ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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第二百六十九話:〝パシフィスタ〟

 

「うーむ……」

 

 戦況は〝黄昏の海賊団〟がやや有利、というところだろうか。

 小紫、ラグネル、フェイユンという海軍大将にも匹敵する戦力がカイドウと戦っている今でさえ、3人の大将とガープ、センゴクは抑え込めている。数の多さは確かに驚異的だが、数の多さは後方からの砲撃である程度は対応出来る。

 中将も強いが、〝戦士(エインヘリヤル)〟と〝戦乙女(ワルキューレ)〟が戦っているので不安要素というほどではない。

 問題──というより懸念ではあるが、〝神の騎士団〟が介入してくる可能性はあるものの、今のところその気配はない。

 まぁ介入してくるようならその隙をついて聖地を火の海にしてやるだけなのだが。

 

「ど真ん中はうちのボスとガープ、ゼファーのせいで人がおらん。右翼側には青燕とレインが衝突していて、左翼側には赤犬とユイシーズ、ジョルジュか。全体的にバラけてはおるが……」

 

 甲板にて千代の前に置かれた盤上にはいくつかの駒が置かれており、俯瞰的に見下ろして敵の動きを確認している。

 全体的に〝黄昏〟が押し気味で戦線が間延びしている。これは両者の距離があるので仕方ないとして、カナタとガープ、ゼファーの戦場を避けるようにしながらも海軍が戦線を下げているのが気にかかった。

 軍艦が多数ある中に誘い込むように動いている。

 このままいけば、〝黄昏〟の部隊は軍艦から十字砲火を受けることになるだろう。海軍も味方を巻き込む位置取りだが、センゴクなら多少の犠牲を覚悟してでもやると確信があった。

 千代は電伝虫を繋ぐ。

 

「〝戦乙女(ワルキューレ)〟3番分隊、今どこじゃ」

『こちら3番分隊、現在右翼側で中将を相手に戦っている』

 

 〝黄昏〟における隊の最少人数は約10人。これを分隊とし、これが三つ集まると小隊となる。

 〝戦士(エインヘリヤル)〟及び〝戦乙女(ワルキューレ)〟は例外なく精鋭だ。海軍で言えば将官クラスで隊を作っているようなものである。分隊ひとつでも戦況を動かすには十分。

 相手が中将であっても容易くは負けないし、部隊を率いる将官であっても部隊丸ごと相手に出来る。

 

「では近くに手が空いている奴はおるか?」

『1番分隊が空いているハズだ。先ほど軍艦をひっくり返して別の場所へ移動しているのを見た』

「そうか、了解じゃ」

 

 千代は手早く1番分隊へと連絡を入れる。

 

「おう、1番分隊。今どこにおる」

『右翼側最先端だ』

「そのあたりの船、砕氷船か?」

『……そのようだ』

 

 確認していたためか、返答が少し遅かった。

 だが、不思議なことではない。カナタの能力は海軍によく知られているし、艦隊戦で海を凍らせられれば的になるだけだ。砕氷船の用意くらいはしているだろう。

 問題は、それを()()()()()()()()()()()ということだ。

 普通、艦隊戦を想定するなら砕氷船は最前線に置かれるハズだし、後方まで凍らせられることを考えれば分散して配置するのがリスク管理の観点からは正しい。

 そうしていないということは、何らかの理由がある。

 

「おそらく中に例の〝パシフィスタ〟が乗っておるはずじゃ。優先して破壊せい」

『情報にあった人間兵器か。了解した、狙いをそちらに定める』

 

 千代の指示通り、1番分隊が右翼側の砕氷船を攻撃し始める。

 ほどなくして爆発音が連続で響いた。

 砲弾や火薬による爆発ではない。黄猿のレーザーに類する兵器による攻撃だ。

 

「当たりか! スコッチ、わしらの船を囲むように展開している軍艦を優先的に撃破せい!!」

「任せろ!! 右翼側は攻撃してるから左翼側に集中する!!」

 

 モアモアの実の能力によって強化された砲弾ならば、軍艦だろうと沈められる。とは言っても易々と沈んでくれるものでもないし、そもそも砲弾の対処は本部の海兵ならば真っ先に教え込まれることだ。

 それでも質量が100倍になった砲弾を防ぐことは難しい。

 爆発、炎上する軍艦の中から巨大な人影──バーソロミュー・くまと同じ顔をしたクローン兵器たちが現れる。

 指示があるまで動かないハズだったが、最低限の自立行動は可能らしい。軍艦が爆発炎上しても出てくる頑丈さも驚異的だ。

 まぁ、炎上する船から出てくるのは不気味というほかになかったが。

 

「おっかねーな……気付かなかったらおれらは狙い撃ちか?」

「センゴクの策じゃろうな。うまいこと中央に集めた連中を十字砲火で一網打尽にする気だったんじゃろ」

 

