ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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カイドウ戦、前哨戦なので短め


第二百七十七話:そっ首叩き落す

 

 轟音と共に天が割れる。

 今日だけで幾度目かの衝突である。そこかしこで行われる怪物たちの衝突に、見ている者たちも信じられない思いを抱いていることだろう。

 信じられない思いをしているのは、直接戦っているカイドウもまた同じだった。

 

「カナタの影が入っているとはいえ、テメェも()()か!! ウォロロロロ!! カナタはいい部下持ってやがる!!!」

「うっはっはっは!! そこまでボロボロになっておいて、まだこれだけの力を残しておるとはなあ!! 〝最強生物〟の名は伊達ではないのう!!!」

 

 小紫と戦い、カナタとティーチに手酷くやられ、今また小紫達3人と戦って体力も覇気もそれ相応に消耗している。

 それでもなお、カイドウはカナタの影を入れた千代とまともにぶつかって戦っていた。信じられないタフネスである。

 いくら動物(ゾオン)系とはいえ、限度はあるハズだが……制限時間がある以上、消耗戦は出来ない。

 10分前後の制限時間以内にカイドウを殺す。そのために持てる限りの体力も覇気もすべてを費やすのみだ。

 そして、カイドウはこのなりふり構わぬ10分間の全力疾走に付き合わねばならない。

 

「そら、まだまだ行くぞ!!」

 

 千代の号令の下に200、300と銃口が増えていく。

 ウテウテの実の能力は銃や大砲といった砲撃する武器を生み出す能力だ。同系統のブキブキの実に比べれば種類は限られるが、それを補って余りある()()()()()()()()()が出来る。

 悪魔の実とは、基本的な能力の形はあれど能力者自身の解釈である程度自由が利く。

 ウテウテの実の先代能力者は大砲を生み出すだけの力としか思っていなかったが、千代は口径を自在に操り、砲手無しで撃鉄を下ろせ、見聞色で狙いを定められる。

 如何に頑丈な動物(ゾオン)系の能力者とて、視界を埋め尽くすほどの銃撃を受ければ致命傷は免れない。

 

「〝熱息(ボロブレス)〟!!」

 

 無数の弾丸を金棒で弾き、人獣形態のまま口から高熱の熱線を吐く。

 しかし千代はこれを刀を一振りするだけで切り裂き、痛痒すら与えられなかった。

 このあたりはカナタ同様、そういう技術によるもので対処しているのだろう。

 確かに強いが──弱点がないわけではないな、とカイドウは見ていた。

 カイドウの攻撃を回避しようとする際、わずかに行動が遅れている時がある。体の末端を掠るような場合だ。

 わずかに身を捩るだけで回避できるが、影の持ち主であるカナタは自然系(ロギア)の能力者である。実体に当たらなければダメージにならない特性が、染みついた癖が抜けないように動きに現れていた。

 

「〝 軍荼利龍盛軍(ぐんだりりゅうせいぐん)〟!!!」

 

 では受け切れぬと思うほどの連撃ならばどうか。

 氷の大地を叩き壊す猛烈な勢いで放たれる連打は、銃撃による十字砲火を弾きながら千代に迫る。

 だが、これを無策で受ける千代ではない。

 

「〝見通す玉座(フリズスギャルブ)〟」

 

 カイドウとカナタは幾度となく刃を交えた仲だ。当然、動きの癖も把握している。

 カイドウの見聞色をすり抜けるように、金棒による嵐のような連打の中を最小限の動きで()()()()()

 

「なんだとォ!?」

「わしがうちのボスの強さまで引き上げられたんじゃないぞ、わしにボスの力が加わったんじゃ! そこを見誤ると、ほれ──こうなるんじゃ!!」

 

 連続するマズルフラッシュ。

 さしものカイドウも眼前に突き付けられた銃口から放たれた弾丸は避けきれず、最低限致命傷だけ避けて受ける。

 一発や二発ならまだしも、瞬きの間に100を超える銃弾は武装した皮膚でも相応にダメージが来る。

 

「グオオ……!! やるじゃねェか、ウォロロロロ!!」

「一度で倒れるとは思わんが、サイズ差もあって豆鉄砲食らわせてるようにしか見えんのう……」

 

