長を務める資格なんかねェ。おれのせいで、オヤジが死んじまった……!」
「エース! オヤジが死んだのは誰のせいでもねェ!!」
強いて言うならカナタが悪い。
だがそうやって開き直れるほど、エースは大人ではなかった。
それに、エースにとってはカナタだって恩人なのだ。幼少期からずっと父親のことを悪しざまに言われ続けて、それでも折れなかったのは義兄弟の存在とカナタのビブルカードがあったからだ。
恩人を悪くは思いたくない。
それならば、責任は己にあると思った方がいい。
だが、マルコはそんなエースの胸倉を掴んで顔を上げさせた。
「泣くことが、オヤジに報いることか? お前を隊長に選んだオヤジの判断は間違っていたのか? そうじゃねェだろうよい」
このまま泣いていてもどうにもならない。
それに、ニューゲートだって湿っぽいのを好みはしないのだ。
マルコはエースを離し、集まっている隊長たちを含めた船員に言う。
「みんな、この戦いが終わったらオヤジの弔いをしよう。酒代は〝黄昏〟にツケておけばいい。浴びるほどに飲んで、腹一杯メシを食って、それから──これからの話をしよう」
「……ああ、それがいい。オヤジだって、おれたちがいつまでもメソメソしてちゃ心配かけちまう」
「そうだな。オヤジが悔しがるほどいい酒をたっぷり飲ませてもらおう」
「何より酒代を考えなくていいのがいい」
「違いない」
何はともあれ、この戦場から生きて帰らねばならない。
隊長たちはそれぞれ顔を見合わせ、頷いて仲間たちに声をかけていく。
「オヤジの体は船に置いたままにしなきゃならねェ。全員は出られねェな」
「アトモスとハルタ、お前ら船を守ってくれ」
「わかった。だが〝百獣海賊団〟の相手もしなきゃならねェんだろう?」
「おれ達が行くよい」
アトモスとハルタ及び彼らがそれぞれ率いる隊が船の守りに残り、残りの面々で〝百獣海賊団〟と戦う。
相手側も総戦力というわけではないが、インペルダウンの脱獄囚達もいる。苦戦は免れないだろう。
それでもやらないという選択肢はない。
「エース、お前はどうする?」
「……行く。おれを隊長に選んだオヤジの判断が間違ってるとは思われたくねェ!」
「じゃあ、行くよい! 全員、生きて帰れ!!」
「「「おう!!」」」
生きて帰って、自分たちを息子と呼んでくれた偉大な男の弔いをするために。
彼らは悲しみを抑えて武器を取った。
☆
「…………」
一方で、脱獄した囚人のひとりであるクロコダイルはやる気を失ったように座り込んでいた。
カナタとニューゲートの決闘は終わり、ニューゲートの首を獲ることを目的としてインペルダウンからここまでやってきた。クロコダイルの目的は既に達成不可能で、どの勢力が勝とうが興味も失せている。
その哀愁漂う背中に、インペルダウンからついてきた2人が声をかけた。
「これからどうするんですか、ボス」
「貴方の目的のためについてきたけれど……もうやることはないのかしら」
「……あァ。ここに来た最大の目的が無くなっちまった」
クロコダイルはかつてニューゲートに挑み、敗北した。
そこから再起して〝七武海〟の一角となり、紆余曲折の後にここまで来たが……結局、勝ち逃げされてしまった。
もはやこの場にいる意味はなく、さっさと身を潜めるなりなんなりしたほうがいいのだが。クロコダイルはどうにも無気力というか、倦怠感さえ纏っているようだった。
ついてきた2人──Mr.1ことダズ・ボーネスとミス・ダブルフィンガーことザラは互いに目を合わせて肩をすくめる。
「……だが、あの女の全面勝利ってのも不愉快だな」
アラバスタでの件もしかり、〝黄昏〟にはあれこれと邪魔をされている。元々あまり好ましいとは思っていなかったが、ここまで来れば嫌悪の感情が先に来る。
〝黄昏〟の邪魔をするのも一興か、と空を見上げ、空中を音速で移動する飛翔体を見つけた。
黒い翼のプテラノドン──〝火災〟のキングが〝不死鳥〟のマルコと空中で激突する。
「テメェらが〝黄昏〟の傘下に収まるとはなァ! 船長を殺されて傘下に成り下がるフヌケどもだったとは、期待外れだ!!」
「オヤジもおれ達も、それを理解して決闘を受けた!! お前らにあれこれ言われる筋合いはねェ!!」
マグマのような深紅の炎と不死鳥の青い炎が空中で何度もぶつかり、そのたびに激しく炎を撒き散らしている。
空中で戦う2人は気にした素振りもないが、下で戦う者たちにとってはいい迷惑だ。