 事前に取り決めてあった策だろう、と千代は考えていた。

 センゴクが常に指揮を執っていれば、千代が右翼側の砕氷船に気付いた時点で〝パシフィスタ〟を動かしていたハズだ。ティーチがセンゴクを抑えていることで指揮が十全に執れず部隊が機能していない。

 であれば、次に取れる策は限られる。少なくとも自分から喉元にナイフを突き刺すよう動かされる策はセンゴクでなければ出来ないだろう。

 油断すると足元を掬われかねないのが怖いところだが、だからといって好機を逃すことは出来ない。

 

「左右の軍艦からキッチリ仕留めていけ! 畳み掛けよ!!」

 

 

        ☆

 

 

 戦場が過熱している傍ら、モリアは特に戦うこともなく移動して〝パシフィスタ〟を探していた。

 正確に言えば、〝パシフィスタ〟を操作する誰かを。

 千代がセンゴクの策を見破ったため姿を現したが、肝心の指揮者が出てきていない。

 

「おい、アレは誰が操ってんだ?」

 

 モリアは少将を捕まえて問いただしたが、訝し気な顔をして「そちらには関係のないことだ」と突っぱねられた。

 将官であっても知らされていない可能性と、〝七武海〟の信用度の問題である可能性を考え、まぁ答える気がないなら同じかと少将の顔面を強打して気絶させる。

 左右の軍艦に配備して十字砲火を狙う位置にいたことを考えるなら、正面前線からやや後ろ──後退しつつある前線を援護する位置に配置している可能性が高い。

 モリアは目立つ巨体を面倒くさそうにコソコソと移動し、中央やや後方にある軍艦に乗り込んだ。

 船の前方にはカナタがガープとゼファーを相手に大立ち回りをしているのが見えるし、船の後方にはティーチがセンゴクと派手に戦っているのが見える。ティーチの方は派手にやりすぎて今も船が揺れているほどだ。

 

「ここで何をしている、ゲッコー・モリア!!」

「〝パシフィスタ〟ってのに興味があんだよ。くまのクローンを使ってるんだって? おれの言えたことじゃねェが、海軍の科学者は倫理観ってやつがねェらしいな!」

「……お前には関係のないことだ!」

「そうだな。おれが一方的に興味持ってるだけだ」

 

 いつの間にかモリアの周りを海兵たちが囲んでいる。

 敵意に満ちた目だ。手に武器を持ち、緊張した様子でモリアを見ていた。

 その中でひとり、煙草をくわえた女海兵──ドール中将が前に出る。

 

「お前の行動は監視されてた。アンタらしくないスパイ染みた行動だ、随分目立ってたよ──何が目的だ?」

「キシシシシ! おれが何を目的にしようと、お前らに関係あんのか!?」

「あるさ。場合によっちゃ、アンタからも〝七武海〟の称号を取り上げなきゃならない」

「そいつは困るなァ……」

「だったら、大人しく前線に行って〝黄昏〟と戦いな。肝心な時に役に立たないなら〝七武海〟の意味がない」

 

 にやにやと笑うモリアの様子に、ドールはイラついたように額に青筋が浮かぶ。

 わずかな時間、互いに距離感を測るようにじりじりと動き──ドールが強烈な拳をモリアに見舞った。

 のけぞるモリアは自身のダメージなど関係ないとばかりにドールを上から殴り倒し、甲板に叩きつける。

 船の甲板に穴をあけるような一撃だったが、ドールはすぐさま体勢を立て直して距離を詰める。

 

「オラァ!!」

 

 モリアの顔面を下からカチあげるような一撃だ。

 しかしモリアはそれでもひるんだ様子すらなく拳を振り下ろし、ドールはそれを両腕を交差させて受け止める。

 

「ぐっ……!」

 

 威力はある。実力は〝七武海〟の名に恥じないくらいにはあるだろう。

 だが、どうにも拭いきれない違和感がある。

 まともに入った打撃がまるで効いていない。ドールは武器を使わず拳で戦う武闘派の中将だ。その攻撃を食らって、こうも何ともなく動くことが出来るものか。

 手応えがあるだけに違和感が強い。

 まるで痛みを感じないかのような──。

 

「どうした中将! その程度か!?」

「うるせェな……!! 黙って倒れてな!!」

 

 両者、一歩も退かぬ殴り合いである。

 モリアの方が背は高いが、上背の高さなどお構いなしにドールはモリアを殴りつける。

 骨を殴りつける感触。打撃によって裂ける肌。筋肉の弾力。どれも人を殴ることに慣れたドールには当然のものだが、それだけにどれだけ殴りつけても倒れないモリアに違和感を抱いて仕方がない。

 

「クソが、どうなってやがる……!?」

「口の悪ィ女だ! 黙って倒れてろ!!」

「チッ!!」

 