 千代の生み出す銃は実物に合わせて事前に形を決めている。

 生み出すたびに思考のリソースをそちらに割り振らねばならないのは無駄の極みだし、何より刹那の瞬間に攻撃出来ねば機を逃すことになるからだ。

 だが、まともに食らわせてもカイドウ相手ではダメージは知れている。

 それが分かっただけ十分だ。

 

「やはり、刀でそっ首叩き落すのが一番じゃのう!!」

「やってみやがれ、クソガキが!!」

 

 互いの武器が黒い雷を帯びる。

 千代は元々覇王色の覇気を持ってはいるが纏うことは出来なかった。カナタの影を入れたことによる後押しを受け、使えるようになったが──千代本人の気質は何ら変わっていない。

 ただ、使い方を学んだのだ。

 覇者の持つ、己が道を貫き通す頑強な意志は、時に黒く輝くのだと。

 

 

        ☆

 

 

「……凄い。千代ちゃん、カイドウとあれだけやりあえるなんて……」

 

 小紫は仮面の下で驚いたように目を見開く。

 千代と小紫は〝ワノ国〟にいたころからの付き合いだ。それなりに仲もいいし、チェスや将棋では勝てたことがないほど頭がいい。

 その千代がカイドウと真正面からまともに戦っているのを見ると驚きが先に来てしまう。

 二度の衝突で覇気も体力も消耗しているが、カイドウは小紫、ラグネル、フェイユンの3人を同時に相手取っていた。消耗は小紫以上のハズだが、それでもあれほど滅茶苦茶な戦いをしていることに根本的なスタミナの差を感じる。

 

「小紫、まだ戦えますか?」

「カイエさん! 私は大丈夫です。でも、カイエさんは怪我してるみたいですが……」

「私は動物(ゾオン)系ですから大丈夫です。そういう意味では、小紫の代わりにカイドウの攻撃を受け続けていたラグネルの方が無事ではないのでは?」

「……問題ない。私も動物(ゾオン)系だ。まだ動ける」

 

 口ではそういうが、ラグネルはカイドウの攻撃を受け止め続けたせいでボロボロだった。

 血まみれの顔を拭い、視線を上げてフェイユンの方へ向く。

 

「フェイユン、そちらはどうだ?」

「大丈夫。ちょっと腕が痛いけど、何とかなります」

「なら大丈夫だな。しかし、キングと戦った時も思ったが〝百獣海賊団〟というのは異常なタフネスを持つ者ばかりだな。カイドウも消耗させたはずだが、そんな気配がしない」

「キングはちょっと特殊な種族だ、ってカナタさんが言ってました。私も一回踏み潰したことありますけど、ピンピンしてて驚いちゃいました」

「フェイユンでもダメだったのか……」

 

 ラグネルとフェイユンが会話している横で、小紫とカイエが戻ってきたアイリスと作戦を立てていた。

 

「やはり下手に割り込むと千代の邪魔になります。私は最低限の干渉に留めるつもりですが、影を使えばカイドウの足を引くくらいは可能でしょう」

「では私とラグネルでカイドウの攻撃を防ぎ、千代と小紫で痛撃を与える。フェイユンは状況に合わせて攻撃と防御を入れ替え、アイリスはサポートといった感じですか」

「制限時間は?」

「影が抜けるまで、あと7分といったところです」

 

 千代がカナタの影を入れた影響でどれだけ強くなっているか、誰も把握出来ていない。ぶっつけ本番のやり方であるため、今の千代に合わせるには一度動きと戦い方を視る必要があった。

 カイドウとの攻防を見て動き方は大まかにわかった。基本の動きはいつもの千代と変わらない。

 ただ、見聞色の精度と武装色の出力がとんでもなく上がっていること、覇王色を纏えるようになっていることと小手先の技術が極めて卓越した状態にあることくらいだ。

 思考にノイズがないのなら動きは十分合わせられる。

 

「では行きましょう。我々と千代ちゃんを合わせ、この6人でカイドウを打ち倒します」

 

 格上殺し(ジャイアントキリング)を目論見、小紫は再び〝閻魔〟を抜刀した。

 

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