「クッソ、あの野郎! もうちょっとこっちに気ィ使えってんだバカキングがよ!!」
悪態をつきつつ、クイーンは右手に持った剣で5番隊隊長〝花剣〟のビスタを押し留める。
左腕の義手からはレーザーを放って〝白ひげ海賊団〟の面々を牽制しており、クイーンの視野の広さをうかがわせた。
〝疫災〟の名に相応しくウイルスを撒き散らす弾も用意しているのだが、今回はインペルダウンの囚人を味方につける関係上使うのは控えていた。いくらインペルダウンから救い出した恩義があるとはいえ、ウイルスなど撒き散らせばあっさり手のひらを返してクイーンに反抗するのが目に見えているからだ。
完全に掌握出来るまでは使うべきではないとの判断である。
「ジャック!! 用意は出来たかバカ野郎!!」
「任せてくれ兄御!!」
「よォし!! そんじゃァ出番だ〝ギフターズ〟!!!」
先頭を走るのは巨大なマンモス──〝干害〟のジャックだ。
それに率いられるように、体の一部が動物に変化した能力者、あるいは完全に獣形態へ変化した能力者が次々に襲い掛かっていく。
やや遅れて能力者ではない〝ウェイターズ〟が参戦し、さらにそれに交じるように笑い続ける〝プレジャーズ〟が続く。
とめどなく溢れる戦闘員の数はとてつもなく、〝白ひげ海賊団〟の面々をはるかに上回る。
これに加えてインペルダウンの囚人たちも名を上げようと〝白ひげ海賊団〟の面々へ襲い掛かっていた。
人工悪魔の実〝smile〟によって強化されたギフターズは強い。数を揃えた能力者の軍団は、四皇の一角を占めていた〝白ひげ海賊団〟とその傘下を上回る。
だが。
「〝火拳〟!!」
圧縮された炎が一直線に走る。
広範囲に攻撃できるエースの能力はこの戦場において強く、味方を巻き込まないように気を付けさえすれば極めて有用な能力だった。
それを脅威と見たジャックが勢いよく走り、マンモスの長い鼻で叩き潰そうと振り下ろす。
エースはそれを紙一重で回避し、返すように横っ面を殴り飛ばした。
だが、魚人で〝
「〝火拳〟のエース……うちの部下たちをよくもやってくれたもんだ。覚悟は出来てんだろうな!?」
「うるせえな! おれは今イラついてんだ……!」
自分のせいで大事な人がいなくなった。大罪人の父親と仲良くしていて、色々手助けしてくれた人だからまた助けてもらえると思った。
その迂闊さが招いた事態だ。イラつきもするだろう。
「お前ら全員ブッ飛ばして、オヤジを弔わなきゃならねェ。とっとと失せろ、クソ野郎ども!!」
「啖呵切ったからには逃がしや──」
互いの戦意が高まり、激突寸前……といった空気だったが、その空気をぶち壊すように弾き飛ばされたカイドウが落下してきた。
派手な衝突で氷の大地にヒビが入ったが、完全に砕けることはなくカイドウが氷の上を滑っていく。
それを追うように、稲光が奔って刀を振りかざす。
「おでん二刀流──〝桃源十拳〟!!!」
「あァ~~……〝雷鳴八卦〟!!」
獣形態から人形態へ。手に持った金棒に覇気を纏わせ、小紫の斬撃を真正面から打ち据える。
そこからわずかに遅れ、カイドウよりやや背の低い女が接敵した。
「ひとりで戦うな、小紫!! 斬るなら確実にやれ!! カイドウを相手に無駄な消耗などしていては持たんぞ!!!」
「ですが、攻撃を受けるあなたの負担は相当でしょう! 持久戦で勝てる相手でもありません! 一気呵成に攻め立てねば!!」
「テメェらの攻撃をちょっと受けたくらいで、おれが倒れる訳ねェだろうが!!」
小紫を弾き飛ばしたカイドウは、目の前に立つ女──ラグネルを見据える。
カイドウの攻撃を何度も正面から受けるタフネスは、流石キングを跳ね返す女傑だけあるというべきか。厄介と言えば厄介だが、それだけで抑え込めるほどカイドウは安い存在ではない。
厄介と言えば、もうひとりの方がよほど厄介だ。
「えーいっ!!」
上空から隕石のように拳が落下してくる。巨大化したフェイユンの攻撃だ。
足元が普通の大地であれば受け止めてもいいが、下手に受けるとそのまま海の中に沈められるため、カイドウは高速で拳を回避する。
周りにいた者たちは回避が間に合わずに叩き割られた氷から海に落下したり、そのまま叩き潰されたりしていた。
面倒なものだ。これまでその実力は見てきたが、実際に戦うのは初めてである。腕力だけならカイドウ以上だろう。
まぁ、それでも負ける気はしないのだが。
「ウォロロロロ……主力をおれに3人もあてて、海軍との戦争は大丈夫なのか!?」