 舌打ちと共にモリアの拳を受け止める。

 わずかに息を整え、ドールは再び殴りつけようと武装色を纏い──船内で覇気の衝突を感知した。

 誰かが下で戦っている。

 

「ここは私がやる! 下で戦ってるやつを確認しに行きな!」

「了解しました!」

 

 手を出そうにも出せずまごついていた部下を確認に向かわせるも、直後にその必要がなくなった。

 甲板を破壊しながら船内から戦桃丸が出てきたためだ。

 

「戦桃丸!? 誰と戦ってんだ!?」

「ここで戦うとしたら〝黄昏〟しかいねェだろ!」

 

 モリアが誰かと協力して事に当たっていたのか、とドールは考えた。

 〝パシフィスタ〟は命令するための順位が明確に決まっている。

 上から五老星、ベガパンク、戦桃丸、威権チップ所持者だ。同格の順位では先に通した命令が優先される。

 この場においては五老星、ベガパンク共にいないため、戦桃丸が順位の最上位だ。威権チップは用意されているが、戦桃丸に万が一があれば〝パシフィスタ〟の制御を奪われることになる。

 それだけは避けねばならない。

 戦桃丸を優先的に狙っているということは、つまり命令の順位を理解しているということだ。〝パシフィスタ〟自体がまだ機密扱いであることも相まって、海軍内部でもそれほど詳しく知っている者は多くない。

 モリアは監視されていた。それを知る機会はなかったはずだ。──では、誰が教えたのか?

 その答えを知る前に、ドールは何かによって強制的に意識を落とされた。

 

 

        ☆

 

 

「テメェ……何をした!?」

「何、とは。見たままですが?」

 

 気絶したドールを軍艦内へと放り込み、日が当たらないように配慮する。本体が消えれば影が消えるためだ。

 目の前のモリアに集中していたドールの背後に忍び寄り、その影を切り取った張本人──アイリスが、左手にドールの影を掴んだまま戦桃丸を見る。

 

「本当は、あなたと戦う気はなかったんですけどねえ」

「暗殺しようとしといて何を白々しい。大体、お前らはベガパンクのスポンサーだろ!? わいを狙う理由があるのか!?」

「……マラプトノカの件といい、これまで散々迷惑かけておいて、こちらがいつまでも配慮すると思ってるんですか?」

「いやそれは本当にすまん」

 

 反論のしようもないので素直に謝る戦桃丸。

 まぁやったのは大体マラプトノカかベガパンクであって彼自身は悪くないのだが、〝パシフィスタ〟の命令順位が高いことが運の尽きだった。

 じたばた暴れるドールの影を鬱陶しそうにモリアに預け、アイリスは戦桃丸に向き直った。

 

「大体、この場にいる時点であなたは海軍に力を貸しているわけでしょう。ベガパンクだって海軍の化学班です。邪魔なら消すまでですよ」

 

 初手で暗殺するつもりだったが、戦桃丸のガードが思いのほか固く防がれてしまったのは誤算だった。

 アイリスとしても暗殺をしくじったのは初めての経験だ。正面から戦っても別に弱くはないので、バレた以上は正面から殺すしかない。

 

「そう簡単に殺されてやるわけにはいかねェ。〝パシフィスタ〟の制御は威権チップがあれば大丈夫だが、わいがいた方が作戦は確実に進むからな」

「? 威権チップなんて必要ないでしょう」

「? わいを倒しても威権チップを手に入れなけりゃ〝パシフィスタ〟は操れねェが……? 第一威権チップはわいが持ってるわけじゃねェ」

「だから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()() じゃあそれで解決じゃないですか」

 

 戦桃丸が自発的にアイリスに協力するかのような物言いに、戦桃丸は首を傾げた。

 だが、アイリスはそれ以上説明する気はないと言うように、両腕に武装色の覇気を纏う。

 狙うならば心臓、肺、鳩尾あたりか。

 喋れなくなっては困るので、喉と口を潰さないようにしなければならない。

 

「すぐに済みます。必要なのはあなたの死体だけですから」

「殺されてはやれねェな! わいのガードは世界一だ!! ガードを抜けるもんなら抜いてみろ!!」




備考
戦乙女:1~9番分隊
戦士:11~19分隊

Q.戦乙女も戦士もそれぞれ100人ずついるのに9つしか分隊がないの?
A.上位に単独で動くやつがいるから人数調整のためだよ
 あと分隊三つで小隊一つなので3の倍数にした方が扱う上で都合がいいからだよ
 ちなみに人数的には戦士と戦乙女全員合わせて中隊扱いだよ
 大隊はないよ(陸自にないため)
 連隊はあるよ(戦士と戦乙女を隊長において分隊、小隊を増やす)

Q.なんで分隊とか小隊とか、隊の人数が日本の自衛隊式なの?
A.カナタが元自衛隊だからだよ
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