「心配せずとも、閣下ならばいかようにもされるだろう。我々はただ、命じられたようにお前をここで相手取るだけだ」
「忠誠心が高ェな。いい部下だ、おれの部下に欲しいくらいだぜ……お前、〝
「戯言を。私は閣下に仕える身の上だ。二君に仕える気は毛頭ない」
「そりゃあ残念だ、な!!」
覇気を纏った金棒を振り回し、ラグネルと打ち合う。
腕力や覇気が自分よりも強い相手との打ち合いに慣れている様子すらある。おそらくカナタとやりあったことがあるのだろう、とカイドウは推測していた。
加えて、そちらに集中しようとすれば邪魔が入る。
フェイユンの拳が時折隕石のように足元の氷ごとカイドウを叩き割ろうとしたり、小紫が高速で斬りかかったり。意識を分散させられるのは厄介なものだ。
「だが、まァ悪くねェ……カナタほどじゃねェが、楽しめそうじゃねェか!!」
カイドウは楽しそうに金棒を振り回し、背後から斬りかかってきた小紫を弾き飛ばしながら笑っていた。
☆
「カイドウの野郎、すっかり楽しんでやがる……! 目的忘れてねェだろうな!?」
「カハハハハ!! カナタを殺しに来て、海軍に獲物取られてりゃ世話ねェな!!!」
リンリンの刀である〝ナポレオン〟とバレットの拳が衝突する。
周囲ではゼウスとプロメテウスがリンリンの手伝いをするように雷と炎を織り交ぜてバレットに攻撃してくるが、そのたびにバレットはガシャガシャの能力で周囲の氷を纏い、壁にして防いでいた。
本来なら雷を受ければ感電してしまう氷の鎧も、バレットの覇気を流し込めば防げる。
リンリンの攻撃は一発一発が重いが、カイドウの人獣形態ほど理不尽な身体能力でもなければ無尽蔵のタフネスを誇るわけでもない。
今のバレットでも十分に勝機はある。
「〝鬼の跡目〟ェ……こんなもんでおれを倒せると思ってんじゃねェだろうな!?」
「強がるなよババア! おれが殴ったところが痣になってるぜ!?」
ガシャガシャの能力で周囲のものを巻き込んで武装硬化し、さらに覇王色を纏って殴りつける。
バレットの戦闘センスがあればこそのものだが、鎧にした氷をいくら剝がされようがバレット自身に攻撃が通らなければダメージはない。
血も出る。痣も出来る。攻撃が通るなら十分に倒せる相手だ。
〝
「カハハハハ……!! おれはまだまだ強くなる!! カナタにゃァ負けねェ!!!」
〝ビッグマム海賊団〟の将星たちはそれぞれの相手をするのに忙しい。
カタクリはシリュウと。
クラッカーはイワンコフ率いる囚人たちと。
スムージーはドリーと。
スナックはブロギーとそれぞれ対峙している。
ペロスペローは陣頭指揮を執って反抗するインペルダウンの囚人を抑え込んでいたが、今や襲い掛かってくる〝巨兵海賊団〟を相手に手を焼いている。
人材の層の厚さは他の四皇たちに負けていないが、元高額賞金首の囚人や〝巨兵海賊団〟が相手では、流石の〝ビッグマム海賊団〟も苦労しているようだ。
この状態であれば、バレットとリンリンの勝負を邪魔されることはない。
存分にしのぎを削り、覇気を研ぎ澄ます戦いを味わえるだろう。
「負けてカナタの軍門に下ったくせに、随分と強気じゃねェか!! そんなにあいつを倒してェんなら、おれ達と組む方がいいんじゃねェのか!?」
「テメェらと組むだと? 笑わせんじゃねェよ!! テメェとカイドウが2人揃って倒せなかったから、カナタは今ここで〝白ひげ〟のジジイを倒すほど力をつけてんじゃねェか!!!」
それはつまり、バレットにとってリンリンとカイドウは明確に
リンリンあるいはカイドウをひとりで打ち倒せるほどの力を付け、その次にカナタを倒す。段階を踏んで強くなろうとしている──それは、リンリンもカイドウもカナタを倒すための踏み台だと言っているに等しい。
この発言にリンリンは盛大にキレた。これ以上ないほどに。
「お前ェ!! おれが、カナタより下だってェ!!? ふざけんじゃねェぞ!!!」
カナタの実力はリンリンも認めている。20年来の対立相手であるし、そもそもオクタヴィアとロックスの娘が弱いわけがないと理解もしている。
だがそれはそれとして、己の強さがカナタ以下だと貶められるのは気に食わない。
長くこの海に君臨する皇帝のひとりとして、
「まずはお前から、徹底的に血祭りにあげてやるよ!! 〝鬼の跡目〟ェ!!!」
「カハハハハ!! やってみろよババア!! おれが最強になるために、まずはテメェから沈めてやる!!!」